連日投稿です!
「ジュード、ちょっと頼みたい事がある」
ミラのリハビリメニューがひと段落すると、ディラックから声がかかった。
「……なに?」
快いとまではいかない返事をジュードはする。
ディラックはそれを気にせず続ける。
「患者がいるので来てくれとの事だ。生憎、母さんは今、出ていてな……」
「父さんが行けばいいでしょ……」
「私がここを離れる訳にはいかないだろう」
確かに院長が離れる訳にはいかない。もっともな事を言われ、ジュードは何にも言えなくなり、ミラに謝るとその現場に向かう事にした。
「場所は?」
「お前もよく知っている場所だ」
◇◇◇◇
「何してるの?」
こちら宿屋ロランドのとある部屋。ついてびっくり、見てびっくりと言う所だ。
ジュードの視線の先には、床にそれぞれ、突っ伏して倒れているホームズとレイアの姿があった。
「……見ての通り」
少し、しゃがれた声で顔を上げず、ホームズが応える。
「いや、見ても分からないんだけど……」
引いてる半分、呆れ半分の声で聞く。
そんなジュードの問いにホームズは顔を上げずレイアに言う。
「……レイア……君の幼馴染みの反応が冷たいんだけど……」
そんなホームズの言葉にレイアも顔を上げずに言う。
「しょうがないよ……ジュードだもの」
わざわざ来て、わけの分からないものを見せられて、その結果がこれだ。こめかみを少しヒクツかせながら、ジュードは再度尋ねた。
ヨルはくぁっ、と欠伸をしている。
「少し、質問を変えるよ、どうしたの?」
その問いにホームズとレイア相変わらず床に顔をつけたまま言う。
「「風邪引いた………」」
2人はは声を揃えて言った。ジュードは深いため息を吐く。そして、診断と、どうしてこうなったかを聞き出す羽目になった。
話は明朝に遡る。
「ヘックショイ!!」
「随分とおっさんくさいクシャミだね、ホームズ。」
ホームズはこうして、レイアと一緒に朝ごはんを食べるのがすっかり習慣になっていた。
因みに、今日は鼻水を垂らしながら朝ごはんを食べていた。つまり、風邪を引いたのだ。
昨晩は結局、外で眠った。普段はそこそこ野宿の準備があるので、こんな事は滅多に無いのだが……如何せん、荷物が全て無いので、どうしようもない。おまけに、
「昨日海にも飛び込んだからね……」
レイア助けようとして、海に飛び込んのだ。ここまでは良かったのだが、怪我に塩水がしみて、それどころではなくなってしまった。
「今日は一日寝てた方がいいよ、せっかく休みなんだし………」
「………そうする」
そう、元気なく言うとヨロヨロと立ち上がって階段を………登る前に倒れた。
「ホームズ!!」
突っ伏したまま、動かないホームズ。気のせいか、頭から湯気が出ている気がする。
レイアは急いで駆け寄ると、ホームズを背負う。とはいえ、二階まで運ぶのは難しいし、この状態では、ホームズは下に降りる事が出来ない。
仕方ないので、そもそもの原因に助けを求めた。
「お母さん……何か、1階に空き部屋ない?」
「ありますよ、そこの、廊下の右にね」
そう言った後、ソニアはホームズを申し訳なさそうに見る。
「レイアはともかく、ホームズには悪い事したね。後で謝っておかなきゃ」
レイアは恐る恐る、母に尋ねる。
「あのお〜わたしは………いえ、何でもないです」
ソニアの睨みに押し黙るとレイアはホームズを背負ってその部屋に入る。部屋にはベットが二つあり、それぞれ壁の両端に一つずつあった。
一先ず、ホームズをベットに寝かせるとレイアはホームズのでこに手を当てて熱を測る。見るからに苦しそうだ。しかし、
(あれ?思ったより熱く無い……まさか……)
取り敢えず、誤魔化す様にレイアはホームズに言う。
「け、結構熱あると思うから今日一日おとなしくしててね、わたしは、ジュード呼んでくるから。」
出て行こうもしたレイアの腕をホームズが掴む。そして、ムクッと起き上がると、
「……ヨル、おいで」
二階にいるヨルを呼んだ。
すると、その直後、ヨルがホームズの肩に現れた。
「何の用だ……て、お前、風邪引いたのか。バカのくせに」
「……普段なら、アイアンクローを決めたい所だけど、両手がふさがっているからねぇ」
ホームズは片手は折れているし、もう片方はレイアを掴んでいる。
「……取り敢えず、レイアのおでこをその、可愛らしい肉球でさわってくれないかい?」
「病気になっても忌々しい奴だ」
そう悪態を吐くと前足をぐねぐねと伸ばし、レイアのおでこを触る。
「何それ?!」
「前足」
突然の事に目を剥くレイア。しかし、ヨルは通常運転だ。
「いや、それは、知ってる。じゃなくて!!」
「だったら、いいだろう。それより、ムスメ、お前熱いぞ。……なるほど、2人そろって風邪引いたのか、バカのくせに」
「……それは、もういい。やっぱり君も風邪引いた見たいだね……。通りで、おれでも熱いと思ったわけだよ。……君も休めば?」
文字通り、力なくそういうホームズ。
しかし、レイアは首を横に振る。
「だめだよ、だったら、ホームズの看病は誰がするの?」
「……君以外の誰かだろう?ジュード辺りが適当じゃないかい?」
さらに、レイアは首を横に強く振る。レイアはミラのリハビリの手伝いをすると、言った。それは何も付きっ切りで世話をする事だけではない。ミラがリハビリに集中できる様に、ジュードが適切に手伝える様に場を整える意味も込められている。
だからこそ、レイアは力強く拳を握りしめて力説する。
「ジュードは、ミラのリハビリがあるんだよ。そっちに集中して、貰わなくちゃ。……こう言う時の為の看護師な……んだから?」
そこまで、言うとレイアは床にへたり込んでしまった。レイアは一瞬自分に何が起こったか分かっていないようだった。そんなレイアの様子を見て、ため息を一つ吐く。
「……ほれ見た事か。今日はゆっくり休み……まし……」
ホームズはホームズで、起き上がっていた身体がそのままパタンと倒れた。
その後、様子を見に来たソニアに2人ともベットに放り込まれた。
そこまでは良かった。そこまでは……
「……ホームズ、食べたい物ある?タオル変えようか?」
レイアはしぶとくホームズの看病を続けようとしたのだ。もう、ソニアにばれた時点でジュード辺りが来る確率はグンとたかくなっているのだが、頭がボォっとして働いていないのでそんな事にも気付かない。
「……いいって言ってるだろう。君も病人なんだから」
対するホームズもそこに突っ込める程回復していない。
「……その前にわたしは看護師だから……」
そう言って、ふらふらと部屋からレイアは出て行こうとする。そんなレイアを止めようとホームズもふらふらと立ち上がる。
止めようとするホームズにレイアは言う。
「……大丈夫だって。偶には人を頼りなよ」
「……今の君以外だったら、誰にだって頼れるよ」
ホームズはそう、焦点のあっていない目でレイアを睨む。あんまりな物いいにレイアはレイアでホームズを睨む。少し、位置はズレているが……恐らく、ホームズと一緒で目の焦点があっていないのだろう。
「……わたしじゃ頼りにならないっていうの……!」
「……最初からそう言ってるだろう」
その言葉を皮切りにレイアは部屋にあった箒を手に取り、棍の様に構える。対するホームズもそれに、応じる様にふらふらと構える。
「……頼りになるか、ならないか、その体にゅ教えてあげるよ」
「……その言葉、そっくり、そにょまま返して上げるよ」
2人して、舌が回っていなかった
しかし、その言葉を皮切りにレイアとホームズは2人同時に力強く踏み込む。
ところが2人して膝から崩れ落ち、そして床にうつ伏せに倒れた。
「阿保くさ」
ヨルはそう呟くと大きな欠伸を一つした。
◇◇◇◇
「それで、さっきの状態に繋がると……」
ジュードは呆れ顔だ。ホームズとレイアは強制的にベットに入れられていた。
「「……はい、その通りです」」
「2人とも、子供じゃないんだから……」
「「………………」」
ジュードのもっともな言葉に2人はグゥの音も出ない。
ため息を一つ吐くとジュードはヨルを見る。
「ヨルも止めてよ。その場にいたんでしょ?」
ヨルは心底嫌そうな顔をすると、面倒臭そうに言う。
「何で俺が、んな面倒臭い事しなきゃならんのだ、バカバカしい」
そして、ベットでうんうん言っている2人をその金色の目で馬鹿を見る様な目を向ける。
ジュードはため息をもう一つ吐くと、レイアとホームズに言う。
「取り敢えず、薬を出しておくから食後に飲んでね。………それと、2人はもう馬鹿な事しないで大人しく寝てなね。」
最後にそう、2人に強く釘を刺す。
「全く、レイアは相変わらずだし、ホームズは年上何だから、もう少し落ち着いて欲しいよ、いい?……」
そして、お説教が始まった。
2人は朦朧とした頭でテキトーに聞いているし、ヨルはつまらなさそうに尻尾を振るっている。
ホームズは助けを求める様にレイアを見るが、レイアは無理だと言う風に何とか首を振る。
そんな事をしていると、ミラが車椅子に乗って入って来た。
「ミラ?!どうしたの?」
ジュードは少し驚いている。その言葉にレイアとホームズはのろのろと起き上がり、ミラの方を見る。
「いや、何、『お見舞い』と言うものしてみようかと思ってな。大丈夫か2人共?」
大丈夫じゃないから寝ているんだろう、とホームズは思ったが、熱でそれを突っ込む気力がない。
「ふむ、しかし、風邪を引いたなら大丈夫だろ」
「……何が?」
ミラの言葉にホームズは尋ねる。
「本で読んだんだが……確か、『馬鹿は風邪を引かない』のだろう?つまり、喜べ2人共、お前達は馬鹿では無いぞ!」
「「……………」」
ミラは励ます様にレイアとホームズに言う。ホームズとレイアはもう、突っ込む気力も無い。
そんな2人に構わず、ジュードはこめかみに人差し指を当てて考える。
「それ、医学校でも議論したけどね、違う結論が出たよ」
「本当か、ジュード」
「うん、あのね、馬鹿は風邪を
「「……………」」
「なるほど、それは道理だな。しかし、と言う事は……」
「うん。2人が馬鹿じゃないと言う証拠にはならないかな」
「「……………」」
「そう、気を落とすな、2人共。これから証明していけばいいだけの話だ」
「「……黙って聞いてればーー!!」」
ミラの哀れむ様な言葉に レイアとホームズは布団をめくって立ち上がった。
「……何なんだい2人して!……だいたい、レイアはともかく、おれは馬鹿じゃない!」
「……それは、ホームズにだけは言われたくない!」
「……よく言うよ!……おれの熱を測るまで、君、自分が熱を出してる事に気づかなかっただろう」
ホームズの言葉にレイアはグゥの音も出ない。
そんなレイアにジュードは呆れた様な視線を向ける。
その視線がレイアの神経を逆撫でしたようで、顔を真っ赤にして(元々風邪の所為で赤いが)
「……ちょっとその目やめてよ!ナニサ、ジュード何て、昔は風邪引いてても遊ぼうとした癖に……」
「か……関係ないだろう!その事は!だいたい、それだってレイアが僕の話を、よく聞かないで連れ出したんじゃないか!」
「……何よ!わたしが……悪いって言うの!」
「そこまで、言ってないだろう!」
「……い〜や、それはレイアが悪い」
「「
「……随分と失礼な事を…言ってくれるじゃないか……」
「当然の事を言ったまでだよ」
「そうそう」
「……小さい頃の喧嘩の続きをやってるような、馬鹿共にだけはそんな事を言われたくない…………と言うよりミラ?君は何我関せずみたいな姿勢をとってるんだい?」
ホームズはレイアとジュードに啖呵を切ったあとミラに言葉を投げつける。対するミラはいつも通りに言う。
「実際、関係ないからな」
ビキッと額に青筋が立つのをホームズは感じた。
「……君だって原因の一部だろうが。病人の前でどうしてその話題を振ってくるんだい。そのデリカシーのなさもある意味馬鹿である証拠だよ」
熱で気が立っているのか、ホームズはミラにメチャクチャな事を言っている。
「ム、お前に言われるとなんだか、腹が立つな」
「……それ、……どういう意味だい?」
「……そう言う意味だ。ジュードとレイアの喧嘩は微笑ましものがあるが、お前のは……ないな」
「ミ、ミラ?!それどう言う意味?!」
「……そうだよ!」
「……上等だよ……!」
ジュードとレイアはミラの言葉に照れた様に食ってかかり、ホームズはミラの言い様に腹を立てて食ってかかる。
ジュードは昔の事を持ち出すレイアに苛立ち、余計な事を言うホームズに苛立っている。そして、ミラの言葉に照れて声を荒げる。
レイアは、自分を馬鹿扱いするジュードに怒り、ホームズにも怒っている。そして、ジュードと同様にミラの言葉に動揺して、ミラにも食ってかかっている。
そして、ホームズはレイアと同等扱いにしたジュードに怒り、自分の事を馬鹿扱いした、レイアに怒り、失礼な事を言ったミラに怒っている。
ミラはミラで、ホームズにはイラついているし、ジュードとレイア達にはどうして自分にそんなに食ってかかって来るのか分からないと言う状態だ。
つまり、今の状態を一言で言うなら、
この混沌と化した状態は、様子に気付いたソニアが来るまで続いた。
(馬鹿ばっかだな……)
ヨルは大きな欠伸を一つして、この騒音のなか眠りに落ちた。
風邪って辛いな。
そんな事を考えながら書きました。
結局、あのことわざの由来は、何なんでしょうね?
それでは、また、二十二話で!
次回もまた、日常編です。