1人と1匹   作:takoyaki

54 / 242
五十四話です。




せっかくの祝日なので、投稿してみました。



てなわけで、どうぞ


一難去らずに、また一難

「アルクノアはティポから、何を奪ったんだろ?」

ジュードは歩きながら考える。

「アルヴィン」

ミラは先回りしてアルヴィンに言葉をかける。

「仕事上、守秘義務があるんだけど………」

アルヴィンは渋る。

「何を今更……」

ホームズは、アルヴィンに返す。

「ま、それもそうだな。恐らく、アルクノアは、ティポからデータメモリーを抜き取ったんだ。本来、増霊極(ブースター)は適合者を選ぶもんだ」

「ってことは、エリーゼとティポが?」

ホームズの質問にアルヴィンは頷く。

「そ。因みに言うとエリーゼとティポ程適合した例は今までになかったそうだ」

「……成る程、増霊極(ブースター)の実用化には、是非とも欲しいデータだな」

ヨルは納得するように相槌をうつ。

「そうゆうこと」

ジュードは、不思議そうに頭を傾げる。

「でも、何で黒匣(ジン)を使うアルクノアが増霊極(ブースター)を必要としてるんだろ?」

「悪りぃ、それは、マジでわかんね。だが……」

そう言って言葉を切ったアルヴィンにミラは頷く。

「ああ。悪い予感しかしないな」

「だね………」

ホームズはミラに賛同する。

「ところで、ホームズさんは先程話した女の子とはまた、お会いしたんですか?」

ローエンの問いにホームズは、首を横に振る。

「会ってないよ。ま、行商人には、よくある事さ。一期一会って奴だね」

「お前らの為に存在してる様な言葉だな」

ヨルの言葉にホームズは肩をすくめる。

「そうですか……エリーゼさんの故郷について、何か手掛かりでも掴めるかと思ったのですが……」

「ちょっと、無理だねぇ………と、エリーゼ達だ」

そういうとホームズは目の前を指差す。

ホームズの指の先には、エリーゼ達がいる。

「どうだい調子は?」

ホームズの質問にエリーゼではなく、レイアが答える。

「まあ、まだ元気ではないけど……」

ローズも心配そうにエリーゼを見る。

「みんな来たし、そろそろ街に帰らない?こんな所にいつまでものいても仕方ないし………」

「そうだな」

ミラはローズの提案に乗る。

一行も同意し、歩き始める。

ホームズは、エリーゼの後ろ姿を見ながら物思いにふける。

(………増霊極(ブースター)、研究所、イスラ、アルクノア、孤児、えらい勢いでとんでもないキーワードが揃って来たねぇ……)

「………ホームズ?」

様子が少しおかしいホームズに気付いたレイアが尋ねる。

しかし、ホームズは、返事をしない。

「ホームズ!」

「へ?あぁ、何?」

大声を出されてホームズは驚く。

「どうしたの?さっきからボォーッとして?」

「ん、あぁ、さっきジャオさんから色々聞いてね………」

いつものホームズの物言いにレイアは、答えてくれないと思い今度はジュードに尋ねる。

「ジュード、何があったの?」

しかし、ジュードも何かを考え込んでいる様で、レイアの返事に答えない。

「ジュードってば!」

「うわぁ!……………何?」

「何じゃないよ!どうしたの、ホームズもジュードも!」

ホームズは苦笑いをする。

「ちょっと、色々思い出してね………まあ、ミラにでも話を聞いておくれ」

「ふーん………で、ジュードは?」

ジュードはこめかみに指を当てる。

「引っかかっている事があるんだ………街についたら、確認するよ」

ジュードの静かな物言いにレイアは戸惑いながらも頷く。

「うん……分かった。それじゃあ、先を急ごっか」

こうして一行は、リーベリー岩孔を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「それで、ジュード、気になる事とは?」

街に着くと今度はミラがジュードに尋ねる。

「うん、あのね………」

ジュードが喋ろうとすると、イスラが駆け寄ってくる。

「犯人を追って、王の狩場へ行ったと聞いて、心配したのよ」

レイアは後ろで手を組む。

「色々あったけど、取り敢えずは無事かな………」

イスラは、申し訳なさそうに俯く。

「偶然とはいえ、あなた達を巻き込んでしまって、ゴメンなさいね……」

 

 

 

 

 

 

 

「イスラさん………それ、嘘ですよね」

 

 

 

 

 

 

こめかみから、指を外しジュードは、イスラをしっかりと見据えて口を開く。

 

 

「な、何、私が心配しちゃおかしいの?」

 

「ジュード、どうしちゃったの?」

レイアは、震える声で尋ねる。

「イスラさんが、僕達と知り合ったのは偶然じゃないんだよ。決勝の鐘がなった時言われたでしょ『この時期にこの街に来るのは、闘技大会の観客か、出場者しかないって』」

「言ってたわね………でも、それがどうしたの?」

ローズは、不思議そうにジュードに尋ねる。

「僕達ね、この街に来た時、イスラさんに言われたんだ、『貴方達この街の人間じゃないようだけど、街には何をしに?』って」

ローズは、言葉を無くす。

「イスラ、どういう事?」

問い詰められたイスラは、拳を握る。

「待って!そんなのただの言い間違えよ!そんな揚げ足をとった様な推理で私を貶めないで!」

 

 

 

 

 

「フフフ、随分と往生際が悪いじゃないか……」

ホームズは、そういいながらアルヴィンの後ろから姿を表す。

 

 

 

「ねぇ、イスラ」

 

 

 

突然の登場にイスラは、訳が分からない。

「あなた………誰?」

「イスラさんは、まだ、会っていませんでしたね……えっと」

ジュードが紹介しようとする。

しかし、ホームズは、それを手で制する。

 

 

 

 

 

「『ヴォルマーノ』に覚えがあるだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズが吐いた言葉にイスラは、言葉を無くす。

「あなた、まさかあの時の………」

ホームズは、口角を釣り上げ、

顔に三日月の様な笑顔が浮かび上げる。

その不気味で、そして、背筋の凍るような笑みは、見る物全てを飲み込む。

ヨルがやるのはよく見る。

しかし、こんな笑顔をするホームズは、レイアもローズも見た事がない。

「そう、君を散々脅した女の一人息子さ」

ホームズの言葉にイスラは、目を丸くし、呼吸が荒くなる。

「大方、アルクノアにでも言われたんだろ、つり目のガキ共に近づけってな」

ヨルは、馬鹿にするようにイスラをホームズの肩から見下す。

イスラは、そんなホームズ達から目を逸らすように下を向いて歯を食いしばる。

「イスラさん…………嘘だよね………」

レイアは、震える声でイスラに尋ねる。

「あの人達………ばれないから、大丈夫だって言ったのに………でも、私だってあの人達に………」

「脅されてたんだよね、弱みを握られてたから……」

言葉を詰まらせたイスラの代わりにジュードが後を引き継ぐ。

ローエンは、エリーゼに目を向ける。

「昔の仕事ですか……」

イスラは、頷く。

「ユルゲンスにバラされたいのかって………」

イスラは、エリーゼを見ながら震える声で叩きつけるように言う。

「この子には、すまないって思ってる。でも、あの時は、私だって………」

そこがイスラの限界だった。

イスラは、膝から崩れ落ちるとそのまま土下座の形をとる。

「お願い、あの人には黙っていて………」

懇願。

これ程ぴったりな言葉はないだろう。

ローズは、今だに目の前で行われている事が信じられなかった。

「ユルゲンスは、知らないのか?」

そんな、ローズに構わずミラは疑問をぶつける。

「言えるわけないじゃない!ユルゲンスはとても純粋な人なのよ!」

ミラは更に不思議そうにする。

「何故話せないんだ?すでに過ぎた事だろう?」

イスラは、少しだけ顔をあげる。

「あなたも女なら分かるでしょう?こんな醜い女を彼が愛してくれるわけがない!」

完全に顔を地面になすりつける。

「そういうものか?」

「おれに聞かれても……おれ、男だゼ」

ミラは隣にいるホームズに尋ねる。

しかし、ホームズは、引きつり笑いをするだけだ。

「そうではない。男から見ての話だ」

ホームズは、腕を組む。

「………ま、美人の方がいいかな、おれは」

ホームズは、どうでも良さそうに言う。

その後すぐに、イスラに顔を向ける。

「ユルゲンスに話してみたらどうだい?趣味は、人それぞれだからね」

イスラは、涙を溢れさせる。

「馬鹿な事を言わないで!捨てられるに、決まってるじゃない!」

「拾ってくれる男でも探せば?」

ホームズは鼻で笑いながら言う。

ジュードやレイアは、眉を顰める。

「私は、ただ幸せになりたいだけなのに………」

ヨルは、その様子を顔に感情を浮かべずに眺める。

ミラは腕を組んで考え込む。

「ふむ、人間の愛というのは、難解だな………私には理解できそうにない」

エリーゼの方を向く。

「どうするかは、エリーゼ、お前が決めろ」

突然話題を振られたエリーゼは、驚く。

「どうして、私………なんですか?」

「私よりもお前の方が権利があるだろう」

ミラの正論に、エリーゼは地面に頭をこすりつけているイスラを見る。

「今更償えること何てないけど……お願いします!」

 

 

 

必死な願い。

 

 

 

心からの願い。

 

 

 

幸せを欲しがる、絶対的な願い。

 

 

 

「どうでも………いいです」

『どうせエリーゼが独りぼっちなのは変わらないだからー』

エリーゼは、そう言い残すとそこからティポを連れて川を見る。

イスラは、そこから、よろよろと立ち上がりその場から去ろうとする。

 

 

「待ちなさい、イスラ」

ローズがイスラを呼び止める。

「アルクノアとの繋がり、いつからなの?」

イスラは、ローズの顔を見ない。

肩を抱いて震えるのを押さえる。

「………ずっと前からよ」

「……そう、ならもう一つ聞くわ」

ローズは、大きく息を一つ吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の家族が皆殺しにされた時、貴方はどちら側の人間だったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空気が凍る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直に言って、イスラ。別に怒りはしないわ。過去の事だもの、正直に言ってくれたらそれで満足よ」

ローズは、優しい口調で、イスラに言う

イスラは、そんな、ローズに安心したのか、恐る恐る口を開く。

「その時、私は…………アルクノアに弱みを握られてたわ。だから、それをネタに脅されたわ。バラされたくなかったら、貴方達家族が一同に集まるタイミングを教えろって…………」

イスラは、震えながら、言葉を繋ぐ。

「ごめんなさい……まさか、奴らがあんな事をするなんて、思いもしなくて………だから、だから、」

ローズは、優しく微笑む。

「そう。正直に言ってくれてありがとう。そして………」

ローズは、腰に手をやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

腰にあった刀を引き抜く。

 

 

 

しかし、出だしで、ホームズが柄を押さえる。

 

 

 

「やめておきたまえ、ローズ」

ホームズが、ローズを抑えている所をみて、イスラは腰を抜かす。

「怒らないって…………言ったのに………」

「女のくせに、女の嘘に騙されてちゃあ、世話ないわね」

馬鹿にするように鼻で笑うと今度はホームズを睨む。

「その手をどけなさい!ホームズ!」

ローズの怒号にホームズは、冷静に言う。

「………やだね。ワイバーンが借りられなくなっちゃうもの」

「………………でも!」

「……冷静になりたまえ、ローズ」

ホームズは、射抜くようにローズを見る。

ローズは、ホームズの言葉を聞くと悔しそうに刀を鞘にしまう。

ホームズは、ローズが刀をしまうのを確認すると、イスラの方を向く。

「この事は他言無用だよ。それが分かったら、何処へなりとも消え失せたまえ」

ホームズは、円盤状の盾を触る。

「おれも割と、我慢の限界なんだ」

無表情に告げるホームズを見るとイスラは、その場から今度こそ立ち去った。

ジュードは、エリーゼを見、そして、歯を食いしばっている、ローズを見る。

「どうした?」

その様子を見たアルヴィンが尋ねる。

ジュードは、考えながら、言葉を繋ぐ。

「……イスラさん、他にできる事なんてないって言ってたけど………本当かな?」

ミラは腕を組む。

「それは、イスラにしか分からないだろうな」

ジュードは、悩む。

「そういう事。贖罪の方法は、自分で見つけるものだからね」

ホームズは、先程までの態度が嘘のような明るい口調になる。

そんな、ホームズをレイアが怪訝そうに見いる。

「…………」

「どうしたんだい、レイア?」

レイアは、少し眉を釣り上げる。

「わたしのセリフだよ……それは。どうしたの、随分と様子が変だったよ………」

「元からだ」

「聞こえてるよ、ヨル」

ホームズは、ヨルをひと睨みすると、真剣な顔をしているレイアを見て、ため息を吐く。

「ま、誰にだって嫌いな人や、許せない人ぐらいいるさ」

「それがイスラさんだってこと?」

ホームズは、道端に落ちている石を蹴る。

「まあね。詳しいことは、ジュードにでも聞いておくれ」

ホームズは、そう言うとローズに近づく。

ローズは、先ほどから、ホームズ達に背を向けている。

しばらく、すると、そのままの状態で、ホームズに話し始める。

「………貴方がこの街を出て行った後、イスラがずっと面倒をみてくれてたのよ」

ローズは、さらに続ける。

「ホームズは、知らないかもしれないけど、あの人、優しいのよ。……………私は、家族の様に思ってた………なのになのになのになのになのになのに!」

ローズの手は関節が白くなる程握り込む。

よっぽど、悔しく、そして、悲しいのだろう。

イスラの事を信頼していたのだ。

その結果が、これだ。

裏切られたショックは、そう簡単に消えるものではない。

震える後ろ姿から、泣いているのが分かる。

ホームズ達の方を向かないのは、泣いている所を見せたくないのだろう。

ホームズは、そのまま歩みを進め、通り過ぎざまにローズの頭にハンカチを乗せる。

「マーロウさんの所に行ってくるよ。また、後でね」

ホームズは、後ろを振り向かず手を振る。

最後まで、ホームズは、ローズの顔を見ることはなかった。

「………ゔん、分がっだ」

ローズは、そのハンカチで涙を拭きながらそう返した。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「あのジジイの所に何しに行くんだ?」

ヨルが肩からホームズに声をかける。

「エリーゼ達が無事見つかった事と、イスラの件に付いての報告、ってところだよ」

「なるほど」

ヨルは、そう返す。

そして、ホームズは、自分で言ったイスラという言葉で、先程のローズの行動を思い出す。

「あの子、本気で殺す気だったね………」

ホームズは、ため息を吐く。

「心配だなぁ………」

「何がだ?」

ヨルはホームズの呟きに質問する。

ホームズは、肩をすくめる。

「復讐に走った人間は、ロクな目に会わないからね。それは、古今東西の物語が示すとおりさ」

ホームズは、ヨルの方を向いて喋る。

「ま、物語ではな」

「………どういうことだい?」

ヨルの返答にホームズは、いかぶしげに言う。

ヨルは、鼻で笑うと口を開いた。

「意外にな、復讐に走った人間達は幸せな顔をしていた。生きる目的ができた者。過去の因縁に決着をつけると、意気込む者………殆どの人間共は、目を輝かせ、幸せそうだった。ま、結末は、ともかくな」

ヨルは、昔の封印される前の事を思い出していた。

まあ、ヨルの場合は、主に復讐される側だったのだが。

ヨルは一旦言葉を切り、ホームズの肩からホームズの正面に降りて、向き合う。

 

そして、両方の口角を上げ、白い歯を見せる。

 

 

ヨルの白は、ヨルの黒によって、夜空に浮かぶ三日月を不気味に連想させる笑みとなる。

 

 

 

 

「むしろ、ロクな目に会わないのは、復讐に走った人間の周りにいる人間達だ……」

ヨルは、三日月の様な笑みを更に細く、深くする。

その笑みは、見るもの全てに恐怖を感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

「……なぁ?ホームズ・ヴォルマーノ」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、片眉をピクリと上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「………せいぜい、気を付けるよ」

 

 

 

 

 

 

 








まあ、うん………ここで、グタグタ語るのは、やめておきます。





それにしても、ジュード君、頭いいですよね。



では、また、五十五話で( ´ ▽ ` )ノ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。