いや、日曜八時、目を離せないんですけど………
それはさて置き、まだ続くよ、悪ふざけ!!
てなわけで、どうぞ
「引くわー………」
アルヴィンが一行の気持ちを代弁する。
ホームズは、黒いドレスに身を包み肩にはヨルを乗せていた。
その黒いドレスにホームズの茶髪も上手に溶け込んでいる。
「仕方ないだろう、
そして、これまたヨルもドレスに似合っている。
「そしたら、ドロッセルさんが、『ホームズさんには、これが似合うと思います!!』って、言って何処からとも無くこのドレス持ってきたんだよ」
憂いを帯びたその表情も様になっている。
「いや、黒猫のヨルさんもいるからミステリアスな女性を演出出来るんじゃないかとおもったんですけど……」
「まず、女性じゃないです」
ドロッセルの考察にノータイムで返す。
ホームズは、自分の裾を掴む。
「本当に丈が長いんですね。初めて履いたんで着方もわからなかったんですけど、ドロッセルさんのおかげ?で助かりました」
あの扉のごしの会話に何一つ間違いは、なかった。
まあ、間違いがないのが問題なのだが。
「………似合ってるわね、ホームズ」
「喧嘩売ってる?」
ホームズは、ジロリとローズを睨む。
「断ればいいのに………」
エリーゼの言葉にホームズは、人差し指と親指で丸を作る。
「特別料金を払ってくれるんだってさ」
ドレスに身を包んだその淑女の姿からはかけ離れたハンドサインに一行は、頬を引きつらせる。
「ホームズさん。お願いですから、淑女として振舞ってくださいね。
途中で男とバレたら特別料金は、なしですよ」
ドロッセルの言葉に嫌そうな顔をするホームズ。
「いいから、言う通りにしとけ。お前の羞恥心なんか、金の前では何の役にも立たんぞ」
ヨルに促されるとホームズは、掴み掛かろうとするが、スカートの裾を踏んでこけてしまった。
転んだ拍子にティアラが落ちる。
ヨルは、その隙にレイアへと飛び移る。
ホームズは、ティラを拾うとゆっくりと立ち上がりスカートの裾をパンパンと叩く。
「ホ、ホームズ?」
俯いたままのホームズにジュードが声をかける。
よく見るとふるふると震えていた。
寒いから?そんな訳はない。
ホームズの身体を突き動かすのは、怒りだ。
するとホームズから、震えが消える。
「あのー…………」
レイアが恐る恐る話しかけるがホームズは、それを取り合わず、スカートの裾を持って軽くお辞儀をする。
上げられた顔には、満面の作り笑いが浮かべられていた。
「それじゃあ、皆様、会場に行きましょう!素敵な殿方が待っていますわ!」
完璧な女性ボイスを披露すると一行の先頭を切ってダンス会場に入って行った。
その変貌ぶりに、一行は、声が出ない。
アルヴィンがローズの隣に立つ。
「なあ、ローズ。アレ、お前の好きな人?」
「最近自信なくなりそうよ………」
◇◇◇◇◇
「一曲よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
そう言うとホームズは、ヨルを椅子に置き、ダンスを始めた。
レイアとエリーゼは、二人でジュースを口に運ぶ。
「レイア、何回踊りました?」
「二回。そして、二回とも人の足踏んだ。エリーゼは?」
「三回。久々に同い年の男の子を見ました」
二人は、ジュースを飲み干す。
「ローズは?」
「今踊ってます」
不器用ながらに精一杯踊ろうとしているのが分かる。
「ミラは?」
「食事を理由に全て断ってます」
ミラは、黙々と食べ物を皿に運んで食べている。
「ホームズは?」
『途中から数えるのやめたー』
ティポがふよふよ浮きながら返す。
そんな二人の元へダンスを終わらせたローズが戻ってくる。
「私だってこれが1回目よ……」
ぐったりとしながら返すローズにエリーゼは、ジュースを渡す。
「ありがとう。エリーゼ」
ジュースを飲みながらローズは、踊っているホームズを見る。
軽やかに女性のステップをこなすホームズ。
自分達はあれ程苦労しても付け焼き刃かどうかも怪しいというのに、女装男が完璧にこなしている。
そんな様がローズに徐々に顔に暗い影を落とす。
「私たちより、ホームズが淑女ってどういう事よ」
「あ、それ言っちゃうの?みんな思うだけで留めといたのに」
レイアも辛気臭い顔になる。
「何故でしょう……負けてはいけない戦いに負けた気分です」
エリーゼも暗い顔のままだ。
そんな三人の元へドロッセルが、駆け寄る。
「三人ともどうですか?」
「えぇ。まあ………」
レイアが目の前で先ほどと別の男と踊っているのが目に入る。
相変わらず軽やかなステップだ。
「ホームズがタキシード着てたら楽しかったかも………」
「ローズ、正直すぎるよ……」
もうすっかり意気消沈している。
何が悲しくて自分より上手い女性ステップを見なくてはならないのだ。
「そういうドロッセルさんは、ダンスどうですか?」
ローズの言葉にドロッセルは、微笑んで答える。
「全部ホームズさんにとられちゃって………」
「「「あぁ……」」」
見た目は淑女なホームズは、先ほどから引っ張りだこだ。
「知らないって幸せだよね」
「夜の世界は、騙し合いだからな」
いつの間にか後ろにいたアルヴィンにローズ達は驚く。
エリーゼは、ジトッとした目でアルヴィンを見る。
「アルヴィンも……騙してたんですか……?」
『サイテー』
「昔の話だよ」
そう言ってアルヴィンは、肩をすくませる。
「それより、ローエン。いつまでドロッセルの側にいるつもりだ?」
ドロッセルの三歩後ろに常にいるローエンにアルヴィンが尋ねる。
「そうですね…………」
ローエンは、しばらく思案するとミラとジュードを呼ぶ。
ミラは、食事の皿ごと持って行こうとしたが、ジュードがやんわりと止めた。
ミラは、寂しそうな顔をした後食事をテーブルに置き、ローエンの元へと歩く。
全員(ホームズとヨルを除く)揃うとローエンは、会場の扉を指差す。
「少し外に出ませんか?」
◇◇◇◇◇
「さてと………」
アルヴィンは、ローエン、ドロッセルを見据える。
「どういうことか説明してもらえる?」
ドロッセルは、ぐっと拳を握る。
「実は、ですね………今回のパーティー、私を妻として迎えたい人達が結構来ているんです」
その言葉にローズが驚いてローエンを見る。
ローエンは、静かに頷く。
「別に珍しいことではありません。社交会なのですから。そこで出会い、素敵な家庭を築いた方も沢山おられます」
ですが、とドロッセルが引き継ぐ。
「私は領主です。そして、家督を継いでまだ日が浅い。そんな私を妻にしたいなんて、考えられるのは、一つです」
ジュードがこめかみから指を外す。
「シャール家の乗っ取り……」
ドロッセルが頷く。
「何としてもそれは、阻止しなくてはなりません。そこで、思いついたのが……」
ミラが腕を組む。
「私たちか………」
「えぇ。でも、皆さんに頼むのは、大変心苦しいので、ホームズさんにも頼んだんです」
「心苦しい?なんで?」
ローズが尋ねるとドロッセルは、更に言いづらそうに口ごもらせる。
レイアもミラもエリーゼもその通りだとばかりに頷く。
それを見てドロッセルのこめかみがピクリと動く。
気を使っているのにこの無神経な反応。
ドロッセルは、もう遠慮することをやめた。
「皆さんそれぞれに思い人がいるようでしたから。そんな人達を生贄みたいに扱うのは、いやだったんです」
その言葉に女性陣(ミラを除く)は、咳き込んだ。
「だ、誰が!」
「待ってローズ!ローズが口を開くとドツボにハマるから黙って!!」
レイアが慌ててローズの口を押さえる。
ローエンは、見事に自爆した女性陣にため息をつく。
ドロッセルは、更に続ける。
「まあ、そんなわけで思い人が絶対に男性ではないホームズさんに女装して貰って私から目をそらそうとしたんです」
確かにこれなら、踊りたくもない相手をと踊る回数も減らすことが出来る。
合理的だ。
「その事ってホームズには?」
「言ってません。断られてしまうと困るので……」
そう言ってドロッセルは、拳を握る。
「ごめんなさい!私の我儘で皆さんを振り回してしまって……」
ドロッセルが改めて頭を下げるとミラは、首を横に振る。
「気にするな、ドロッセル。そんなことで咎める者はここにいない」
ジュード達は頷いて答える。
「でも、ホームズさんは……」
「事情を説明すればわかってくれますよ」
ローズが優しく言うとミラが首を横に振る。
「いや、あいつは多分全部分かっているだろう」
ミラの言葉にレイアが首を傾げる。
「え?なんで」
「今のあいつが報酬で動く必要は、ないからだ」
そうホームズは、借金をミラ達からとりたてる立場なのだ。
武器も特級品。
いずれ金も帰ってくる。
そんな状態で特別報酬の為にホームズが、身体を張る必要はない。
「じゃあ、ホームズさんは……」
「全部分かった上でドロッセルに騙されたフリをしているのだろうな」
ドロッセルは、思わず口を両手で覆う。
「そんな……」
息を飲んでいるドロッセルに構わず、ローエンは、指を一本立てる。
「皆さんに参加して貰ったのはそれだけではありません」
そう言って懐から一通の手紙を取り出す。
ジュードは、受け取ると手紙を黙読する。
読みながら徐々に目を見開く。
「これって脅迫状!?」
「えぇ。今日、この会場でことを起こすようです。
逃げた場合は、沢山の人をこの場で殺すと」
ローズは、腕を組む。
「なんか、きな臭くなってきたわね」
アルヴィンは、頭をかく。
「ったく、良家ってのは、どこも変わんないな」
「スヴェント家も大変だったの?」
ジュードの質問にアルヴィンは、肩をすくめる。
「それより、ドロッセル何故黙っていた?」
ミラの言葉にドロッセルは、少しだけバツが悪そうだ。
「その、怒られるかもしれませんが皆さんにも羽根を伸ばしてもらおうと思ったんです」
そう言って自分のドレスの裾を持つ。
「オシャレして、身体を軽く動かして、美味しいものを食べる」
ドロッセルは、そう言って一行を見回す。
「皆さんは、何か大きな事をやろうとしている。それに私は、加われません。だからせめて、皆さんに安らぎを渡したかったんです」
ドロッセルなりの気遣いだったわけだ。
「もちろん、事が起こればお願いしようと思いましたが、起こるまでは、皆さんに楽しんで欲しかったんです」
ドロッセルの言葉を聞いたローズは、スカートの裾を持って丁寧にお辞儀をする。
「ありがとう、ドロッセルさん。疲れたけど楽しくなかったと言えば嘘になるわ」
あんなにドレスを着る事を嫌がっていたローズの満面の笑みの礼にドロッセルは、嬉しそうに頷いて返す。
その瞬間ダンス会場から叫び声が響き渡った。
『な、なんだー!!』
しばらくしないうちに扉が開かれた。
開かれた扉から人が濁流のように溢れ出す。
ジュードは、逃げる人の腕を掴む。
「何があったんですか!?」
「なんか、突然男が、人質とって詠唱なしで精霊術後をぶっ放したんだ!!」
言うだけ言うと男は走り去った。
「詠唱なしの精霊術って………」
「急ぎましょう!!」
ローエンの言葉に頷くと一行は、駈け出す。
「ったく、人質って!
ローズは、悪態をついてダンス会場に飛び込んだ。
ローズに続いてジュード達も入る。
入ってすぐ、目に飛び込んできたのは、
人質に取られた真っ黒なドレスに身を包んだホームズだった。
(((何してんの………あいつ)))
一行は、心の中で呟いた。
パーティーは、まだまだ続きそうだ。
まだ続きます。
さて、今回の章は、『クルスニクの槍』です。
ネタバレ注意………まあ、ここまで読んでるならこれもいらないと思いますが、念の為。
さて、ホームズの秘奥義のお披露目の章ですね。
反響も大きく大変嬉しい限りでした。
こねくり回して、あーでもないこーでもないと悩んで悩んでようやく出せました。
マーロウとのバトルは、締めこそホームズの秘奥義でしたが、何としてもあのケタ違いの男の戦力を減らすかに重点を置いて書きました。
個人的には、何とか出来て良かったというふうに思っております。
そして、この章を語る上で外せないのが、マーロウの退場です。
迷いました。とても。
生きて、導く役でもいいんじゃないかな?と思いましたが、いや、やっぱりここで退場だな、と思い、退場させました。
登場人物との別れは、やはり苦しいです。
初めて書いた瞬間の脱力感と言ったら……
それでも書かなければならない、そんな場面がまだ来るなぁと更に気が重くなりつつ、あの話への心の準備をしました。
長くなりましたのでこの辺で。
ではまた二百十九話で( ´ ▽ ` )ノ