三人称より、戦闘描写に慣れない……
『絶対絶命になったら、どうするかって?どうしたんだい突然』
我ながら随分ぶっ飛んだ質問だったと今のホームズなら思えるが当時は、いたって真面目な理由があったのだ。
『あのね、さっききた、おきゃくさんのおおきなこどもがね、いっぱいのふりょうにかこまれて、ぜったいぜつめいだったけど、ぜんぶぶっとばして、ききゅうをだしたんだって。ぼくはどうすればいいかな?』
なるほど、と母は思った。気球をだした、というのは窮地を脱したという事だろう。そして、おおきなこどもというのは思春期真っ盛りの俺強いんだぜアピールをしている痛い奴のことだろう。自分にもそういう経験があるから、それが悪いとは言わないが、自分の子供に変な事を吹き込まないで欲しいな。
じゃなくて、と考えを戻す。確かに、行商人の母として(?)、ホームズにはいくつか武術を教えたが、まだまだ全然物にできていない。本人もそれが分かっているため、もし自分がそうなったらどうしようと聞いたのだろう。
『そうだね…まずは、逃げることを考えてご覧。 』
『にげること?』
『絶対絶命というものは文字通り、命が絶たれそうなんだ。そんな危険な状況に立ち向かっても得るもなんて何もないよ』
『にげられるの?』
『難しいよ。何せ、命が掛かっているんだ。そんなところから逃げるには自分の力と運がすごく関わってくるよ』
『どうすればいいの?』
『まずは、自分の今の状況をしっかり確かめること。
それと、絶対絶命の状況をしっかりと観察すること』
ホームズは、ん?と首を傾げた。
『さっきの話を例にするなら、不良は何人いるか、ぶきは持っているかとかね。分かった?』
うん、とホームズは頷いた。
『最後は逃走条件を確認すること。ホームズの場合だったら、私のところまで逃げてくるとかね』
わかった、あんしんした、とホームズはニッコリと笑い言った。
それを聞いた母はよし、いい子だとホームズを高い高いした。そろそろ体重的にキツイのだが、それでもやった。
そして、ホームズを降ろすと最後にこう言った。
『ただね、得るものなんてなくても、絶対絶命というものに、立ち向かわなきゃならない時というのが人生にはあるんだよ。その時君がどんな手段をとるかは分からないけど、後悔のしない手段をとりたまえ』
◇◇◇◇
「自分の状況は…最悪だな。ヨルも俺もボロボロだ。おまけに回復アイテムの入ったカバンは、港と反対方向にある」
ホームズは小声でブツブツと喋りながら、ポツンとあるカバンを眺める。
「次は、敵の観察か…。人数は四人。それと、訳の分からんぬいぐるみが一個。武器は五個ってところだね。ぬいぐるみと籠手をどう数えるか、悩むところだけどこ籠手は一組で一個、ぬいぐるみは数えないというところでいいかな」
後は、と続ける。
「精霊術だな。はっきりと使えると断言出来るのはエリーゼ、そしてミラ。というより、ミラはエリーゼより厄介だね。魔技で確実にヨルを仕留めてくるし、どうしたもんか…」
ホームズは相手の戦力を冷静に分析していた。エリーゼに関して言えば、正直回復術ぐらいしか、怖いものはない。しかし、それもヨルが居ての話である。ヨルを魔技で戦闘不能にされてしまえば、今度はエリーゼの精霊術の餌食となってしまう。
結局、ミラが最大の壁なのだ。そんな事を考えていると、不意に声がした。
「誰が誰を仕留めるって」
「おわぁ!びっくりした起きてたの?」
ヨルは不機嫌そうに言った。
「んだけ、独り言言ってりゃ目も覚める。ここはどこだ?」
「木の影。まだ彼らには見つかっていないけど、それも時間の問題だね」
そう言いながらホームズはジュード達の方を見る。彼らが何処かに行く気配はなさそうだ。
「それで、お前は何をしている」
「状況の確認。絶対絶命の時にはこれをしろって母さんが。君に出会う一年くらい前かな、その時に教えてもらったんだよ」
「フーン、後残っている確認事項は?」
「精霊術の使える人数、そして、目指すべき場所。」
「それで?」
「とりあえず、精霊術が絶対に使えるのは、エリーゼ、ミラ。」
「後の二人は?」
「ジュードは推測するしかないけど、使えない。或いは、使えてもエリーゼやミラほどじゃない。もし、戦力になるほど使えたら、あの時に囮役なんてする必要がない。」
「もう一人の方は?」
ヨルは大柄な男、アルヴィンに目を向ける。
「アルヴィンね。あの人はたぶん、エレンピオス人じゃないかな。あの人の使っている銃、あれは母さんが昔持っていた物と一緒だ」
「俺は使っているところ見たことないぞ」
「なんか、弾が切れてそれっきりだったらしいよ。こけおどしにはなるから、て持ち歩いていたんだって。」
「なるほど、相手の戦力はこれで全部か。目指すべき場所は?」
それを聞くと、ホームズはサマンガン街道の脇道を指差す。
「出来れば港。最悪検問やっている憲兵の所まで行く。
そこまで逃げれば追って来ないでしょ」
「追ってきたら?」
「運が悪かったということだね」
最後の問いに肩を竦めて、ホームズは言った。
「よし…!」
状況は整理できた。後は、行動するだけだ!
ミラ達は、エリーゼを守りながら辺りを探していた。
ホームズは、エリーゼが回復術が使えることに気付いた。おそらく、潰しにかかるだろう。
だから、逆にそこを狙う。誰が狙われるか、分かっているなら、いくらでも策の立てようがあるのだ。
ジュードとしては少しこの作戦に抵抗があった。何しろこれはエリーゼを囮にするような物だ。
しかしエリーゼも頑張ると言ってくれた。この健気な心意気を無駄にする訳にはいかない。
そう決意を新たに、辺りを探していると、いた。
ヨルはを肩に乗せ、そして、
エリーゼに向かって一直線に走ってきた。
「ミラ!」
「了解だ。ジュード!『フレアボム』!」
ミラはホームズ達に向かってフレアボムを放った。
しかし、手応えがない。
「こっちだ…」
ホームズ達はしゃがんでいた。そして、
「転泡!」
下段回し蹴りをミラの足に放った。
ホームズの要求通りに、ミラは転んだ。
そして、ホームズは、転んでいるミラの足を片手で持つと、そのまま、
反対側にいて、銃を構えているアルヴィンに向かって振り回すように投げた。
「どっ……、せいや!!」
妙なかけ声とともに。
「えっ、ちょっ、ミラ様?待って待って待って……」
待つわけがない。
「うごばあ!!」
アルヴィンの必死の説得も虚しく、無惨にもミラの体当たりを食らいひっくり返った。なんとか二人は体制を立て直すとある事に気付く。
「あれ?ミラ様剣は?」
「ないな、何処だ?」
「ここだ」
声のした方を見ると、ヨルがミラの剣をくわえていた。
「お前、いつの間に……」
ミラの問いにヨルは苦々しい顔をした。
「あの、阿保に一緒に投げられたんだよ。……全く、離れられる距離だったからいい様な物を……いや、やっぱ、投げ飛ばした事はよくないな」
そう、実はホームズはミラを片手に持ち、もう片方の手にはヨルを持っていたのだ。
ヨルはその事を思い出し、一人で納得するとミラ達をその金色の目で見据えた。
「悪いが返す気はないぞ」
そして、一言そう言うとそのまま剣を噛み砕いた。
「!!」
「ハン、何を驚いている?オレは化け物だぞ。お前らの常識なんて、5秒もあれば超えてみせるさ」
その常識を超えるのに使ったのは、自分の力ではなく先程食ったエリーゼの精霊術のマナである。
「悪いけどこれは没収だよ」
「あ……」
『返せ〜!』
エリーゼ達の文句なんてどこ吹く風。
ミラの投げ飛ばしに呆然としている隙をついて、ホームズは杖を没収すると、両手でへし折った。これで、精霊術の威力、回復力は格段に落ちるはずだ。
こうして、エリーゼの戦力を削る事ができた。
そして、後は
「You can fly!!」
「きゃあああ!」
『うぎゃあああ、助けてジュード君!!』
ティポとエリーゼをジュードに向かって投げ飛ばした。
「うああああ!」
なんとか、エリーゼ達を受け止める事はできたが、ジュードはそのままひっくり返った。
「後よろしく!」
そのままホームズは、アルヴィン達の方に走っていった。
「どうだい?調子は?」
「あの女の剣は噛み砕いた。そっちは?」
「女の子の杖折って投げ飛ばしておいた」
「それだけか?」
「文句ある?」
「甘いな。俺なら首の骨も一緒に折るぞ」
「鬼畜だね。さすが、化け物」
「お前もな」
彼等は合流すると、現状を報告した。
「後は、そこの男だけか」
ヨルはアルヴィンを見据える。対するアルヴィンも油断なく構える。
「そゆこと♪テンションアゲアゲで行きましょう」
ホームズもおちゃらけてはいるが目は真剣だ。アルヴィンの一挙一動を見逃すまいとしている。
「リベンジマッチだゼ、アルヴィン」
「覚悟しな」
アルヴィンに向かって宣言すると、ホ ームズはヨルを肩に乗せ、飛び上がった。そして、その高さから、かかと落としをかました。
「砕けろ、爆砕陣!」
アルヴィンは、ガードして直撃は避けた。
しかし、ホームズの攻撃はまだ続いた。爆砕陣を放った、かかと落としの足を構え直すと膝を高く上げ、
「守護方陣!」
ダン、と思いっきり踏み込んで青白く輝く光の円陣をだした。
「グッ!」
流石にこの連続攻撃は防げず、守護方陣の餌食となってしまい随分とダメージを受けてしまった。
対するホームズ達は少しばかり回復した。
「ふう、やれやれ。やっと使えるチャンスがきたよ。良かった、良かった」
さて、とホームズはヨルに言う。
「力貸しな、ヨル」
「たいしてないぞ。文句は言うなよ」
そう言うと、ヨルは黒い球状の物を吐きだした。
それはホームズの右足に当たると弾けて、黒い煙の様な、影の様な、よくわからない物がが右足にまとわりついた。
「結果次第だね」
ホームズはアルヴィンに回し蹴りを放った。当然アルヴィンは大剣で防いだ。
しかし、その大剣はホームズの回し蹴りが当たると粉々に砕け散った。すると、黒い煙は消えてしまった。
「上出来!」
その後すぐに軸足を入れ替え、左足で銃を遥か遠くに蹴り飛ばした。
「よし、今のうち」
ホームズは急いで港の方向に逃げたした。
この時ホームズは、二つのミスを犯していた。
ひとつは、ジュードの武器を壊していなかったこと。
もう一つは、
ミラにとって剣が折れたことに対した意味がないと言うことを知らなかったことだ。
「フレアボム!」
「三散華!」
ホームズは、炎と拳、全てを食らってしまい、ゴロゴロと転がった。
「油断したな、くそ」
よろけながら立ち上がるとそう呟いた。先程回復したダメージが元に戻ってまった。しかし、そうは言ってもミラの威力は先程よりも落ちている。これなら、たいして怖くない。
そんなこと本人が一番分かっているだろうに、なのに彼女はホームズに技を放ったのだ。
そして、凛として立っている。その隣のジュードもそれに応える様に、追いつく様に立っている。
「つくづく、恐ろしい連中だね」
でも、とホームズは続ける。
「こっちも命がかかっているんだ。通らせてもらうよ!」
言うが早いか、ジュードに向かって駆け出した。
そして、その勢いで蹴りをかました。
しかし、ジュードはそれをバックステップでかわすとホームズの目の前から姿を消した。
「後ろだ!」
ジュードの居所をいち早く察知したヨルは叫んだ。
しかし、ホームズは予想していたかの様に両手を地面につけると、逆立ちをする要領でジュードの攻撃を両足で蹴り上げ防いだ。
そして、その状態で両足を広げポンチョが広がるほどの勢いのついた回し蹴りを叩き込んだ。
「グッ!」
蹴りが当たりジュードが怯んだ。それと同時に疑問が浮かんだ。
なんで殴らないんだ、と。
そう、こんな動きをして防ぐくらいなら、裏拳をすればいいのだ。
三散華という技だって、本来は殴ってやる物だ。
別に手を使っていないというわけではない。しかし、一回も殴っていないのだ。 なぜ?
そんなことを考えているうちにホームズはポンチョをひるがえし、体制を戻した。
そして、何度も戦ってやわらかくなった地面を蹴り上げ、土を撒き散らした。
「!!!」
流れる様な動作でやられたので、ジュードもミラも反応できなかった。辺りは一面土煙に包まれた。
そして、土煙が晴れると、
そこには誰もいなかった。
ジュード達は、まんまと彼等を逃がしてしまったのだ。
◇◇◇◇◇
「ふう〜やれやれ。ひどいめにあった」
こちら、ルロンド行きの船の上。甲板の上でホームズは呟いた。所々に見え隠れしている包帯がすこし痛々しい。
かもめたちは飛び、海風が吹く。さっきまでの荒んだ戦いが嘘の様に穏やかな時間かながれている。
「よう、元気そうだな」
ヨルが、尻尾を揺らしながら甲板にやってきた。
「今まで、どこにいたのさ?」
「近くの暗いところで寝てた」
「ああ、そうか。君はそれで多少回復できるんだっけ」
「お前は?」
ん、と包帯を見せながら言った。
「一応、処置はしたって。ただ、念のためルロンドについたら、ちゃんと診てもらえってさ」
「ま、妥当だな」
ヨルはホームズの肩に乗った。そして続けた。
「今回、お前はあのぬいぐるみを持ったガキに手加減したな、何故だ」
「別におれたちが逃げるのに、回復術を使われようが使われまいが、関係ないだろう」
表情を変えずにホームズは返す。
「そうじゃない。俺が精霊術を食った時の事だ。あのガキは精霊術を食う俺がいる時点で雑魚になった」
「だから、なんだと言うんだい?」
相変わらず表情を変えない。
「相手の方が人数が多い時、最初に頭数減らす為に、雑魚から叩くのは常套手段だ。別にこれは戦いに限った事じゃない、逃走においても言える事だ。なぜ、それをやらなかった。お前の母親も同じことを言ってたはずだ」
「そのせいでアルヴィンが復活したと言うのかい?おれ、結果論で話しするの嫌いなんだよね」
やれやれ、と首ホームズはふりながら言った。しかし、ヨルはそんなホームズに構わず、ぴょんと肩から飛び降り、彼に向き直った。
「何故手加減した。今回の苦戦の理由は間違いなく、それが原因だ」
ヨルは真っ直ぐにホームズを見ていた。
それを正面から見ていたホームズは、ハァとため息を一つ吐くと言った。
「まあ、小さい子相手にするのは少しきついんだよ。説明しずらいけどね。これは、人間として普通のことだゼ」
「殺されかけたのに、そんなことを気にするお前は人間として異常だ」
「化け物と言われたり、異常と言われたり、今日は厄日だね、まったく」
えーん、と嘘泣するホームズを無視して続けた。
「ようは、いつもの甘さが出たということか」
「なにを言ってるんだい?おれは、渋い男だゼ」
嘘泣きをやめ、今度はおどけた様に言った。
そんなホームズをヨルはしばらく睨みつけていたが、やがて諦めた。ヨルとしてはなんとなく、手加減した理由はついているのだ。ただの確認作業の為に、これ以上時間を取る事はしたくない。
「お前がそういう態度を取るときはいくら、言っても無駄だな」
だがな、と続ける。
「その甘さはいつかお前の首を絞める事になるぞ」
「へいへい、せいぜい気を付けるよ」
そう言うと、ホームズは手すりに背中を預けのけぞる様に海を眺め始めた。
船は汽笛を鳴らして、海を進んで行く。ルロンドに向けて、そして、物語に向けて。
今後彼等はリーゼマクシア、そして、エレンピオスを巡る物語に巻き込まれていくのだが、
「ヴ、オロロロロロロロ」
絶賛船酔い中のホームズは知る由もない。
「お前…さっきまで平気だったのに。まだ、乗ってから1時間も経ってないぞ」
青い空、白い雲、輝く太陽、あふる吐瀉物……。
頑張れホームズ、船旅はまだまだ始まったばかりだ。
「ヴォボロエエエエエエエ!!」
「 テイルズのキャラで好きなのは?」と言うのがよく話題に登ります。
個人的には、短髪ルークが好き(笑)