1人と1匹   作:takoyaki

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二百十二話です。
最近遅れ気味で申し訳ないです。
てなわけで、行くぜサブイベ!


住めば居場所

「………」

アルヴィンは、自分の家を無言で見上げていた。

「アルヴィン」

ホームズの呼びかけにアルヴィンは、首を横に振る。

「いつまでもこうしてても仕方ないよな」

アルヴィンは、そう言うと扉に手をかけようとする。

「アル………」

聞き覚えのある声にホームズ達は振り返る。

そこには、イスラが驚いた顔をして立ちすくんでいた。

ローズの顔がキュッと強張る。

「よう、イスラ。手紙届いたよ」

アルヴィンは、そこで言葉を切ると目を伏せる。

「母さん、死んだんだってな」

その言葉に事情を知らない一行は、目を丸くする。

「……………」

俯くイスラに構わずアルヴィンは、扉に手をかけて、家に入る。

家の前で立ちすくんでいるイスラにホームズが声を掛ける。

「君も来たまえ。遺族に最後を伝えるのも君の役目だろう?」

静かだが有無を言わさないホームズにイスラは黙って従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「もう、埋葬しちまったか………」

もぬけの殻となったベッドを見ながらアルヴィンがポツリと呟く。

「……仕方ないだろう。死体ってのは腐ってしまうんだから」

「ホームズ……」

ホームズのその淡々とした言葉にエリーゼの声が漏れる。

ホームズは、小袋を触って自分の気持ちを切り替える。

今は、ホームズが感傷に浸る時ではない。

もぬけの殻となったベッドに胃が締め付けられるような思いをしようと、それは今優先すべき感情ではない。

「ごめんなさい。私が来た時には、もう息を引き取っていて…………」

俯くイスラにホームズは、一瞥をくれると布団を見る。

「………慣れないな、この光景は」

ヨルがポツリと言う。

それにホームズは、寂しそうに笑って返す。

「母さん………馬鹿だな………」

「アルヴィン……」

アルヴィンを慮るようにジュードが声をかける。

するとアルヴィンは、やりきりないという顔で笑ってみせる。

「大丈夫だよ。むしろ、こうなってホッとしている自分がいる……なんて言ったら、優等生は怒るか」

アルヴィンの言葉にジュードは、俯くことしかできない。

医学生であるジュードは、否定しなければならないところだ。

だが、それを否定する資格はジュードにはない。

アルヴィンの苦労も辛さも断片的では、あるが触れているのだから。

「人の一人の人生は、重い。それを母の分まで背負っていたのなら、それは仕方のないことだ」

「まさか、おたくに慰められる時が来るとはねー」

穏やかに言ったたイスラに視線を向ける。

「そーゆーわけだから、正直に答えてくれよ、イスラ先生」

アルヴィンの有無を言わせない迫力にイスラは、たじろぐ。

「なんのこと?死因は、急な発作で………」

「嘘だろ。母さん気付いてぜ。お前が食事に毒薬を混ぜてることを」

アルヴィンの言葉に一行は、目を丸くする。

「毒って………」

エリーゼが息を飲む。

「………それ、本当なのかい?」

ホームズの問いにアルヴィンが頷く。

「母さん、時々正気に戻る時があったんだよ。その時手紙で知らせてくれた」

「嘘よ!気付いてたら、なんで食べ…………!」

イスラは、完全に墓穴を掘った。

それに気づいたイスラは、口を覆う。

「語るに落ちるとは、このことか?」

ヨルが侮蔑の視線を向ける。

「無理するなって、お前、嘘つくの下手なんだよ」

アルヴィンは、イスラにそう言葉をかけた。

ホームズは、イスラを冷たく見つめる。

「君、腐っても医者だろう。何してるんだい」

イスラは、口から手を離し握りしめる。

「あんたが、あんた達が、私を縛り付けるから悪いんじゃない!!」

「人のせいにしないで!貴女が悪いに決まってるでしょ、イスラ!」

ローズの怒号を受けるとイスラは、ギリッと歯を食いしばって走り出した。

レイアとローエンは、ホームズ達を見つめている。

「追った方がいいんじゃない?」

「えぇ。今のイスラさんは、何をするか分かりませんよ」

レイアとローエンの言葉にホームズは、アルヴィンを見る。

「決めるのは、君だよ。アルヴィン。おれもローズもイスラには少なからず関わりがある。とはいえ、今回の当事者は君だ」

 家族を売られたローズ。

 自身を売られたマープルと出会ったホームズ。

 だが、その因縁は今は関係ない。

 今は、アルヴィンだ。

「追うぞ」

「了解。ヨル、イスラさんは?」

ヨルはヒゲをピクリと動かす。

「俺の感知できる範囲にはいないな……」

「立派な逃げ足だねぇ………」

ホームズは、溜息を吐く。

「とりあえず手分けして探しましょう。皆さん、三十分後にまたここに」

ローエンの提案に頷くと一行は、方々に走り出した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

三十分たったが、イスラは街のどこにもいなかった。

ヨルの探知範囲に引っかからないのだ。

一行は、アルヴィンの家で腕を組む。

「とりあえず、街にはいないな」

ヨルの言葉が真実として、問題は次だ。

「どこに行ったんだろう……」

レイアの言葉にホームズは、状況を整理するように口を開く。

「えーっと、イスラが知っていて、隠れられそうな場所か……」

ホームズの言葉を聞きながら、ジュードは考えを纏める。

(イスラさんが、知っている場所……)

ジュードの視界にエリーゼが入る。

瞬間、ジュードの頭にかかっていた靄が晴れる。

「そうだ……リーベリー岩孔だよ!」

一行は、少し驚いた後に頷く。

「それだねぇ。彼女にとっても馴染みの深い場所だろうしねぇ」

ホームズの言葉にジュードは、頷くと懐にある次元刀の小刀を取り出し空間を切り裂く。

「よし!逃げられる前に行くわよ」

ローズは、そう言って真っ先に飛び込み、他の面子もその後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「いたわ!」

突然現れた一行にイスラは、吊り橋の上で声も出ない。

「そんな………さっきまで居なかったのに……」

「鬼ごっこをやるには、分が悪いということだ」

ヨルは、馬鹿にする。

ジュードが顔を険しくさせ、イスラに詰め寄る。

「イスラさん………なんで、アルヴィンのお母さんを!?」

イスラは、視線をそらす。

「邪魔だったんだよな。ユルゲンスと一緒に暮らすのに………」

ローズが息を飲む。

「……冗談でしょ?人の命よ?そんなことのために殺したの?」

ローズのかすれ声を打ち消すようにイスラが叫ぶ。

「そうよ!裏の世界と関わるのはもうたくさん!私は、ただ普通に幸せに暮らしたいだけなのに!そのための努力もしているのに!!」

「君の言う努力ってのは、殺人のことかい?」

ホームズは、心底呆れたように溜息を吐く。

「そんなことを平気で詫びれもせずにやってるようじゃあ、君の言う普通の幸せなんて訪れやしないだろうねぇ」

「………あなたに何が分かるっていうのよ」

「肉親を失う辛さ」

ミラとアルヴィンが目を見開く。

「お前、父親の記憶はないと言っていなかったか?」

ミラが首を傾げる。

それを聞いてホームズは、あぁ、と思い出したように呟いた。

「そっか、二人には言ってなかったけ?おれの母親ももういないんだ。二年前の…………ううん、二年()話だけどね」

アルヴィンは、あの夜の教会のことを思い出す。

「じゃあ、あの時の言葉は……」

「心の底からの言葉さ。経験者だからね」

アルヴィンは、目を伏せる。

あの時投げかけた言葉が如何に無遠慮だったのか、今ならわかる。

「悪りぃ。あんなこと言って……」

「仕方ないよ。隠してたんだから」

ゆっくりとかぶりを振るホームズ。

それから、イスラに視線を戻す。

「………彼女のこと、君はどうするんだい?」

アルヴィンは、銃を握る手に力を込める。

「イスラ、一つ聞かせてくれ」

「………な、何よ?」

「お袋は、苦しんだのか?」

アルヴィンの質問にイスラは、ゆっくりと首を横に振る。

「そうか……それだけが心残りだったんだ」

そう言って銃を握る手を緩める。

「イスラを許すのか?」

ミラの質問にアルヴィンは、頷く。

エリーゼは、驚いて詰め寄る。

「お母さんをころされたんですよ!!」

穏やかな顔でアルヴィンは、頷く。

「母さんは、もう長くないことが分かっていたんだ」

そう言って寂しそうに笑う。

「最後の手紙にも書いてあった。自分が死んだらイスラを自由にしてやってくれってな」

「そんな………レティシャさんは、全部分かって………」

「死んだんだ。あんなに帰りたがってた故郷に帰れないまま……な」

アルヴィンの言葉の端々には、やりきれない思いが滲み出ている。

イスラは、歯を食いしばって首を横に振る。

「嘘よ!どうせ、後で揺するんでしょう!?」

「あ?」

突然叫んだイスラにヨルは、不機嫌さを隠そうともせずに声を発する。

「証拠を全部消さなきゃ……昔の私を全部きれない……」

ブツブツとうわ言のように繰り返すイスラに一行は、眉をひそめる。

「おい、君……」

「私は、幸せになれないの!!」

慟哭に一行は、思わずたじろぐ。

「おい、落ち着け、イスラ……」

ここは、吊り橋の上。

もう長い年月放置されており、あっちこっちが崩れかかっている。

アルヴィンが慌てて声をかけた。

だが、その甲斐なく、イスラは足を滑らせそのまま真っ逆さまに地面に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「容態は?」

一行は、イスラをアルヴィンの家に運び込みレティシャが使っていたベッドに寝かせた。

ミラの質問にユルゲンスは、頷く。

「怪我の方は大丈夫だよ。みんなの応急処置が適切だったおかげだ……ただ……」

ユルゲンスは、言いづらそう口ごもる。

するとイスラがゆっくりと目を開く。

その目は、涙で溢れていた。

「お母さん………どこにいくの?……捨てないで………何でも言うこと聞くから……ご飯もいらないから……だから、売らないで!お母さん!」

目は開いている。

だが、焦点は合わず、そのうわ言を言い続ける。

ユルゲンスが優しくイスラの手を握る。

「大丈夫。ずっと側にいるよ。例え、君が一生このままでも」

ミラは、そんな二人を見て静かに呟く。

「幸せ者だな、イスラは」

エリーゼは、ぎゅっとティポを抱きしめる。

「………でも、こんなの悲しいです」

ヨルは尻尾をゆらしながら答える。

「逃げられないんだよ、過去からは」

静かな声のはずなのに皆に響く。

「そうなんだろうな………」

ユルゲンスは、頷く。

「ユルゲンスさん?」

「イスラがうわ言でずっと言っていた」

「……そう」

ぎゅっと拳を握ってローズは、目を伏せた。

「アルヴィンさん。本当にここを使っていいのか?」

尋ねるユルゲンスにアルヴィンは、頷く。

「構わないよ。ここなら、奴らに知られてないしな」

アルヴィンは、そう言ってガンベルトを取り出す。

「ただ、このガンベルトだけは持っていくよ。我が家に代々伝わるものでね、故郷に持って帰るよう、お袋に言われていたんだ」

「無事に帰れるよう祈ってるよ」

 ユルゲンスの言葉にアルヴィンは、頷いて返す。

「せめてこれぐらいは、してやんないとな」

アルヴィンは、そう言ってガンベルトをしまった。

「いいのかい?それだけで?」

「いいさ。引き取り手がいるんなら、整理もしなくてちょうどいいぐらいだ」

ホームズは、少しだけ釈然としない顔をするが直ぐに思い直す。

「わかった」

暗い雰囲気の中、アルヴィンがパンと手を叩く。

「さ、次は、マーロウのうちだろ。ほら、とっとと行くぞ」

「………そうね」

ローズが頷き、ドアから外に出た。

そして、それに続くように一行がバラバラと外に出る。

エリーゼも出ようとするが、ふと、コルクボードに貼ってある一枚の紙が目に止まる。

エリーゼは、首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「アルヴィン」

マーロウの家に行く途中、エリーゼが呼び止めた。

「これ……」

そう言ってコルクボードに貼ってあった先ほどの紙を渡す。

アルヴィンは、エリーゼから渡された紙を見ると目を丸くする。

「気になったので持ってきました。これ、なんですか?」

『絵とは違うみたーい』

アルヴィンは、とても嬉しそうに笑うとエリーゼの頭を撫でた。

「さきゅな」

エリーゼは、顔を赤くしながら少しだけふくれっ面になる。

アルヴィンは、エリーゼから手を離すと一枚の紙を見つめる。

「これは、写真っていうんだ。風景をカメラってのを使って紙に焼き付けたものって言えばまあ、近いかな」

「写真?」

「そ。そんで、これは、俺と母さんと父さんの集合写真だ。ジルニトラに乗る前にとったんだよ」

まだ、あったんだなぁとアルヴィンは、嬉しそうだ。

一行もその写真を覗き込む。

幼いアルヴィンが身なりのいい格好して満面の笑みで笑っている。

そして、その隣にはアルヴィンの父と母。

とても幸せな家族がそこにいた。

幸せだった象徴のようなその一枚の写真をアルヴィンは、嬉しそうな顔に少しだけ別の感情混ぜて見ている。

ホームズは、そんなアルヴィンに言葉をかける。

「結末が悲しくても、幸せな思い出がゼロになるわけじゃないってことだよ」

「…………そうだな」

アルヴィンは、頷く。

覗き込んでいたレイアが首を傾げる。

「それよりさ、この後ろでピースしてる女の人誰?」

そう言って指を指された女の人を一行は、見る。

眠そうなタレ目で、ピースをしている。

そのくせしっかりカメラ目線だ。

「なんか、手を引っ張られてますけど……」

「お連れの方に怒られたのかも知れませんね」

「連れの方はマトモなようだな」

ローエンたちの物言いにアルヴィンは、苦笑いをしている。

「人の写真に写りこもうとする子供は、よくいたけどな………」

「子供って感じじゃないよね………僕らと同い年ぐらいに見えるけど……」

家族写真、ある意味記念写真とも言えるものにいけしゃあしゃあと写っている自分より少し上に見える女性にジュードは、呆れていた。

口々に感想を漏らす一行とは、対照的に、ローズ、ヨル、ホームズは黙り込んでいる。

その沈黙をローズが打ち破る。

「ねぇ、ホームズ」

「なんだい?」

「私、この人に見覚えがあるんだけど」

「奇遇だね、おれもだよ。ねぇ、ヨル?」

「あぁ」

ホームズ達の発言にレイアが尋ねる。

「誰?」

ローズとヨルは、ホームズに言うよう視線で促す。

ホームズは、溜息をついて目をそらす。

「おれの母さん」

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

一行は、慌ててホームズとその女性を見比べる。

見覚えのある茶髪、タレ目、そして、お調子者。

「ええっーーーーー!?」

レイアがホームズに詰め寄る。

「本当に!?」

「本当に」

「じゃあ、この見えないけど手を引っ張ってる人って………」

「多分、父さんじゃない?」

アルヴィンも驚いている。

「思わぬところに繋がりがあったな………」

「なにやってんだろうね、あの人」

ちゃっかり人の家族の記念写真に写り込んでいる自分の母親。

ホームズは、すっかり脱力していた。

「………って、いやいやちょっと待って」

ジュードが止める。

「ホームズのお母さんこの時、いくつ?どう見ても僕と同い年ぐらいにしか見えないけど……」

「えーっと………」

ホームズは、断片的な情報を繋ぎ合わせようと頭をひねる。

「ホームズの両親が出会ったとき、母親のは二十二歳だったから、二十三、四どっかその辺だろ」

ヨルの言葉に改めて一行は、ホームズの母、ルイーズを見る。

「………??」

頭の上にはてなが飛び交う。

見た目は、どう頑張ってもジュードぐらいが限界だ。

「だから、言ったろう?若作りだって」

「んなレベルじゃないでしょ!!年齢詐称レベルだよ!!」

「レイア、珍しく難しい言葉使うじゃあないか」

「どういう意味!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ合う面々。

そんな面々を見てアルヴィンの顔は自然と綻ぶ。

ずっと探してた、

ずっと手に入らない諦めた、

ずっと手に入れないと決めた、

そんな居場所が目の前にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張らねーとな」

 

 

 

 

 

 

そうポツリと呟いてアルヴィンも輪の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 






救いのない話ですが、結構好きな話です。
その分ラストの匙加減が難しかったです。
この救いのない感じを壊さず、尚且つ前を向いて歩こうという感じにシメるには、どうしようと思ってこんな感じになりました。



章の振り返りは、また今度。
ではまた、二百十三話で( ̄∇ ̄)/
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