やっと夏休みに入ったという実感が湧いてきました。
てなけで、どうぞ
「僅かですが、この木の実の様な独特の匂いは、メディニシア。ローズさんの見たて通り毒です、水溶性の」
ローエンは、しゃがみこんで患者を観察する。
「なるほど、だから木の実の匂いがしてた訳か……」
ヨルは、納得している。
料理が運ばれて来た時、ヨルは本来なら、そのままミラを待たずに食事をするつもりだった。
しかし、木の実も使われていないのに、木の実の様な匂いがしたため食べるのを躊躇ったのだ。
ジュードは、ローエンの台詞を聞き驚愕する。
「みんなの食事に盛られてたってこと?!」
ローエンは、静かに頷く。
アルヴィンは、顔を歪ませて、自分の食事を睨む。
ユルゲンスは、恐る恐る口を開く。
「まさか、決勝の相手が勝とうとして……」
「いや、違う」
ミラが途中で口を挟んだ。
ミラのその力強いものいいに、その場にいた全員がミラに注目する。
「この様な卑劣な手段を使う連中に、私は、思い当たる節がある」
その時、アルヴィンは走り出した。
「待て、アル……」
ミラの制止も聞かずアルヴィンは、走り去ってしまった。
「一体、何が起こってるん……です?」
エリーゼは、ミラに。
「……どういうこと。何でこんな……ねぇ、ジュード!」
レイアは、ジュードにそれぞれ声を震わせながら尋ねた。
「おい、ホームズ」
「なんだい?」
「さっきからずっと気になっていたんだが……」
ヨルは、鼻をひくつかせる。
「血の匂いがする」
ホームズは、目を大きく開く。
「まさか………」
ホームズも走り出す。
「待て、ホームズ!お前までどうした?」
「いいかい、みんな絶対に1人で行動するんじゃないよ!特にミラ!分かったね!」
ミラの質問には一切答えず、そういうとホームズは、そのまま走り去った。
「そう言った張本人が、1人で行動してどうする!」
ミラは思わず叫ぶが、その時には、ホームズはその場にいなかった。
「大丈夫だよ。ホームズには、ヨル君もいるし、ローズもついて行ったから」
レイアは、何とかその言葉を口にする。
「ミラさん。取り敢えず宿に戻りましょう」
◇◇◇◇
「ったく、どうしてついて来たんだい?」
「自分がさっき何を言ったか考える事ね」
ホームズの言葉にローズは、そう返す。
「それで、何処に向かってるの?」
「炊事場。多分ロクな事になってないだろうけどね」
そんな事を喋っていると炊事場に着いた。
しかし、扉にはカギがかかっている。
「フン!」
ドアを蹴り飛ばし無理矢理開ける。
ドアがなくなると、ホームズは、炊事場に入っていった。
グツグツと、火にかけっぱなしの鍋が煮立っている。
ローズは、慌ててホームズの後を追う。
「ちょっと、扉のそばに人がいたらどうするの!」
「居ない。俺が確かめた」
ヨルは、事もなげに言う。
「いないって………」
「これは………」
ホームズは、何かを発見した様だ。息を飲んでいる。
「何があったのよ?」
「君は見ない方がいい」
ホームズが、真剣なのはよくわかる。しかし、目を背けているわけにもいかない。
ホームズの後ろから、炊事場の奥を見る、
そこにあるのは積み重ねられた四、五人の死体だった。
「─────!」
ローズは、思わず口を覆う。
「料理を作るのに邪魔だったから奥によせたんだろうねぇ」
ホームズは、死体に近づきながら、手掛かりを探す。
「毒を盛る為に本来の調理人を殺したって所だろうね。その死体がこれなんだろうね」
ホームズは、分かりきっていることを口に出しながら整理していく。
「ローズ、君はこれ以上来ない方がいいよ。結構酷いから」
ホームズは、そう言ってローズを遠ざける。
ローズは、そう言われて初めて自分の足元を見る。
血だまりが、一面に広がっている。
「…………!」
そこがローズの限界だった。
一気に過去の映像がフラッシュバックする。
男の死体、女の死体、そして、ジュードぐらいの年齢の女性の死体。
この怒涛の記憶の流れにローズは、叫んでしまいたい衝動にかられる。
叫べば少しは、気が楽になるかもしれない。けれども、それをするわけには、いかない。
必死に叫ばない様口を押さえる。
しかし、耐えられるものではない。
そのまま、膝から崩れ落ち、血だまりの中には倒れる。
「ローズ!!」
ホームズは、ようやくローズ異変に気付き駆け寄る。
慌てて血だまりの中から抱き起こす。
ローズの目は固く閉じられている。
「ちょ、ローズ?」
「安心しろ、気絶してるだけだ」
ヨルの言葉にホッと胸をなで下ろす。
見たところ、死体しかない。
これ以上の成果は、なさそうだ。
「取り敢えず、戻るかね」
「そうだな。めぼしい手掛かりは、特にないしな」
ホームズは、ローズをおぶると炊事場を後にする。
ミラとマーロウに報告、それから、何を奴らが企んでいるのか調べなくてはならない。
先の事を整理しながらホームズは、歩みを進める。
炊事場を出ると足を止めて前を見つめる。
「………そうは問屋が卸さないって奴かねぇ」
「こうならない為に、この小娘は叫ばないようにしていた様だが……」
ヨルとホームズは、前をもう一度見る。
「どうやら、無駄だったみたいだな」
目の前には、それぞれ武器を構えた人間が殺気丸出しで、立っていた。
「アルクノア…………4人ってところか……」
「5人だ、阿呆」
「訂正どうも」
ホームズに突っ込むヨル。
連続の試合での疲れ、そして、背負ったローズ。
戦闘になればどう考えても不利だ。
ホームズは、現状を把握する。
(逃げるのが1番だけど……)
後ろは炊事場で行き止まり。
前はアルクノアで塞がれている。
「困ったことだ………」
ホームズは、そう言うと行き止まりの炊事場の扉のすぐ奥まで、一気に後退する。
それが合図だった。アルクノアの1人がホームズにナイフを持って突撃する。
ホームズは、ナイフを蹴り上げる。続いて無防備になった腹に思い切り蹴りを叩き込む。
「カッ………ハ……」
まず1人目が気絶する。
続いて2人目。
こちらは、鉤爪の様な武器を両手に装備している。
右手を横薙ぎにふる。
思わずホームズは、一歩後ろ身を反らし紙一重で躱す。切り裂く相手を失った鉤爪は、棚に当たり、調理器具が崩れ落ちる。
ホームズは、落ちて来た、鍋を顔面に蹴りつける。
しかし、相手はいとも簡単に切り裂く。
「冗談キツイゼ………」
引きつり笑いを浮かべる。
あの鉤爪だけは、食らうわけにはいかない。
しかし、ホームズの考えも虚しく、相手の猛攻が始まる。
避けるのに手いっぱいで、蹴りを入れる暇がない。
(だったら………!)
ホームズは、鉤爪を掻い潜って懐に入ると、そのまま、顔面に頭突きを食らわす。
鉤爪のアルクノアは、僅かに怯む。
そのスキを狙ってホームズは、足をかける。
足をかけられた、アルクノアは、そのまま後ろに倒れる。ホームズは、立ち上がろうとする前に、かかと落としを鳩尾に喰らわせる。
「グェ……」
それっきり動かなくなった。
次は、徒手空拳のアルクノアがくる。両手には、ジュードの様に籠手を装備している。
相手の拳とホームズの蹴りがぶつかり合う。
体制を崩したのは、ホームズの方だった。
ギリギリで踏ん張り、幸い後ろからは、倒れなかった。
しかし、その隙が失態だった。
追撃の拳が、ホームズの顔面を捉える。
骨と鉄がぶつかる鈍い音が脳に響きわたる。
何とか上体を後ろに反らし、ダメージを減らしたが、焼け石に水程度効果しかない。
意識が飛びそうになるのを何とか、足を強く踏み込みたえる。
ホームズは、そのまま血だまりを蹴り上げる。
狙いは、目潰しだ。
ホームズの狙い通り、相手は目を閉じる。
その隙に足を高々と上げ、脳天にかかと落としを決める。
安全靴のかかと落としを食らった徒手空拳のアルクノアは、そのままま、気を失う。
崩れ落ちる前にホームズは、蹴り飛ばし、次の相手に先制攻撃を仕掛ける。
成人男性の体重は、どんなに軽くても、50kgは優に超える。
それが、轟音を立てながら飛んでくるのだ。それを食らって無事なわけがない。
4人目は武器を披露することなく気絶した。
最後の男は、ナイフより長く、刀より短い刃物、小太刀を構えていた。
観察をしているのもそれまでだ。
彼は距離を詰めると小太刀をホームズの首を目掛けて横薙ぎに振るう。
何とか後ろに下がる。
しかし、相手はそれを見越していた様だ。
直ぐに突きに切り替え、腹を狙って来た。
何とか横に逃げたのでど真ん中には、喰らわなかったが、脇腹に刺さる。
「グッ………」
歯を食いしばって耐える。
そして、相手をキッと強く睨む。
ここで意識を飛ばす訳にはいかない。
ホームズへの攻撃が不発なのを悟ると直ぐに小太刀を引き抜きもう一撃仕掛ける。
しかし、その攻撃に対しヨルは、煮立った鍋を尻尾で掴み放り投げる。
「ガァアアアア!!!」
頭から煮立った、スープをかぶったアルクノアは、堪らず叫ぶ。
ホームズは、その隙を逃さない。
アルクノアの顎を思い切り蹴り上げる。
顎の揺れは、頭まで届く。
脳を揺らしまくったアルクノアは、そのまま気を失った。
これで、全ての刺客は倒した。
「よっこいせ……」
ホームズは、ローズを背負い直す。そして、火を無理矢理布巾で消す。
やる事をやると、ローズを背負ってえっちらおっちら炊事場から、出てくる。
途中で、一瞬痛みで顔をしかめる。
口の中に血の味が広がる。
頭の怪我も、腹の傷も軽いものではない。
「守護方陣」
ホームズは、踏み込んで応急手当をする。
そして、アルクノアを跨ぎながら進む。
ローズをおぶっている為、肩に居れないヨルは、今頭にいる。
「………相変わらず、頭のよく回る奴だな。この出入り口を利用して五対一から、一対一に持ち込むとはな」
そう、ホームズとローズでさえも順番に入らなければならなかったのだ。
つまり、ホームズが炊事場に入ってしまえば、どうしたって相手は一対一でやらねばならなかったのだ。
「………食べ物を粗末にしたなぁ…」
ホームズは、呟く。
鍋の作戦も勿論ホームズの指示だ。
「生きる為に食べ物を使うのは当たり前の事だ」
ヨルは、いつもの調子で言う。
「ふふふ、その通りだねぇ」
ホームズは、少し元気を出す。
しかし、直ぐに再び顔を顰める。
脇腹の痛みが思ったよりきつい。
思わず、付きそうになる膝を意地で我慢する。
たださえ、人を背負っているというのにだ、怪我まで負ってしまえば、ただでは済まない。
「こりゃあ、早くジュードに治療をお願いしないとね。ところで、ヨル、つけられていないよね?」
「ああ、5人でどうにでもなると思っていた様だ。誰もいない」
「了解。このまま宿に戻ろう。流石にいつまでもあんな場所には、いないだろう」
「だろうな」
ホームズは、もう一度ローズを背負い直すと、ふらふらと宿へ向かって歩き出した。
最初の頃苦痛だったバトル描写が今では、一番書いてて楽しい物になりました。(上手くなったかどうかは、別)
人って変わるんだなぁ…………
では、また四十六話で( ´ ▽ ` )ノ