1人と1匹   作:takoyaki

51 / 242
五十一話です。



ゼスティリアの発売日が発表されましたね。

ジャンプ立ち読みして、テンション上がったので、そのままお買い上げしました。



ちなみに、今回は、長いです。


では、どうぞ


人を呪あば、覚悟を決めろ

「…………っ!!」

アルクノアは、一瞬動揺したが、すぐに全員で、ホームズに狙いを定める。

 

 

 

 

「バカだねぇ」

 

 

「…………ソリッドコントラクション!!」

ホームズに気を取られている間にローエンの詠唱が完成する。

光の鎖が、現れ三人のアルクノアをまとめて、攻撃する。

油断していた事もあり、殆どの面子の意識は、飛んでしまっている。

「くそ!!」

しぶとく、耐えたアルクノアの一人が黒匣(ジン)をホームズに向かって構える。

「アリーヴェデルチ!」

またしても、隙を突かれたアルクノアは、ミラの精霊術で空高く舞い上がる。

「ヨル」

ホームズはヨルに指示を出すとジャンプする。

詳しい指示はなかったが、ホームズの意図を察するとヨルは巨大な生首になる。

ホームズを押し上げる様に。

ホームズは、空中で一回転しながら、相手の上空をとる。

そして、勢いをそのままで、空中一回転踵落としを顔面に叩き込む。

 

「断空打!」

 

空中にいる事を断られた相手は、ホームズ程でないにせよ、砂埃を巻き上げて落下した。

落とされた相手は、ピクリとも動かない。

 

時間差でホームズも着地する。

 

 

アルクノアで動いているものは、誰もいなかった。

 

 

 

【これは、キタル族代表の勝ちなのか?】

 

 

余りにたくさんの事が起こりすぎて、司会も混乱気味だ。

「ホームズ!!」

ローズが心配そうに駆け寄る。

今まで背を向けていたので気づかなかったが、ホームズは、酷い脂汗をかいている。

「ジュード!治療を!」

「うん!」

ジュードは、急いで治癒術をかける。

傷は塞がり、ホームズの顔に少し生気が戻る。

「ありがとう、ジュード。大分楽になったよ」

ホームズは、表情を柔らかくする。

「エリーゼは?」

「アルヴィンが追っている」

ホームズの質問にミラが黒匣(ジン)を壊しながら答える。

「あのチャラ男がねぇ」

ヨルは、全く信用していない。

ホームズは、そんなヨルを目で諌めると立ち上がる。

しかし、すぐにふらつく。

偶々近くにいた、ローズに寄りかかる。

「………随分と無茶したわね」

ローズは、少し怒っている。

「安心したまえ。このぐらい無茶でも何でもないよ」

そう言ってローズから、離れようとするが、フラフラと危なっかしい。

ローズは、痺れを切らすとホームズをおぶる。

何かホームズは、言いたそうだが、

「今やらなければならない事はエリーゼを追う事よ。貴方のプライドなんてゴミよりも役に立たないわ」

そう言って、闘技場を後にした。

 

 

「私達も」

ミラの言葉に、皆がローズの後を追った。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「アルヴィンとエリーゼは!?」

空中闘技場からでるとミラは、受付け近くにいたユルゲンスに尋ねる。

「仲間が今行方を追っているがまだ連絡がない」

「私達も探そう!」

レイアは、ミラ達に提案する。

しかし、すぐにユルゲンスに断られる。

「待って、二人は、街の外へ出た。土地勘の無いものが捜しても無駄足になるだけだ」

ユルゲンスの言葉にミラは腕を組む。

「道理だな」

「わかりました………」

ミラとジュードは、渋々頷く。

悔しいが、ユルゲンスの言う通りなのだ。

だが、ローズは、違う。

「だったら、地元の私が………」

「よしたまえよ、ローズ。入れ違いになる可能性がある。ここは、ユルゲンスさんの事を聞いておこう」

背負われたままのホームズは、ローズにそう言う。

仲間がピンチだと言うのに自分に出来る事が無い。

ローズは、悔しそうに頷く。

「ここにいても、はじまらん。一旦宿に戻りたいんだが」

ヨルの言葉にローエンは頷く。

「そうですね…………ユルゲンスさん、我々は一旦宿に戻ります」

「分かった、報告を後で持って行こう」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ホームズ、降ろすわよ」

「ん、どうも」

部屋に着くとローズは、ホームズをベットに下ろす。

「エリーゼ……心配だねぇ」

「貴方は、まず、自分の心配をしなさい」

ローズは、少し強い口調で、ホームズに言う。

「………怒ってる?」

「………その質問に怒りたいわ」

ローズは、額に青筋を浮かべる。

「ローズは、ホームズの事を心配してたんだよ」

訳がわからないという顔をしているホームズの為に、レイアが助け船をだす。

治ったとはいえ、ホームズのポンチョを染め上げた赤は、尋常なものではなかったのだ。

遠目から見ても一発で分かる代物だった。

 

 

 

という訳で凄く心配しているのに、そんな質問をされてしまえば、誰だってこの様な顔になってしまう。

「えっと……ローズ、もう大丈夫だよ」

ホームズは、ようやく分かったみたいで、少し慌てながら言う。

「みたいね」

ローズは、言うとホームズの鼻を摘まむ。

「ふごぉ!」

突然の事にホームズは、奇妙な声を出す。

ローズはぎゅっと力を指にしばらく込める。

「このぐらいで勘弁しておくわ」

そう言うと乱暴に離す。

ホームズは、ヒリヒリする鼻を撫でる。

「それで、ホームズさん。正直に言ってください。結局のところ具合は、どう何ですか?」

「ん、まあ、最高とは、言えないかな………」

ローエンの言葉にホームズは、治った傷を見る。

ローズは、壁に背を預けながらホームズを見る。

「連絡がくるまで寝てたら?少しでも体力を回復しておいた方がいいと思うわ」

ローズの言う事も最もだ。

今の状態のホームズは、はっきり言って足手まといだ。

「そうだね………連絡が来たら起こしてよ」

ホームズは、ローズの提案を受けライフボトルを飲み、パイングミを食べ布団に入る。

しかし、すぐに顔を出す。

 

「いい、連絡来たら起こしてよ」

 

「はいはい」

 

「絶対だよ」

 

「分かったって」

 

「この前みたいに危うく取り残されたくないから」

 

「分かってるって」

 

「いい?絶対だよ。もし置いていったら………」

 

「やかましい!とっと寝なさい!!」

 

取り敢えずローズは手元にあった枕をホームズに投げつける。

ホームズは、心配だなぁとブツブツ文句をしばらく言っていたが、すぐに文句ではなく寝息だけが聞こえてくる様になった。

ローズは、ようやく一息つき、真剣な顔をする。

「あとは、エリーゼとアルヴィンね」

自分が何もできないというのはなかなか、ストレスがたまる。

(無事でいて、二人とも………)

祈るしかない。

 

 

悔しい事だが。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「よう、ユルゲンス、調子はどうだ?」

マーロウは、街中で、ユルゲンスを見かけると声を掛けた。

闘技場での一件は、マーロウも知っている。

しかし、闘技大会に係わる事なので、何もできない。

「芳しくないですね。執行部の方が渋ってしまい、なかなか捜しにいけないんですよ。今、必死に説得中です」

「…………」

マーロウは、顎に手を当てる。

アルクノアとの繋がっている大会執行部が恐らく、押さえつけているのだろう。

事は一刻を争うと言うのにだ。

(ふむ、けれども、今なら………)

「マーロウさん?」

不審に思ったユルゲンスが、マーロウに尋ねる。

マーロウは、キセルを咥えながら話す。

「奴ら、今どこにいる?」

「闘技場の運営室ですけど……」

マーロウは、煙をふぅっと吐く。

「分かった。お前も来い」

「は?」

マーロウは、訳が分かっていないユルゲンスを引っ張って闘技場を目指した。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「よう、ジジイ共」

ドアを派手に開けて、マーロウは、中に入る。

中では、机を囲んで会議中の様だ。

「な、お前誰の許可を得て………」

突然の礼儀知らずな登場に一人が口を開く。

しかし、当のマーロウは、どうでも良さそうに キセルの煙を吹きかける。

「ッゲッホ!」

相手は、モロに副流煙を吸ってしまい、むせる。

「あーそうゆうのは、いいや。俺は、話し合いに来たんだ」

「話し合いだと?」

一人のリーダー格の老人が尋ねる。

マーロウは、再びキセルを咥える。

 

 

 

 

 

「そう、俺を大会の役員に戻してくれや。あ、ついでに、てめーら、全員クビな」

 

 

 

 

 

 

マーロウの発言で、運営室がざわめく。

そんな運営室の空気など構わずマーロウは、続ける。

「大会を失敗にしてしまったんだ。だから、そんな奴らを首にするのは当たり前だと思うがな」

「失敗だと?」

訳が分からないと言う顔をしている役員共にマーロウは、やれやれと言った風に口からキセルを外し煙を吐く。

「そう、失敗だ。あれを失敗と呼ばずして、何と呼ぶんだ」

目が鋭くなりなが、静かに老人に尋ねる。

「何の話をしている?」

鼻で笑いながら言う。

周りの老人共もクスクスと笑っている。

「とぼけるな!決勝の話だ!」

マーロウは、さっきとは打って変わって、怒鳴りつける。

突然の変化と、そして、地響きのように轟く声に、一瞬その場にいた全員がビビる。

「部族同士の試合だろーが!あれじゃ、ただの殺し合いだ!」

「……け、決勝は、こ、公正を期す為に前王時代のルールにしたと言っただろう」

言い訳がましく言う老人。

マーロウの怒りは、ますばかりだ。

「ふざけるな!そんな理屈が通ると思ってるのか!そのルールは、ガイアス王が否定して、今の形になったんだろうが!何故それに乗っ取って行わない!」

「だ、だから、公正を期す為に……」

「あのルールの何処が公正なんだ!」

マーロウは、遠目から見ていた。ホームズが、大切な茶飲み相手が、痛みに耐えながらアルクノアと戦っていた事を。

成長を見守って来た、ローズがそんなホームズを死ぬほど心配しながら、戦っていた事を。

自分の大切な友人達を追い込んだものが訳のわからない理屈だというのだ。

いや、正確に言えば分かってはいる。

全てアルクノアの為だ。

奴らは、それを認めようとしない。

マーロウは、奥歯を噛みしめる。

「もう一度聞いてやる!あのルールの何処が公正なんだ!」

「公正だ!あのルールは、一対一で死ぬまでどちらが死ぬまで戦うというものだ。公正そのものだろう!」

マーロウは、押し黙る。

それに気を良くした老人達はそうだそうだと、囃し立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「言ったな。俺は確かに聞いたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

マーロウは、さっき迄の怒気に満ちた顔を崩しにやりと笑う。

「そう、あのルールで重要なのは『死ぬまで』でだけじゃあない。

『一対一』ってところも重要なんだ」

大会執行部の何人かは、しまったという顔をしている。

 

 

 

 

 

 

 

「今回の決勝、あれ、一対一だったか?」

 

 

 

 

 

 

ようやく全員理解したようだ。

さっきとは別の意味で静かになる。

マーロウは、後ろ向く。そして、指を一本出す。

「違うよなぁ。最初こそ、キタル族代表は、一人だった。でも、相手は、三人できやがった」

指を三本に切り替える。

「で、次はキタル族の方も四人出てきやがった」

今度は四本だ。

「さらに、客席では乱闘が起こっていた。おまけに、その本人達はそのまま、試合会場に飛び降りて参加。そして、そのまま乱闘は、大乱闘へ……なあ………」

 

 

 

 

 

 

マーロウは、キセルを片手でクルクルと回している。

そして、回しながら振り返る。

 

 

 

 

「これが、成功と言えるのか?」

 

 

 

 

 

言い返せずに黙る老人達。

 

 

 

 

「こんな大失敗をした連中は、取り敢えず、大会執行部を降りるのが妥当だと思うがなぁ?」

わざとらしくいうマーロウ。

しかし、老人の一人がそのマーロウを鼻であしらう。

「ふん。話にならんな。仮にお前の言ったとおり闘技大会は失敗したとしよう。しかし、だからと言って、我々がこの役を降りる理由はない。もっと言うなら、お前ごときをこの場に復活させるいわれもない。立場をわきまえろ、腰抜けが!」

そう、マーロウは、そう理由をつけられ役員を降ろされたのだ。

しかし、マーロウは、顔を顰めるどころかセリフを聞いてクスクスと笑っている。

 

「まだ、分からねーのか?そういう事(・・・・)にしといてやるって言ってんだよ」

そう言って、マーロウは、一人の男、アルクノアの格好をしている男をドアから連れてくる。

手は紐で縛られ、顔はあの独特のマスクをつけている。

体型は、少し大柄だ。

その男の出で立ちを見て、老人達は全員顔色を変える。

「どーした?随分と顔色がわりーじゃねーか。ウンコでも我慢してのか?トイレなら部屋を出てすぐだぜ」

マーロウは、さっきまで回していたキセルを口に咥える。

老人の一人がようやく口を開く。

「どうして、ここに?」

「俺の部族が捕まえた。折角だからお披露目してやろうかと思って」

マーロウは、煙を吐くとその男の肩に手を置く。

「どうだろう、俺の条件を飲んでもらえるか?」

つまり、マーロウは、全てを知っていて、証拠も掴んでいる。

これをバラされたくなかったら、マーロウの提示した条件を飲めと言っているのだ。

 

 

「く………分かった」

「お!立場をわきまえるのはどちらなのか、分かったようだな」

満足気に笑うと懐から紙を取り出し、投げる。

内容を確認すると、どうやら、制約書のようだった。

制約の内容は、先程言ったマーロウの言った通り今の執行部の退任と、そして、マーロウの復帰だ。

「取り敢えず、サインよろしく」

老人達は忌々しそうだが、素直にしたがった。

全員のサインが書き終わるとマーロウは、制約書を回収した。

これで、闘技大会における全ての権限は、マーロウに渡った。

「さて、それじゃあ、早速だが、エリーゼって女の子とアルヴィンっていう男を探してくれ。あのどさくさに紛れて連れ去られたらしい。頼んだぜ………」

そう言って、マーロウは、アルクノアの仮面を剥ぐ。

 

 

 

仮面の下の顔に老人達は、空いた口が塞がらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユルゲンス」

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面の下から、現れた顔はユルゲンスだった。

 

勿論、ユルゲンスがアルクノアというオチではない。

マーロウが、ユルゲンスにアルクノアの格好をさせていたのだ。

マーロウは、一度アルクノアを拘束している。

その時に、服を一式パクったのだ。

「だ……騙したな!!そいつは、アルクノアでも何でもないではないか!!」

怒りにブルブルと唇を震わせる老人共。

マーロウは、どうでも良さそうにキセルを咥えている。

「何で、アルクノアを知ってるんだ?」

「………!」

そう、アルクノアの事を知っているのは、マーロウ、そして、度々名前だけ聞いていたユルゲンスだけのはずなのだ。

なにしろ、ミラが秘密裏にたおしてきたのだから。

普通のリーゼ・マクシア人は、知らないはずなのだ。

「今はやりのドジっ子て奴かねぇ……くくく」

「貴様………よくも、よくも」

怒り心頭という奴だろう。顔の色が赤を通り越してドス黒くなっている。

マーロウは、煙を一つ吐く。

「おいおい、人のせいにするのは良くないぜ。俺はこいつがアルクノアだなんて一言も言ってないだろう」

そう、マーロウは、そんな事一言も言ってないのだ。

ただ、俺の部族が拘束したとしか言ってない。

マーロウだって、当然『俺の部族』の中に入る。

嘘は何一つついていないのだ。

しかし、なりふり構っていられないのか、老人の一人が唾を撒き散らして叫ぶ。

「そんな事は、どうだっていい!そいつが、アルクノアではないんなら、この取引は、無しだ!」

マーロウは、気だるげにキセルを咥える。

「残念だが、それは出来ない」

そう言って見せるのは、先程の制約書だ。

マーロウの大会執行部復帰と、自分達の辞退認め、直筆のサインまで入れている。

出るとこに持って行けば、証拠品として、十分に機能する。

 

 

 

 

 

 

本当に老人達はグゥの音もでない。

 

 

(あー………どっかで見たことあるな、この光景)

マーロウは、策に追い詰められた人々を見て、とある女との賭けを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふっふっふ、私にポーカーで、しかもイカサマで勝とうなんて、脳みそがもう一個ないと無理な話だよ』

『誇大表現じゃねーところが、恐ろしいな』

眠そうな目をした女は、どう見ても利発そうには、見えない。しかし、物の見事に女は、マーロウの裏をかき、そして、問答無用で上をいったのだ。

その女は、テーブルの上にある金を全て手元に寄せると嬉しそうに勘定し始めた。

マーロウは、悔しい思いをしながら、見ていたのを覚えている。

女は、そんなマーロウを見るとニヤリと笑う。

『人に悪さをするなら、悪さをされる覚悟をしなきゃ』

金を数え終え懐にしまうと女は深く腰掛ける。

『何だそれは?』

『私が、まだ十代の時に読んだ小説のセリフのアレンジ』

それから、女はふと思い出した様にマーロウの顔をまじまじと見つめる。

『そう言えば、君の名前は、マーロウだったね』

いたずらっぽく女はニヤリと笑う。

マーロウは、心底嫌そうに顔を歪める。

『貰ってばかりも悪いから、君にも一つプレゼントをしよう』

『いらん。そんなお情けみたいなプレゼント』

『まあ、そう言わないで。勝者から君にこの言葉をプレゼントだ。いつか、必ず使いたまえよ』

 

 

 

 

───────マーロウ(きみ)には、これぐらいの事を言ってもらわなくちゃね────

 

 

 

 

 

 

 

マーロウは、ゆっくりと、煙を一つ吐き出す。

吐き出された煙は、ゆらゆらと天井に登って行く。

 

 

 

 

 

「『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』………よく、肝に命じておくんだな、ジジイ共」

 

 

 

 

 

 

 

 

マーロウはそう言ってキセルを咥え直す。

「ま、取り敢えず、この件を理由に、ユルゲンスと俺を村八分になんてするじゃねーぞ。そんな事してみろ、今回の事を丸々、ガイアス王に報告してやる」

獲物を狩る目で老人達を一睨みすると、マーロウは、ユルゲンスを連れて部屋から出た。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「マーロウさん!!」

ユルゲンスは、怒っている。

「なんだ?」

「あんな所でバラさなくてもいいでしょ!というか、何でバラしたんですか?!」

ユルゲンスは、ご立腹だ。

当然と言えば当然だ。

あんな真似をすれば、危うく、というか、もう手遅れだが、完全に執行部に目を付けられてしまったのだ。

マーロウは、そんなユルゲンスに背を向けたまま、キセルをクルクルと回している。

「………ただの憂さ晴らしだ。おら、てめーは、とっと嬢ちゃんと大男捜して来い」

ユルゲンスは、その静かな物言いから、察して詰め寄る事をやめる。

 

「………こういう事をする時、次からは、ちゃんと言ってください」

 

 

ユルゲンスの言葉にマーロウは、キセルを持っていない手を振って答える。

 

 

そして、そのままユルゲンスに顔を向ける事なく歩いて行った。

歩みを進めながらマーロウは、静かにキセルを咥え直し、物思いにふける。

 

 

マーロウは、やられたらやり返すタチだ。

今回、わざわざ、ユルゲンスの顔をさらしたのも、その性格に起因する。

自分をわざわざ追放し、アルクノアの為にお膳立てをし、仲間を傷付けた。そんな奴をマーロウが、放って置くわけがない。

では、どの様に仕返しをするのが一番か?

決まっている、やられて欲しくない事をやればいい。

彼らにとって一番嫌な事とは?

答えは一つ。

見下している相手に、負ける事だ。

だからこそ、マーロウは、あの様な形、彼らに勝利するという形で終わらせた。

結果彼らは、拭い去ることのできない敗北感を永らく味わう事になるのだ。

こうして、マーロウの報復は、彼らをいっぱい食わす事により成功した。

しかし、一つだけ、釈然としないことがある。

 

(………あいつから、贈られた言葉を使う時がくるとはなぁ………絶対使わねーと心に決めてたのに )

 

 

『撃っていいのは……』と言うやつだ。

あんな顔で言われた言葉なんぞ使いたくない、というのが、マーロウの本心である。

しかし、マーロウは、使ってしまった。

理由は、勿論ある。

タイミングよく、その時の事を思い出したからだ。

しかし、それにしたって、何だか釈然としない。

手のひらで転がしていたつもりが、逆に手のひらで転がされているような気分だ。

 

 

 

 

 

 

これこそが、マーロウに、勝利は勝利でも、完全勝利という、気分を与えない最大の理由だ。

 

 

 

 

(人に悪さをするなら、悪さをされる覚悟しなきゃ、か………やれやれ………)

 

 

 

 

マーロウは、ふうっと煙を吐き出す。

 

 

 

 

 

「あーあ………今回も俺の負けか………たまには、勝たせてくれよ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ヴォルマーノ(・・・・・・)』」

 

 

 

 

 

吐き出した煙と共にマーロウの言葉は、空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 







こいつの名前を決めた時から、いつかは、言わせたい!と思っていました。



自分は、セリフ→小説の順番でしたが、かっこいいですね……本当に。
どっかのハーフボイルドが、人生の教科書と言うのも頷けます。
こんな台詞を格好良く言える奴になりたいです。







あ、企画は、まだまだ進行中です。

詳しくは活動報告にて。



では、また、五十二話で( ´ ▽ ` )ノ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。