1人と1匹   作:takoyaki

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五十五話です。



日朝も終わりましたね……



寂しいですが、とてもいい最後でした。



てなわけで、どうぞ


先の事を言えば猫が笑う

「以上が、報告です」

マーロウは、キセルを吹かしながら、ホームズの報告を聞いていた。

「なるほど。イスラの所に辿り着いた訳だ………」

マーロウは、フゥと煙を吐く。

ホームズが煙を嫌がって顔を顰めるが、知った事ではない。

「しっかし、増霊極(ブースター)に、研究所に、孤児に、イスラに、アルクノアに、と………随分とトンデモないキーワードが出てきたな…………」

マーロウは、指を折りながら数える。

「貴様は何か知らないのか?」

ヨルの質問にマーロウは、首を振る。

「残念ながら、な」

ただ、とマーロウは、続ける。

「十中八九、その研究には、ア・ジュール王、いや、若しくは、それに近しい誰かが係わっている。これは、間違いないだろう」

マーロウの言葉を聞いて、ホームズは、考える。

「………そうか、王の狩り場のすぐ先ですもんね……………」

ため息を禁じえない。

ホームズは、深いため息を吐くと立ち上がる。

「さて、報告も終わったし、そろそろ行きます。みんな待ってるだろうし」

「おう、またな」

マーロウは、そう言って手を振る。

ヨルは、歩きはじめたホームズの肩にピョンと飛び乗る。

ホームズは、ヨルが飛び乗ると、一旦歩みを止め、マーロウの方を振り向く。

「えぇ、今度は、ゆっくりとお茶でも飲みに来ますよ」

マーロウは、キセルを咥えている。

「断る」

「は?」

「今度は、酒持ってこい」

戸惑うホームズにニヤリと笑う。

「お前の両親の故郷のとびっきり上等な奴を、な?」

ホームズも答える様にニヤリと笑う。

「………お任せを」

そう言って、ホームズは、部屋を出て行った。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま帰ったよ…………って、あれ?」

ホームズが、自分達の部屋に帰ると、そこには誰もいなかった。

いつもなら、男勢がいるはずなのだが、彼らの気配は、ない。

「………どこ行ったんだろ?」

「置いてかれたんじゃないのか?」

「前科持ちがいるから、否定できないねぇ」

ヨルの言葉にホームズは、冷や汗が止まらない。

「あ、あ、あのさ、取り敢えず、ミラ達の所に言ってみようよ」

ホームズは、強引に話題を切り替えて、女性陣の部屋へと向かう。

「誰もいなかったら、どうするんだ?」

ヨルは、ポツリとこぼす。

それは、ホームズが一番考え無いようにしている事なのだ。

ホームズは、血の気がサァーっと引いていく。

「………不吉な事を言わないでおくれよ」

「そんな事はないぞ」

そんな会話をしていると、突然ホームズの背後から声がした。驚いて振り向くと、そこには、凛と立つミラがいた。

「びっくりした………他のみんなは?」

ミラは、腕を組む。

「何かを探しにいったぞ。私は留守番だ」

「何故だい?」

ホームズは、首を傾げる。

リーダーの様な存在を置いて行動というのがよくわからないのだ。

ミラは、一度頷くと話始めた。

「実は足がまた、痛んでな。取り敢えず、痛みが引くまで待機という事になった」

「今は?」

いつもの調子で現状を説明するので、ホームズは、頬が引きつっている。

「さっきよりは、少しマシだな」

つまり、痛いのだ。

「今すぐ、部屋に戻りたまえ!何で寝てないんだい!」

ホームズは、思わず声を荒げる。

しかし、そんなホームズに構わずミラは真っ直ぐホームズを見据えて続ける。

「ヒマだったのでな。少し痛みも引いたし、なんとなく宿の中を歩こうと思ったら、ホームズが泣き言を言っているのが聞こえてな」

堂々としている、ミラを見てホームズはため息を吐く。

「だったら、おれが話し相手になるから………ほら、部屋に戻るよ」

ミラの怪我は、決して治った訳では無い。いつまた、痛みが再発するか、分からないのだ。

「助かる」

ミラは、そう言って歩こうとしたが顔を顰めて膝を付いてしまった。

「…………!」

ホームズは、もう一度ため息を吐くと、ミラに肩を貸して、立ち上がる。

「ホームズ。お前は私をおぶった方が楽なんじゃないのか?ジュードもそうしていたし」

ミラの質問にホームズは、首を横に振る。

「ま、これぐらいの距離なら問題無いさ。君は?」

ミラは頷く。

「私も特に問題はない。しかし、何故だ?」

ホームズは、ミラの首から下を少しみた後すぐに顔を前に向けて淡々と言う。

「おれも一応、思春期なの。ローズ程度ならともかく、ミラぐらいの女を背負うのはなぁ………」

「………何だかよく分からないが、なんとなく、ローズに伝えるとお前の命が危ない事はよく分かった」

そんな会話していると、ミラ達の部屋に着いた。

ホームズは、ミラをベットの上に移動させると、近くに椅子を引っ張ってきて座る。

「さて、何を話したもんかねぇ……」

ホームズは、困ってしまった。

あの場では、そういう事を言ったが、特に話題がないのだ。

ミラは、少し呆れる。

「まあ、予想はしていたがな…………」

仕方が無いので、ミラの方から話題を振る。

「……何回か話題に登っている、お前の母親、結局どんな奴なんだ?」

「化け物」

「それ以外でだ」

即答したホームズの言葉をミラは切り捨てる。

ホームズは、少し悩む。

「うーん…………なんて言えばいいのかなぁ」

答えが出そうにないので、ミラはヨルの方を向く。

ヨルは、尻尾を揺らす。

「あのムスメにも言ったが、ホームズの数倍達の悪い奴だ」

ヨルはまだ、納得していないミラの為に、言葉をさらに続ける。

「ホームズは、本当の事を言わないだけで、嘘はつかないが、こいつの母親は、平気で嘘をつく」

「…………」

ミラは想像しただけで、冷や汗が止まらない。

「ついでに、いうなら、人を手のひらの上で転がすのが大得意だ」

ミラに寒気が襲ってきた。

「………聞けば聞くほど、って奴だな………」

「だから、言ってるだろう」

ホームズは、肩をすくめる。

「人を食った様な性格というか、食い尽くしている感じだ。喋りかたの通りにな」

ヨルはそう言って締める。

ミラは腕を組む。

「人間の親と言うのは、色々だな」

ヨルは、くぁっと欠伸をする。

「いずれ、追い抜きたいとは、思ってたんだけど」

ホームズは、そう言うと力無く笑うと、伸びをする。

「諦めたのか?」

「何事も諦めが肝心さ」

ホームズは、肩を竦める。

「まあ、話を聞いている限りだが……」

ミラは、そう言って、ホームズを見る。

「お前にその人間を越えてもらっては困るな……手を焼きそうだ……」

「ハハハ」

ホームズは、渇いた笑いを浮かべる。

それから、ちらりと扉を見る。

相変わらず、物音一つしない。

「ローズ達、まだ戻ってこないねぇ」

ホームズが出した『ローズ』と言う言葉にミラは顔を険しくする。

ホームズもそれに気づいたようだ。

その、余りにも険しい顔に、ホームズは少したじろぐ。

「ど、どうしたんだい?」

「ローズの事だが………」

 

 

 

 

 

ミラは一旦言葉を切る。

 

 

 

 

 

「気を付けろ。あれは、力の使い方を間違えるタイプだ」

 

 

 

 

ホームズは、突然の言葉に驚いて押し黙る。

そんなホームズに構わず、ミラは続ける。

「ローズが、剣術を習いはじめた理由をお前は知っているか?」

「いや」

ホームズは、首を横に振る。

「ローズは、お前のイジメ騒動で、ホームズにあんな最悪な一手を打たせたのは、自分に力がなかった所為だと考えたらしい」

そこで、ミラはホームズを見る。

ホームズは、静かにミラを見ている。

「どうぞ、続けて」

「だから、ローズは、この先自分の力が足りないばかりに、自分の傷を押し付ける様な事がもう二度と起きない様に、と思って剣術を習いはじめた、といっていた」

ホームズは、深くため息を吐いた。

剣術を習ったのが別にホームズの為ではなかったのだが、ホームズがキッカケである事に代わりはない。

「………人の人生の分岐点に立つというのはなんとも不思議な気持ちだねぇ」

「茶化すな、ホームズ」

「別にそういうわけじゃないさ」

ミラの叱咤にホームズは、肩をすくめる。

「私が言いたいのは、そのような理由で手に入れた力を、ローズは、復讐に使おうとした。

あの場で、お前が止めていなければ、確実にローズは、イスラを切り殺しただろう」

「………で、お前は何が言いたいんだ?」

今度はヨルが口を挟む。

ミラは一旦切った言葉を再び続ける。

「力の使い方を見誤った者に待つのは、幸せではない。過程はどうあれ、な」

「過程?」

ヨルと言っていることが近いようで遠い。

そんなセリフにホームズは、首を傾げる。

「力を振るう目的を得た人間は、その時は、幸せだ。

だが、復讐に力を使った者たちの末路は悲惨なものだ。

貴様なら分かるだろ、ヨル。ありとあらゆる復讐者達を相手にした貴様なら……」

ヨルはフンと鼻で笑う。

そう、ヨルは過去、人間達を殺しまくったのだ。

ヨルの事を恨み、憎み、復讐しにきた人間達は、数えきれない。

「まあ、全部ぶっ潰したけどな」

ホームズは、そんなヨルを半眼で睨む。

「この前と言ってる事が違うんだけど………」

「だから、前も言っただろ?『結末はともかく』と」

ヨルはニヤリと笑っている。

「俺に挑みにきた人間達は、それはそれは幸せそうだった。これから、死ぬとは思えないくらいな」

ミラはヨルの言葉に不愉快そうに顔を歪める。

しかし、直ぐに表情を戻すとホームズの方に向き直る。

「……つまりは、そういうことだ。気を付けろ、ホームズ」

「………分かったよ」

ホームズは、重々しく頷く。

仮にも、昔馴染みだ。

そいつが、不幸な結末を迎える姿をホームズは、見たいと思わない。

 

 

 

 

 

 

 

そう、決意をした直後、部屋の扉が開かれた。

「ただいまー………って、ホームズ?!」

「相変わらず、やかましいムスメだな…………」

元気良く入ってきたレイアにヨルはうんざりとしている。

ホームズは、苦笑いをするとミラを指差す。

「宿屋に戻ったらさ、ミラ以外誰もいないもんだから、驚いたよ」

ホームズの言葉に、ジュードは、少し 申し訳なさそうな顔をする。

「ああ、ミラの足が痛むって言ってたから、痛みを和らげる効果のあるハートハーブを探してきたんだ」

「ふーん」

そう言って、ホームズは、レイアをちらりと見る。

「ま、レイアが、こんなに元気で帰ってきたってことは、見つかったんだね」

「うん、まあね」

ジュードは、そう言ってミラにハートハーブを使う。

ホームズは、邪魔にならない様に椅子から立ち上がり、少し離れる。

ローズは、そんなホームズに気付くと歩み寄る。

「ハイ」

ローズは、そう言って、先ほどのハンカチをホームズに渡す。

「安心して、さっき洗っといたから」

目をそらしながら。

やはり、泣いたのが恥ずかしいのだろう。

ホームズは、首を傾げる。

「そんなの君に貸したっけ?」

ローズは、驚いた様に逸らしていた顔をホームズに向ける。

「さっき、私の頭に乗せたじゃない!」

「さっきって?」

「さっき、私が…………」

泣いていた時という言葉が出てこない。

そこで、ローズは、ようやくホームズの魂胆が見えた。

顔を赤くして、呆れた様にため息を吐く。

「………なんでもないわ」

「そうさ、何もなかったよ」

ホームズは、いつもの胡散臭い笑みを浮かべる。

ローズは、ホームズから顔を背ける。

今度はレイアが隣に来る。

「………何もなかった……ね」

「何もなかった、そうだろレイア?」

レイアは、少し笑う。

「……と、そうだ、ホームズ。下に行って飲み物もらってきてくれない?みんな探し疲れたと思うからさ」

「了解」

ホームズは、そう言って部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

──────力を振るう目的を得た人間は、その時は、幸せだ。だが、復讐に力を使った者たちの末路は悲惨なものだ。──────

 

 

 

 

 

 

──────ロクな目に会わないのは、復讐に走った人間の周りにいる人間共だ──────

 

 

 

 

 

 

「前途多難だなぁ………」

 

 

ホームズは、二つの言葉を思い出し、飲み物を持ちながらため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒック、フフフフ、ヒック、フフフフ」

ホームズがそんな事を呟きながら、飲み物を持っていくと、そこには、しゃくりをしながら、笑っているミラの姿があった。

 

 

 

「何してるの?」

 

 

 

 

ホームズは、最後にもう一度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 






まあ、このハートハーブの話は原作では、もう少し後になるんですが、畳みました。





アレですよね、親を超えるというのは、究極の目標ですよね。



ではまた、五十六話で( ´ ▽ ` )ノ

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