1人と1匹   作:takoyaki

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三十九話です。

蒸し暑いですね………



てなわけで、どうぞ


笑う門出に福来たる

『女の子と遊んだにしては、随分と浮かない顔をしてるじゃないか』

ホームズが帰るとあの母親は、開口一番にそう言った。

ホームズは、それに曖昧に返事をするとそのまま寝室へと消えた。

俺がその場に残っているとホームズ母は、尋ねてきた。

『何があったんだい?』

隠す事でもないので、全部話した。

 

 

 

 

『なるほど、ホームズがそんな事をね………』

飯を食べながらあの母親はポツリとこぼした。

『我が息子ながら、難儀な性格してるよ、まったく………差し出された手なんだから感謝してうけとっときゃいいのに』

『それは、あいつ自身が許さなかったんだろ』

『だろうね』

空席の奴の所を見ながら、ホームズ母は、言っていた。

『さて、夕飯を持っていってやろうかね。ヨル、君も来な』

『やだと言ったら?』

『君には、前足と後ろ足があった方が素敵だと思うけど?』

『へいへい』

ぴょんと肩に飛び乗ってホームズの部屋に行った。

返事がないので気になって入ってみると、そこには泣き寝入りしているホームズがいた。

『辛いだろうね』

『だったら、しなきゃいいだろうに………馬鹿な奴』

俺の言葉にホームズ母は、やれやれという風に肩をすくめる。

『君ぐらい割り切れたら楽だろうね』

ホームズの母親は、そう言うと扉を静かに閉めた。

 

 

それからの毎日は、いつにもまして、ホームズへのイジメは酷くなって行った。

 

当然といえば、当然だろう。自分の味方にあんな酷い暴言を吐いたのだから。

もう完全にこの街には、味方と言う味方は誰もいなくなったのだ。

そして、ホームズは、毎日の様にあの野原に行っていた。

野原に行くとホームズは、いつも花の王冠を編んでいた。

『………まだ、やるのか?』

ホームズは、黙って頷く。

恐らく、ホームズは花の王冠を作ることで、ほんの一瞬の楽しい、友達との記憶を思い出していたのだろう。

その証拠に奴は、花の王冠を編む時はいつも楽しそうに笑っていた。

それが、心の支えだったのだろう。

そんな日々が、一週間程続いたある日、いつもの様にホームズが、花を編んでいると、一人の女がやってきた。

余程ホームズは、驚いたのだろう。目を丸くして、肩を強張らせていた。

『そんな怯えなくても……』

女は呆れている。

霊力野(ゲート)があの小ムスメと似ているな………お前が例のあいつの変な姉か何かか?』

『正解と言いたくないよ………というか、本当に喋るんだね』

俺の質問にそう答えると、奴は、ホームズの向かい側に座った。

ホームズは、不思議そうな顔をしながらも、花を編んでいる。

『………へぇー、上手いものだね』

その女の賞賛に少し嬉しそうにすると、再び編みはじめる。

『さっき、貴方のお母さんから聞いたけど、明後日出発するんだって?』

ホームズは、頷く。

女も一緒になって花を編む。

『……ローズはね、あれからずっとふさぎこんでるよ』

一輪花を毟る。そして、編む。

『このまま、さよならしちゃっていいの?』

ホームズは、ほんの一瞬手を止める。しかし、直ぐに頷く。

『………そう。それは、少し寂しいな』

ホームズは、黙々と花の王冠を作り上げていく。

小ムスメの姉もそれに習う様に、作り上げる。

そして、完成させると、ホームズの頭に乗せる。

『さて、仕事があるから、そろそろ行くね。話せてよかったよ、ホームズ君』

そう言い残すと、その女は歩き出した。

『と、そうだ………ローズから、聞いたんだけど、貴方は本をよく読むの?』

ホームズは、黙って頷く。

『なるほど………じゃね』

その女は一人で納得すると、今度こそ、野原から去って行った。

『何だったんだ?』

俺の言葉にホームズは、首を傾げるだけだった。

 

 

翌日、つまり旅立ちの前日。

ホームズは、いつものようにいじめられた後、再びいつもの野原に来ていた。

 

 

『よう』

 

 

そこには、前日と違い厳つい男がキセルを咥えていた。

 

『………ヒマだなお前ら』

 

俺の悪態に、男はニヤリと笑う。

『驚いた。奴らの言ったとおりだ。お前らが、街を救った英雄達か』

 

一人で納得する様に男は頷いていた。

ホームズの怪訝そうな顔をしている。

『おいおい、忘れちまったのか?あの時、街の現状を説明してやったろう?』

その時、ホームズは、何か思い出した様だ。

その様子に満足すると、男は自己紹介をする。

 

『改めて、俺はマーロウ。街じゃ一応、幾つかの事を仕切っている。例えば、お前の母親の商売とかな』

そう言うと、ホームズの隣りに腰を下ろす。

 

『お前の今の立ち位置も聞いている。すまんな、何も出来なくて』

神妙な面持ちで、ホームズに謝罪する。

ホームズは、目を伏せて首を振る。

そんなホームズにマーロウは、一瞥をくれると口を開く。

『あのよ、ホームズ』

ホームズは、不思議そうな顔をする。

『後悔のないようにしろよ。お前らは行商人だ。今度は、いつこの街に来られるか分からない。下手をすればもう二度とこの街には、来られないかもしれない。だから、心残りのないように、後悔のないように、な』

そう言うと、頭をポンと軽く叩いて立ち上がる。

『……じゃあな』

そう言って、ホームズは野原に再び取り残された。

『………後来てないのは』

『私だろ』

俺の言葉を先読みしたかの様にホームズの母親がそこいた。

『こんな所で油売ってないで、とっと明日の用意したまえよ』

『お前こそ、仕事はどうした?』

『この私が、前日のギリギリまで、んなもんやるわけ無いだろう』

そう言うと、どっかりと腰を下ろす。

そして、花を毟り段々と編んでいく。

『…………辛いかい?』

ホームズは、その質問にゆっくりと首を横に振る。

ホームズ母は、やれやれという風にため息を吐く。

『君は本当に嘘が下手だねぇ。隠し事は、よくやる癖に』

ホームズ母は、王冠にしてはやけに大きめに輪を作っていた。

『辛いときは、辛いと言いたまえよ。そのために母親(わたし)がいるんだから』

そう言うと、花で作った輪をホームズの首にかけ、頭を撫でる。

 

 

それが、スイッチだったようだ。

 

 

ホームズは、堰を切ったように泣き出した。

大泣きも大泣きだ。

恐らく、ために貯めた感情が一気に溢れ出たのだろう。

ホームズは、ずっとこの街にいる間暴力に耐え、暴言に耐えてきたのだ。

そんな中、ようやく出来た友達を手放してしまった。

感情を中々表に出さないので、気づきづらいが、所詮は七歳のガキだ。

少し歪んでいても、それは変わりゃしない。

ホームズ母は、ホームズをずっと優しく抱きしめていた。

人間の事はよく分からんが、あれが母親という奴なんだろう。

 

 

この時初めて、俺はホームズが大泣きしているのを見た。

 

 

限界まで泣いた為、泣き疲れしたようだ。

そのまま、泣き止むとホームズは、草むらの中で寝息を立て始めた。

『やれやれ、世話の焼ける息子だねぇ』

ホームズの母親はそのまま寝ているホームズを背負うと街へと歩き出した。

『ほら、ヨル、君も帰るよ』

俺は黙ってそれにしたがった。

もう、しばらく、来る事は無いであろう野原を一度だけ振り返って。

 

◇◇◇◇

 

 

『さて、忘れ物は無いかい?』

翌朝、ホームズ達は荷物の点検をしていた。

母親の言葉にホームズは、コクリと頷いた。

『よし………』

カバンを背負い宿を出る。

そこには、キセルを咥えた男と、小ムスメの姉の姿があった。

『よう』

『どうしたんだい?』

ホームズ母の言葉に小ムスメの姉方が言う。

『お出迎えだよ。旅立ちは、賑やかな方がいいでしょ』

『そりゃあ、嬉しいね。ほら、ホームズも挨拶ぐらいしたまえ』

母親に促されて、ホームズはぺこりと頭を下げる。

ホームズの母親は、そんなホームズに少し苦笑いをする。

『まあ、頻繁には来ないけど、また、来るよ。その時はまたよろしく』

そう言うと、辺りを見回す。

『あれ、ローズちゃんは?』

『さあ?朝から見てないけど』

小ムスメの姉は、そう答える。

その言葉を聞いて、ホームズの母親は、意味深に笑う。

『ふーん……それじゃあ、またね!』

そう言って見送りの二人に手を振ると、最後に

『いってきます!』

と大声で、そして、笑顔で、出発の挨拶をした。

 

 

 

街を出ると、いつもの野原に辿り着いた。

『このルートで行くのか?』

俺の言葉に、あの女は、俺の方を向く。

『まあね、このルートで無いと雪山を超えたり、魔物と戦わなけゃいけなかったり、と結構厄介なんだよ』

俺の質問にホームズの母親は、そう説明した。

そして、再び正面の野原に視線を戻すと、少し目を丸くした後微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ホームズ、君のお客さんだ』

 

 

 

 

 

 

 

そこには、()ホームズの友人、あの小ムスメがいた。

 

 

 

ホームズが驚いて目をパチクリしている間に小ムスメは、そのままツカツカとホームズへと歩いて来た。

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

ホームズの唇に自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

何をされているのか、最初の方ホームズは、全く理解出来ていなかった。

しかし、段々と理解して行くに連れて顔を真っ赤にしていった。

小ムスメは、自分からしてきといたくせに、しばらくするとホームズを突き飛ばし、そのまま街の方向に歩いて行った。

ホームズは、そのままへなへなと座り込んだ。

『ふふふ、いいものを見せて貰ったよホームズ』

ホームズの母は、にやにやしながら、ホームズの側に落ちていた手紙を渡す。

恐らく突き飛ばす時に押し付けたのだろう。

ホームズは、渡された手紙を広げる。

 

 

 

《ホームズへ

昨日の夜、姉さんから、今回の件について話を聞きました。

あの野原での日の事です。

あの時、私は奴らから貴方を守りました。

この時、姉さんに言わせるとイジメのターゲットに私まで含まれる所だった、らしいです。

何故なら、ホームズをいじめるという、みんなの楽しみを私が奪う、空気の読めない奴になってしまったからです。

一回程度ならともかく、二回、三回と続けば、確実にあのクズ共の逆鱗に触れてしまう。

また、イジメられてる貴方をかばえば、奴らの中では底辺の貴方と同じ奴という風にも見られてしまう……そうです。

だから、貴方はあの場面で、ワザとああいう言葉を私に言った。

そうする事で、貴方と私が敵対関係にあると思い、また、ホームズを『折角の友達からの助けを訳の分からん理由で振り払い、そして、挙げ句の果てに傷付けたひどい奴』という評価することになります。

こうなる事により、ホームズをいじめる為の大義名分を奴らはさらに得る事が出来ます。

これらの結果、ホームズを庇ったという私の罪は奴らには、忘れ去られ、ホームズにだけ、イジメが集中する事になります。

そして、次いでに言えば、そこまで言われれば私は、貴方のことを傷付けたと思い近づきゃしない。

これにより、私の日常は守られたのだ、と言われました。

しかし、貴方のセリフは少しでも心当たりが無いと出て来ない台詞だったと私は姉に言いました。

すると、姉は、どこからともなく本を出して来ました。

姉に進められるがままに読み進めると、貴方の言葉と全くおなじセリフが出てきたました。

それが、昨日の夜の話です。

姉さんもホームズと私の事を考えて、この日に種明かしをしたと言っていました。

……正直貴方には、言ってやりたいことが山ほどありますが、それをするには少し時間がたりません。

何せ、これを書いている時、日付けが変わっていますから。

では、この辺で。

 

P.S

友達との仲直りの方法を姉さんから、教えて貰いました。

姉さんのにやけ面が気になりますが、取り敢えず、実行する事にします》

 

 

 

『……物の見事に騙されてるな』

先程の小ムスメの暴挙を思い出した。

どう考えたって、友人との仲直りの為の行動ではない。

因みに、小ムスメの姉の推理は、全て正解だ。

俺もあの母親も気づいていた。

だからこそ、俺は呆れたし、母親の方はホームズの行動を責めなかった。

そして、次いでに言うなら、ホームズがあの様な行動を取ることも予想済みだったそうだ。

どうすれば友達を守ることが出来るか、その答えに真っ先に辿り着くだろうと。

だから、酒を飲んでいる時、あの様な発言をしたのだ。

さすが、と思ったな。ま、言わないが。

後で聞いたのだが、キセル野郎もその事に気づいていたらしい。

『ま、所詮は6歳の女の子だからね。あれだけ頭が回れば、騙すことぐらい訳ないさ』

俺の事にそう返す。

 

 

 

 

そんな会話をしてる中、ホームズは、手紙をカバンにしまうと野原にあった物を掴み、あの小ムスメが歩いていった方向に走り出した。

当然、ホームズから離れられない俺もついていく。

 

 

『ここで待ってるよ』

ホームズ母は、カバンを置くと優しく手を振った。

ホームズは、振り返らず一直線に向かう。

 

『頑張れ、男の子』

 

 

そんな言葉が、ホームズには聞こえなかったようだが、俺には聞こえた。

 

 

 

 

 

しばらく走るとそこに小ムスメが一人でとぼとぼ歩いていた。

ホームズは、息を大きく吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ロ───ズ────!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣りにいる俺の鼓膜が、破れるんじゃ無いかと思うぐらいの大声で小ムスメの名前を呼んだ。

呼ばれた本人も驚いたようだ。肩をビクっとさせ、それから勢いよく振り返った。

小ムスメが振り返ると、ホームズは、手に持っていた物、花の王冠を奴に向かって投げる。

ホームズは、ここしばらく、ずっとそれを作っていたのだ。

宿に持って帰る訳にもいかなかったので、野原に放置していた。

その中でも一番出来が良いのをホームズは、奴に投げた。

小ムスメは、少し危なっかしかったが、どうにかこうにかキャッチした。

何でそれを渡したのか、俺は一瞬分からなかった。

しかし、ある場面を思い出した。

 

 

───『その為に作ったんだもの。友達だし、ね』

 

 

『………?、友達には、お金をあげるもんじゃないの?』

 

 

『………貴方が、普段どんな目に合っているのかが分かる言葉ね』

 

『私からのプレゼント、嬉しくなかった?』

 

 

『ううん、嬉しかったよ』

 

 

『そう言う事。プレゼントってのは、友達ってのは、そう言う事なの』

 

『……何となく分かったよ。ねえ、ローズ。その、花の王冠の作り方教えてよ』

 

 

『いいけど………どうして?』

 

 

『僕も友達にプレゼントをあげたいからね』────

 

 

 

『なるほど』

俺はようやく、ホームズの行動の意味が分かった。

小ムスメもホームズの意図を理解したようだ。

満面の笑みを浮かべている。

 

 

『また来るよ、ローズ』

 

 

ホームズは、そう言うと母親の元へと歩いて行った。

奴にしてみれば、後ろ髪を引かれる思いだったろう。

 

 

 

『まあ、寂しくないと言えば嘘になるけどね……僕は本当にいい友達を持ったよ』

 

ホームズは、そう微笑むと待っている母親に手を振った。

『別れは済んだかい?』

ホームズは、笑顔で頷く。

『それじゃあ、出発だ。君、いっきますは?』

『いってきます!』

 

『よし!』

 

こうして、俺たちは次の街へと歩き出した。

 

小ムスメにホームズなりの別れを告げて。

 

 

 

 

 

 






この場面ではこの曲を………なんて考えながら、というか、聞きながら書いています。


不思議とそうすると、気分が乗ってくるんですよ


てなわけで、この話にもイメージソングはありますよ(⌒▽⌒)

皆さんもぜひ、各々好きな曲を聞きながら読んでください。

もちろん、聞かなくてもいいですよ(笑)

では、また、四十話で( ´ ▽ ` )ノ

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