1人と1匹   作:takoyaki

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二十六話です




暑いんだか、寒いだか……

そんな陽気が続いてますね。

では、どうぞ


思い立ったが大吉

「ついに今日か……あんまり実感ないねぇ」

ホームズは支度をしながら、そうつぶやいた。

「長かった……本当に長かった。これでようやく、そぼろ(薄味)ともお別れだ」

「……感慨深そうに何どうでもいい事を呟いてるんだい?」

ホームズのシラけた目線がヨルに突き刺さる。

そんなホームズをヨルは、キッと睨む。

「お前と違って俺は、3週間ずっっっとそぼろ(薄味)だったんだよ!どうせお前は、今日も上手い飯を食ってたんだろ!」

「ああ。豆腐の味噌汁……最高だったゼ」

ホームズは思い出すようにいい声で言う。

「……本当に忌々しい」

ホームズはヨルの悪態を無視して、準備を進める。

いつものポンチョを羽織り、そして、ぴょこんと立ったアホ毛を何とか格好だけ取り繕う。

「よし!何とかなった。さて、ヨル、悪態はその辺にして、そろそろ行くよ」

最後に左手首に円盤状の盾を確認し、靴紐を結ぶと、ホームズはヨルを肩に乗せて下に降りて行った。

 

◇◇◇◇

 

 

下に降りるとレイア以外の全員がロビーにいた。ミラは椅子に腰掛けている。

「おはよー。良かった、おれの事忘れてなかったんだね」

「ああ、うん。まあね」

ジュードは少し目を逸らして、答える。本当はレイア達に挨拶をしようと此処にきたのだ。そして、今さっき昨日言われた事を思い出した。ホームズの事は言わば、ついでである。

「……何か凄く気になる言い方だね」

ホームズはそうつぶやくと、ローエンの方を向く。ローエンはまだ、答えを出していないようだった。

「ミラさん。本当に行くのですか?」

ホームズの知らないところでミラは、足を失いかける怪我を負っている。そして、それは完治したとは言いづらいのだ。その証拠にさっき倒れかけていた。

「私には使命を果たす責任がある」

しかし、そんな事を物ともせずに、ミラははっきりと言う。

「あなたは、強く気高い。しかし、それが私の傷をえぐるようです」

ローエンは静かに、しかし、辛そうに言う。

「ローエン?」

ジュードは心配そうに聞く。

ローエンはそれに答えるように言葉を続ける

「クレイン様にこの国を救って欲しいと言われた時、私は悩んでしまった………今の私にできる事があるのだろうか、ナハティガルを止める事が出来るのだろうかと」

「ガンダラ要塞での様子だと2人は知り合いみたいだったけど……」

「そりゃ、指揮者(コンダクター)だからだろ」

ヨルが口を挟む。しかし、ローエンは首を横に振る。

「いいえ、それだけではないんですよ、ヨルさん。ナハティガルは私の友人なのです。とても古くからの」

ヨルはピクリと耳を動かす。

ミラは少し考えながら、口を開く。

「友と戦えるのか……それがお前の悩みか」

ホームズは眉をひそめる。

『ええー!友達とケンカしなきゃいけないのー?』

ティポは口をデカデカと開けながら喋る。

ローエンは顔を伏せたままだ。

そんなローエンにミラは言葉をかける。

「決断に必要なのは、状況や時間ではない、お前の意志だ」

ミラはさらに続ける。

「私達と共に行かないか、ローエン?」

「ミラさん?」

ローエンは顔を上げながら言う。

「悩むのもいい。だが、人間の一生は短い。だったら、悩みながらでも進んでみてはどうだ?人とは、そう言うものなのだろう」

最後はジュードの方を少し向いていた。ジュードはミラと目を合わせると、ローエンに言う。

「そうしてみたら、ローエン?僕も心強いし」

ローエンは少し迷ったがすぐに笑顔になった。

「ふふふ。確かに、ジジイの時間はとても貴重。立ち止まっていては勿体無いですね」

『コップにある水は半分だもんねー』

ローエンの言葉にティポが乗っかるように喋る。エリーゼは昨日のホームズの言葉を思い出し、ホームズの方を見た。

ホームズはエリーゼの視線に気付くとウィンクをする。

「それ、どう言う意味?」

ジュードが不思議そうに聞く。

「時間には、限りがある、と言う事ですよ。ホームズさんが昨日教えてくれました」

「ホームズが?」

ミラとジュードが驚いたようにホームズを見ている。

「……なんだい?」

2人の視線を受けてホームズはやや不機嫌そうに言う。

「口を開けば、胡散臭い事と馬鹿な事しか言わないのに?」

ミラが心底驚いている。悪意がないからこそ達が悪い。

「……君達が、おれの事をどう思ってるか、よ〜く分かったよ」

「ちょ、ちょっと、僕なにも言ってないよ」

「目は口程に物を言うんだよ」

ホームズは額に青筋をピキピキと浮かべながら返す。

「ホッホッホ、とりあえず、ご同行させて下さい」

ローエンはホームズ達のやり取りを少し笑って、から、そう言った。

すると、エリーゼは意を決したようにジュード達に言う。

「私も一緒に行く…………です」

「だめだよ。エリーゼはドロッセルさんの所に帰るんだ」

ジュードは優しく、しかし、にべもなく言う。それを聞いてエリーゼよりもホームズが驚いた。

「あれ?連れて行かないのかい?」

「当たり前でしょ!!エリーゼはまだ、子供なんだよ!」

ジュードはそんなホームズを叱る。

そう言われてホームズはエリーゼをまじまじと見る。

子供のくせに、使う精霊術の威力はハンパじゃない。戦力になる事は間違いないが……

「まあ、確かにその通りだね」

「そうか?お前なんか、こいつよりチビの頃から旅をしていたし、俺と契約したのだって、こいつよりチビだったぞ」

「………だそうだけど」

「君達を基準に考えないで!!」

ジュードの突っ込みが、化け物共に炸裂する。ホームズはシュンと肩をすぼめてしまった。

ローエンは身をかがめ、エリーゼの目線に合わせて言う。

「ドロッセルお嬢様にお伝え下さい。ローエンはミラさん達と、イル・ファンに行くと」

「………でも」

ローエンは伝えるとミラ達の方に向き直る。

そんな、ローエンにジュードは不思議そうに聞く。

「カラハ・シャールでしょ?一緒に行かないの?」

「私に考えがあります。任せてもらえないでしょうか」

ローエンはそう自信に満ちた様子でジュード達にいう。

「分かった。ローエンに任せるよ」

ホームズ達は知らないが、ローエンは元軍師と言うだけあって、考えがある。と言う時はとても頼りになるのだ。

ジュードはエリーゼの方にも話し掛ける。

「それじゃ、エリーゼ。船が出るまでだけど一緒にいようね」

「…………」

『ひどいぞー、ジュード君!』

押し黙ってしまったエリーゼとは対照的に、ティポは叫んで、ジュードに頭をグリグリとなすり付けた。

そんな様子を見てから、ミラは辺りを少し見回しホームズに聞く。

「ところでレイアは何処だ?」

「さてね。おれも昨日の夕飯前から見ていないんだ」

お手上げと言うようにホームズは肩を竦める。

ホームズも挨拶ぐらいしたかったのだが、全くレイアに会わなかったのだ。

「そうか、とりあえず、港に行こう。もしかしたらいるかもしれないしな」

 

 

◇◇◇◇

 

 

港には来たが、結局レイアの姿はなかった。ミラとしてはお礼をしたかったのだが、どこを辺りを見回しても、レイアの姿はない。

少し落ち込んでいると隣からジュードの声がした。

「この船って、アジュール行きだけど……これがローエンの言っていた考え?」

「はい」

厳かなに、そして、自信ありげに答える。

「ローエンが言うなら大丈夫だろう」

そんな事を話しているとジュードの母、エリンがやって来た。

ホームズは頭を下げる

「お世話になりました。ディラック先生にもそうお伝え下さい」

「ええ、分かったわ、伝えておきます。それよりもジュード、お父さんと仲直りしなくていいの?」

「必要ないよ」

少し言葉を濁しながらジュードは言う。

「………何があったんだい?」

ホームズは隣にいるミラに小声で聞く。

「……少し喧嘩をしたらしい」

「ふーん」

そんな会話をボソボソとしていた。まあ、突然、明日出発なんて言われたら、どの親だって怒るだろう。

ヨルは潮風を感じながら、そんな事を考えていた。

エリンは最後にジュードに告げる。

「お父さんは、あなたのことが心配なの。わかってあげて」

母のその言葉にジュードは力強く頷く。

一通り、親子の挨拶が済むと、ローエンがエリンに頼む。

「お願いがあります」

ローエンは、後ろに隠れているエリーゼを見ながら言う。

「しばらくの間、この子を預かってもらえないでしょうか?」

「サマンガン海停から、迎えの人が来るんだそれまで、お願い」

ローエンの言葉をジュードが引き継ぐ。

エリンは手を組む。

「かわいい子ね。分かりました大切にお預かりします。」

エリーゼは、不満そうに下を向いて体をゆらゆら揺らしている。

『うさぎは寂しいと死んじゃうのに、ヒド〜イ』

「ぬいぐるみが何を言ってやがる」

ヨルがティポを馬鹿にする。

すると、ティポはムッと睨むとそのままヨルに噛み付いた。

てめーなにしやがる!(ふぇめーふぁみふぇやふぁる!)

前足で一生懸命取ろうとしている。

しかし、ヨルの努力も虚しくティポはビョンビョンと伸びるだけで、離れる気配が全くない。

もちろん、それを助けるホームズではない。それどころか、指を差して笑っている。いや、あざ笑っている。

そんな様子を眺めていたジュードは、少しため息をつく。

「ジュード!!」

すると、突然、ディラックがジュードの名前を語気を強めながら呼んだ。

ジュードは、船に向けていた体をディラックに戻し言う。

「ゴメン、父さん。僕、ミラと行きたいんだ」

「ダメだ!行かせるわけにはいかない。お前が、彼女が、関わろうとしている事は………」

 

 

 

「おいおい、俺たちどんな縁なんだよ」

 

 

鬼気迫る勢いのディラックの言葉とは正反対のお気楽な調子の声が聞こえる。

ホームズがそちらを振り向くと、そこには……

「あ………」

「アルヴィン!?」

突然の見た事のある来訪者にポカンとしているホームズと、驚いて、声を上げるジュード。

アルヴィンはアルヴィンで、ホームズの姿を見て驚いている。

「おたく、何でこんな所にいるだ?」

「ジュード………君達はおれを見た時、どうして同じ事しか言わないんだい?」

「ハハハ……いや、結構不思議なんだよ、知り合いと元敵が一緒にいるのって」

ジュードはホームズの質問に引きつり笑いで、申し訳なさそうに返す。

ホームズはため息を吐くとアルヴィンに説明した。ヨルの事は、ディラック達がいるので省いた。

「なるほどね。それで、おたくはジュード達と旅をする訳か」

「そう言うこと。今度はおれがこの台詞を言うけど……」

「『なんで、此処にいるの?』だろう?」

「言わせておくれよ……」

今まで散々言われた台詞を今度は自分が言ってやろうと意気込んだが、結局アルヴィンに先に言われてしまった。

ホームズは少し悲しそうにため息と一緒に言葉を漏らす。

そんなホームズをアルヴィンは面白そうに見ている。そして、彼らに肩を竦めて説明する。

「新しい仕事、クビになっちまってね。ホームズの話によるとまた行くんだろ?俺、まだ、報酬分の働きしてないぜ」

「君、用心棒なのかい?」

そんなホームズの質問にアルヴィンは涼し気な顔で応える

「俺は傭兵。金は貰うが、人を助ける素晴らしい仕事だ」

ホームズはそんな事をぬかしているアルヴィンを半眼で見ている。

「胡散臭い人だなぁ……」

「ホームズが言うんだ……」

ジュードは呆れている。ここ三週間、一緒に過ごしたが、ホームズの言動は逐一、胡散臭かった。

「知り合いなのか?」

ディラックがそんなホームズ達に構わず、怪訝そうにジュードに聞く。

「うん。前にずっと一緒だったんだ」

ジュードがそう答えるとティポがアルヴィンに一直線に飛んで行く。それに続くようにエリーゼがアルヴィンにしがみ付く。

「やっととれた………」

ティポからようや、解放されたヨルは、ぐったりしている。

『アルヴィンくーん、僕達置き去りにされるー』

「かわいそうだなぁー。せっかく、こんなに戦えるのにな」

エリーゼの頭をポンポンと優しく叩きながら、アルヴィンはそう言うと、ジュードを見る。

「連れて言ってやろうぜ」

「お!やっぱりそう思う?」

ホームズは同志を見つけた様にアルヴィンに言う。

「やっぱ、おたくもそう思うだろ?」

「そうだね。なんたって殺されかけたからね。ヨルがいなかったらどうなっていた事か」

ホームズは思い出すように嫌味ったらしく言う。

「………おたく、結構根に持つタイプだろ」

「純粋に評価しているんだけどねぇ」

ホームズはニヤリと笑って、呆れているアルヴィンを見る。

そんな彼らにジュードは目を伏せて背を向ける。すると、アルヴィンはジュードと肩を組んで親し気に言う。

「な?」

しかし、ジュードと肩を組んでいる割には、アルヴィンはジュードだけでなく、ディラックにも目を向けていた。

ディラックは眉を潜めて目線を下に向ける。

「しかし、アルヴィンさん…」

ローエンはアルヴィンの言い分に納得していない様だ。

そんなローエンにアルヴィンがまた、説得する。

「いざとなったら、俺が守るからさ」

少し、いたずらっぽくそう言うと、手を上げて今度は、おちゃらけて言う。

「頼むよ、ローエン!」

『頼むよー、ローエン君!』

ティポは乗っかる様にそう言うと、そのまま、ローエンの顔に噛み付いた。

ローエンは一生懸命とろうとしている。しかし、ヨルと同じ様に虚しく伸びるだけである。

そんな事をしていると、早く乗船する様に船乗りに声をかけられた。

ミラは即決断をだした。

「ティポがとれない以上仕方あるまい」

その言葉には少し諦めが混ざっていた事は言うまでもない。

「OKだとさ」

『やったー!』

ティポとエリーゼは船に向かって走りだした。

「一本取られましたね」

ローエンはそう言うと船に向かって歩きだした。

「船か……嫌だけど仕方ないね……」

ホームズはため息を吐くが、直ぐに母の言葉を思い出して、ル・ロンドの方に向き直る。

「それでは、いってきます!」

そう挨拶をしてホームズとヨルは船に乗る。

「ほら、2人も」

「ああ」

「うん」

アルヴィンに言われ2人は返事をする。

「……父さん、母さん」

ジュードは何かを言おとしたが、やめて船に向かって歩き出した。

「ジュード!」

ディラックはジュードを呼び止めた。ジュードは歩みを止める。

「ジュード、言う事があるだろう?」

ジュードにミラは優しく言う。

「………いってきます」

ホームズとは、また、向ける人が違うが、その分その言葉の重みも違ってくる。

「忘れるな。大人になると言う事は自分の行動に責任を持つということだぞ」

ディラックは厳しい言葉を餞別としてジュードに言う。

「分かった」

ジュードはそう言うと、船に向かって走りだした。

ミラは少し残って話をした後、船に乗り込んだ。

ホームズはそんなマティス親子を甲板からボンヤリと見ている。

「うらやましいですか?」

「まあね」

ローエンの言葉にホームズは少し寂しいそうに笑いながら言う。

「誤魔化さないとは珍しいな」

ヨルはホームズの肩で少し驚いた様に言う。

ホームズは肩を竦める。

「たまには、そう言う事もあるさ。

それに、ローエンには、……ばれてるみたいだからね」

ローエンは微笑みながらホームズに答える。

「そう言う事です。何でしたら、私を父親と思ってくれてもいいですよ」

「冗談でしょ」

「もちろん」

ホームズはニヤリと笑ってローエンに返す。ローエンも同じ様にいたずらっぽく笑っている。

「…….ふふふ、少し元気が出たよ、どうも」

「いえいえ。代わりと言ってはなんですが、ホームズさん。私に対してもその言葉使いでお願いします。」

ホームズは目をぱちくりしている。そう、ポロっとホームズは敬語以外の言葉を話していたのだ。

しかし、ローエンはそれを続けてくれと言う。

「今、私はあなたの商売相手ではありません。共に旅をする仲間ですからね」

「敬語を使いながら言われてもな」

ヨルは横から口を挟む。

「ふふふ、ジジイは特別なんですよ」

何と無く言いたい事がわかったので、ホームズは頷いた。

「分かりま………分かった、ローエン」

イマイチ締まらないのがホームズらしいと言えよう。

そんな事をしていると、アルヴィン、ジュード、ミラが甲板に出てきた。

 

この様にして一同は船に乗った

 

 

全員が乗った事を確認すると、船は汽笛を鳴らし、ル・ロンドの港を旅立った。

 

様々人間と、それぞれの思惑を乗せて。

 

 

 

 




これから、六月ですね………
涼しいのは、好きだけど雨は嫌いだな……


ではまた、二十七話で( ´ ▽ ` )ノ

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