料理のレパートリーが少ない。
何だか悲しくなってきました…………
「で、つまり、まとめると……ラシュガル行きに乗ろうとしたけど、間違えて、ア・ジュール行きに乗ったと……」
こちらラコルム街道。
ホームズは両目の付け根を揉みながら、レイアの言い分をまとめる。
「うん。いや〜びっくりだよね」
レイアはハハと笑いながら、頭を掻く。
ホームズは自分の顔が引きつってるのを感じながら、ジュードを見る。
「君の幼馴染み、どうなっているんだい?」
「ごめん。今回は僕もびっくりだよ」
ホームズとジュードがそんな会話をしてる時、ティポとエリーゼはヨルを睨んでいた。
どう考えても、善人(善猫)とは見えないヨルに警戒している様だ。
「何の様だ、ヌイグルミとジャリ」
「ジャ、ジャリ!?」
『エリーになんて事言うんだー!』
ヨルのあんまりな言い草に、エリーゼとティポは大層ご立腹だ。
しかし、ヨルはエリーゼ達の文句なんて、どこ吹く風だ。
つまらなそうに、あくびをしている。
「ローエン……俺がいない間に随分と
好き勝手やっているホームズ達を見ながら、アルヴィンは呟く。
「ええ、まあ。ジジイも負けてられないですね」
「張り合うなよ……」
アルヴィンは更に疲れた様に言う。
「まあ、冗談はさておき。仲間が増える事はとても心強いですよ」
「……否定はしないけどな」
ローエンの言葉にアルヴィンは肩を竦めて、答えて、ホームズ達を見る。
「ホームズ……取り分け、ヨルの能力は、敵に回すと厄介な事この上無いけど、味方なら相当頼もしいからな」
「ええ、レイアさんから話を聞いて驚きました」
ローエンは少し真面目な調子で言う。
レイアから聞いた、ヨルの精霊術を食べる能力。
軍隊には、精霊術部隊が絶対にある。ヨルは、実質それらの部隊を機能停止にしてしまう。
ナハティガルのところに乗り込むのに、これ以上心強いものはない。
そんな事を考えていると、空からミラを呼ぶ声が聞こえた。
「何だぁ?」
ホームズはレイアに呆れるのを中断すると、声のした方、つまり、空を見上げる。
正体は、あっさりと分かった。
何故なら、空から、銀色長髪の男がダイブしてきたからだ。
「うわぁ!危ないなぁ、君!」
ホームズは思わず、その男に文句を言う。
「ミラ様。……そのお姿、再び立ち上がる事が出来たのですね」
「お、無視かい?」
しかし、その男はホームズの文句を無視してミラに話し掛ける。
危うく踏まれかけたホームズは、額に青筋を浮かべながら、文句を言う。
しかし、男は手を恭しく、自分の前で重ねていてホームズの顔を見ていない為、ホームズの苛立ちに気付かない。
しかし、そんなホームズに構わず、ジュードは男に尋ねる。
「イバル……どうして?」
ジュードはその男、イバルを見て不思議そうだ。
「誰なの?」
「ミラの巫女なんだ」
レイアの質問にジュードは答える。
「この子なにしてるんだい?」
「僕に聞かれても……」
ホームズの質問には答えられない。
そんな彼らに構わずイバルはミラに言葉を投げかける。
「ミラ様。足が治ったのであれば、村へお戻り下さい。ミラ様に何かあれば俺は……」
「私はイル・ファンに向かわねばならん。今は戻る気はない」
イバルの言葉をミラは間髪いれずに断る。
しかし、それで食い下がるイバルではない。
「では、俺もお供を」
「必要ない。皆がいる」
ミラは静かに言う。けれどもイバルは不満そうだ。
「しかし、こんな奴らなど……」
「随分な挨拶だなぁ、ニンゲン」
イバルの言葉にヨルは挑発する様に言う。
ヨルの言葉を聞き、イバルは目を丸くする。
その目に映るのは恐怖の色。
ミラの巫女である、イバルはもちろん、ヨルに関する言い伝えを知っている。
普通なら、逃げてしまいたいところだ。しかし、そんな事はミラの巫女の誇りに賭けてイバル本人が許さない。
「そうか……お前が………」
恐怖の色を決意の色に変えるとイバルは双剣を構える。
「『お前、何故ここにいる』とは聞かない。聞くだけ無駄だからな。……何故、ミラ様といる?」
ミラだってヨルが何者なのか知っているはずだ。
それなのに、ヨルはミラの側にいる。
ヨルは、そんなイバルを馬鹿にする様にため息を一つ吐く。
「お前らは揃いも揃って、礼儀と言うものを知らないらしいな」
ヨルがそう言うと、突然ヨルの尻尾が二つに裂け、蛇のように伸びていき、イバルの双剣を絡みとってしまった。
「な……!」
「最初からやり直せ、ニンゲン。気分次第じゃ、答えてやる」
突然の事に驚いているイバルに、ヨルは、見下す様に命令する。
その言い草が更に腹立たしかったのだろう。イバルは更に敵意を込めた目で見ている。
そして、その敵意はホームズにも、伝染した。
「お前が、この化け物の封印を解いたのか?」
「ん?ああ、まあね。そうだよ」
ヨルとイバルの争いをそろそろ止めようとした、矢先、突然話題を振られてホームズは驚いた。
「お前、分かっているのか!お前1人の下らない欲望のせいで、リーゼマクシアが、再び危機に瀕しているのだぞ!」
イバルの剣幕に、エリーゼは少し、ビクッとする。ホームズの願い事を知っているレイアは、逆に少し眉を顰める。
ホームズはドウドウとイバルを手で制して言う。
「まあ、ほら、リーゼマクシアの危機を救う為にも、おれは今ミラと旅をしてる訳だし……それで、手打ちって事で……ね?」
嘘は言っていない。確かに両親の故郷への行き方を知りたい、というのが主だが、リーゼマクシアを憂う心も、もちろんあるのだ。
「そんな胡散臭い笑顔で言われて、納得行くか!今この場で引導を渡してやる!」
ホームズにビシっと指を突きつける。
イバルに思わずたじろぎながら、ヨルの方を見る。
「ヨル、その剣を返さないでおくれよ」
「それは、フリか?」
「……随分と下らない事を言ってくれるじゃないか」
目の前にいる男によりも肩にいる猫にホームズは殺意を覚える。
一瞬、ホームズはイバルから、注意を外した。
その瞬間を逃す、イバルではない。マクスウェルの巫女がその程度な訳がない。
更に言うなら、ホームズの言い分を聞くほど、落ち着きはない。
イバルは拳を固めるとそのままホームズの顔面に向かって放つ。
ホームズもまさか、攻撃をされるとは思っていなかった。何せ、イバルの武器はヨルが持っているのだ。ヨルに攻撃がいく事はあってもホームズにいく訳がない。
完全に不意をつかれたホームズは派手に吹き飛ぶ。そのまま仰向けに倒れた。
『「ホームズ!」』
エリーゼとティポは思わずそう叫んでいた。
傍目から見ても、無事ではすまないような威力だ。
「エリーゼさん!治療を!」
「おいおい、大丈夫かよ……」
ローエンはエリーゼに指示を飛ばす。アルヴィンも柄にもなく、驚いているようだ。
「イバル!」
ミラは語気を強くして、イバルを叱りつける。
イバルとしては褒められこそすれ、まさか、叱られるとは思っていなかったのだろう。
イバルは突き出した拳を仕舞うとそのまま、気まずそうにしている。
ミラがイバルを叱りつけ、エリーゼが治療をし、アルヴィンとローエンが心配している。
そんな中、ジュードとレイアは、微妙な顔をしている。
ホームズは確かに派手に飛んだ。
イバルの拳は文句無く、ホームズの顔面を捉えていた。
しかし、飛び過ぎだ。どう考えても。
つまり……
「「タイミング合わせて後ろに飛んだね、ホームズ」」
レイアとジュードは声を揃えて、倒れているホームズを見る。
「簡単に種明かしをしないでおくれよ、2人共」
ホームズは空に向かって両足を上げるとその勢いで、ぴょんと立ち上がる。
立ち上がったホームズの姿は、薄汚れてこそいるが、無傷だった。
「なん……で?」
『どゆことー!』
エリーゼとティポは目をパチクリしている。
ローエンとアルヴィンは納得したようで、少し苦笑いをしている。
「つまりね、攻撃のタイミングに合わせて後ろに下がるとね、ダメージが半減されるんだよ」
理解の出来ていないエリーゼにジュードは解説をする。
レイアは隣で頷いている。武術を習っていた2人にとっては割と当たり前の事だ。
なのだが……
「全くダメージを受けてないって、どういう事?」
レイアは、引きつりながら尋ねる。
「失礼だなぁ、そんな化け物を見るみたいな目をして……こう見えてもハエがとまったぐらいのダメージあるんだよ」
ホームズはお約束の胡散臭い笑顔をしながら言う。
確かにイバルの攻撃は予想していなかった。
しかし、だからと言って、攻撃が避けられないかと言えばそうではない。
なにせ、
「もっと、酷い不意打ちを何発もらったからねぇ?」
そう言って、アルヴィンをジロリと見る。まさか、上から弾丸が降ってくるとは思わなかった。
当の本人は素知らぬ顔をして、口笛を吹いている。
「お前が余計なことをするから、俺まで飛ぶ羽目になっただろうが」
ヨルは白い歯を見せながら爪を出し威嚇をする。
戦闘開始となれば、迷わずに突っ込んでいくだろう。
ヨルの言葉を聞き、イバルはもう一度構え直す。
そんなイバルをミラは静かにたしなめる。
「イバル、よせ。昔はともかく、ヨルは今、心強い仲間だ。それに、私が再び歩けるようになったのも、レイアとジュードのお陰だ」
「……おれは?精霊の化石の発掘されるところを教えてあげたけど……」
尋ねるホームズ。
「ああ、そう言えばそうだっな」
そう、フェルガナ鉱山での活躍が特に無いから、忘れがちだが、そもそも、情報を持ってきたのは、ホームズである。
すっかり忘れられていたホームズは、空を見上げている。涙が零れないように注意しながら。
「だからな、彼らは信頼出来る者たちだ」
ミラは、そうまとめる。
「なっ……ジュード……」
そう言うと、イバルはワナワナと震えている。そんなイバルから、ジュードは後ずさりをする。
「あ、あの、レイアです。ど、どうも〜」
紹介されたレイアはイバルに恐る恐る挨拶をする。さっき、ためらいもなく、ホームズを殴ったことを忘れるレイアではない。しかし、そんなレイアの挨拶も虚しく、イバルは何の反応も示さず、まだワナワナと震えている。
レイアはジュードの両脇に行く。
「な、なんか、怖い人だね」
ジュードは少し苦笑いをする。
イバルは自分を落ち着ける様に目を閉じて上を向く。
「ミラ様を治すという約束は守ったようだな」
ジュードの方を向き直ると、イバルはそう言った。
「うん、約束通り、ミラを歩けるようにしたよ」
しかし、その言葉が気に入らなかったようで、イバルはジュードに指を突きつけて言う。
「貴様の成果のように語るなっ!クッソ〜。俺が治すはずだったのにぃぃ!」
イバルの心からの叫びが響き渡る。本当に凄く悔しそうだ。しかし、やかましい事この上ない。
ヨルとホームズは半眼になって、そんなイバルを眺めている。
「ご、ごめん」
ジュードも引きながら謝る。
それに気を良くしたのか、更にイバルは身振り手振りで、言葉を続ける。
「そうだ。謝れ偽物。誤って死んでしまえ!」
「に、偽物ですか?」
エリーゼはジュードに尋ねる。ジュードは何と無く目を逸らす。何てったて説明するのに疲れるのだ。
「ジュードさんのお知り合いの方は、あらゆる意味で個性的ですね」
その言葉に、ホームズはレイアを、レイアはホームズとヨルを見る。
「おたくら、2人もだからな……て、何だその驚いた顔は!どう考えたってそうだろ!」
信じられないと言う顔をアルヴィンに向ける、レイアとホームズにアルヴィンが突っ込む。
「イバル。お前には大事な命を与えた筈だ。何故ここにいる」
ミラはイバルに背を向けると腕を組んで、怒った様にいう。
すると、すぐさまミラの目の前に跳躍し、そのまま土下座した。
「ジャンピング土下座……」
ホームズは思わずこぼす。
「わたし、始めて見たよ……」
「そう?おれは、割と見たよ。母さんに『許してくれ〜』て。死ぬ気でやっているのを」
「なにしたの?」
「泥棒。母さんの商品に盗みを働いた連中は、皆一様にそれで許しを請うていたよ」
「………突っ込まないでおくよ」
ボソボソとホームズとレイアは口に手を当てながら話している。
「む、村の守りは忘れておりません。お預かりした物も、誰も知らぬ場所に隠し、無事です」
アルヴィンの目が少し、鋭くなる。
それを見逃すヨルではない。
(ほう……腹に一物と言う奴か)
残念ながら、ホームズはイバルの方を見ていて気付かない。
「しかし、この度はことのような物が届いたのです」
そう言って顔を上げず、イバルは、手紙をミラに渡す。
ミラは手紙を読み上げる。
「『マクスウェルが危機。助けが必要。急がれたし』」
「突然、俺の元にこれだけが届けられ、ようやくミラ様を見つけ出したのです」
そして、顔を上げ、ホームズとヨルを睨む。
「そしたら、案の定伝説の化け物を連れた愚か者がいる……」
突然話を振られたホームズはヨルの方を見る。
「伝説の化け物だってさ」
「愚か者だってな」
お互いがお互いを馬鹿にする様に言うとそのまま、掴み合いが始まった。
「やめなよ……」
レイアは呆れながら止める。
ジュードは頬が引きつるのを感じながら考える。
「誰だろう?こんな事をしたの?」
「さてな……」
ミラは、顎に手を当て少し考えた後そう答える。
「どちらにせよ、間違いだ。危機など訪れていな………」
ミラは、イバルの後ろを見て固まる。
ミラの視線の先には、イバルの後ろから土煙を上げ、猪の様な魔物が真っ直ぐに突進して来ていた。
「逃げろ、イバル!」
そう叫ぶとミラは横によけた。
しかし、ミラの突然の言葉に何とか立てたイバルは、そのまま無様に引かれていた。
その魔物は、イバルだけでは満足せずに、ミラ達一行にも襲う腹づもりの様だ。
ミラ達の方に向き直ると、そのまま直進してきた。
「バッチリ訪れてるじゃないか、ミラ様」
ホームズは顔の引きつりを感じながら、言う。その魔物はデカイことこの上なかった。
「ふむ。これが『嘘から出た真』と言う奴だな」
「賢くなったようで嬉しいよ」
そう言って、再び突進を始めている魔物を見る。
「お前の旅立ちは、いつも幸先が悪いな」
「基本的に、その八割は君のせいだよ。ヨル。」
イバルに殴られたのも、ジュード達に殺されかけたのも、全部ヨルが喋った事が原因だ。
船酔いをし、イバルに殴られ、挙句、魔物に襲われる………
「神様ってのにおれは、どうも嫌われてるみたいだね……」
戦いのゴングが高らかに鳴り響いた。
増やせ!レパートリー!
でも、メンドくさい………
そんなところをいつも行ったり来たりしています
では、また二十九話で( ´ ▽ ` )ノ