1人と1匹   作:takoyaki

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二十八話です。



料理のレパートリーが少ない。


何だか悲しくなってきました…………





嘘から出た魔物

「で、つまり、まとめると……ラシュガル行きに乗ろうとしたけど、間違えて、ア・ジュール行きに乗ったと……」

こちらラコルム街道。

ホームズは両目の付け根を揉みながら、レイアの言い分をまとめる。

「うん。いや〜びっくりだよね」

レイアはハハと笑いながら、頭を掻く。

ホームズは自分の顔が引きつってるのを感じながら、ジュードを見る。

「君の幼馴染み、どうなっているんだい?」

「ごめん。今回は僕もびっくりだよ」

ホームズとジュードがそんな会話をしてる時、ティポとエリーゼはヨルを睨んでいた。

どう考えても、善人(善猫)とは見えないヨルに警戒している様だ。

「何の様だ、ヌイグルミとジャリ」

「ジャ、ジャリ!?」

『エリーになんて事言うんだー!』

ヨルのあんまりな言い草に、エリーゼとティポは大層ご立腹だ。

しかし、ヨルはエリーゼ達の文句なんて、どこ吹く風だ。

つまらなそうに、あくびをしている。

 

 

「ローエン……俺がいない間に随分と混沌(カオス)なことになってるんだけど……」

好き勝手やっているホームズ達を見ながら、アルヴィンは呟く。

「ええ、まあ。ジジイも負けてられないですね」

「張り合うなよ……」

アルヴィンは更に疲れた様に言う。

「まあ、冗談はさておき。仲間が増える事はとても心強いですよ」

「……否定はしないけどな」

ローエンの言葉にアルヴィンは肩を竦めて、答えて、ホームズ達を見る。

「ホームズ……取り分け、ヨルの能力は、敵に回すと厄介な事この上無いけど、味方なら相当頼もしいからな」

「ええ、レイアさんから話を聞いて驚きました」

ローエンは少し真面目な調子で言う。

レイアから聞いた、ヨルの精霊術を食べる能力。

軍隊には、精霊術部隊が絶対にある。ヨルは、実質それらの部隊を機能停止にしてしまう。

ナハティガルのところに乗り込むのに、これ以上心強いものはない。

そんな事を考えていると、空からミラを呼ぶ声が聞こえた。

「何だぁ?」

ホームズはレイアに呆れるのを中断すると、声のした方、つまり、空を見上げる。

正体は、あっさりと分かった。

何故なら、空から、銀色長髪の男がダイブしてきたからだ。

「うわぁ!危ないなぁ、君!」

ホームズは思わず、その男に文句を言う。

「ミラ様。……そのお姿、再び立ち上がる事が出来たのですね」

「お、無視かい?」

しかし、その男はホームズの文句を無視してミラに話し掛ける。

危うく踏まれかけたホームズは、額に青筋を浮かべながら、文句を言う。

しかし、男は手を恭しく、自分の前で重ねていてホームズの顔を見ていない為、ホームズの苛立ちに気付かない。

しかし、そんなホームズに構わず、ジュードは男に尋ねる。

「イバル……どうして?」

ジュードはその男、イバルを見て不思議そうだ。

「誰なの?」

「ミラの巫女なんだ」

レイアの質問にジュードは答える。

「この子なにしてるんだい?」

「僕に聞かれても……」

ホームズの質問には答えられない。

そんな彼らに構わずイバルはミラに言葉を投げかける。

「ミラ様。足が治ったのであれば、村へお戻り下さい。ミラ様に何かあれば俺は……」

「私はイル・ファンに向かわねばならん。今は戻る気はない」

イバルの言葉をミラは間髪いれずに断る。

しかし、それで食い下がるイバルではない。

「では、俺もお供を」

「必要ない。皆がいる」

ミラは静かに言う。けれどもイバルは不満そうだ。

「しかし、こんな奴らなど……」

「随分な挨拶だなぁ、ニンゲン」

イバルの言葉にヨルは挑発する様に言う。

ヨルの言葉を聞き、イバルは目を丸くする。

その目に映るのは恐怖の色。

ミラの巫女である、イバルはもちろん、ヨルに関する言い伝えを知っている。

普通なら、逃げてしまいたいところだ。しかし、そんな事はミラの巫女の誇りに賭けてイバル本人が許さない。

「そうか……お前が………」

恐怖の色を決意の色に変えるとイバルは双剣を構える。

「『お前、何故ここにいる』とは聞かない。聞くだけ無駄だからな。……何故、ミラ様といる?」

ミラだってヨルが何者なのか知っているはずだ。

それなのに、ヨルはミラの側にいる。

ヨルは、そんなイバルを馬鹿にする様にため息を一つ吐く。

「お前らは揃いも揃って、礼儀と言うものを知らないらしいな」

ヨルがそう言うと、突然ヨルの尻尾が二つに裂け、蛇のように伸びていき、イバルの双剣を絡みとってしまった。

「な……!」

「最初からやり直せ、ニンゲン。気分次第じゃ、答えてやる」

突然の事に驚いているイバルに、ヨルは、見下す様に命令する。

その言い草が更に腹立たしかったのだろう。イバルは更に敵意を込めた目で見ている。

そして、その敵意はホームズにも、伝染した。

「お前が、この化け物の封印を解いたのか?」

「ん?ああ、まあね。そうだよ」

ヨルとイバルの争いをそろそろ止めようとした、矢先、突然話題を振られてホームズは驚いた。

「お前、分かっているのか!お前1人の下らない欲望のせいで、リーゼマクシアが、再び危機に瀕しているのだぞ!」

イバルの剣幕に、エリーゼは少し、ビクッとする。ホームズの願い事を知っているレイアは、逆に少し眉を顰める。

ホームズはドウドウとイバルを手で制して言う。

「まあ、ほら、リーゼマクシアの危機を救う為にも、おれは今ミラと旅をしてる訳だし……それで、手打ちって事で……ね?」

嘘は言っていない。確かに両親の故郷への行き方を知りたい、というのが主だが、リーゼマクシアを憂う心も、もちろんあるのだ。

「そんな胡散臭い笑顔で言われて、納得行くか!今この場で引導を渡してやる!」

ホームズにビシっと指を突きつける。

イバルに思わずたじろぎながら、ヨルの方を見る。

「ヨル、その剣を返さないでおくれよ」

「それは、フリか?」

「……随分と下らない事を言ってくれるじゃないか」

目の前にいる男によりも肩にいる猫にホームズは殺意を覚える。

一瞬、ホームズはイバルから、注意を外した。

その瞬間を逃す、イバルではない。マクスウェルの巫女がその程度な訳がない。

更に言うなら、ホームズの言い分を聞くほど、落ち着きはない。

 

イバルは拳を固めるとそのままホームズの顔面に向かって放つ。

ホームズもまさか、攻撃をされるとは思っていなかった。何せ、イバルの武器はヨルが持っているのだ。ヨルに攻撃がいく事はあってもホームズにいく訳がない。

完全に不意をつかれたホームズは派手に吹き飛ぶ。そのまま仰向けに倒れた。

『「ホームズ!」』

エリーゼとティポは思わずそう叫んでいた。

傍目から見ても、無事ではすまないような威力だ。

「エリーゼさん!治療を!」

「おいおい、大丈夫かよ……」

ローエンはエリーゼに指示を飛ばす。アルヴィンも柄にもなく、驚いているようだ。

「イバル!」

ミラは語気を強くして、イバルを叱りつける。

イバルとしては褒められこそすれ、まさか、叱られるとは思っていなかったのだろう。

イバルは突き出した拳を仕舞うとそのまま、気まずそうにしている。

ミラがイバルを叱りつけ、エリーゼが治療をし、アルヴィンとローエンが心配している。

そんな中、ジュードとレイアは、微妙な顔をしている。

ホームズは確かに派手に飛んだ。

イバルの拳は文句無く、ホームズの顔面を捉えていた。

 

 

しかし、飛び過ぎだ。どう考えても。

 

 

つまり……

 

 

 

「「タイミング合わせて後ろに飛んだね、ホームズ」」

レイアとジュードは声を揃えて、倒れているホームズを見る。

 

 

 

 

「簡単に種明かしをしないでおくれよ、2人共」

 

ホームズは空に向かって両足を上げるとその勢いで、ぴょんと立ち上がる。

立ち上がったホームズの姿は、薄汚れてこそいるが、無傷だった。

「なん……で?」

『どゆことー!』

エリーゼとティポは目をパチクリしている。

ローエンとアルヴィンは納得したようで、少し苦笑いをしている。

「つまりね、攻撃のタイミングに合わせて後ろに下がるとね、ダメージが半減されるんだよ」

理解の出来ていないエリーゼにジュードは解説をする。

レイアは隣で頷いている。武術を習っていた2人にとっては割と当たり前の事だ。

なのだが……

「全くダメージを受けてないって、どういう事?」

レイアは、引きつりながら尋ねる。

「失礼だなぁ、そんな化け物を見るみたいな目をして……こう見えてもハエがとまったぐらいのダメージあるんだよ」

ホームズはお約束の胡散臭い笑顔をしながら言う。

確かにイバルの攻撃は予想していなかった。

しかし、だからと言って、攻撃が避けられないかと言えばそうではない。

なにせ、

「もっと、酷い不意打ちを何発もらったからねぇ?」

そう言って、アルヴィンをジロリと見る。まさか、上から弾丸が降ってくるとは思わなかった。

当の本人は素知らぬ顔をして、口笛を吹いている。

「お前が余計なことをするから、俺まで飛ぶ羽目になっただろうが」

ヨルは白い歯を見せながら爪を出し威嚇をする。

戦闘開始となれば、迷わずに突っ込んでいくだろう。

ヨルの言葉を聞き、イバルはもう一度構え直す。

そんなイバルをミラは静かにたしなめる。

「イバル、よせ。昔はともかく、ヨルは今、心強い仲間だ。それに、私が再び歩けるようになったのも、レイアとジュードのお陰だ」

「……おれは?精霊の化石の発掘されるところを教えてあげたけど……」

尋ねるホームズ。

「ああ、そう言えばそうだっな」

そう、フェルガナ鉱山での活躍が特に無いから、忘れがちだが、そもそも、情報を持ってきたのは、ホームズである。

すっかり忘れられていたホームズは、空を見上げている。涙が零れないように注意しながら。

「だからな、彼らは信頼出来る者たちだ」

ミラは、そうまとめる。

「なっ……ジュード……」

そう言うと、イバルはワナワナと震えている。そんなイバルから、ジュードは後ずさりをする。

「あ、あの、レイアです。ど、どうも〜」

紹介されたレイアはイバルに恐る恐る挨拶をする。さっき、ためらいもなく、ホームズを殴ったことを忘れるレイアではない。しかし、そんなレイアの挨拶も虚しく、イバルは何の反応も示さず、まだワナワナと震えている。

レイアはジュードの両脇に行く。

「な、なんか、怖い人だね」

ジュードは少し苦笑いをする。

イバルは自分を落ち着ける様に目を閉じて上を向く。

「ミラ様を治すという約束は守ったようだな」

ジュードの方を向き直ると、イバルはそう言った。

「うん、約束通り、ミラを歩けるようにしたよ」

しかし、その言葉が気に入らなかったようで、イバルはジュードに指を突きつけて言う。

「貴様の成果のように語るなっ!クッソ〜。俺が治すはずだったのにぃぃ!」

イバルの心からの叫びが響き渡る。本当に凄く悔しそうだ。しかし、やかましい事この上ない。

ヨルとホームズは半眼になって、そんなイバルを眺めている。

「ご、ごめん」

ジュードも引きながら謝る。

それに気を良くしたのか、更にイバルは身振り手振りで、言葉を続ける。

「そうだ。謝れ偽物。誤って死んでしまえ!」

「に、偽物ですか?」

エリーゼはジュードに尋ねる。ジュードは何と無く目を逸らす。何てったて説明するのに疲れるのだ。

「ジュードさんのお知り合いの方は、あらゆる意味で個性的ですね」

その言葉に、ホームズはレイアを、レイアはホームズとヨルを見る。

「おたくら、2人もだからな……て、何だその驚いた顔は!どう考えたってそうだろ!」

信じられないと言う顔をアルヴィンに向ける、レイアとホームズにアルヴィンが突っ込む。

「イバル。お前には大事な命を与えた筈だ。何故ここにいる」

ミラはイバルに背を向けると腕を組んで、怒った様にいう。

すると、すぐさまミラの目の前に跳躍し、そのまま土下座した。

「ジャンピング土下座……」

ホームズは思わずこぼす。

「わたし、始めて見たよ……」

「そう?おれは、割と見たよ。母さんに『許してくれ〜』て。死ぬ気でやっているのを」

「なにしたの?」

「泥棒。母さんの商品に盗みを働いた連中は、皆一様にそれで許しを請うていたよ」

「………突っ込まないでおくよ」

ボソボソとホームズとレイアは口に手を当てながら話している。

 

「む、村の守りは忘れておりません。お預かりした物も、誰も知らぬ場所に隠し、無事です」

アルヴィンの目が少し、鋭くなる。

それを見逃すヨルではない。

(ほう……腹に一物と言う奴か)

残念ながら、ホームズはイバルの方を見ていて気付かない。

「しかし、この度はことのような物が届いたのです」

そう言って顔を上げず、イバルは、手紙をミラに渡す。

ミラは手紙を読み上げる。

「『マクスウェルが危機。助けが必要。急がれたし』」

「突然、俺の元にこれだけが届けられ、ようやくミラ様を見つけ出したのです」

そして、顔を上げ、ホームズとヨルを睨む。

「そしたら、案の定伝説の化け物を連れた愚か者がいる……」

突然話を振られたホームズはヨルの方を見る。

「伝説の化け物だってさ」

「愚か者だってな」

お互いがお互いを馬鹿にする様に言うとそのまま、掴み合いが始まった。

「やめなよ……」

レイアは呆れながら止める。

ジュードは頬が引きつるのを感じながら考える。

「誰だろう?こんな事をしたの?」

「さてな……」

ミラは、顎に手を当て少し考えた後そう答える。

「どちらにせよ、間違いだ。危機など訪れていな………」

ミラは、イバルの後ろを見て固まる。

 

 

 

 

ミラの視線の先には、イバルの後ろから土煙を上げ、猪の様な魔物が真っ直ぐに突進して来ていた。

「逃げろ、イバル!」

そう叫ぶとミラは横によけた。

しかし、ミラの突然の言葉に何とか立てたイバルは、そのまま無様に引かれていた。

その魔物は、イバルだけでは満足せずに、ミラ達一行にも襲う腹づもりの様だ。

ミラ達の方に向き直ると、そのまま直進してきた。

 

 

「バッチリ訪れてるじゃないか、ミラ様」

ホームズは顔の引きつりを感じながら、言う。その魔物はデカイことこの上なかった。

「ふむ。これが『嘘から出た真』と言う奴だな」

「賢くなったようで嬉しいよ」

そう言って、再び突進を始めている魔物を見る。

「お前の旅立ちは、いつも幸先が悪いな」

「基本的に、その八割は君のせいだよ。ヨル。」

イバルに殴られたのも、ジュード達に殺されかけたのも、全部ヨルが喋った事が原因だ。

 

船酔いをし、イバルに殴られ、挙句、魔物に襲われる………

 

 

 

「神様ってのにおれは、どうも嫌われてるみたいだね……」

 

 

戦いのゴングが高らかに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 






増やせ!レパートリー!


でも、メンドくさい………

そんなところをいつも行ったり来たりしています

では、また二十九話で( ´ ▽ ` )ノ

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