1人と1匹   作:takoyaki

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二十五話です。



就活とか、忙しいです


考える爺

その日の夜、ホームズは珍しく、1人で静かに夕飯を食べていた。

レイアはいつもより早めに食事を終えた様だ。

この静けさが逆に怖い。

「ご一緒させて頂いてもよろしいですか?」

不意にそんな声を聞き、ホームズは現実に戻った。

顔を上げるとそこには、ローエンとエリーゼの姿があった。

「どうぞ」

ホームズはそう言うと席を空けた。

ローエンとエリーゼはそれぞれの席に腰を下ろした。

「ヨルさんはご一緒では無いのですか?」

「ええ、まあ。化け物とは言え、見た目は猫なんでね、食堂に持ち込む訳にはいかないんです」

「それはそうですね」

ホームズは一旦マーボーカレーを食べるのをやめる。

「それで?まさか、それが聞きたい訳ではないでしょう?」

「鋭いですね………貴方は、ミラさんのなすべき事に付き合うのですか?」

「ええ。でないとおれの両親の故郷への行き方の情報が、貰えないんです」

「両親の故郷……ですか」

エリーゼが少し戸惑った様に言う。

ホームズはエリーゼに少し頷く。

ローエンはさらに聞く。

「はっきり言って、ミラさんのやろうとしている事は、命懸けです。ミラさんの足があんな風になったのも、そのなすべき事が原因です」

ローエンはホームズの深い心の底に問いかける様に声をだす。

「あなたに、その覚悟はあるのですか?」

ホームズはローエンの目を真っ直ぐに見据えて口を開く。

「ローエンさんは……」

「ローエンでいいですよ」

「ローエンは、賭け事ってやった事あります?」

「ありますよ。こう見えて若い頃は結構ぶいぶい言わせてましたよ。」

ホッホッホ、と得意げに微笑む。そんなローエンにホームズは言葉を重ねる。

「賭け事って、賭ける物の価値が高ければ高い程、得られる物の価値は高くなるでしょう?」

ホームズは言葉を続ける。その碧い目には確かな決意の色が浮かんでいる。

「おれにとって、最も価値のある物は、両親の故郷への行き方。それに見合う賭け金(ビット)が欲しいなら命だって賭けてやりますよ」

そう、力強く言い切ると、最後に悪戯っぽく笑う。

「ま、だからと言って、死ぬつもりはないですけどね。死んだら両親の故郷に行くもクソもないですから」

ホームズはスプーンを覗き込む。自分の碧い両目を見る様に。

「最後に一つ、どうして、そこまで……」

「『ご両親の故郷に行きたいのですか?』でしょう?耳タコですよ、何度同じ質問をされた事か……」

ため息を吐くとホームズはいつもの様に言う。

「両親が何処でどう育ったのかを見てみたい。そう思うのは当たり前じゃないですか」

それに、と言葉を続ける。

「行った事のない場所に行きたいと思うのも当たり前だと思いますよ」

ホームズの言葉にローエンは満足そうに笑う。

「迷いのない答えですね。なすべき事と言うより、なしたい事、と言う感じですね」

ローエンはヒゲを手で触る。

「欲望に忠実と、卑下する人もいるかも知れませんが、私はそう言う生き方は割と好きですよ」

「嬉しいですけど、どうせなら男に言われるより、女の子に言われたいセリフですね」

ホームズはおどける様に肩を竦めると、ローエンはニヤリと笑って

「なら、エリーゼさんに言ってもらいましょうか?」

「……おれを犯罪者にするつもりです?」

思わず、頬が引きつるホームズ。

対するローエンは面白そうに笑っている。

因みにエリーゼは、?と首を傾げている。

「分かりましたか?褒め言葉は素直に受け取っておくべきですよ」

「……よ〜くわかりました。」

亀の甲より年の功と言う言葉をホームズは身に染みて感じていた。

げんなりしていると今度はエリーゼが口を開いた。

「あの……ホームズの気持ち分かります。私……お父さんとお母さんの事を覚えてなくて、自分が………何処で育ったかも……お母さんとお父さんが何処で育ったかも……分からないんです。だから、ホームズの気持ち……少し、分かります」

ホームズはエリーゼの話を聞き、少し考える。

どう答えようか、と。

まあ、ここは普通におしえてくれてありがとうで別にいいだろう。わざわざ、自分の事を話す必要はない。しかし、そう考えるとレイアの言葉が脳裏に蘇る。

 

 

『ホームズの話を聞いたからね、今度はわたしがホームズに話さなきゃと思ったんだ。……自分の辛かった話を。それぐらいしなきゃだめだと思ったんだよ』

 

 

「……おれもね、父さんが物心つく前に死んでいてね、全然記憶に無いんだ」

ホームズはそう言った。その言葉にエリーゼは息を呑む。ローエンは少し悲しそうに目を伏せる。

『どうして、そんな事をエリーに教えるのさ』

ティポが不思議そうにホームズに尋ねる。

「……ん、いや、まあね、エリーゼが教えてくれたからさ、おれもこれぐらいはしなきゃいけないと思ったんだ」

完全にレイアの受け売りである。恐らく、以前のホームズなら、適当に誤魔化していただろうが、少し、変わったようだ。

「なるほど、だからこそ、見てみたいし、行ってみたいのですね」

ローエンの言葉にホームズは、笑みを浮かべて頷く。

「まあ、そう言う事です。……あなたは、ミラ達と一緒に行かないんですか?ローエン、いや、指揮者(コンダクター)イルベルト」

「なんで……それを……」

『知ってるのさー!』

エリーゼとティポは驚いている。

対するローエンは落ち着いている。そして、少し目を伏せた後言葉を繋ぐ。

「……やはり、知っていましたか」

「当然。おれは商人ですよ。情報は持っておくに越した事はないですからね」

ホームズは自慢する訳でもなく、淡々と言う。そして、最後の一口をペロリと食べ終えた。

ローエンは少し辛そうにホームズに答える。

「………少し悩んでいます。なすべき事も、分かってはいるんです」

一旦ローエンは言葉を切る。一つ息を吐くともう一度話し始める。

「……今回の原因の一つは、私が逃げ出した事です」

ホームズは頬杖をついて、聞いている。

「そんな私に、クレイン様に国を託されました。」

「……その言い方だと、クレイン様が死んでしまったみたいですよ」

仮にも、ホームズのお得意様なのだ。顔見知りではある。

ホームズの言葉にローエンは少し苦しそうに俯く。

「亡くなられてしまいました。ナハティガルの手の者によって」

一瞬、ホームズは何を言われているか分からなかった。

「……亡く…なった?クレイン様が?」

『本当だよー。でも、ローエン君をあまり責めないで』

ティポがホームズに言う。ホームズは固くなった表情を戻すといつもの胡散臭い笑みを浮かべる。

「別に、責めても無いし、怒ってもないよ。ただ、驚いただけだよ」

ホームズは背もたれに深くもたれかかる。

クレインは妹思いで、自分の様な行商人にもキチンと正当な評価を下してくれる、そんな正しく、そして、優しい領主だった。

「亡くなる間際に託されたのです。しかし、私は迷ってしまった……」

ローエンは俯いている。エリーゼとティポはそんなローエンを心配そうに見ている。そんな中ホームズは口を開く。

「『迷うのも、悩むのも、成長するのも、別に子供だけの特権じゃないゼ』」

「……それは?」

「おれの母親の受け売りです。まあ、おれは悩む事も、迷う事も否定はしません。そうでもしないと、答えを出せない人もいます」

行商人と言う職業柄、よく悩む人や、迷う人をホームズは見ている。こちらとしては、早く決めろと、イライラするのだが、そうやって悩んで商品を買った客の方が、物持ちが良かったりするのだ。

「……でも……ミラは明日出発……してしまうんですよ」

『一晩しかないよ〜』

エリーゼは焦ったようにホームズに言う。

ホームズはエリーゼの言葉を聞くと、おもむろにコップに水を半分程注いだ。

「……コップに水はたくさんあるかい?」

「いいえ、半分しかない……です」

「ローエンは?」

ホームズはエリーゼの答えに頷くと、今度はローエンに問いかけた。

ローエンは、ふふふ、と少し笑うと答えた。

「なるほど……半分()ありますね」

ローエンの答えに満足そうに笑うとホームズは水を飲みほした。

「わかりました。今夜はじっくり悩むとします。……因みにホームズさん」

「なんです?」

今度はローエンが、コップに水を半分程注ぐ。そして、それをホームズの前にだす。

「コップに水はどれくらいありますか?」

ホームズはニヤリと笑ってこたえる。

「半分くらいありますね」

「なっ……」

『ズルいぞ〜、そんなの!』

エリーゼとティポは不満げにそれぞれ、文句を言う。

ホームズはそんな文句はどこ吹く風と言う様にしれっと返す。

「聞き方が良くないんだよ。おれがエリーゼに聞いた様に上手に聞かなくちゃ、ね、ローエン」

「ホッホッホ、何と無くそう答えるだろうと、予想はしていました。だから、敢えて『どのくらい』と言ったんですよ」

結局ホームズは、ローエンの裏をかいたつもりだったが、それもローエンには、予想通りだったと言う事のようだ。

「はあ〜、言い負かしたと思ったのになぁ〜」

「ジジイに勝とうなど10年早いですよ」

顎に手を当てニヒルに微笑む。

ホームズは少し悔しそうにしていたが、切り替えると部屋に戻る準備を始めた。明日出発なのだから、その用意が必要だ。

「まあ、くらい(・・・)だろうと、()だろうと、しか(・・)だろうと、コップにある水は半分ですからね」

ホームズはそう、言い残し自分の部屋に戻って行った。

取り残された、エリーゼはローエンに聞く。

「今のどう言う意味……ですか?」

「時間は限られている、と言う事です。コップに半分ある水を多いと感じるか、少ないかと感じるかは、自由です。しかし、それでも、水が無限にある訳ではないのです」

「……なるほど」

『どうして、わざわざそんな風に言うのさー?』

「恐らく、あの方なりのエールなのでしょう。少し、意地悪を込めた、ね」

ローエンはそう言うと、いつの間にやら食べ終えた食器をまとめ始めた。

「さあ、エリーゼさん、今日は早く寝てしまいましょう。私は、もう少し考えてみます。」

「はい」

『りょーかーい』

 

 

 







ゼステリアの新キャラ出ましたね!


発表がある度に早く出ないかなと、そわそわしています!


その前に、シンフォニアをクリアせねば!!!


なんか前も似た様な事を言ったな…………

では、また、二十六話で( ´ ▽ ` )ノ

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