1人と1匹   作:takoyaki

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三十七話です



一週間前に部屋を片付けた筈なのになぁ………


てなわけで、どうぞ


飲んだら飲まれる

『全身ずぶ濡れのくせに何だか嬉しそうだね。何か良い事あったのかい?』

 

ローズがこいつの友達になった日、母親の元に帰るとあいつは、そう言った。

因みに、基本的に宿屋だ。

まあ、あの母親は、こいつがいじめられてる、いや、虐められていると言ったほうが正しいか………とにかく、その事は知っていた。だから、ずぶ濡れの理由が水遊びじゃない事ぐらい察しがついていたのさ。

ホームズは、嬉しそうに頷いていた。

『うん!僕ね、友達が出来たんだ。この街で初めての友達だよ!』

『へぇー、それは是非とも詳しく聞きたいね。もうすぐ夕飯だから、着替えておいで。その時じっくり聞こうじゃないか』

ホームズは、満足そうに頷くと部屋を出て行った。

それを確認すると、部屋に取り残された俺にホームズの母親は、尋ねた。

『さて、君にこんな事を聞くのもどうかと思うけど、本当にそいつはホームズの友達かい?』

俺たち友達だろ、というセリフで、ホームズがどんだけろくな目に会わなかったか、ホームズの母親はよく知っていたからな。

『本当に俺に聞いてもしょうがないな………あの小ムスメの言葉を借りるなら、金と友達になりたい訳ではないそうだ』

俺の言葉を聞くとあの母親は、とても満足そうに笑っていた。

『なるほど。その子は、確実にホームズの友達だねぇ………って、ヨル、君今何て言った?』

『本当に俺に聞いてもしょうがないな』

『その後』

『友達になりたい訳ではないそうだ』

『行き過ぎ。というか、そこだけ聞くと、えらい騒ぎだねぇ………じゃなくて!その前』

『小ムスメの言葉を借りるなら』

『そこ!』

『何だ突然デカイ声を出して』

『小ムスメって………相手は女の子かい?』

『ああ』

俺の言葉を聞くと、あの母親は、ニヤニヤ笑い出したんだよ。

『これは、是非とも聞かないといけないね………フフフ、楽しみだねぇ、夕飯』

そこのムスメは、知ってるだろうが、ホームズの母親は常に眠そうな目をしている。

その目をかつてないほど輝かせているんだ。達が悪い事この上ない。

 

 

『かあさん?着替えたよ』

俺が人間に恐怖を覚えていると、ホームズが、ずぶ濡れになった服を着替えてやって来た。

『よく来た。我が息子よ!さあさあ、席に着いてゆっくり、そして、じっくり話を聞こうじゃないか』

『どうしたの、かあさん、いつになくテンションが高いんだけど……』

ホームズは、少し引いていたな。

『さあさあ!』

『わ、分かったけど……』

そう言ってホームズは、その日の出来事を話し始めた。

 

 

 

 

『なるほど。聞けば聞く程、いい子じゃないか。是非とも仲良くしたまえよ』

ホームズの話を聞いて、あの母親は、まずそう言った。

『当たり前だよ』

対するホームズもノータイムで返していたな。

『さて、友達が出来てテンションの高いホームズ君に幾つか、言っておこう』

そう言ってホームズ母は、話し始めた。

『君、いじめられた時やり返さない理由をはっきりと言わなかったね、何故だい?』

『何だか母さんのせいにしてるみたいで、やだったから』

『どうして、目の色を褒められると嬉しいのか、理由は、言ったかい?』

『ううん』

ホームズは、首を横に振っていた。

『何故だい?』

『だって、向こうが多分気を使う事になっちゃうもん』

ホームズの父は、死んでいる。その事から説明せにゃならんからな。

ホームズ母は、食事の手を止めホームズを見ていた。

『君はそう言って、色々な事を秘密にする癖がある。前にも言ったろう、その性格は、敵を作ることは容易くとも友を作る事は難しいって』

『うん………』

ホームズは、少し俯いている。

そう、もしかしたら、自分の勘違いかもしれないのだ。自分の母親は、その事を言おうとしているのではないか、と不安になっていたのだろう。

『でも、もしかしたら、そんな君と友達になってくれる人がいるかもしれない。今回みたいにね』

ホームズ母は、ニヤリではなく、にっこりと微笑んだ。

『だから、君はそいつの力になってやるといい。商人(わたし)の息子として、借りは返しておかないと、ね』

ホームズは、顔を輝かせて俯いていた顔を上げた。

『うん!』

あの母親は、満足そうに微笑むとホームズの頭を撫でた。

ホームズは、少しくすぐったそうにしていたな。

『いい返事だ。さ、冷めないうちにとっと食べちゃおう』

そう言うと中断した食事を再び始めた。

 

 

その日は、そのまま風呂に入ってホームズはすぐに寝た。

まあ、お子様だからな。俺とあの母親は、起きていた。

『いやあ、嬉しい話だ。まさか、実の母親から見て、お世辞にも性格がいいとは言えない息子に友達が出来るなんてね。これは、飲まなきゃ』

そう言うと、カバンの中からワインを引っ張り出してきた。

『君も飲むだろ、ヨル』

『くれるなら、貰おう』

ワイングラス二つに、均等に酒を注いだ。

俺は、それを尻尾で絡め取ると、口元に持って行った。

『いつ見ても器用な尻尾だね。私も欲しいくらいだ』

『これ以上化け物になってどうする』

俺は未だに痛い腹を見る。そこにいるムスメには話したが、あいつは、俺の存在を知ると躊躇いも驚きもせずに、アイアンクローを決めて、腹パン決めてきたんだ

『フフフ、手加減して上げたんだから感謝しなよ』

『そりゃどうも』

俺の適当な返事に奴は少し笑うと、グラスに口をつけた。

一口程口に含むとそのまま飲み下す。

『しっかし、ここで友達が出来るとはね…………まあ、長くは持たないだろうけどね』

『……随分と悲観的じゃないか』

『私達を誰だと思ってるんだい?行商人だよ。別れが常の、ね。

それに、このまま二人が仲良くなればろくな事は起きないだろうね』

『……?』

『よく、分かってないようだね。彼らは、ホームズが絶望している所を見たいんだ。それで、溜飲を下げている。そんな奴に心強い味方が出来た………彼らがそれをヨシとすると思うかい?』

奴の説明で、ようやく納得が言った。

『………そういう事か。人間ってのは、相変わらずだな』

俺の言葉に奴は少し笑うとグラスのワインを飲み干して、再度注いだ。

『例によって私は、手だし出来ない。だから、後の事は君に任せたよ、ヨル』

『俺だって手だしは出来ない。というか、する気もない』

『つれない返事だねぇ……まあ、わかりきっていたけど』

『なら言うな』

『ものは、試しってやつさ。やりもせずに無理だ、なんて決めつける事程愚かな事はないからね』

そう言うと、グラスの中を一気に空にした。

そして、再び注ぐ。

『よく飲むな、明日どうなっても知らんぞ』

俺の言葉にグラスを煽る手を止めると、肩を竦めた。

『別に明日は仕事ないし。というか、君が人の心配するなんて、珍しいねぇ』

『心配じゃない、宣言だ。後でどうして何もしなかったとか言われても、俺は何も知らないという事だ』

俺の言葉に奴は不服そうに口を尖らせる。

『冷たいねぇ………ま、それはともかく、君も飲みなよ』

そう言うと俺のグラスになみなみと注ぎ込んだ。

『おい、まさか、もう酔ってんのか』

『まさか!わたしがこのていどでようわけないないだろ!』

普段以上に陽気になっていた、明らかに。

『のめのめ!そうすればどうにでもなるのさ、人生は!』

そのまま、俺はそれから、しばらく酒に付き合わされた。

 

 

◇◇◇

 

 

『──────っ頭痛ぇ』

翌朝、俺の目覚めは頭痛と共にやって来た。

『……酒臭い。何、君のんでたの?』

眠い目を擦りながら起きて来たホームズは、俺を見るなりそう言った。

『そこのオンナに付き合わされてな』

ホームズは、そんな風に言う俺と酔い潰れてグーすか呑気に寝ている母親を馬鹿にした様に見ると、昨日の晩の残りを食べ出した。

『今日は、どうするんだ?』

『うーん………ここにずっといてもなぁ……奴らが引っ切り無しにきて、宿屋さんに迷惑がかかるし………取り敢えず、これを食べたらどっか行くよ』

そんな会話をして、宿を出るとそこには………

 

 

 

 

『やっほー、遊びにきたわ』

 

 

虫取り網を持った小ムスメがいた。

 

『何してるんだい?』

『決まってるじゃない。虫取りに誘いにきたのよ』

まあ、ホームズは、呆然としていたな。

友達に遊びに誘われるなんて事は今まで一度もなかったのだから。

『いつまでぼーっとしてるの?』

『ま、ま、まって!今すぐ、虫取り網をとって来るから』

ホームズは、そのまま俺を放置して、虫取り網を探しに行った。

 

 

 

ホームズが来るのを待っていると、二日酔いのバカ女がやってきた。

『ゔー、あったまいたい。何かホームズが騒がしいみたいだけど、何かあったのかい?』

『虫取り網を探しに行った。こいつと遊ぶ為に』

俺が尻尾で小ムスメを示すと、さっきまでの眠そうな目が嘘の様に、輝いた。まあ、それでも眠そうな事には、変わりないのだが。

『そうか、君がローズちゃんか!いやぁ、嬉しいよ。あんな性格の悪い息子と仲良くしてるなんて。君が天使に見えてしょうがないよ』

そのまま小ムスメに抱きつくと高く抱き上げた。

『いや、あの下ろしてください』

『いいじゃないか!かわいい女の子を抱き上げる事が出来るのは母親の特権だゼ!』

『いや、貴方は、別に私の母親じゃないでしょ』

『もちろんホームズの母親よ〜』

会話が成り立たないホームズ母にげんなりした目で俺の方を見たが、取り敢えず無視しといた。

そんな事をしていると、どこから引っ張り出してきたのか分からない虫取り網を出してきた。

『準備出来たよ!さあ、行こう』

『………そう言うわけです。下ろしてください』

『はいはい』

ローズを降ろすとホームズの方を振り返る。

『ほら、遊んでおいで。魔物の出ない範囲でね』

最後までにこやかなまま、ホームズ母は、二人を送り出した。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

『ホームズのお母さんさぁ、二日酔いだった?』

『うん。昨日ヨルとおさけを飲んでたみたいだから』

ホームズは、飛んでいる蝶を捕まえながら答えた。

『それで、あのテンションか………恐ろしいわね』

適当に虫取り網を振ってる為虫に逃げられていたな小ムスメは。

気を取り直してもう一度網を構える。

『そういえば、貴方は普段何をして過ごしてるの?』

『基本的に、本を読んで過ごしてるよ』

ホームズは、再び蝶を捕まえる。

小ムスメも対抗するが、再びすかし、そのままもんどり打ってこけた。

ホームズがその様子を笑うとおもむろに地面に網を投げ捨てて、花をむしり出した。

『なにしてるんだい?』

『見てればわかるわ』

そう言うと、実に手際良く花をどんどん編んでいった。

『出来たわ。花の王冠』

『わー………凄いね』

そこには花で編まれた丸い輪っかがあった。

なるほど王冠とは、よく言ったものだと思ったのを覚えている。

ホームズの素直な賞賛に気を良くしたのか鼻を自慢そうに鳴らした。

『でしょ?私は女の子だもの。虫取りなんて、出来なくたっていいのよ』

じゃあ、何で虫取りにさそったんだ、と聞きたかったが、そんな体力が無かったので黙って聞いていた。

まあ、今なら分かるが、大方虫取りで勝てると思っていたのだろう。

『ま、それはともかく……それはあげるわ』

『いいのかい?』

『その為に作ったんだもの。友達だし、ね』

『………?、友達には、お金をあげるもんじゃないの?』

『………貴方が、普段どんな目に合っているのかが分かる言葉ね』

小ムスメは深々とため息を吐く。そんな様子をホームズは、不思議そうに見ていた。

『私からのプレゼント、嬉しくなかった?』

『ううん、嬉しかったよ』

『そう言う事。プレゼントって言うのは、友達って言うのは、そう言う事なの』

ホームズは、ローズの話にすこし首を傾げてから頷いた。

『……何となく分かったよ。ねえ、ローズ。それのやり方教えてよ』

『いいけど………どうして?』

『僕も友達にプレゼントをあげたいからね』

ホームズの言葉に小ムスメは嬉しそうに笑うと、

『………わかったわ』

と返事をした。

ホームズはそれから、興味深そうにローズの手順を見ていた。

その間もの影から見ている奴らに気づきもせずに。

 

 











花の冠、綺麗に作れる人を軽く尊敬します。


昔、挑戦して、悲惨なものが出来た身としては…………



ではまた、三十八話で( ´ ▽ ` )ノ

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