1人と1匹   作:takoyaki

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二百二話です。



ニチアサ、三人目がついに来ました!



てなわけで、どうぞ


地獄への道は善意で築かれる

「ここを抜けていくしかないぞ」

部屋を抜けたエラリィに案内されたホームズ達は、早速行き詰まっていた。

目の前には、対侵入者用の機械が行き交っている。

エラリィをホームズは、不満そうに見ている。

「何か、不満そうだな」

「色々と。まあ、それは兎も角、エラリィさんは、後ろに下がっておくれよ。足手まといだから」

ホームズの言葉にエラリィは、肩をすくめる。

「何故そう思う?」

エラリィは、そう言って白衣に隠したエモノを取り出した。

取り出されたそれは、金槌だった。

ジャオの持っていたモノよりも小さい。

どちらかと言うと()が長い。

「この、狭い廊下で使うんです?アルヴィンも大剣使わないのに?」

ホームズの言葉を聞くとエラリィは、肩にハンマーを担ぐ。

そして、そのまま廊下の曲がり角を破壊して機械に打ち付けた。

粉々に砕け散る機械。

エラリィは、廊下の壁を砕きながら機械に躍りかかる。

ただ、唖然とするホームズ達。

「単純な話、邪魔だったら全部壊せばいいんだ」

目の前の機械を全て叩き潰すとエラリィは、ハンマーを担ぐ。

「……………エラリィさんって、研究者であってたっけ?戦闘員とかじゃないよね?」

レイアの言葉にエラリィは、肩をすくめる。

「研究には体力が必要なんだ」

「その通りだけど、なんか納得出来ないな……」

ジュードは、渋い顔をしている。

ミラは、片手剣を構える。

「そんな常識外の男はほっておけ、来るぞ!」

ミラの言葉にエラリィは、酷く不服そうだ。

そんなエラリィに構わず機械達は迫ってくる。

犬のような形をした機械がホームズに飛びかかる。

ホームズは、回し蹴りで機械を壁に打ち付ける。

そして、動きを止めた機械を掴むとそのまま機械に投げつけて粉々にした。

投げつけられた機械が、他の機械を巻き込んで動きを止める。

ローエンが、精霊術を発動させようとして動きを止める。

ここには、エレンピオス人のエラリィもいるのだ。

精霊術を見せていいものか、迷う。

「…………エラリィさん、後で説明します」

ローエンは、一言そう言うと、そのまま光の大砲を撃ち抜いた。

光の大砲は、そのまま纏まった機械達を粉々に打ち砕いた。

エラリィは、そんなローエンを見てポカンとしている。

「おいおい、黒匣(ジン)なしで精霊術やるのか………凄いな、何者だお前?」

「しがないジジイですよ」

ローエンは、ほっほっほと笑った後、眉をひそめる。

(思ったより、威力が弱い………精霊が少ないというのは、どうやら本当のようですね)

ローエンが考え込んでいるとエラリィが、先の扉を指差す。

「とりあえず一旦この建物から出るぞ。その方が近道だ」

そう言ってエラリィは、扉を開ける。

外の道を移動しながらもホームズの顔は険しいままだ。

レイアが、そんなホームズの隣を歩く。

「なんか、機嫌悪い?」

「いいと思うかい?」

ホームズは、ため息を吐きながらそう返す。

「エラリィさんのこと?」

エラリィが、ローズを戦力外通告してから、ずっとこの調子だ。

レイアの言葉にホームズは、首を横に振る。

「エラリィさんの言ったことは正しい。だけど、それを正しいと納得した自分に腹が立つ」

正論と認めてしまい、昔馴染みを庇えなかった自分が、ホームズは許せなかったのだ。

ホームズは、静かに瞳の下を触る。

「色々、頑張ったけど上手くいかなかったね………」

寂しそうに言うホームズ。

ローズが傷つかないようにとありとあらゆる手段を使ってきた。

だが、それでもローズは立ち上がれない程傷付けてしまった。

「何してたんだろうなぁ………」

レイアは、そんなホームズを見ながら手をポンと叩く。

「覚えてる?わたしが、ハ・ミルで落ち込んでいた時、ホームズはスープを頑張って飲んでくれたこと」

「うん。まあ」

「ホームズが、頑張ってくれたおかげでとても元気付けられたよ」

レイアは、そう言うと更に言葉を続ける。

「ローズの事を考えるのもいいけどさ、頑張ったことまで否定しないでよ」

レイアの言葉を聞いてホームズは、沈んでいた表情を消して負けた、という風に笑う。

「どこかで聞いたような台詞だね」

「気のせいじゃない?」

レイアは、ふふふと笑いながら外に出る。

「まあ、肝に銘じておくよ」

そう言ってからニヤリと笑う。

「友人からの忠告だからね」

ホームズの言葉にレイアは、満足そうに頷く。

頑張ったから上手くいくなんて事は幻想だ。

頑張ったってどうにもならないことが山ほどある。

だが、ホームズやレイアのように頑張ったおかげで救われた人がいるのも事実だ。

だから、努力とは、きっとやれば叶うとか、やっても叶わないとかそんな単純なものではないのだろう。

ヨルは、そんな二人を見て封印される前のことを思い出す。

 

 

 

 

 

(おまじないより、強力。それがきっと、頑張るってことだと思うなぁ……)

 

 

 

 

 

「………フン」

「何、どうしたの?」

子猫ヨルが笑ったのに首をかしげるホームズ。

ヨルはため息を吐いて返す。

「別に。ただ少し昔のことを思い出しただけだ」

そう言ってから尻尾で先を示す。

「昔のこと?」

「そんなことより、見ろ」

不思議そうなホームズを遮ってヨルがよろよろと歩いている女軍人を示す。

「どうやら、戦局が動いたようだぞ」

よく見るとその女軍人は、全身ボロボロになっていた。

ヨルのヒゲがピクリと動く。

「大丈夫ですか!?」

ジュードとレイアが慌てて駆け寄り、治療を始める。

精霊術を使う二人を見てエラリィは、驚く。

「お前らもか!どうなっているんだ、一体?」

そう言ってホームズ達の方を振り返る。

「まさか、お前らも?」

ホームズとアルヴィンは、首を振った後ホームズはミラをアルヴィンはエリーゼを指差す。

「後はこの二人」

ホームズの言葉にエラリィは、感慨深げに頷く。

「なるほど。お前達は、精霊術を使えないのだな」

「…………まあね」

ホームズは、そう言って肩をすくめる。

レイアは、治療を終えると女軍人に話しかける。

「研究所の人達、どこにいるか分かりますか?エラリィさん以外見なくて……」

レイアの言葉に女軍人は、首を横に振る。

「早くに逃げ出したものもいるが、何せ連中のせいでひどい様だったからな」

連中の言葉でローエンは、眉をひそめる。

「襲撃した人物を見たのですか?」

ローエンの言葉に女軍人は、頷く。

「長刀を持った男に宙に浮く女がやってきて、その後、大勢の兵隊が波のようにやってきた」

女軍人の言葉を聞くとジュードが静かに頷く。

「間違いないよ」

「ミュゼも来ているようだな」

女軍人は、ぎゅっと拳を握る。

「あいつら、黒匣(ジン)を一切破壊するとか言って我々に退去を命じてきた」

ジュードは、こめかみ指を当てて考え込む。

「まさか、ガイアスは、世界から黒匣(ジン)を全て消すつもりじゃっ!!」

ジュードの言葉に一行は息を飲む。

「異界炉計画を潰すためにか……極端過ぎだろ……」

アルヴィンは、呆然という。

しかし、ミラは首を横に振る。

「いや、黒匣(ジン)がある限りエレンピオスの状況は、変化しない。異界炉計画は、何度でも立ち上がるだろう」

「ガイアスは、黒匣(ジン)をなくすことで問題を根本から解決するつもりなんだよ」

ジュードの言葉にアルヴィンは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「正直しんどい話だが、ヤローならありえるか、くそ!」

悪態をついた後、アルヴィンは、目を伏せる。

「なら、バランは………」

アルヴィンのポツリと呟いた言葉にエリーゼが両手を握る。

「あ、あの、バランさんという黒匣(ジン)の技術者さんは、どうなったか知りませんか?」

エリーゼの言葉に女軍人は、首をかしげる。

エラリィは、更に言葉を続ける。

源霊匣(オリジン)の研究棟から出たのを見たか?」

エラリィから出た思わぬ言葉にミラが目を丸くする。

源霊匣(オリジン)だと!?」

ミラの言葉にエラリィが頷く。

「兵装研究棟が正式名称なんだが、まあ、それはこの際どうでもいい」

そんなわけないのだが、ホームズは黙って話に耳を傾ける。

「そこから出た所は見ていないのだな?」

「私もそこまで手が回っていない。だから、分からない。だが、奴らの話を聞く限り、今頃は………」

女軍人の言葉に一同は、黙り込む。

腕を組み渋い顔をするアルヴィンにジュードが近寄る。

「アルヴィン」

「………大丈夫だ。お前はガイアスのことだけ考えてろ」

「でも……」

尚も食いさがるジュードにアルヴィンが、口を開く。

「そうじゃねーだろ。お前は前に進むんだろ」

そう言ってジュードを見据える。

「正しいとか、人に優しくとか……今は、そんな場合じゃないだろ」

静かに紡がれたアルヴィンの言葉にジュードは、少し迷った後頷いた。

「ありがとう、アルヴィン」

エラリィは、腕を組んで考えこむ。

「エラリィさん?」

ホームズが首を傾げているとエラリィが、白衣のポケットをひっくり返して、紙を取り出す。

そして、ペンで何かを書き込んで、その紙をホームズに渡した。

「これは?」

「地図だ。今言った源霊匣(オリジン)の研究棟は、丸く囲ったところだ。この先の道を行けばつく」

エラリィは、そう言うと女軍人の肩を持つ。

「何を?!」

目を白黒させる女軍人には、見向きもせずにホームズ達に顔を向ける。

「僕は、こいつを医務室に連れて行く。悪いがお前達は、そこへ自力で行ってくれ」

エラリィの宣言にホームズは、しばらく固まった後、ため息を吐く。

「まあ、仕方ないですね。軍人さんなら認証されるでしょうし」

ホームズ達の行く手を阻んだ機械達も襲ってはこない。

「お別れの前に一つ聞いてもいいです?」

いつの間にかエラリィに対してホームズは、敬語になっていた。

「なんだ?」

「どうして、精霊術(ヽヽヽ)なんて知ってたんです?」

ホームズの質問に女軍人の肩を担いだエラリィがピタリと止まる。

「気付いたか?」

ニヤリと笑っているところを見るとどうやらワザと言ったようだ。

「当然。ジンテクスでしょ、ここは。なのに普通に精霊術なんて、言葉が出てくるですから、不思議に思いますよ」

ホームズの言葉にエラリィは、満足そうに微笑む。

隠し事がばれたと言うのにこの笑顔だ。

ホームズは、不思議そうだ。

エラリィは、そんなホームズの顔を見ると肩をすくめる。

「ま、これが片付いたら話してやるよ」

そう言ってエラリィは、女軍人に肩を貸しながらその場を後にした。

衝撃的な出会いと共にあっさりと去ったエラリィを見てホームズは、ため息を吐く。

「どうにも、母さんの知り合いにまともな人はいないみたいだねぇ……」

ため息を吐くホームズに対し、ヨルは険しい顔だ。

「おい、ホームズ、あいつ……」

「分かってるよ。気付いてるさ、おれをだれだと思っているんだい?」

ホームズは、肩をすくめて源霊匣(オリジン)の研究棟へと歩き出した。

「あの人なら大丈夫だろう」

ホームズの言葉にヨルは、頷く。

「まあ、だろうな」

そう言ってヨルは、静かに物思いに沈むアルヴィンに視線を向ける。

すると、ミラが歩みを進める

「アルヴィン」

ミラの声にアルヴィンは、少し驚いた顔をした後、静かに頷く。

「大丈夫だ」

アルヴィンの言葉をヨルは、鼻で笑う。

「信用していいのか?アルヴィン(ヽヽヽヽヽ)

ヨルの言葉にアルヴィンは、押し黙る。

それから、頷く。

「あぁ」

アルヴィンの言葉にヨルは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

エラリィは、女軍人に肩を貸しながら歩いていた。

「ったく、ハンマー持って鎧着込んだ女に肩を貸すなんて無理難題だな」

エラリィの愚痴に女軍人は、申し訳なさそうにする。

「すまない……早く医務室に着くとよう私も出来るだけの事をする」

「あぁ、その必要はない」

エラリィは、そう言うと女軍人を突き飛ばす。

女軍人は、よろけながらなんとか持ち直す。

「何を……」

「よくもまあ、色々ここまで調べたもんだ」

エラリィは、そう言ってハンマーを構える。

源霊匣(オリジン)の研究棟、バランに関して言えば、まあ適当に言っただろうが……」

「何を言ってい……」

「ここではな、精霊術のことをジンテクスというんだ。あのタレ目の男が言ってただろう」

女軍人の言葉をエラリィが遮る。

そして、女軍人が口を開く間もなく、エラリィは言葉を続ける。

「いいか、ジンテクスは黒匣(ジン)がないと発動しないんだ。なのに奴らはそれなしで、ジンテクスをやってのけた。それを見て全く驚かないエレンピオス人なんていないのだ」

エラリィの言葉に女軍人は、ぎゅっと拳を握る。

「一応、義務として聞いてやる。何故お前は驚かない?」

女軍人は、答えない。否、答えられない。

「不運だな。僕と会ったことが、お前の失敗だ。リーゼ・マクシアの軍人さんよ」

「不運?」

その言葉と共に女軍人は、両手の短剣で、エラリィに切り掛かった。

エラリィは、ハンマーを横にし柄で受ける。

柄で防がれた短剣は、ギチギチと火花を散らす。

「違うな、幸運だ。黒匣(ジン)の研究者を一人殺せるんだからな」

「ふん……」

エラリィは、柄でいなすとそのまま女軍人を蹴り飛ばす。

「やれるもんならやってみろ!」

 

 









頑張れエラリィ!



ではまた二百三話で( ´ ▽ ` )ノ

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