1人と1匹   作:takoyaki

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二百十六話です。




やあ、年度末ですね。
てなわけで、どうぞ


愉断大敵

「お前やっぱり、あの時のガキだよな?」

踏み込もうとしたホームズの足が止まる。

向かい合う男は、ホームズのことを覚えていた。

「な……んで?他の奴らは覚えてもいなかったのに」

呆然とするホームズに男は、ニヤリと笑う。

「お前は、一番楽しかった遊びを覚えているか?」

男は、そう言ってホームズを殴る。

ホームズは、そのまま殴り飛ばされる。

ホームズは、ゆっくりと立ち上がる。

「覚えているだろ?あの頃は、良かったと思い出すだろ?」

そう言ってマナを展開させる。

「俺にとってのそれが、お前を追い込むことだった。ただそれだけのシンプルな理由だ」

そう言うとホームズに向かって火の玉を放つ。

かわそうとするも足が竦んで動かない。

左手の盾で何とか防ぐ。

「ほう?防いだか……」

「このゲス野郎が……」

「名前で呼べよ。俺は、カーボロ。お前は?」

ホームズは、ぺっと唾を吐き捨てる。

イジメてはいたが、名前は知らなかったようだ。

「君に名乗るくらいなら、便所コオロギに名乗った方がよっぽど有意義だね」

ホームズの口振りにカーボロは、面白そうに笑う。

「お前、自分の立場分かってんのか?」

カーボロは、そう言うとホームズの腹を殴りつける。

「─────っ!!」

口から息だけが漏れる。

その衝撃にホームズは、膝をつく。

「そこで這いつくばってろ」

そう言うとホームズの顔面を蹴り飛ばした。

仰け反るようにホームズは、地面に投げ出される。

痛みを堪えながら立ち上がろうとするホームズ。

そんなホームズにカーボロは、更に追い討ちをかけるように詠唱を始める。

「マナから察するに風属性か……だが、まあ……」

ヨルは、相手の精霊術を分析する。

(下級精霊術にアレだけ詠唱しているところを見ると大したことはない)

「ホームズ、突っ込め。詠唱が長いから止められるし、向かっていった方がダメージも少ない」

だが、ホームズの足は動かない。

「………ホームズ?」

ヨルが首を傾げる。

その隙に相手の精霊術が完成する。

「ウィンドカッター!!」

迫る風の刃にホームズは、まるで縫い付けられたようにその場から動かない。

「ホームズ!!」

ヨルの呼び掛けに慌てて左手の盾で防ぐ。

だが、いつもと違い防ぎきることは出来ず、傷を負う。

「もう一つおまけだ」

カーボロは、そう言って再び詠唱を始める。

「ホームズ!今度こそ避けろ!」

ホームズは、首を横に振る。

「無理だよ。さっきから、足が動かないんだ」

幼い頃の恐怖は、呪いとなってホームズを縛り付ける。

体に刻まれた勝てないという記憶が、普段の動きをさせない。

ヨルは、舌打ちをする。

「しっかりしろ、ホームズ!!負けるような相手じゃない!」

動かない脚を必死に動かそうと何度も叩くが、それでも言うことを聞いてくれない。

そんなことをしているうちにホームズに火の玉が放たれる。

放たれた火の玉は、ヨルを巻き飲んでホームズに当たる。

ヨルは、焦げた身体を忌々しそうに見ている。

ダメージは、思っていたより少ない。

だが、こんなものを何発も食らっていたらそれこそただでは、済まない。

カーボロは、ニヤニヤしなが近づくとホームズの胸ぐらを掴みあげる。

そして、ホームズの顔を横から思い切り殴りつけた。

「……ぅぐっ!」

地面に地面に投げ出されたホームズは、血を吐き出す。

口の中を切ったようだ。

「いい加減にしろ、ホームズ!こいつには、実力もない!信念もない!技術もない!今まで戦ったどの相手よりも弱いんだ!」

「んなこと、言われなくたって分かってるよ………」

ホームズは、ヨルにそう返すとゆっくり立ち上がる。

「でも、足が動かない。過去の恐怖が、鎖のように絡みついてくるんだ」

声を震わせるホームズにヨルは、歯噛みをした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ホームズ………もういいよ」

観客席でレイアがつぶやく。

ローズは、今にも観客席から会場に飛び降りそうだ。

「ねぇ、ローエン!止めよう!別にこの勝負勝つ必要なんかないんだよ」

3試合中、レイアとローエンが勝っている。

もう勝ちは確定しているのだ。

だが、ローエンは、首を横に振る。

「だからこそ、止める訳にはいきませんよ」

ローエンの言葉にエリーゼが身を乗り出す。

「どうしてですか?このままじゃ、ホームズ………」

「エリーゼ達の言う通りだ。いくらなんでもホームズの分が悪い」

ミラの言葉にアルヴィンが伸びをする。

「でも、負けたくないんだろ、ホームズは」

アルヴィンの言葉にジュードが頷く。

「棄権するならもっと早くに出来た。でもホームズは、しなかった。それってつまり、どうしたって勝ちたかったんだよ」

「だからって……」

歯を食い縛って俯くローズの頭をアルヴィンが上げさせる。

「まあ、見守ってやろうぜ。あのホームズが珍しく自分の為に戦ってるんだから」

アルヴィンの言葉に一行は、頷くしかなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「がっ、」

もうこれで何度目か分からない精霊術がホームズを捉える。

「おい、何とかしろ」

歯を食い縛るヨルを見てホームズは、肩をすくめる。

「死なない程度におれは、苦しんでいるわけだけど、君は、喜ばないのかい?」

ヨルは、更に嫌そうな顔をする。

「お前の避け損ねた攻撃が、俺にも当たってるんだよ」

火傷や切り傷がヨルに刻まれていた。

「勝って得るもんがあるわけじゃないし、ここらが潮時だろ」

ヨルの的を射た言葉にホームズは、首を横に振る。

「いいや、あるよ。勝って得るもの」

「ほう、それは?」

「勝利」

迷いなく言い放った言葉にヨルは、ため息を吐く。

「つまり、勝つまで勝負を降りないわけだ」

ヨルの言葉にホームズは、頷いて返す。

ボロボロのままホームズは、カーボロを指差す。

「勝ってやるぞ」

カーボロは、こめかみをひくつかせるとホームズに狙いを定めて詠唱を始めた。

ホームズは、深呼吸をする。

(現状を整理しろ!

一、あいつは今まで戦った誰よりも弱い。

二、おれは、足がすくんで動かない)

「ホームズ!!」

ヨルの言葉と同時にホームズに向かって火の玉が襲いかかった。

ホームズは、左手の盾でなんとか防ぐ。

考えを中断させられてしまったが、もう一度頭を回す。

(勝つには、攻撃を当てないと……)

カーボロは、再び詠唱を始めた。

(瞬迅脚?ダメだ足が動かない。

獅子戦哮?ダメだ足が動かない。

転泡?ダメだ足が動かない!!)

カーボロの詠唱は、終盤までさしかかっていた。

ホームズは、選択肢を絞っていく。

そして、カーボロの詠唱が完成する。

形成された火の玉は、ホームズへ向かって真っ直ぐに放たれる。

 

 

 

 

 

「ありとあらゆる可能性は、潰した。だから………!」

ホームズは、深く息を吐き出し、そして地面を強く踏み込んだ。

「これしかない!!」

 

 

 

 

 

 

 

「守護方陣・改!!」

 

 

 

 

 

 

 

巨大な円陣が二人を囲んで煌々と輝きだした。

 

 

 

 

 

放たれた火の玉は、ホームズにたどり着くことなくかき消えた。

「ぐっ………!」

カーボロは、何とか動こうとするが何一つ動かない。

「いやぁ、忘れてたよ……単純な話だった」

ホームズは、ニヤリといつもの笑みを浮かべる。

()けないなら動()なければいいだけの話だった」

「ワイバーン戦でも似たようなことを言ってたな」

ヨルの言葉にホームズは、頷く。

「まあ、前は、あっという間に打ち消されちゃったけどさ……」

ヨルの言葉が思い出される。

「君は、こう言ったね。彼は、おれが戦った誰よりも弱いと」

「まあな」

「だから、ワイバーンには無理でも彼相手なら打ち消されないよね」

ホームズの言葉にヨルは、ニヤリと犬歯を見せて答える。

「だろうな」

ヨルの視線の先には、守護方陣の拘束を解こうと必死なカーボロがいた。

カーボロは、拘束を解こうとしながらもホームズを馬鹿にした笑みを浮かべる。

「雑魚の分際で見下すなよ。拘束するだけで精一杯のくせに」

それから、それこそ吐き気を催すような人を馬鹿にした笑みを浮かべる。

「拘束した分だけ、お前を痛めつけてやる」

だが、底意地の悪い笑みならホームズも負けていない。

「君、何も知らないのかい?守護方陣はね、拘束するものでも、回復技でもない」

勿論、回復することもできる。

だが、メインはそこではない。

 

 

 

 

 

「守護方陣はね、攻撃技(ヽ丶ヽ)だよ」

 

 

 

 

 

カーボロが膝をつく。

獅子戦哮などにくらべれば、一撃の威力は、弱い。

一撃一撃が弱くとも守護方陣は、拘束している間、拘束した敵にダメージを与え続ける。

そして、精霊術には及ばないが、回復作用もある。

アレだけあった火傷や切り傷は、ホームズから消えていた。

とはいえ、制限がないわけではない。

ホームズの技を出す気力が持つ限りという制限がつく。

相手を倒すまで拘束するなど、普通の敵ならまず、ホームズの方がもたない。

だが、相手は普通の敵とは違う。

「何回だって言ってあげるよ。君は、おれが戦った誰よりも弱い」

ホームズは、更に力を込める。

額には汗がにじむ。

「どっちが、先に音をあげるか、勝負といこうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「無茶苦茶だ………」

ローズは、思わず顔を押さえる。

ホームズの試合場を囲む程の守護方陣・改を見ながらそう呟いた。

「こんなのほとんど手がないのと同じじゃない……」

まあ、確かに殆どやけくその一手だ。

『なんで、そうまでして勝ちたいのかなー?』

「理由なんて単純ですよ」

ローエンは、踏ん張っているホームズに目を向ける。

 

 

 

 

 

 

「男だから、これにつきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ホームズは、脂汗を流しながらカーボロを拘束し続ける。

カーボロも歯を食いしばりながら睨みつける。

「っ!こんな悪足搔きやってないで、とっとと諦めろ!!霊力野(ゲート)のないお前は、何をやったって勝てないんだよ!!」

ホームズは、鼻で笑う。

「その悪足搔きから抜け出せないくせに何を粋がっているんだい?」

そう言って踏み込む脚に力を込める。

だが、ホームズにも限界が来ている。

徐々にカーボロは、動けるようになってきた。

動けるようになった足を無理矢理動かし、ホームズへの距離を詰める。

詠唱をするには、じわじわとやってくるダメージがカーボロの集中を乱す。

例え、放っても守護方陣でかき消されてしまう。

だったら、直接拳を叩き込むしかない。

ゆっくりとしかし、着実に距離を詰める。

だが、カーボロにも限界が近づいていた。

身体に蓄積されるダメージが、カーボロを追い詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

((あと、もう少し………!))

 

 

 

 

 

 

 

 

先に音をあげたのは、ホームズだった。

守護方陣が消えカーボロの拘束が解かれた。

「ホームズ!!」

観客席でローズは、声を上げる。

ジュード達は身を乗り出して試合場を見つめる。

そこには、先ほどまで煌々と輝いていた光の陣が消えていた。

ホームズは、肩で息をしている。

「ククク………先に音をあげたのは、お前の方だったな」

カーボロは、勝利を確信する。

そして、そのままホームズへと向かって駆け出した。

この距離なら、詠唱するより殴ったほうが早い。

距離詰めたカーボロは、拳を固め振りかぶる。

「だから、言っただろ!悪足搔きだと!!」

ホームズは、荒い息遣いをするばかりで何も答えない。

「ここからは、俺のお仕置きタイムだ!!」

振りかぶった拳は、真っ直ぐ放たれた。

だが、それは届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「守護氷槍陣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、もう一度地面を踏み鳴らした。

氷の柱がホームズを中心に現れる。

放たれた拳は氷の柱に阻まれ、自身の骨を砕く。

「………!!」

そして、他の氷の柱がカーボロの腹を突き上げる。

突然現れた氷の柱に突き上げられ、カーボロは、堪らず胃の中のものを吐き出した。

「き………さ……」

最後まで言葉を発することできずにカーボロは、意識を手放した。

ホームズよりも高い視点で意識を手放したカーボロと視線を合わせる。

「どんな気分だい?人を見下す気分は?って、まあ、答えは聞けそうにないねぇ」

役目を終えた氷の柱が消え、水に戻る。

カーボロは、地面に叩きつけられた。

会場が静寂に包まれる。

それを打ち破るのは、実況の役目だ。

 

 

 

 

 

【まさかの大逆転だ!!勝負あり!!】

 

 

 

 

 

 

 

その大番狂わせの結果に会場が歓声に包まれる。

ホームズは、目を丸くしながらも手を振って返す。

「やれやれ、乗り越えられたかねぇ?」

「踏み越えたといった感じだがな」

ヨルは、そう言って気を失っているカーボロを見下ろす。

「…………リーゼ・マクシアは、霊力野(ゲート)の大きさに左右される」

「うん。きっと、彼は、おれがいることで安心出来たんだろうね」

ホームズは、憐れむようにカーボロを見る。

「『自分よりも下がいる』この世にこれほど安心できることはないからね」

「同情したか?」

「まさか。おれは、そんなに心は広くないんだ」

会場に吊り橋がかかる。

その音に振り返るとローズ達が吊り橋を渡ってホームズの元へと駆け寄ってきた。

「ホームズ!!」

いつもの面々を見ると緊張の糸が緩み膝から崩れ落ちそうになる。

アルヴィンとローエンがそんなホームズの支え、崩れ落ちないようにする。

「意地を見せたな、ホームズ」

「まあね」

ホームズは、疲れ切った、でも満足げな笑みを浮かべる。

アルヴィンとローエンは、ジュードにホームズの治療を任せる。

「無茶をしたね」

「ははは、まあ大分余裕はなかったかな」

その間にヨルは、レイアの肩に飛び乗る。

「どうだった?横で見てて」

レイアの言葉にヨルは、ため息をついた。

「イライラした」

「辛辣だね」

レイアは、乾いた笑みを浮かべる。

そして、ヨルに聞く。

「ねぇ、最後の奴って………」

「まあ、狙ってただろうな」

「だよね」

ミラは、腕を組む。

「しかし、レイアには効かなかったがな」

「そうですね」

エリーゼが頷いている。

ガイアス城から逃げ出す時のホームズとレイアの戦いを思い出す。

あの時、レイアはすべて打ち砕いてホームズを打ち倒した。

レイアは、うーんと首をひねる。

「まあ、必死だったからね」

そう言って腰に手を当てる。

「ホームズと戦う時は、『勝てる』と思っちゃダメなんだよ。『勝つ』って思わないと」

『それは、疲れるなー』

ティポの言葉にミラ達は、呆れたようにため息をついて頷く。

「それにしても、今回はアルヴィン達の方がホームズのことを理解していたな」

『いつもだったら、レイアが一番だもんねー』

「ティポ、考えて喋って」

レイアは、そう言うと楽しそうにはしゃいでいる男面子に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男の子の事は男の子が一番理解してるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイアの言葉にローズ達は、呆れたようにでもとても優しく笑った。

 







強い奴に苦戦は、よく聞くしじゃあ弱い奴に苦戦をやってみよう!!
てな、コンセプトで書いてみました。



さて、てなわけで章の振り返り、ラ・シュガルへですが、ワイバーンを操って飛ぶシーンが本当に好きで、何回も見直しました。
実はもう一つのパターンとしてホームズが、格好よくワイバーンを操って飛ぶのも考えてはいました。
ですが、「いや、それはないわwww」と思い、あんな風に物凄く苦戦させるようにしました。
まあ、その後の戦闘では、飛んだり跳ねたり大騒ぎだったし、いいよね?



ではまた、二百十七話で( ̄▽ ̄)
まだまだ、サブイベントです

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