1人と1匹   作:takoyaki

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三十四話です。



大会前夜ってことで


どうぞ


ガールズトーク
目は口以上にものを言う


「ちぇ、ホームズいなかった」

レイアは、口を尖らせながら女子部屋に帰ってきた。

ローズは、そんなレイアを不思議そうに見る。

「レイア、ホームズに何か用でもあったの?」

「んー、私がっていうより、ローズかな?」

「私?」

ローズは、ますます意味がわからないと言う顔をする。

「うん。ローズとホームズで買い出しに行ってもらおうと思ってたんだけど………」

『わーお、デート?』

ティポは、ニヤリと笑いながら言う。

「デ、デ、デ、デ、デー………」

顔を真っ赤にして、手をブンブン振りまわす。

「落ち着いてローズ!別にそこまで深い事は考えてないから!」

レイアは、ローズに深呼吸をさせる。

どうやら落ち着いた様だ。

レイアは、咳払いをすると話始める。

「なんかさぁ、ローズ……ホームズとろくな会話してないでしょ」

「ゔっ……」

殴って、蹴って、悪態ついての大騒ぎだ。

「ふむ、久々に会えて嬉しいのだが、それと同じくらいに怒りと照れが来て、嬉しい気持ちを出せないのか」

「………いつになく的確だね、ミラ……」

余りにも的を得た答えにレイアは、驚いている。というかそれをペラペラと喋るミラに引いている。

「………」

図星の様だ。

その証拠にローズの顔は、ゆでダコの様に真っ赤になっている。

「だからね、二人で買い出しに行ってもらって、少しは、わだかまりを溶いてもらおうと思ったんだけど」

「肝心のホームズがいないと」

「そうなんだよねぇ」

レイアは、ため息を吐く。

「き、気持ちは、有難いんだけど………その、レイアは、自分の事をどうにかしたら、例えばジュードとか」

「別にローズと違って、殴ってもないし、蹴ってもないし、悪態もついてないもん」

心を的確に抉られるローズ。

「言い返す余地がない…………」

本当はローズだって、出来れば仲良く話したいのだが、

「何で上手くいかないんだろ………」

「まあ、どっちもどっちだと思うけどね」

どう考えても二人のせいだ。

そんな事を考えているとエリーゼがおずおずとローズに尋ねる。

「あの………ホームズとローズはどんな出会い方をした………んですか?」

「え?」

ローズは、明らかに困った顔をする。

「えーっと、気になる?」

「とても!!」

「何でレイアが即答するの………というか知ってるでしょ」

レイアは、ホームズ(・・・・)から話を聞いている。

けれども、

ローズ(・・・)からも話を聞きたいな」

ローズは、ますます困った顔をする。

そして、ミラの方を見る。

「私も是非知りたいのだが……」

誰も止める人はいない。

もう、ローズは諦めた。

「………分かったわ。それじゃあ、話すわね。出逢ったのは、もう、十年は前の話よ」

ローズは、ため息を吐きながら話し始めた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

噂は、まあ、聞いていたわ。

霊力野(ゲート)がない落ちこぼれ、何をしたってやり返さない言い返さない、まさにストレス発散の道具って。

私はさ、何か気に食わなかったのよ。

自分よりも下の奴を見て安心しようとする奴も、それに何の反抗もしようとしない奴も。

だから、一言言ってやろうと思ってあっちこっち探し回ったの。

そうこうしてるうちに、だんだん情報が集まってきてね、何とそいつが男で年上だって事を知ったの。

子供にとって、年上の存在って大きいでしょ。

私はますます気に食わなかったわ。

だって、自分より年上の男がメソメソしてるだなんて、ね。

でもね、いくら探しても見つからないの。

地の利は、こっちにある筈なのにね。

本当に不思議なくらい見つからないのよ。

………て、レイア何か知ってるみたいね……後で教えて。

ゴホン、話を戻すわ。

まあ、そんな日々が続いたある日よ。

魔物の大群が街に押し寄せるなんて大騒ぎが起こったの。

原因は、ホームズをいじめようと街の外を探していたら、うっかり魔物の巣をつついたらしくてね、怒った魔物はそのままこの街に狙いを定めたらしいわ。

その話を聞いた、一人の子供は、直ぐに駆け出した。

街の外に出ようとしてたみたいだから止めようとしたんだけど………直ぐにみえなくなっちゃった。

あの時は、本当に怖かったわ。

それと同時に罰だと思った。

だって、そうでしょう。

この一件は、ホームズをいじめてさえいなかったら、何も起こらなかったのよ。

ホームズをいじめ続け、そして、それを黙認し続けたから、こんな事になったの。

それをやらかした馬鹿どもは、最後まで往生際が悪かったわ。

ホームズが、外に逃げたからこんな事になった。

ホームズが、いじめられてる時に抵抗すれば俺たちはいじめをやめたってね。

流石に大人達も馬鹿じゃないから、全部無視していたけどね

それから、いつまで経っても魔物が来る様子がない。

これは、おかしいってことで大人が一人様子を見に行ったの。

そして、直ぐに戻ってきた。

 

『魔物が全滅してる!』

 

みんな耳を疑ったわ。

嘘を言っているんだとみんな思って外に出て見に行ったの。

 

 

私ももちろん見に行ったわ。

 

 

そしたら、そこには、ありとあらゆる魔物の死体が山の様にあった。

 

何が起こったのか、それを説明できる奴は、一人もその場には、いなかった。

 

何だか、とても信じられなくてね、大人達も一生懸命まだ生き残りがいないか探していたんだけど、結局見つからなかった。

 

 

そこでようやく私達は助かったんだ、て自覚できた。

みんな安堵して、そして、嬉しそうに帰っていったわ。

 

その次の日からまた、懲りずに奴らは、ホームズいじめを再開したわ。

でも、そのすぐ後に変な噂が流れ始めたの。

石をホームズに投げたんだけど、一個も当たらない。いや、正確に言うと肩にいる黒猫が全部弾いている、て噂。

馬鹿馬鹿しいと思ったわ、色んな意味で。

そんなある日ね、街の裏通りを歩いていると、膝を抱えて地面に顔を向けている男の子がいたの。

子供用のポンチョを広げて微動だにしなかったわ。

心配になった私は声をかけようとしたの。

すると、多分向こうも気配を感じたんだろうね。

突然頭を上げたわ。

その時、今にも泣きそうな顔で、私を見ていたわ。

一発で分かったわ。こいつがホームズだって。でなかったら、あんなに街の人間に怯えないもの。

でね、その時ホームズと目があったんだけど、なんて言うか、こう、びっくりしたのよ。

 

 

なんて、綺麗な碧い目だろう、って。

 

 

今まで言うつもりだった文句も、

 

説教も全然出て来なかった。

 

 

そんでもって、ポロっといっちゃったんだ。

綺麗な碧い目だね、って。

そしたら、ホームズ、すっごい嬉しそうな顔をして言うんだよ。

『本当!?』

頷くととても嬉しそうに笑ってね。

ほんと、今じゃ考えられないくらいとても綺麗な笑顔なの。

『嬉しいなぁ、君が初めてだよ。ぼくの目の色を褒めてくれたのは。みんな、殆どぼくの目を馬鹿にすることしかしないからねぇ』

そこで、ようやく、こいつに言ってやろうと思っていた言葉を思い出して、口を開こうとしたら、

『珍しい人間もいるものだな』

肩に乗っていた黒猫、そう、ヨルが口を開いたのよ。

驚いて口をパクパクさせたのを覚えてるわ。

みんなも経験あると思うけど、あの可愛らしい外見から出て来るのは、信じられなくらい低い声なんだもの、そりゃあ、驚くってもんよ。

『ヨル、人前で喋るなって言ってるだろう』

『言ってたな、そういえば』

しれっと言うヨルに、ハア、とため息を吐くとホームズは、全部説明してくれたわ。

 

『じゃあ、あの魔物は、ヨルが全部倒したって事?』

『うん』

『その代わりにヨルに取り憑かれたって事?』

『うん』

『あなたが、ころされると、ヨルが死んで、ヨルがころされると、あなたが死ぬと?』

『うん』

『…………バカじゃないの』

『ひどいなぁ。少しは、年上をうやまう気持ちを持ちなよ』

ホームズは、ヘラヘラと喋っていたわ。

友達なんて、一人もいない。

味方だって、一人もいない。

そんな所を自分の人生を犠牲にしてまで守ったなんて、理解できなかった。

私がそれをやるならまだ分かるのよ。

だって、ここは故郷だもの。

友達もいる、家族もいる。

それを守るってならまだ、分かるでしょ?

だから、ホームズの行動がとても不思議だった。

だから、問い質したんだけど、ホームズは、答えてくれなかったわ………

『まあ、別にいいじゃないか、そんなことは』

て、感じでね。

余裕で想像がつくでしょ。

幼心に多分答えてくれない事が分かったんだろうね。

だから、別の事を言ったわ。

何で奴らにやり返さないのって………

 

ホームズは、一瞬止まったわ。

『ふふふ、はは、ハハハハハ!!』

その後は、すぐに大笑いしだした。

それは、本当に面白そうに、

 

そして、耳障りに。

『ふふふ………何故やり返さないかだって?決まってるだろう、やり返せないからだよ!君、確かあの大通りの所に店を構えている所の娘だろ』

ホームズは、指を向ける。

『ぼくは、商人の息子だ。商人ってのは、お客様第一なんだ。君、まさか、商人の娘のくせにそんな事も知らないのかい?

立場を自覚しないバカほどたちの悪いものはないね』

カチンと来たね。

どうして、自分がここまで言われなくちゃいけないのか、納得が出来なかった。

そう思った時には、もう遅かった。

ホームズの顔面を渾身の力を込めて殴っていたわ。

ホームズは、顔面を殴られたってのに、顔色一つ変えやしなかった。

逆にあの碧い目からは、先ほどまでのキラキラとした輝きが消えていたわ。

あの、人の事を諦めきったあの顔。今でも、思い出したくないわね。

あれが、初めて、心底、人の事を怖いと思った瞬間だったわ。

 

『………ま、いいや』

 

ホームズは、そんな私をバカにする様に見るとそう呟いて歩き始めたわ。

 

怖かった。でも、気付いたら、ホームズに掴みかかっていたわ。

 

 

『どうしてやり返さないの!殴ったんだよ!痛いでしょ?だったら、それ以上に痛い思いをさせれば、もう、殴られる事もない!

目の色をバカにされたなら、殴ってしまえばいい!

そうすれば、目の色をバカにされることだってないでしょ!』

ホームズは、つまんなそうに私のの事を見ていたわ。

『きみは、本当に女の子かい?言ってることも、やってることもめちゃくちゃだ』

的外れな事ばっかり、言ってるからもう一発殴ってやったわ。

ホームズは、拳を受けたまま冷めた様な目を私に向けて口を開いたわ

『………ま、好きにやっていておくれよ。きみの気の済むまで……』

最後の最後まで、本当に腹が立ったわ。

お望み通り、ホームズを思い切り殴り飛ばした。

やるべき事をやった私はそのまま路地裏を後にしたわ。

 

 

 

 

これが、ホームズとの出会いの話。

 

どう、満足出来た?

 








悪い子じゃないんだけどなぁ………
熱い子なんです。





では、また三十五話で( ´ ▽ ` )ノ






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