1人と1匹   作:takoyaki

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二百二十話です。


女装パーティー編(笑)完結です。


てなわけで、どうぞ


人を呪ったらさようなら

「待って、ホームズ。あなたもしかして………」

ローズが皆まで言い切る前に軽くウィンクする。

「そ。みんなを逃すまでの時間稼ぎ。私に目が行けば、皆様の行動にも気付きづらいでしょう?」

ホームズなりに考えていたのだ。

だが、忘れてはならない。

「ホームズさん。私のことを女装男扱いしましたね」

ドロッセルからじっとりとした視線を向けられる。

「何のことか忘れましたわ」

そっぽ向いて口笛を吹いている。

人質に逃げられた男は、黒匣(ジン)を構える。

「くそ!」

「やめたほうがいいですわ」

ホームズは、そう言って男を指差す。

「それを使えば、私たちから手加減の三文字は、消えてしまいます」

その言葉に一瞬たじろぐが直ぐに勝ち誇った笑みを浮かべる。

「いいのか?俺から依頼主の情報が聞けなくなるぜ?」

「貴方に依頼主なていませんわ」

ホームズは、にべもなく言い放つ。

男は、言葉を無くす。

「何故………そう思う?」

「理由は簡単」

そう言ってホームズは、自分を指差す。

「貴方は、ドロッセルさんが誰だか分かっていなかった」

「それが……」

「『どうした』なんて言わせませんわ。雇い主にドロッセルさんを始末、誘拐、脅迫そのどれかを依頼されていたのなら、ドロッセルさんがどんな人か教えて貰っていなければ不可能です」

男は、冷や汗を滲ませる。

「年齢しか聞いていなかったんだ」

「こんなにバラバラの年齢がドロッセルを名乗っているのにわからなかったんですの?」

ミラが最年長、そして、ホームズ、ローズ、レイアと続く。

「まあ、流石にエリーゼは、違うと分かったようですけど、それにしたってねぇ……」

男は、確実に追い詰められていた。

「いや、口でしか聞いていない!!年齢なんて見た目で分かるわけないだろ!!」

「だったら、貴方の雇い主は、大切なことを伝えていませんわ」

そう言ってホームズは、自分の瞳を指差す。

「口でしか伝えられないならこれだけは伝えていたはずです」

自分の金色の瞳を指差しながら。

「瞳の色、これは最低でも口頭ならなおさら伝えておかなければならない情報です」

口頭で伝えた場合どうしても主観が出てきてしまう。

例えば細身の女性と言われても人によって細いの定義は、若干異なってしまう。

それだったら色を伝えた方がいい。

ホームズの瞳は、金色。

ドロッセルの瞳は、翡翠色。

事前に知っていれば、まず混乱などするはずがない。

ホームズは、淑女というより、悪女の笑みを浮かべる。

「確実に仕事をこなして欲しいのにこんなに大切なことを依頼主は、教えないでしょうか?そんなわけありませんよね。だって、貴方からバレたらそれこそ自分の身が危ないんですもの」

ホームズは、更に言葉を続ける。

黒匣(ジン)を使った時、貴方をアルクノアと疑いましたが、直ぐにそれはないと判断しました。何故なら」

そう言ってレイアの肩にいるヨルを指差す。

「ヨルが喋ることを知らなかった」

「『女物のドレス』と言ったのは、俺だ」

あの時の悪ふざけの犯人(?)の声の出所がわかっていなかった。

ホームズとヨルは、アルクノア中から恨まれている。

喋る猫の情報知らない奴などいない。

「というわけで、貴方はアルクノアですらない」

ヨルは、黒いドレスに身を包んだホームズの肩に飛び乗る。

「大方、アルクノアからの横流しの黒匣(ジン)を手に入れた荒くれ者といったところだろ」

八方塞がりだ。

「ホームズの頭が良いみたいに見えます………」

「一応、ホームズ頭は悪くないよ。発言が頭悪いだけ」

華麗に犯人を論破する。

確かにその行動は、様になっているし、賞賛にあたいするのだが、

「「「格好がな………」」」

「聞こえてますわよ」

華麗というより可憐と言った感じだ。

ホームズは、咳払いをすると犯人を睨みつける。

「さあ、どうするんですの?」

男は、カチッとスイッチを入れる。

「決まってる!全員皆殺しだ!!」

黒匣(ジン)を起動させる。

使用人達を逃す時に倒しきれなかった犯人達も現れてホームズに襲いかかる。

「やれやれ、ダンスのお相手が随分多いですわね」

ホームズは、そう言って椅子を掴むとスカートを広げるほどの遠心力を乗せて放り投げた。

「うぁああああ!!」

椅子に巻き込まれて男達は、たたらを踏む。

その隙に一行は、机の下に隠してあった武器を取り出す。

「無茶苦茶だよね、ホームズ」

ジュードの言葉にホームズは、肩をすくめる。

「こういう女の子をフォローするのが、男性の嗜みですわ」

「女の子ならね………」

ジュードは、大きくため息をつく。

ホームズは、振り返る

「さて、ドロッセルさん。ダンスパーティーは、まだまだ続きそうですわ」

スカートを広げ一礼をする。

「テンポは、如何致しましょう?」

完璧な淑女の姿にドロッセルは、くすりと笑った後、高らかに告げる。

「プレスト(急速に)でいきましょう」

「承知しましたわ!」

ホームズは、目の前のテーブルクロスを引っ張って向かってくる敵に広げる。

突然視界を遮られて動揺する連中にテーブルクロスの上から思い切り蹴りの連打を叩き込む。

「んー………ヒールって思ったよりも歩きづらいですわ」

一通り終わるとホームズは、むーっと唸る。

「あ、そう」

アルヴィンは、どうでも良さそうに返すと後ろからやってきた連中を倒していく。

その時、男の黒匣(ジン)が発動した。

小型とは言え抜群の威力でミラ達に襲いかかる。

「ノーム!!」

ミラは、ノームを使って土の壁を出現させ、襲い来る炎を防いだ。

「あーもう!動きづらい!」

レイアは、そう言うとスカートを縛って膝までの丈にする。

そして、軽快に敵をなぎ倒していく。

男はしびれを切らしてホームズを指差す。

自分をあそこまでコケにしたのだ、絶対に許すわけにはいかない。

「あの女を倒せ!!」

男の下知にホームズに敵が群がる。

ホームズは、ひょいとかわしてテーブルの上に降り立つ。

ホームズを目指して群がる敵。

このままでは、身動きも取れないし、敵から黒匣(ジン)を打ち込ませる事を許してしまう。

「ふむ……ならば、これしかありませんわね」

そう呟くとホームズは、机を飛び石代わりにして、軽やかに飛んでいく。

スカートを翻しさながら舞踏会で踊るように軽やかに。

予想外の動きに敵は、対応できない。

そして、ホームズは、最後のテーブルに辿り着く。

男は、慌てて黒匣(ジン)を操作する。

その間にホームズは、最後のテーブルから飛び上がった。

「全く、その面構えで、壁の花を気取ろうとは」

そう言ってホームズの空中回し蹴りが、男の顔面に炸裂する。

「ぐっは…………!」

情けない声と共に男は、ステージの楽器に叩き込まれた。

「身の程知らずというやつですわ」

男は、がっくりとうなだれそのまま意識を飛ばし、御用となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

男は、その後憲兵に引き渡されズルズルと引きづられていった。

残りの面子もリーダー格の男が倒されたことにより、すっかり戦意を失ってしまった。

そんなわけで無事全員御用となった。

ホームズ達も今ではすっかりいつもの服装に戻っていた。

居間にあるテーブルを囲んで一行は、ローエンの入れてくれた紅茶を飲んでいた。

「疲れた………」

ホームズは、ぐてーっとテーブルに突っ伏していた。

女装して、人質になって、ヒールのまま蹴りを入れての大騒ぎだ。

「ま、俺から言えるのは、ザマミロってところだな」

「半殺しならおれも死なないよね?」

そう言ってホームズは、ヨルに掴みかかるが、ヨルはスルリとかわす。

そんな彼らのいつもの様子にレイアは、苦笑いをしている。

「お疲れ様でした。ホームズさん。これは、特別報酬です」

そう言ってドロッセルから今回の礼金を渡される。

「ヤッホー!!やったね!!恥をさらした甲斐があったってものだよー!!」

「私のこと女装男扱いしたこと忘れてませんからね」

「女装男にした張本人に言われたくありません」

ホームズは、そう返すと金を返せと言われる前に小躍りでその場を後にする。

そして、扉の前でくるりとポンチョを広げてドロッセルの方を振り返る。

「『人を呪わば穴二つ』ってやつです。いい機会だから覚えておいてくださいね」

ホームズは、ニヤリと笑ってその場を後にした。

「………まあ、ホームズなりの照れ隠しなんですよ」

エリーゼが、珍しくフォローする。

ドロッセルは、それに笑って答える。

「俺だけ残したな」

ヨルは、ため息をつくと紅茶をカップから器用に飲む。

アルヴィンとジュードは、欠伸をして伸びをする。

「そんじゃあ、俺はもう疲れたから寝るわ」

「僕も」

そう言って二人は、そのままその場を後にした。

残されたローエンと女性陣は、紅茶を飲む。

ローズは、紅茶を飲みながらふと浮かんだ疑問をドロッセルに尋ねる。

「そう言えば、完全に婚約を断るためにホームズを使いましたけど、本当に良かったんですか?何もみんながみんな、ドロッセルを利用しようとする人ばかりじゃないでしょう?」

ローズの質問にドロッセルは、頷く。

「そうなんですけど、そんな人がほとんどなんです。残念ながら今の私には、それを見抜くの力は、ないんです」

ドロッセルは、微笑みながら紅茶を飲む。

「私も出来れば、ルイーズさんみたいになりたいですから」

その瞬間、女性陣は、紅茶を吹き出した。

「ルイーズさん!!考え直そう!!ドロッセルさんみたいになっちゃダメよ!!」

「ローズ落ち着いて、逆だよ逆」

「私がドロッセルですよ」

レイアとドロッセルの言葉にローズは、我に帰る。

「いやでも、ドロッセルさん、ルイーズさんみたいになりたいなんて言ったらローエン昇天しちゃいますよ」

「ローズさん、聞こえてますよ」

ローエンから突っ込みが入る。

ドロッセルは、クスクスと笑っている。

「言葉が足りませんでしたね。私もルイーズさんみたいに素敵な男性と家庭を築きたいんです」

「言葉が足りないどころか原型がないんですけど」

ローズは、困惑している。

「お前、こうなるって分かってて言っただろ」

「フフフフ」

ヨルの突っ込みにもドロッセルは、笑って動じない。

「ルイーズさんの旦那さんって言うと、ベイカーさん?そんなにかっこいいだったの?」

レイアの疑問にドロッセルが、頷く。

「そんな事はなかったそうです」

そう言ってドロッセルは、軽く縁をなぞる。

「昔は、ホームズさんとルイーズさんが二人で来てくださって……もちろん、会話の流れで旦那さんが亡くなっていた事を話してくれたのですが、その時不思議に思ったんで聞いたんです」

ドロッセルの空のカップにローエンが紅茶を注ぐ。

「『もう一度結婚しないんですか』と」

「それは………」

「ええ。今考えると何て事を聞いたんだろうって思います。幼かったとは言えね」

「領主ですからね、どうしてもそれが当たり前の世界なんです」

ローエンの言葉にドロッセルは、悲しそうに頷く。

「それで、ルイーズさんはなんて答えたんですか?」

エリーゼの質問にドロッセルは、咳払いをする。

「『するに決まってるだろう?』」

思わぬ回答に一行は、きょとんとする。

ドロッセルは、更に続ける。

「『死んだ人間にこんなことで義理立てしたって仕方ないからねぇ。ベイカーよりも魅力的な奴がいればそいつと再婚するさ』」

「あれ?でも、ホームズのお父さんは……」

「『ただまあ、いないんだけどね、そんな奴』」

ドロッセルは、そう言って菓子に手を伸ばす。

「『いないんだ、そういう奴が。だから、私にとっての旦那は、あの人で、私はいつまで経ってもあの人のお嫁さんなんだ』」

ドロッセルは、にっこりと笑って続ける。

「こんな話を聞いて仕舞えば、そんな風に思える男性に出会いたいと思ってしまいますよ」

ドロッセルは、そう言って紅茶に手をつける。

「ホームズの母は、囚われているということなのか?」

「違うよ。きっと、想ってるのよ」

ミラの言葉にローズは、そう言って微笑む。

「一途とも違うね。なんかそう言うの悲しいけど、でも素敵だね」

「そうですね」

エリーゼも頷く。

ローエンは、優しく微笑むと、ティーポットを軽く持ち上げる。

「どうですか、皆さんもう一杯」

その提案に女性陣とヨルは、賛成して最後の一杯を楽しんだ。

 

 

 

 

 

「ま、パーティーは、しばらくいいかなぁ」

 

 

 

 

レイアの言葉に一行は、笑いあいながら幸せなひと時を過ごした。

 

 

 

こうして長い長い夜は更けていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

後日談。

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、またですよ」

「みなさん本当に熱心ですね……」

ドロッセルは、ため息を吐く。

目の前に広がる手紙の山、山、山。

「ドロッセル様、返事は………」

お手伝いが、手紙をドロッセルに持って行きながらたずねる。

「変わらず、『素性不明の方なので、こちらでも分かりかねます』で済ましましょう」

そうあの後、ホームズ(女装だと知らない)を紹介して欲しい、または、こちらのパーティーに呼びたいと言った手紙が山のようにドロッセルのところに届いたのだ。

「何が、モテないですか……十分じゃないですか」

ドロッセルは、げんなりしながら封書を開いていく。

もうここの所ずっとその返事を返しているのだ。

通常業務に加え、この生産性のない後始末。

なんだか、白髪が増えた気がする。

「いえ、ホームズさんの望む形とはきっと違うと思いますよ」

「そんなこと分かってますよ」

お手伝いの言葉にため息を吐きながら案の定の中身に再び大きくため息を吐く。

「もう、いっそのこと、女装した男だって伝えた方がよくありませんか?」

「ダメです。ホームズさんがかわいそうですし、カラハシャール家の名にも傷が付きます」

どこの世界に社交界の場に女装男をだす領主がいるのだ。

 

 

 

 

『人を呪わば穴二つです。いい機会だから、よく覚えておいてください』

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、二度と忘れません」

 

 

 

 

 

 

ドロッセルは、最後にもう一度大きなため息を吐いた。








というわけで次の章は、『作戦開始』
ここから、ローズとホームズはしばらく会話をしないんですよね…………
ギクシャクしてる二人を書くのは、辛かったです。
まあ、その分バトルで鬱憤を晴らしたけどね!!
パーティーメンバー全員に見せ場が欲しいと思い、頑張りましたが、キャラが多くて苦労しました。
個人的には、全員集合させるのに凄く神経を使いました。



では、また二百二十一話で( ´ ▽ ` )ノ

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