1人と1匹   作:takoyaki

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二百二十三話です。



もう、何でしょうね。今年のニチアサ。最近、毎日が最終回レベルの盛り上がりなんですけど…………


てなわけで、どうぞ


這えば立て立てば歩めば進めの親心

「ただいま」

ジュード達が帰るとディラックは、診察室で待っていた。

ジュード達と入ってきたソランに目を向ける。

「自分が何をやったか分かっているな?」

静かだが、有無を言わせないその迫力にソランは、黙って頷く。

二人のやりとりが終わるとジュードは、ディラックに尋ねる。

「バイカール廃坑にあった黒匣(ジン)を隠したのって父さんだよね?」

「………あぁ」

「一応、聞いてもいい?」

「なんだ?」

「何で父さんは、そんなものを持っていたの?」

「私が、二十年前にやって来たエレンピオス人だからだ」

ディラックの言葉にエリーゼは、目を丸くする。

『そうだったのー!?』

ティポの言葉に頷くディラック。

「ディラックは、二十年前にジルニトラに乗っていたんだ」

アルヴィンが補足した説明を聞くとジュードは、ホームズに視線を向ける。

「……だから、ホームズはジルニトラの乗客名簿で僕の父さんに会いに来たんだね。故郷への行き方を知るために」

「まあねぇ。まあ、欲しい情報は、手に入らなかったけど………」

ホームズは、そう言ってアルヴィンとミラに視線を向ける。

「おかげで断殻界(シェル)やら、黒匣(ジン)やらの存在を知ったわけさ」

ディラックは、ホームズの言葉が終わるのを待って話を続ける。

「リーゼ・マクシアを彷徨ってエリンと出会って私は、この世界で生きる決意をした」

「ということは………」

エリーゼが、ポツリとこぼした言葉にディラックが頷く。

「あぁ。ジュードは、エレンピオス人とリーゼ・マクシア人のハーフという事になる」

自分の出自を知ったジュードにアルヴィンが心配そうに尋ねる。

「ショック………だよな?」

ジュードは、困ったように頭をかく。

「うーん………そうでも?」

「ありゃ?そんな反応?ホームズとえらい違いだな?」

「我慢しなくていいんだよ、ジュード」

「いや、だって何となく分かってたし」

そう言ってホームズに目を向ける。

「エレンピオスに行きたいホームズが、父さんにわざわざ会いに来たんだもの」

ホームズは、目を丸くするとバツが悪そうに頭をかく。

「あははは……言われてみればそうだねぇ……」

「でしょ」

ジュード達がそんな会話をしているのに構わずディラックに尋ねる。

「医療ジンテクスも黒匣(ジン)なのか?」

「似て非なるものだ。君の霊力野(ゲート)が発するマナで動くよう改造してある。精霊を犠牲にすることはないが、その代わり……」

「使いこなすのが困難ってわけか」

ディラックの言葉をミラが引き継ぐ。

ディラックは、静かに頷く。

「私は、リーゼ・マクシアに来て、初めて黒匣(ジン)が精霊を消滅させることを知った。

真実を知った手前、黒匣(ジン)を使うことはできない」

「でも、父さん、僕達は可能性を見つけたんだ」

ジュードは、そう言って言葉を続ける。

源霊匣(オリジン)を生み出せれは、精霊を消さなくて済むんだ」

源霊匣(オリジン)?」

訝しげなディラックにジュードが、説明する。

説明を聞いたディラックは、静かに頷く。

「なるほど……確かに源霊匣(オリジン)が普及すれば黒匣(ジン)の欠点は、解消出来る」

そう言いながら目を険しくする。

「だが、それにはリーゼ・マクシアとエレンピオス、両世界の理解し合わなければならない。相当な時間と努力が必要だろう」

ディラックは、ジュード達を見渡す。

「リハビリの苦痛、理解を得るための努力、厳しいのは、どちらも同じだ」

ジュードを真っ直ぐに見据える。

「何かを得ようとするならば、それに見合う代償を払う必要がある。それは、どんな世界でも変わらない」

ホームズは、ヨルに目を向ける。

ヨルは、フンと馬鹿にしたように笑う。

そんな中、マァムは自分の足を見つめる。

「私、リハビリ頑張ってみる!」

その言葉に一番驚いたのは、兄のソランだ。

驚いているソランの背中をレイアがポンと高く。

「お兄ちゃんとしてちゃんと、支えてあげるんだよ」

「うん」

ソランは、元気に頷いた。

その様子を見ていたディラックは、申し訳なさそうに口を開く。

「すまなかった、レイア。あの時、私がちゃんと黒匣(ジン)を管理していなかったせいで、君に大怪我を負わせてしまった」

レイアは、首を横に振る。

「いいよ。その代わりジュードの事が知れたんだもん」

「メモが書ける程にな」

ミラにしては、珍しくイタズラっぽく笑いながら言う。

「ミラ!!」

レイアは、顔を真っ赤にしてミラに詰め寄る。

当のジュードは、首を傾げている。

「何のこと?」

ジュードの質問にミラは、笑みを浮かべる。

「女同士の秘密という奴だ」

残念ながらホームズとヨルも知っている。

ローズがホームズに尋ねる。

「何のこと?」

「あぁ、そっか。君は、まだおれ達と合流してなかったね」

ローズが合流したのは、シャン・ドゥなのだ。

そう言った後ホームズは、ウィンクする。

「でも内緒。男は、秘密があったほうが格好いいからねぇ」

「貴方の秘密じゃないでしょう」

ハァとため息を吐きながら返答がないことぐらい分かっていたようだ。

ミラは、ディラックを見る。

「さて、ディラック。そういうわけだ。もう暫くジュードを借りるぞ」

ディラックは、首を横に振る。

「私の断りなど必要ない。そいつは、もう一人前だ」

ディラックは、そう言うとジュードに背を向ける。

「それと、ジュード。言い損ねていたが、鉱山でのお前の判断は、的確だった」

その賞賛の言葉にジュードは、目を丸くした後力強く頷く。

「いってきます」

そう言った後、ジュードは、マティス医院を後にした。

それに続くようにホームズ達も後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、前を歩くジュードの背中を見ている。

「羨ましい、ですか?」

そんなホームズの隣を歩くエリーゼが、ホームズに尋ねる。

「まあねぇ………両親にあんなふうに言ってもらうことは、やっぱりないからねぇ」

その少し寂しそうな物言いにエリーゼは、頷いて返す。

「気持ち、分かります」

ホームズは、柔らかく微笑むとむんと伸びをする。

それからいつもの意地の悪い笑みを浮かべる。

「何だったら、褒めてあげようか、エリーゼ?」

『ホームズの胡散臭い褒め言葉よりも聞きたいことがあるなー』

「へぇ……なんだい?」

ティポからの思わぬ返答にホームズは、興味深そうに聞き返す。

『レイアのメモにはなんて書いてあったのー?』

「あぁ、それ」

「因みにホームズ、それ言ったら初恋の人バラすよ」

いつの間にやら後ろにいたレイアにホームズは、びくりと肩を震わせてからため息を吐く。

「そんな脅ししなくても、友人の秘密は言わないよ」

レイアは、ホームズの発言の裏を探すが何もなさそうなのでとりあえず信じることにした。

だが、話はそれで終わらない。

「へぇ、それって誰?」

本日二度目の肩を震わせるほどの衝撃。

ローズがいつの間にやら、会話に参加してきた。

「ほほう。私も興味があるぞ」

とても楽しそうにミラも続く。

レイアは、やってしまったという顔だ。

「別にいいでしょ?そんなに隠すようなことじゃないわけだし」

「ホームズにもそんな甘酸っぱい瞬間があったのだな」

「ミラ、それどういう意味だい」

「ほろ苦い思い出の方が多そうだと思っただけだ」

「ほろ苦いどころか、ガチで苦い思い出もあるぞ」

「ヨル、余計なこと言うんじゃあない」

ホームズがジロリと睨みつける。

ローズとミラは、ホームズの話を待っている。

「〜〜!!君達にだけは絶対言わない!!」

そう言うとホームズは、走り出した。

「ちょ、逃げるなんてなしよ!」

慌ててローズがホームズを追いかけた。

「って、ミラは追いかけなくていいの?」

ミラは、肩をすくめる。

「別に。だって、ローズだろ。ホームズの初恋は」

さらっと言ったその言葉にレイアは、ポカンと口を開く。

「分かってて聞いたの?」

ミラは、頷く。

「どうして?」

「あそこでローズにだけ話すのを渋ったら、ローズがそうだと言っているようなものじゃないか」

ミラの意外な心遣いにエリーゼとレイアは、素直に感心している。

側で聞いていたローエンが不思議そうに尋ねる。

「しかし、ミラさんも知っていたのですね。

てっきり気付いていないかと思っていました」

「何かの本で読んだのだ。幼い頃の思い出を共有した異性は、初恋の相手の可能性が高いと」

「アルヴィン、こっちを見ない」

レイアがぴしゃりと言う。

そこでジュードが首を傾げる。

「あれ?でも、ローズが瞳の色を褒めた記憶は、今のホームズにはないんだよね?」

そう、ヨルが治したその代償として、ホームズには瞳の色に関する記憶がない。

「ま、ホームズの恋に落ちたきっかけは、そこじゃないってことだろ?」

『キザなセリフー!』

ティポとエリーゼがアルヴィンにジトっとした湿度の高い視線を送る。

アルヴィンは、軽い笑みを浮かべて返事に変える。

ジュードは、ため息を吐く。

目の前には、ローズに詰め寄られて困っているホームズ。

「ハハハ………」

乾いた笑いを浮かべるとジュードは、二人の元へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「あの子……変わったわね」

ジュード達が去り、少し寂しくなったマティス医院でエリンがそう言う。

ディラックは、首を横に振る。

「なに、当たり前のことが出来るようになっただけだ」

ディラックの言葉にエリンは、面白そうに笑っている。

「あなた、ジュードが初めてしゃべった時も初めて歩いた時も同じことを言っていわ」

そう言って歩み寄る。

「同じくらい嬉しそうな顔で」

ディラックは、優しく微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前だろう。子供の成長が嬉しくない親がいるものか」

 

 

 

 







さて、今回の振り返りは?


そう『アオイハナの村』です。



章の構成としては、上げて落とすですね。
えぇ。ブッチーさんの話の作り方を参考にさせてもらいました。
とはいえ、上げているとは言っても不穏な伏線が幾つか貼ってありますけども……。
これの話を考えてる頃、確かとある物語の感想のところで主人公の行いが気に入らないと、十を助けるために一を犠牲にするのは仕方ないだろ、なんで、それを止めるんだみたいなのを見まして………
なるほど、ならばその通りの話を作ってやろうではないか!それ続ければどうなるか、書いてやろうではないか!!(私自身は、その物語が大好きだったので)
というわけで、十のために一を犠牲にするお話を主軸にホームズの過去編のプロットを完成させました。
まあ、いざ実際に書くと辛いかなと思いましたが、冒頭の部分は、とても楽しかったです。マープルがよく動く動く。もう、作者の予想を超えていきますよ。
もう、ダントツで書いてて楽しいキャラクターでした。
そして、まあ、思うわけですよ、退場させたくないな、と。
明確に書いてないし、助けてもいいんじゃね?半ば真剣に思いましたが、やっぱりそれは、ダメだな。と思い直してあの通りになりました。
まあ、弊害というか、誤算というかですが、そんな風に悩んだおかげでマープルとホームズのお別れのシーンが書くことが出来ました。
当初の予定では、ホームズ達の目の前で肥料になってしまう予定でした。
でも、やっぱり、止めようと。少しだけ登場人物を甘やかそうと、思いあのようになりました。
今にして思えば、甘やかして良かったと思っています(笑)



長くなったので、この辺で、


ではまた、二百二十四話で( ´ ▽ ` )ノ

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