1人と1匹   作:takoyaki

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二十七話です。



夏がやってきましたね………


梅雨はどこいった………?

てなわけで、どうぞ


旅の恥はお約束

「なるほどねぇ。あの黒猫は今そう言う事になってるのか」

「まあね。だから、一応今のところ危険はない。寧ろ、僕達にとっては強い味方だよ」

港ではディラック達が居た為出来なかった、ヨルの事をジュードはアルヴィンに説明していた。

 

「所で、ローエン。この船って、ラコムル海停行きだよな?イル・ファンに行くんじゃないの?」

アルヴィンは不思議そうにローエンに尋ねる。

そんなアルヴィンにジュードはため息を吐く。

「乗ってから聞く?ホント、アルヴィンって、そう言うことこだわらないね」

ジュードの言葉を聞くとアルヴィンは、下を向いているエリーゼを見る。

「俺が来たのは、エリーゼ姫の為だからな。どこに行こうが関係ねーんだよ」

その言葉にエリーゼとティポは顔を上げる。

『いやーん、嬉しー。アルヴィン君は友だちだね』

「お前じゃねーよ」

ティポのテンションの高い言葉をアルヴィンはバッサリと切り捨てる。

容赦の無い言葉にティポはうなだれる。

エリーゼはそれを見て、くすくすと笑っている。

「それで、どうしてこんな七面倒くさい回り道をしてるんだ?」

ヨルはアルヴィン達のやり取りには目も向けずにローエンに尋ねる。

「はい。端的に言って、今のガンダラ要塞を突破するのは不可能だと思われるからです」

「馬鹿言え。あんな場所商人だったら、正規の手続きを踏めば普通に通れるぞ。お前らだけじゃ無理かもしれないが、ホームズと一緒ならどうにかなるぞ」

ローエンの答えにヨルは間髪いれずに答える。その言い方には、少し呆れている様子が伺える。

「……えっとね、実を言うと僕達そこに前、侵入したんだ。ヨルも知ってるミラの怪我はその時のものなんだ。」

よく分かっていないヨルにジュードが少し躊躇いながら説明する。

つまり、ホームズの知り合いのふりをして通過する事は不可能である。

「その、ミラさんが負傷して、私達が逃走した時ゴーレムの起動を確認しました」

「また、厄介な……」

「知っているのか、ヨル」

ミラがヨルに尋ねる。

「何回か、ガンダラ要塞は通ってるからな。その時にどう言うものか聞いた」

「国家機密をベラベラ喋る不届き者がいるようですね……」

ヨルの答えにローエンは自国の兵士の口の軽さに呆れている。一度逃げたとはいえ、自国の兵士達の教育に不安を感じる元軍師、指揮者(コンダクター)イルベルト。

「それで、ゴーレムと言うのは?」

「ち、ち、地の精霊を使った人間の兵器……何ですよ」

ミラの問いにエリーゼはつっかえながら答える。

ミラは少し不思議そうにエリーゼを見る。

説明がされた所でローエンがさらに補足する。

「アレと戦うには、師団規模の戦力と戦術が必要になります」

「けど、海路も無理なのにア・ジュールへて事は……」

「ア・ジュール側への陸路を経由してイル・ファンに向かういうことか?」

不思議そうに戸惑いながら、ジュードは言うの後を引き継ぐ様にミラが言う。

「ほう、そりゃまた。でもよ、ファイザバード沼野はどうすんだよ?」

「そうだよね」

アルヴィンは少し声を低めて面白そうにローエンに言う。

ジュードはアルヴィンの意見と同じ様な疑問を持っていたようだ。

ミラは何と無く、首を傾げているエリーゼを見ている。

イマイチ分かっていない連中の為にジュードは説明をする。

「イル・ファンの北にある広大な沼地でね、ガンダラ要塞と対をなす、ラシュガル最大の自然要害って言われてるんだ」

「あそこ、霊勢がめちゃくちゃで、通り抜けられないって話じゃなかったけ?」

アルヴィンがジュードの言葉を少し補足する。

「実際問題無理だ。前に一度行ったが、正直生きていたのが不思議なくらいだ」

「……おたく、行ったの?」

ヨルの突然の言葉にアルヴィンは驚きを隠せない。ジュード、ローエンも同じ様な調子だ。

「ホームズとホームズの母親と一緒にな。無傷だったのはこいつの母親ぐらいだった」

「何者だよ……」

「本人曰く『母親』だとさ」

「ま、まあ、ヨルさん達の時はともかく、今は変節風が吹きましたので、現在は地霊小節(プラン)に入りました。つまり……」

一旦言葉を切る。

「霊勢が火場(イフリタ)から地場(ラノーム)に入った今なら、ファイザバード沼野も落ち着いているはずです」

ローエンは淀みなく説明をする。

しかし、エリーゼには難しかったようで下を向いている。

「全然分かりません………」

「安心しろ、私も分からん」

どうやら、ミラにも難しかったようだ。

ヨルは顔を引きつらせている。

「えっと、つまり……」

ジュードは頑張って説明しようとする。

「まあ、取り敢えず問題なさそうって事でいいんじゃねーの?」

アルヴィンはジュードの努力を適当にまとめる。

「はい。いいってことです。あまり、時間も残されてないようですし」

髭を触りながら最後はローエンがまとめた。

『何がー?なんでー?』

話についていけないティポは緊張感の無い声で尋ねる。

「皆さんがカラハ・シャールを去った後もゴーレムは起動したままとの情報を得ました。

これは、ラシュガルが、開戦準備を始めた証と捉えてよいでしょう」

ローエンの静かな調子で、放たれた言葉に一同は息を飲む。

「開戦ってア・ジュールと?!」

ジュードは驚きを隠せない。

当たり前と言えば当たり前である。自分の国がそんな事をしようとしているのに、驚かない訳が無い。

「戦争ですか……怖い」

エリーゼは幼心に理解したようだ。

皆が表情を硬くする中、ヨルは小馬鹿にした笑みを浮かべている

「戦争か……昔から好きだねー、人間は。よく、飽きないもんだ」

ヨルは馬鹿にする様に言う。

ヨルにとって人間同士の戦争は、蟻が戦っているのを見る様な物なのだ。

しかし、人間は蟻よりも感情がある癖に、そんな事を飽きもせず繰り返している。

ヨルは人間の戦争に対する感想はそれだ。

まあ、でも、その言葉を聞いて愉快な思いをする様な奴などいない。

『なんだとー!』

事実、ティポは食ってかかった。

「貴方に言われたくない……です。たくさんの人達を殺したあなたには……」

エリーゼも食ってかかるが、ヨルはまともに取り合うつもりも無い様だ。

エリーゼ達を、少し見ると、フン、と馬鹿にした様に鼻で笑い、ミラの方を向いた。

「それよりも、マズイんじゃないのか。その戦争で、クルスニクの槍が使われるのは、明白だぞ」

言葉こそ危惧している様だが、実際は薄笑いを浮かべながら喋っている。

ミラはヨルをギロリと睨んでから続ける。

「決まっている。戦争なんかに使われるより先に破壊する」

ミラの炎の様に燃える決意が甲板に静かに響いた。

その沈黙をアルヴィンが破る。

 

 

「………て事になってるけど、聞いてる?ホームズ?」

 

「聞………いてヴォロロェぇぇ!!」

 

アルヴィンの問いに答えようと努力したが、その努力は虚しくバケツの吐瀉物へと消えた。

そう、ホームズは絶賛船酔い中なのだ。何とか話だけは聞いていたが、それに参加するだけの余裕はなかった。

実際、ヨルの言った、あの場を凍り付かせた一言も普段ならアイアンクローで止めている所なのだが、正直動く余裕がない。

本来なら、甲板になんて、いない方がいいのだが、何せ先程述べた様に動けないのだ。

なので、ずっと横になって話を聞いていた。

『うぇ、酸っぱい匂いがするー』

「ティポ……君……ね……!!」

吐き気に押されて最後まで話せない。

「ホームズ、大丈夫?」

「ほっとけ、ほっとけ。いつもの事だ」

心配そうに聞くジュードにヨルは面倒くさそうに言うとホームズの耳元で肉を食べ始めた。

「¥$#○÷〒々〆♪☆→€€!!」

ホームズはそのまま、また、バケツと対面している。

「ヨル!やめなよ!」

ホームズに余りにも酷い仕打ちをヨルをジュードは止める。

「というか、よくこの状況でものが食えるな……」

アルヴィンはヨルの嫌がらせ根性に呆れ顔だ。

普段の体格差で、酷い目に合っているが、今回ばかりは、ヨルの方が優勢なのだ。ここぞとばかりにヨルは嫌がらせをしている。

「ホームズさん。水をもらってきました。あ、お礼はいいです。黙って飲んで下さい」

ローエンはホームズに水を持って来た。

ホームズは何とかお礼の言葉を言おうとするが、ローエンに遮られた。

さっきの様に言葉と一緒に別のものまで吐き出すからだ。

ミラはホームズを不思議そうに見ている。

「ほう。これが、船酔いという奴か。実際に目にするのは初めてだ」

ホームズはキッとミラを睨むが、長くは続かず、言葉も続かず、そのまま、再度、バケツと睨みっこを始めた。

「普段からは、想像出来ないほど静かだな……」

さらに言葉を続けるが、もう、ホームズにはミラの方を向く余裕もない。

「悪気がない分、達が悪いねぇ」

「それ、多分ホームズがミラに言いたかったんだろうね」

ジュードとアルヴィンは半眼に成りながら言う。

実際、ここ三週間ホームズのミラに対する感想は、ほぼそれだ。

本来なら面と向かって文句を言いたいだろうホームズに2人は同情した、目線を向けている。

 

 

 

 

「うぁぁぁああ!」

 

そんな事をしていると、船乗りの叫び声が甲板に響き渡った。

「何?」

 

ジュードとアルヴィンはその船乗りに駆け寄る。

「樽の中に、ひ……人が!」

ジュードとアルヴィンは言われた通り樽の中を覗き込む。

そこには、

 

 

「すーぴー……すーぴー……」

 

 

あどけない顔で、爆睡しているレイア・ロランドがいた。

 

アルヴィンは顔を動かさず目だけジュードの方を向き尋ねる。

「なにこれ」

「はは……僕の幼馴染み」

アルヴィンの淡々とした問いにジュードは頬を引きつらせながら答えた。

面倒ごとが増えた瞬間だった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「あはは…待ちくたびれちゃって、つい寝ちゃった……」

ラコルム海停に着くとレイアは頭を掻きながら、面目なさそうに言う。

「そんな問題?直ぐに帰りなよ!」

突拍子もない事をした幼馴染みをジュードは強い口調で叱る。

「やだよ。帰らない」

レイアは腰に両手を当て力強く言い返す。

「遊びじゃないんだって!」

ジュードは聞き分けの悪いレイアに強い口調で言う。

「知ってる。ね!」

レイアはジュードに負けない程力強く言う。そして、同意を求める様に隣、アルヴィンの方を見る。

 

「誰?」

 

一瞬空気が凍り付いた。

 

『アルヴィン君だよー』

それを真っ先に壊したのはティポだった。

「よろしく、嬢ちゃん」

少しキザに手を上げるとアルヴィンは名乗った。

レイアはアルヴィンの手を直ぐに取ると握手をした。

「わたしレイア。こちらこそよろしくね、アルヴィン君」

「君って……」

微妙に引っかかる事を言いながら。

そんな時後ろで魂の抜けた様なホームズを見つける。

「どうしたの?」

「船酔い。やっと楽になったんだよ」

ホームズは普段とは違い、ヨルを頭に乗せ、地べたに座って、手をひらひらさせている。

何とか口もゆすぎ、ジュードとローエンのお陰で座れるぐらいに回復していた。

「ホームズ……やっぱり船酔いするんだね……」

レイアは憐れみの目でホームズを見る。

「『やっぱり』て事は……」

「そういう事だろうな」

頭からヨルの声が、容赦無くホームズに降りかかる。

つまり、どういう事かというと、出会った当初から、予想していたという事だ。

では、何故予想できたのか?

 

 

答えは簡単、ゲロ臭かったのだ。

 

 

ディラックに言われて気付かれていない事を祈っていたのだが、そんな祈りは跡形も無く、砕け散った。

「ハァァ……ショックだ……」

女子に臭いと思われるのは男子にとってショックな事、この上ないのだ。

女勢は何で落ち込んでいるか、理解していないようだが、男勢、とりわけローエンとアルヴィンは理解した様で2人は無言でホームズの肩に手をポンと、優しく置いた。

2人のさりげない優しさにホームズは涙を堪える。

 

そんな彼らに構わず、レイアはミラにお願いをする。

 

「ね、いいでしょミラ。わたしも一緒に」

レイアの言葉にはふざけている様子はない。

ミラは顎に手を当てる。

「そうだな……理由を聞かせてくれ?」

ミラは少し考えた後レイアにそう訪ねた。

「ミラ……?!」

ジュードは怪訝そうだ。

レイアは胸の前で手を組み、ミラを真っ直ぐ見ながら自分の旅の理由を言う。

「鉱山で思ったの。わたしもミラみたいに強くなりたいって。それでね、ホームズがミラについて行くって聞いてさ……」

レイアは一旦言葉を切ってホームズの方を見る。ホームズは相変わらず、涙がこぼれないよう、上を向いている。

「ホームズは自分のやるべき事を見つけてるし、その為の努力もやろうとしている。だったら、わたしも自分のやりたい事の為に努力をしようと思ったの」

ミラもレイアの目力に答えるようにレイアの目をじっと見る。

レイアは腕を組んでさらにミラを見据える。

「ムムム……」

「それだけか?」

ミラの問いかけにがっくりとレイアは肩を落として答える。

「そう言うと思ったー!」

そう言って何処からともなく、小さなメモ用紙をミラに渡した。

「なんですか……あれ?」

少し離れていた所から見ていたエリーゼはローエンに尋ねる。

ローエンはお手上げというように肩を竦める。

「ホームズ……は?」

「おれが知るわけないだろう」

『友達なのにー?』

「……あの子は、いつもおれの予想斜め上を行くんだもん」

ホームズはおれは悪くないとでも言いたそうだ。

「細かい事はそれに書いてあるから読んでみて」

「僕達について行く理由を?」

ジュードが聞く。

「うん。100個ぐらいある」

ジュードにウィンクしながら、レイアは言う。

ミラは言われた通りに、レイアから渡されたメモ用紙を読み始めた。

すると、少し微笑んだ。

「ふふふ、分かった。一緒に行こう。気に入ったよ、実に人間らしい理由だ。ふふふ」

「もう……」

ジュードはやれやれと言った風に肩を落とす。

「君と同じ様な台詞(セリフ)だけど、随分と印象が違うね、ヨル」

ヨルの場合は微笑みではなく、高笑いだ。

レイアも何と無く気付いた様で、ヨルの方を見ている。

「さて、お許しが出た所で……」

レイアはジュード達一行の前に出る。

「みんな、よろしくね!」

そう高らかに挨拶をした。

そして、

「さあ、次はホームズの番だよ」

「……は?」

「大方、まだ、まともに自己紹介していないんでしょ」

図星だった。基本的にホームズの事は周りの連中が掻い摘んで紹介していたのだ。

ホームズは地べたに座ったままで自己紹介しようと思ったが……

「……いいのか?」

ヨルがにやりと口角を上げなから、ホームズに聞く。

「分かったよ……」

ホームズはため息を吐くと立ち上がる。

 

 

『君の名前は、私と旦那が、三日三晩考えて付けた名前だ。』

 

 

『だから、自己紹介する時は高らかに、胸を張って言いたまえよ』

 

 

 

『でないと、どうなるか、分かっているだろうね』

 

 

 

 

 

「おれの名前は、ホームズ。ホームズ・ヴォルマーノ。そして、この肩にいるのが元化け物、で、今も化け物のヨル」

ホームズは胸に右手を当て高らかに言う。

「みんな、しばらくの間よろしく頼むよ」

 

 

そして、そのまま、ホームズは後ろに倒れた。

 

 

「ホームズ!」

ジュードは心配して駆け寄る。幸い頭は打っていない様だ。

「うぇ、気持ち悪い………」

「船酔いから、完全に覚めてないのにあんなに勢いよく立つからだよ」

ジュードは呆れている。

ホームズとしては、とても珍しいくらい凛とした、自己紹介だった為、この直後の醜態が、余計際だってしまった。

 

 

 

「まあ、ホームズらしいね」

 

 

 

 

レイアは頬を引きつらせながら、そうこぼした。

 







暑いです………


もう、ここ最近の感想は、それにつきます。



では、また二十八話で( ´ ▽ ` )ノ

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