メンドくさい子の実力や如何に!!
てなわけで、どうぞ
「ちゃっちゃっと片付けるわ」
ローズは、ニヤリと笑い、二刀を構える。
「魔人剣・双牙!」
二つの刀から、斬撃が二つ発生し、ランドーゴブリンを捉える。
ローズの攻撃を食らったランドーゴブリンは、動きを
止める。
ローズは、一気に間合いを詰めると、右の刀で薙ぎ払い、魔物に一旦背を向ける。そして、振り返りざまに左のもう一刀で、斬りつける。
「おお、おお。おたくの幼馴染みエラく張り切ってるじゃないの」
アルヴィンは感心する様にホームズに言う。
「そうだねぇ。……まあ、彼女だけじゃないけど……」
そう言って他の連中に目を向けるホームズ。
皆各々の技をぶつけている。
特に、
「『ネガティブゲート!』」
エリーゼとティポのコンビの精霊術は、圧巻だ。
「……やっば連れて来て正解だよね」
ホームズは、ボソッと言う。
「そりゃあ、なあ。我らのお姫様を甘く見てもらっちゃあ困るぜ」
アルヴィンのセリフにホームズは、肩を竦めて答える。
アルヴィンは、それを見てホームズに言う。
「さてと、俺らも行きますか。仕事ってのは、信用が第一だからな」
アルヴィンが、いたずらっぽい笑みを浮かべるとホームズも同じ様な笑みを浮かべる。
「……報酬分は働くのが、プロってもんだねぇ」
「そうゆうこと。話が早くて助かるよ」
そう言うと、ホームズとアルヴィンは駆け出した。
「ジュード!この子弱点は?」
「火だよ。ついでに言うなら、精霊術も使うよ」
「なるほどね」
ホームズは、走りながら呟く。
ランドーゴブリンは、今まさに精霊術を発動させようとしていた。
「ヨル、君の出番だよ」
「言われなくても……な」
一言そう言うと、ヨルは巨大な生首になり、精霊術を丸呑みした。
「倍にして返す!ヨル!」
「やかましい!命令するな!」
悪態を尽きながらもヨルは、黒い球を吐き出す。
それは、ホームズは、蹴り飛ばし黒い煙のような、影のようなものを靴に纏う。
そのまま勢いを殺さずに、ランドーゴブリンの顔面に回し蹴りを叩き込む。
「グゲェ!」
大きく吹き飛んだランドーゴブリンは、そのまま数頭を巻き込んで倒れる。
ふぅっと一息吐いたホームズの後ろから、もう一頭が近づいて来る。
「ヴァリアブルトリガー!」
アルヴィンは、その魔物を察知すると、ホームズに向かって弾丸を放った。
ホームズは、それを首をふってよける。ホームズに当たらなかった弾丸は、今にも飛びかかろうとした、ランドーゴブリンの顔面のど真ん中に当たる。
突然の死角からの攻撃にランドーゴブリンは、大きく後ろに吹き飛ぶ。
「……随分と危ない攻撃をするじゃないか、アルヴィン」
「よく言うぜ。余裕綽々でかわしやがって」
「髪の先焦げたんだけど……」
ホームズは、耳の横の髪の毛を見る。いつもの茶髪が少し黒ずんでいる。
「まあ、無事だったんだから、いいだろ」
「まあね……」
ホームズは、ため息混じりに言うとジュードとミラを見る。
「後は頼んだよ、お二人さん」
ジュードとミラが
「任せろ!行くぞジュード!」
「分かった」
みんなが一箇所に集めたランドーゴブリンの中で、 2人は背中合わせで構える。
2人を中心として、段々と温度が上がっていく。
「「炎穿陣!」」
そして、巨大な炎の円陣が、現れる。
炎が弱点のランドーゴブリン達は堪らずに倒れていった。
円陣が、消える頃立っている魔物は一匹もいなかった。
「お疲れ様」
ホームズは、微笑みながら2人に言う。
「いやあ、危なくなったら出て行こうかと思っていたが、そんな心配なかったな」
ユルゲンス達もやって来た。
ティポは、ふわふわとユルゲンスの前にやって来る。
『あったりまえだよー。えっへん』
ティポは、大威張りだ。
「ははは、すまない。君を見くびっていたようだ」
ユルゲンスのこの一言にティポは、不服そうだ。
『僕だけー?』
「ハハハ。誰が見たってそうだよなあ」
よせば良いのに余計なことを言うアルヴィン。
そんなアルヴィンにエリーゼは、ご立腹だ。
「むー。私の友達バカにしないでください」
「ごめんごめん」
アルヴィンは、ニヤニヤ笑いながら謝る。誠意と言うものが全く感じられない。
「だが、それだけ厳しい戦いなんだ」
一旦間を置くとさらに続ける。
「かつては、部族間の優劣を決めるために殺し合うまで戦っていた大会だ」
「え〜!?」
レイアが、驚きの声を上げる。
「今は大丈夫。現ア・ジュール王が、その制度を禁止したからね」
「ア・ジュール王いいひとー」
ティポが、見た事もないア・ジュール王を褒める。
「それじゃあ、本戦は明日だ。宿の手配をしたから、ゆっくり休んでくれ」
そう言われ、ジュード達一行は、宿を目指す。
「ミラ、ちょっと……」
ホームズは、列から外れてミラを小声で呼ぶ。
「何だ?」
「アルクノアが動いているらしい」
「アルクノアが?」
「うん、だから、気を付けておくれ」
ミラは、無言で頷く
◇◇◇◇
「ぶふぁ、いいお湯だった。そして、疲れた〜」
ホームズは、風呂から上がり、部屋に着くとベッドに倒れこんだ。
「ホームズ、大変だったね……」
ジュードは、同情した様に言う。
ローズには、出会い頭に蹴り飛ばされ、マーロウとやらには拳骨を落とされ、そして、最終的には、返り討ちに合う。
今日は災難としか言い様がない。
まあ、八割方自業自得なのだが……
「このまま寝れそう」
「ちょっと、まだ寝ないで」
ジュードの言葉に不服そうに目を開けるホームズ。
「なんでさ?」
「アルヴィンが、居ないんだ」
「別にいいだろう。ガキじゃあるまいし」
ホームズは、布団にしがみ付く。
「明日の打ち合わせとかもしないといけません。なので……」
「なので?」
ホームズは、ジュードの言葉を引き継いだローエンに聞く。
「探してくれると助かるのですが……」
「……やだなぁ。というか、迷っちゃうかもよ。おれ、ここ十年この街に来てないんだもの」
「そこのところは心配いらないでしょう。貴方は迷わずに私達と合流したのですから。記憶には残っていると思いますよ」
ローエンのもっともな言い分に、屁理屈を封じられたホームズは、ため息を一つ吐くとベッドから立ち上がった。
「行くよ、ヨル」
「雇われの身は辛いな」
馬鹿にする様に鼻で笑ってヨルは言う。
「うるさい」
髭を髭を引っ張るとホームズは、部屋を出て行った。
◇◇◇◇
「ホームズ。ローズと買い出しに行って来て……て、ホームズどこ行ったの?」
ちょうど入れ違いで、レイアが入って来た。
「ホームズなら、アルヴィンを探しに行ったよ。ていうか、レイア、また、変な事考えてるでしょ」
「………」
「……目をそらさないの」
ジュードは、呆れている。
◇◇◇◇
「さてと、アルヴィンはどこかな。ヨル、なんか気配とかで探せない?」
「奴に
アルヴィンには、恐らくないだろうと言うのがホームズの結論だ。
「地道に探すしかないか……」
一体何度吐いたか、分からないため息を吐くと歩き始めた。
すると、橋の上でキセルを吹かしている、マーロウを見つけた。
「マーロウさんじゃないですか、何してるんです?こんなところで?」
「見ての通りだ」
そう言って煙を吐く。
「お前らこそ、なにしにきた。リベンジか?」
「してもいいですけど、今回はその為にきたわけじゃないです」
ホームズの言葉にマーロウは、くくくっと面白そうに笑う。
「相変わらず、可愛げのねーガキだな」
「ガキじゃないって言ってるでしょう」
ホームズは、不機嫌そうだ。
一旦深呼吸すると、ホームズはマーロウに尋ねる。
「人を捜してるです。コートを来た大男で、髪の毛が、こんな感じになってる奴見ませんでした」
身振り手振りで、アルヴィンの髪型を再現するホームズ。
マーロウはキセルを咥えている。そして、
「見たぞ。そいつなら、さっきあの家に入って行ったぞ」
有力な情報をくれた。
「サンキュー。助かりました」
そう言ってホームズは、マーロウのキセルの指した方向に歩き出した。
途中まで、行くとくるりと振り返る。
「これで、ローズにおれの事を喋った分は、ちゃらにしてあげますよ」
「へいへい。わーったから、とっと行って来い」
手でシッシッとやるとマーロウは、再びキセルを咥えた。
◇◇◇◇
「ここかな?」
ホームズは、恐る恐ると言う感じでノックをする。
「どちらさん?」
アルヴィンの声が聞こえる。
「……えーと、ホームズだけど」
「……ま、入れ」
少しの間が有ったが、アルヴィンが招き入れてくれた。
「失礼しまーす」
ホームズは、恐る恐る部屋に入る。
「あら、ユリウス君。お久しぶり」
ベッドで寝ている女性がホームズに話しかけてきた。
「いや、おれ、ホームズ……」
「待っててね、今ピーチパイを焼くから」
そのくせ、ベッドから起き上がる気配がない。
ホームズは、気付いた。
この女性が普通の状態では、ない事に。
「アルヴィン。この人は……」
「俺のお袋。今日はまだ安定してる方だ」
ホームズは、促させれて椅子に腰掛ける。
ヨルは、その女性を眺めている。
「治る見込みは……なさそうだな」
「さすが、ヨル。言いづらい事をはっきり言うねえ」
アルヴィンは、力無く笑う。
「もう、俺の顔も分かりゃしない」
アルヴィンのその言葉にホームズは、やっと口を開く。
「……原因は、やっぱりリーゼ・マクシアに閉じ込められた事かい?」
アルヴィンは、ホームズの言葉に少し笑みを浮かべる。
「やっぱ気付いてたか。……いつからだ?」
「1番最初に君と戦った時だよ。あの時、君が使っていたのは、エレンピオスにある武器だよね」
「正解」
「それと、今言っていた、ピーチパイ。あれは、エレンピオスじゃ、割とポピュラーな家庭のお菓子だ。そうだよね」
「正解」
「証拠と言うには不十分だけど、確信を得るには十分だよ」
ホームズは、そう告げる。その口調には、誇らし気なものなどなに一つない。
一歩間違えれば、自分の母親もこうなっていたのだ。
他人事ではない。
「さすが。ジュード君程じゃないけど、なかなかの名探偵っぷりだ」
アルヴィンは、からかう様に言う。
「ホームズの名前は伊達じゃないさ」
ホームズもいつもの様に軽口を返すが、いつもの覇気がない。
アルヴィンは、ポツリポツリと話し始める。
「俺達はジルニトラに乗っていた。そして、まあ、知ってるとは思うが、事故に巻き込まれ、リーゼ・マクシアに閉じ込められた」
ホームズとヨルは黙って聞いている。
「お袋は、帰りたいと願っていた。詳しい事は省くが、段々と心を病んで行って今はこのざまだ」
アルヴィンの話を聞いてホームズは、一つ尋ねる。
これは、絶対に尋ねなければならない事だ。
「エレンピオスへの帰り方、君は知ってるよね」
現在分かっているのは、ミラを殺す事だ。
「……まあな」
アルヴィンは、何の感情も出さずに言う。
ホームズは、そんなアルヴィンを真っ直ぐに見据える。
「おれは、君の事を重要な戦力だとおもってるし、仲間だと思っている。前はともかく、ね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
笑いながら、言うアルヴィン。しかし、目は笑っていない。
どうやら、アルヴィンは次にホームズが、何を言いたいか、予想できてるようだ。
ホームズもその事は、察している。
「……」
「続きは?」
アルヴィンから、感じる威圧感は、いつもの比ではない。
恐らくこのセリフは、ホームズ自身にも覚悟の必要なセリフだ。
だからこそ、彼にも言わねばならない。
薄暗い部屋の中で、ホームズの目には強い覚悟の炎が宿る。
「君はおれの、いや、おれ達の敵だ。そのぐらいの覚悟を決める事だね」
その時ホームズの威圧感は、普段からは、想像も出来ないものだった。
しかし、アルヴィンは、涼しい顔をしている。
コートの懐に手を入れる。
銃を警戒し、身構えるホームズ。
「そう、身構えるなよ。ただ、届けものを渡すだけだ」
そう言って、手紙を一通だす。
その手紙をホームズに投げてよこす。
ホームズは、宛名を見ると。渋い顔をする。
ヨルも目を見開いている。
「こいつ……!」
「マジかい……」
そして、手紙を読む。顔が強張っていく。
アルヴィンは、少し笑い、ホームズに言う。
「お前も覚悟を決めといた方がいいんじゃないのか」
ホームズは、手紙を読み終えると丁寧に引き裂いてバラバラにする。
「……考えて置くよ」
そう言って、ホームズは立ち上がる。ドアのノブに手をかけ少し止まる。
「………と、そうだ。明日の打ち合わせをするから、宿に早く来ておくれ、アルヴィン」
さっきまでの調子とは、打って変わって軽い調子で言う。
「了解。俺もそろそろ出るから、家の前で待っていてくれ」
アルヴィンは、家というとき少し自嘲気味に笑っていた。
なにせ、ここは、本当の家ではないのだ。
ホームズは、それにはあえて気付かないフリをする。
「分かった。それと、今日の事はなかった事にするよ。まだ、君は行動を起こしていないし、それに………」
「それに?」
「それがお互いの為だろうからね」
そう言ってホームズとヨルはアルヴィンの家を後にした。
ホームズ達が部屋から出ると、アルヴィンは、荷物を纏め、振り返る。
「じゃあ、行って来るよ。母さん」
返事は、もちろん返ってこない。
アルヴィンは、家を後にした。
実力、よくわからないですね………
まあ、そのうち活躍するでしょう。
では、また、三十四話で( ´ ▽ ` )ノ