せっかくの祝日なので、投稿してみました。
てなわけで、どうぞ
「アルクノアはティポから、何を奪ったんだろ?」
ジュードは歩きながら考える。
「アルヴィン」
ミラは先回りしてアルヴィンに言葉をかける。
「仕事上、守秘義務があるんだけど………」
アルヴィンは渋る。
「何を今更……」
ホームズは、アルヴィンに返す。
「ま、それもそうだな。恐らく、アルクノアは、ティポからデータメモリーを抜き取ったんだ。本来、
「ってことは、エリーゼとティポが?」
ホームズの質問にアルヴィンは頷く。
「そ。因みに言うとエリーゼとティポ程適合した例は今までになかったそうだ」
「……成る程、
ヨルは納得するように相槌をうつ。
「そうゆうこと」
ジュードは、不思議そうに頭を傾げる。
「でも、何で
「悪りぃ、それは、マジでわかんね。だが……」
そう言って言葉を切ったアルヴィンにミラは頷く。
「ああ。悪い予感しかしないな」
「だね………」
ホームズはミラに賛同する。
「ところで、ホームズさんは先程話した女の子とはまた、お会いしたんですか?」
ローエンの問いにホームズは、首を横に振る。
「会ってないよ。ま、行商人には、よくある事さ。一期一会って奴だね」
「お前らの為に存在してる様な言葉だな」
ヨルの言葉にホームズは肩をすくめる。
「そうですか……エリーゼさんの故郷について、何か手掛かりでも掴めるかと思ったのですが……」
「ちょっと、無理だねぇ………と、エリーゼ達だ」
そういうとホームズは目の前を指差す。
ホームズの指の先には、エリーゼ達がいる。
「どうだい調子は?」
ホームズの質問にエリーゼではなく、レイアが答える。
「まあ、まだ元気ではないけど……」
ローズも心配そうにエリーゼを見る。
「みんな来たし、そろそろ街に帰らない?こんな所にいつまでものいても仕方ないし………」
「そうだな」
ミラはローズの提案に乗る。
一行も同意し、歩き始める。
ホームズは、エリーゼの後ろ姿を見ながら物思いにふける。
(………
「………ホームズ?」
様子が少しおかしいホームズに気付いたレイアが尋ねる。
しかし、ホームズは、返事をしない。
「ホームズ!」
「へ?あぁ、何?」
大声を出されてホームズは驚く。
「どうしたの?さっきからボォーッとして?」
「ん、あぁ、さっきジャオさんから色々聞いてね………」
いつものホームズの物言いにレイアは、答えてくれないと思い今度はジュードに尋ねる。
「ジュード、何があったの?」
しかし、ジュードも何かを考え込んでいる様で、レイアの返事に答えない。
「ジュードってば!」
「うわぁ!……………何?」
「何じゃないよ!どうしたの、ホームズもジュードも!」
ホームズは苦笑いをする。
「ちょっと、色々思い出してね………まあ、ミラにでも話を聞いておくれ」
「ふーん………で、ジュードは?」
ジュードはこめかみに指を当てる。
「引っかかっている事があるんだ………街についたら、確認するよ」
ジュードの静かな物言いにレイアは戸惑いながらも頷く。
「うん……分かった。それじゃあ、先を急ごっか」
こうして一行は、リーベリー岩孔を後にした。
◇◇◇◇
「それで、ジュード、気になる事とは?」
街に着くと今度はミラがジュードに尋ねる。
「うん、あのね………」
ジュードが喋ろうとすると、イスラが駆け寄ってくる。
「犯人を追って、王の狩場へ行ったと聞いて、心配したのよ」
レイアは後ろで手を組む。
「色々あったけど、取り敢えずは無事かな………」
イスラは、申し訳なさそうに俯く。
「偶然とはいえ、あなた達を巻き込んでしまって、ゴメンなさいね……」
「イスラさん………それ、嘘ですよね」
こめかみから、指を外しジュードは、イスラをしっかりと見据えて口を開く。
「な、何、私が心配しちゃおかしいの?」
「ジュード、どうしちゃったの?」
レイアは、震える声で尋ねる。
「イスラさんが、僕達と知り合ったのは偶然じゃないんだよ。決勝の鐘がなった時言われたでしょ『この時期にこの街に来るのは、闘技大会の観客か、出場者しかないって』」
「言ってたわね………でも、それがどうしたの?」
ローズは、不思議そうにジュードに尋ねる。
「僕達ね、この街に来た時、イスラさんに言われたんだ、『貴方達この街の人間じゃないようだけど、街には何をしに?』って」
ローズは、言葉を無くす。
「イスラ、どういう事?」
問い詰められたイスラは、拳を握る。
「待って!そんなのただの言い間違えよ!そんな揚げ足をとった様な推理で私を貶めないで!」
「フフフ、随分と往生際が悪いじゃないか……」
ホームズは、そういいながらアルヴィンの後ろから姿を表す。
「ねぇ、イスラ」
突然の登場にイスラは、訳が分からない。
「あなた………誰?」
「イスラさんは、まだ、会っていませんでしたね……えっと」
ジュードが紹介しようとする。
しかし、ホームズは、それを手で制する。
「『ヴォルマーノ』に覚えがあるだろう?」
ホームズが吐いた言葉にイスラは、言葉を無くす。
「あなた、まさかあの時の………」
ホームズは、口角を釣り上げ、
顔に三日月の様な笑顔が浮かび上げる。
その不気味で、そして、背筋の凍るような笑みは、見る物全てを飲み込む。
ヨルがやるのはよく見る。
しかし、こんな笑顔をするホームズは、レイアもローズも見た事がない。
「そう、君を散々脅した女の一人息子さ」
ホームズの言葉にイスラは、目を丸くし、呼吸が荒くなる。
「大方、アルクノアにでも言われたんだろ、つり目のガキ共に近づけってな」
ヨルは、馬鹿にするようにイスラをホームズの肩から見下す。
イスラは、そんなホームズ達から目を逸らすように下を向いて歯を食いしばる。
「イスラさん…………嘘だよね………」
レイアは、震える声でイスラに尋ねる。
「あの人達………ばれないから、大丈夫だって言ったのに………でも、私だってあの人達に………」
「脅されてたんだよね、弱みを握られてたから……」
言葉を詰まらせたイスラの代わりにジュードが後を引き継ぐ。
ローエンは、エリーゼに目を向ける。
「昔の仕事ですか……」
イスラは、頷く。
「ユルゲンスにバラされたいのかって………」
イスラは、エリーゼを見ながら震える声で叩きつけるように言う。
「この子には、すまないって思ってる。でも、あの時は、私だって………」
そこがイスラの限界だった。
イスラは、膝から崩れ落ちるとそのまま土下座の形をとる。
「お願い、あの人には黙っていて………」
懇願。
これ程ぴったりな言葉はないだろう。
ローズは、今だに目の前で行われている事が信じられなかった。
「ユルゲンスは、知らないのか?」
そんな、ローズに構わずミラは疑問をぶつける。
「言えるわけないじゃない!ユルゲンスはとても純粋な人なのよ!」
ミラは更に不思議そうにする。
「何故話せないんだ?すでに過ぎた事だろう?」
イスラは、少しだけ顔をあげる。
「あなたも女なら分かるでしょう?こんな醜い女を彼が愛してくれるわけがない!」
完全に顔を地面になすりつける。
「そういうものか?」
「おれに聞かれても……おれ、男だゼ」
ミラは隣にいるホームズに尋ねる。
しかし、ホームズは、引きつり笑いをするだけだ。
「そうではない。男から見ての話だ」
ホームズは、腕を組む。
「………ま、美人の方がいいかな、おれは」
ホームズは、どうでも良さそうに言う。
その後すぐに、イスラに顔を向ける。
「ユルゲンスに話してみたらどうだい?趣味は、人それぞれだからね」
イスラは、涙を溢れさせる。
「馬鹿な事を言わないで!捨てられるに、決まってるじゃない!」
「拾ってくれる男でも探せば?」
ホームズは鼻で笑いながら言う。
ジュードやレイアは、眉を顰める。
「私は、ただ幸せになりたいだけなのに………」
ヨルは、その様子を顔に感情を浮かべずに眺める。
ミラは腕を組んで考え込む。
「ふむ、人間の愛というのは、難解だな………私には理解できそうにない」
エリーゼの方を向く。
「どうするかは、エリーゼ、お前が決めろ」
突然話題を振られたエリーゼは、驚く。
「どうして、私………なんですか?」
「私よりもお前の方が権利があるだろう」
ミラの正論に、エリーゼは地面に頭をこすりつけているイスラを見る。
「今更償えること何てないけど……お願いします!」
必死な願い。
心からの願い。
幸せを欲しがる、絶対的な願い。
「どうでも………いいです」
『どうせエリーゼが独りぼっちなのは変わらないだからー』
エリーゼは、そう言い残すとそこからティポを連れて川を見る。
イスラは、そこから、よろよろと立ち上がりその場から去ろうとする。
「待ちなさい、イスラ」
ローズがイスラを呼び止める。
「アルクノアとの繋がり、いつからなの?」
イスラは、ローズの顔を見ない。
肩を抱いて震えるのを押さえる。
「………ずっと前からよ」
「……そう、ならもう一つ聞くわ」
ローズは、大きく息を一つ吐く。
「私の家族が皆殺しにされた時、貴方はどちら側の人間だったの?」
空気が凍る。
「正直に言って、イスラ。別に怒りはしないわ。過去の事だもの、正直に言ってくれたらそれで満足よ」
ローズは、優しい口調で、イスラに言う
イスラは、そんな、ローズに安心したのか、恐る恐る口を開く。
「その時、私は…………アルクノアに弱みを握られてたわ。だから、それをネタに脅されたわ。バラされたくなかったら、貴方達家族が一同に集まるタイミングを教えろって…………」
イスラは、震えながら、言葉を繋ぐ。
「ごめんなさい……まさか、奴らがあんな事をするなんて、思いもしなくて………だから、だから、」
ローズは、優しく微笑む。
「そう。正直に言ってくれてありがとう。そして………」
ローズは、腰に手をやる。
「さよなら」
腰にあった刀を引き抜く。
しかし、出だしで、ホームズが柄を押さえる。
「やめておきたまえ、ローズ」
ホームズが、ローズを抑えている所をみて、イスラは腰を抜かす。
「怒らないって…………言ったのに………」
「女のくせに、女の嘘に騙されてちゃあ、世話ないわね」
馬鹿にするように鼻で笑うと今度はホームズを睨む。
「その手をどけなさい!ホームズ!」
ローズの怒号にホームズは、冷静に言う。
「………やだね。ワイバーンが借りられなくなっちゃうもの」
「………………でも!」
「……冷静になりたまえ、ローズ」
ホームズは、射抜くようにローズを見る。
ローズは、ホームズの言葉を聞くと悔しそうに刀を鞘にしまう。
ホームズは、ローズが刀をしまうのを確認すると、イスラの方を向く。
「この事は他言無用だよ。それが分かったら、何処へなりとも消え失せたまえ」
ホームズは、円盤状の盾を触る。
「おれも割と、我慢の限界なんだ」
無表情に告げるホームズを見るとイスラは、その場から今度こそ立ち去った。
ジュードは、エリーゼを見、そして、歯を食いしばっている、ローズを見る。
「どうした?」
その様子を見たアルヴィンが尋ねる。
ジュードは、考えながら、言葉を繋ぐ。
「……イスラさん、他にできる事なんてないって言ってたけど………本当かな?」
ミラは腕を組む。
「それは、イスラにしか分からないだろうな」
ジュードは、悩む。
「そういう事。贖罪の方法は、自分で見つけるものだからね」
ホームズは、先程までの態度が嘘のような明るい口調になる。
そんな、ホームズをレイアが怪訝そうに見いる。
「…………」
「どうしたんだい、レイア?」
レイアは、少し眉を釣り上げる。
「わたしのセリフだよ……それは。どうしたの、随分と様子が変だったよ………」
「元からだ」
「聞こえてるよ、ヨル」
ホームズは、ヨルをひと睨みすると、真剣な顔をしているレイアを見て、ため息を吐く。
「ま、誰にだって嫌いな人や、許せない人ぐらいいるさ」
「それがイスラさんだってこと?」
ホームズは、道端に落ちている石を蹴る。
「まあね。詳しいことは、ジュードにでも聞いておくれ」
ホームズは、そう言うとローズに近づく。
ローズは、先ほどから、ホームズ達に背を向けている。
しばらく、すると、そのままの状態で、ホームズに話し始める。
「………貴方がこの街を出て行った後、イスラがずっと面倒をみてくれてたのよ」
ローズは、さらに続ける。
「ホームズは、知らないかもしれないけど、あの人、優しいのよ。……………私は、家族の様に思ってた………なのになのになのになのになのになのに!」
ローズの手は関節が白くなる程握り込む。
よっぽど、悔しく、そして、悲しいのだろう。
イスラの事を信頼していたのだ。
その結果が、これだ。
裏切られたショックは、そう簡単に消えるものではない。
震える後ろ姿から、泣いているのが分かる。
ホームズ達の方を向かないのは、泣いている所を見せたくないのだろう。
ホームズは、そのまま歩みを進め、通り過ぎざまにローズの頭にハンカチを乗せる。
「マーロウさんの所に行ってくるよ。また、後でね」
ホームズは、後ろを振り向かず手を振る。
最後まで、ホームズは、ローズの顔を見ることはなかった。
「………ゔん、分がっだ」
ローズは、そのハンカチで涙を拭きながらそう返した。
◇◇◇◇
「あのジジイの所に何しに行くんだ?」
ヨルが肩からホームズに声をかける。
「エリーゼ達が無事見つかった事と、イスラの件に付いての報告、ってところだよ」
「なるほど」
ヨルは、そう返す。
そして、ホームズは、自分で言ったイスラという言葉で、先程のローズの行動を思い出す。
「あの子、本気で殺す気だったね………」
ホームズは、ため息を吐く。
「心配だなぁ………」
「何がだ?」
ヨルはホームズの呟きに質問する。
ホームズは、肩をすくめる。
「復讐に走った人間は、ロクな目に会わないからね。それは、古今東西の物語が示すとおりさ」
ホームズは、ヨルの方を向いて喋る。
「ま、物語ではな」
「………どういうことだい?」
ヨルの返答にホームズは、いかぶしげに言う。
ヨルは、鼻で笑うと口を開いた。
「意外にな、復讐に走った人間達は幸せな顔をしていた。生きる目的ができた者。過去の因縁に決着をつけると、意気込む者………殆どの人間共は、目を輝かせ、幸せそうだった。ま、結末は、ともかくな」
ヨルは、昔の封印される前の事を思い出していた。
まあ、ヨルの場合は、主に復讐される側だったのだが。
ヨルは一旦言葉を切り、ホームズの肩からホームズの正面に降りて、向き合う。
そして、両方の口角を上げ、白い歯を見せる。
ヨルの白は、ヨルの黒によって、夜空に浮かぶ三日月を不気味に連想させる笑みとなる。
「むしろ、ロクな目に会わないのは、復讐に走った人間の周りにいる人間達だ……」
ヨルは、三日月の様な笑みを更に細く、深くする。
その笑みは、見るもの全てに恐怖を感じさせるものだった。
「……なぁ?ホームズ・ヴォルマーノ」
ホームズは、片眉をピクリと上げる。
「………せいぜい、気を付けるよ」
まあ、うん………ここで、グタグタ語るのは、やめておきます。
それにしても、ジュード君、頭いいですよね。
では、また、五十五話で( ´ ▽ ` )ノ