1人と1匹   作:takoyaki

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五十九話です。




眠いです………



布団が心地の良い季節がやってきました。



てなわけで、どうぞ



売り言葉と買い言葉

「ついたー!カン・バルク!」

ホームズは、叫び声をあげる。

長かったモン高原から、ようやくぬけだせたのだ。

喜びもひとしおだ。

レイアは、物珍しそうに見回す。

「シャン・ドゥもそうだったけど、カン・バルクも変わった街だね」

「ラシュガルは、ア・ジュールと比べて、精霊信仰が強いからな」

アルヴィンの言葉にレイアは、感心した様に頷く。

「レイア、こっちも見てご覧」

ホームズは、乗り物の様な物を指差す。

「なに、それ?」

「ここ、世界でもカン・バルクでしかお目にかかれない空中滑車さ」

「空中滑車?」

レイアは、聞き覚えのない言葉に首を傾げる。

「カン・バルクは、山地に作られた街で、いくつかの地域をあれで繋いでいるのです」

そんなレイアにローエンは、説明をする。

「景色がよくて楽しそうだね」

レイアは、エリーゼに話しかける。

「二、三回乗ったけど、なかなか面白いよ。ぜひ、乗るべきだと思うけど」

ホームズもエリーゼに話しかける。

しかし、エリーゼは、仏頂面で二人を睨んだ後、ぷいっと目を逸らした。

レイアは、そんなエリーゼに引きつり笑いを浮かべる。

ホームズは、少し困った顔をする。

「ユルゲンス、ガイアスに会うにはどうすればいい?」

「ワイバーンの許可をもらうついでに、謁見を申し込んでみるよ。

ただ、みんな謁見を申し込むから時間がかかると思う。みんなは、宿をとっていてくれ」

ユルゲンスは、そう言うと城に向かって歩き出した。

ミラはその様子を見ながら腕を組む。

「ユルゲンスさんに頼らなくても何とかならないかって考えているでしょ」

「む?」

ジュードの言葉に、ミラは首を傾げる。

「いい人なんだから、迷惑かけちゃためだよ」

「なるほど。ホームズにならいいのか?」

「君………おれになら、何を言っても許されるわけじゃあないんだよ」

ホームズは、半眼で納得した様子のミラを見る。

「とりあえず、宿に行きましょうか」

ローエンの言葉にミラは頷く。

他の面子も特にはないようで、宿に向かって歩き出した。

「宿か………早くあったかい暖炉に当たりたいね。ね、エリーゼ」

ホームズは、先程無視されたにも関わらず、隣りにいるエリーゼに話しかける。

エリーゼは、あの一件以降なにも、喋られなかった。

そんなエリーゼが気になり、もう一度声をかける。

しかし、エリーゼは、ホームズの言葉に答えずスタスタと前を歩く。

ホームズはぼんやりと後ろ姿を見送る。

「嫌われたんじゃないのか」

一部始終見ていたヨルは面白そうに言う。

ホームズは、肩をすくめる。

「……いつものことだろう」

ホームズが、女の子に嫌われるのも、無視されるのもいつものことなのだ。

今更いちいち落ち込んでいられない。

「哀しいことにな」

「ほっとけ」

ホームズは、ヨルにそう返すと宿に向かって歩いて行った。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「あー………あったかい」

ホームズは、宿に着いた時から暖炉に当たっている。

「………?ホームズは、寒いの苦手なの?」

レイアは、布団の上でゴロゴロとしながら、ホームズに尋ねる。

「いやぁ、別に。苦手じゃないよ」

ホームズは、暖炉から目を逸らさない。

「好きじゃないだけ」

「あ、そう……」

ホームズのいつもの煙に巻いた様な返しにレイアは、適当に返事をする。

「あぁ、それにしても、ユルゲンスさん、まだかな〜」

レイアは、再びゴロゴロする。

そう、許可を取りに行ったユルゲンスから、何の連絡もないのだ。

「まだだよ」

ジュードは、本から目を離さずに返す。

「相手は王様だからねぇ………気長に待とうよ」

ホームズは、欠伸をしながら、答える。

すると、レイアは、何かを思いついた様に起き上がる。

「そうだ。街の観光しよーよ、エリーゼ」

「…………」

エリーゼは、レイアから、顔を背ける。

「エリーゼさん、行ってきたらどうですか?」

ローエンも進める。

「それもそうね。ホームズ、案内してあげなさいよ」

「は?何で?」

ローズからの突然の言葉にホームズは、驚いて暖炉から目を離す。

「………だって、貴方ここに何回か来てるんでしょ。だったら、案内ぐらいしなきゃ」

ローズの提案にも一理ある。あるのだが………

ホームズは、無視を決め込んでいるエリーゼをちらりと見る。

自分と、レイアが一生懸命喋って、全部無視される構図が余裕で想像できるのだ。

女に嫌われるのは慣れっこだが、気まずい空気には、慣れていない。

「………それもそうだね」

ホームズは、そう言うと中指から、指輪を外し、外出の準備をする。

断りきれないのが、ホームズだ。

「ねぇ〜、エリーゼってばぁ」

レイアは、返事をしないエリーゼに声をかける。

「ティポが、はしゃいでくれないから私ばっかうるさいみたいだよ」

「前からそうでしょ」

「なにを今更」

相変わらず、ジュードは、本から顔を上げずにどうでも良さそうに返し、ヨルは、呆れた目でレイアを見る。

「べー」

そんな彼らにレイアは、舌を突き出す。

しかし、すぐに顔を戻す。

「じゃあさ、ティポみたいにエリーゼも元気にお喋りしない?」

そういいながら、レイアは、ベットに腰掛ける。

「エリーゼの口からもっとあなたの事を教えて欲しいな」

レイアは、優しく尋ねる。

落ち込んでいるエリーゼを励ますための言葉だろう。

 

 

 

 

 

 

しかし、それがエリーゼの逆鱗に触れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『レイアは、うるさいなぁー。いつもみんなの足を引っ張ってるくせに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えたのはティポだった。

しかも返ってきた言葉はレイアの心をえぐるものだった。

「えっ……?」

ティポの言葉、いや、正確に言うなら、エリーゼの言葉に場の空気が凍りつく。

「エリーゼ、言い過ぎじゃないのか、謝った方がいい」

「ミラが言うんだから相当だぞ」

アルヴィンがベットから起き上がりながらエリーゼに言う。

「そうだねぇ………」

ミラの無自覚な言葉に何度も傷付いたホームズがうんうんと頷いている。

「というか、エリーゼ、君おれの言った言葉を忘れてるだろう」

頷くのを止めるとホームズは、エリーゼを見据える。

「ジャリに何を言っても無駄だろ」

ヨルはどうでも良さそうに言う。

このタイミングで、ジャリと言われたエリーゼは、ヨルをキッと睨む。

「あなたには、人間の気持ちなんて分からないんです!だって……」

エリーゼは、最後まで言葉を続ける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

代わりに、パンッ!と言う乾いた音が響く。

 

 

 

 

 

 

ホームズがエリーゼにピンタをしたのだ。

突然の事にエリーゼは、ポカンとしている。

 

 

 

いや、エリーゼだけでは、ない。ジュードもローエンもレイアもローズも、ミラもアルヴィンでさえも言葉を失った。

 

 

 

 

「その辺にしておきたまえ、エリーゼ」

珍しく真剣な顔のホームズにエリーゼは、さっきまで言うつもりだった言葉が出てこない。

そんなエリーゼにヨルはニヤリと笑う。

「だって化け物だから、だろ?よく分かってるじゃないか」

エリーゼは、最後まで言葉を聞いていなかった。

叩かれた事にようやく思考が追いついて来たエリーゼは、涙を堪え、ホームズを睨む。

「レイアも!ミラも!……ホームズも!」

そう言うと、エリーゼは、ティポの中からハンカチを取り出し暖炉に放り込む。

突然物を入れられた暖炉は、火の勢いが強くなる。

そして、そのまま部屋から飛び出して行った。

「おい、どこ行くんだよ」

アルヴィンの言葉への返答は、なかった。

エリーゼが出ていった後、部屋には、重苦しい空気が流れる。

「あいたたたたー、いやぁ、今のは効いたなぁ」

その思い沈黙をレイアが崩す。

懸命になんでもない振りをしているが、声が震えている。

「レイア………」

ジュードが心配そうに声をかける。

そんなジュードにレイアは、首を横に振る。

「ほら、わたしは平気だから、エリーゼを連れ戻しに行こう」

それから、ホームズの方を見る。

「ホームズもね。女の子にピンタするなんて、良くないよ」

ホームズは、手のひらを見つめる。

「………まあね」

そう言うと、先程エリーゼが放り込んだせいで燃えている暖炉に近づく。

「うーん………火事が起きそうだ」

ホームズは、火かき棒で暖炉の中をあさると、先程放り込まれたハンカチを引っ張り出す。

「ミラ、控えめでよろしく」

「了解した」

ミラは、ハンカチに向かって手をかざす。

「アクアプロテクション」

弱めの魔技が炸裂し、ハンカチの火を消す。

そこにあるのは、薄汚れた灰色の布だった。

ハンカチの面影は、何処にもない。

「ホームズ、それって、エリーゼにあげた奴だよね」

ジュードが、聞きずらそうに尋ねる。

そう、このハンカチは、ホームズが泣いていたエリーゼにあげたのだ。

お詫びとして。

そして、エリーゼは、仲直りの証として大事にティポの中にしまっていた。

「そうだよ」

ホームズは、ジュードの質問になんて事なさそうに返すと、近くにあるゴミ箱に投げ入れる。

「ホームズ……」

「そんな顔しないでおくれよ、ジュード。女の子に渡したプレゼントが捨てられるなんて、いつもの事さ」

ホームズは、肩をすくめてみせる。

いつもと様子は変わらない、おちゃらけた感じでいる。

しかし、レイアがそうだったように、当の本人がなんて事なさそうに振りまいているのは、ハタから見ていて痛々しい事この上ない。

そんな一同に構わずホームズは、薪を移動させ、火の勢いを弱める。

「うしっ!それじゃあ、行くとしますか」

ホームズは、立ち上がると、ミラ達は、扉に向かって歩き出した。

ジュードは、ホームズが出てから行こうと考えていた。

少し疑問に思っている事をききたかったからだ。

「おい、ホームズ」

ホームズが出ようとすると、アルヴィンが、声をかける。

「まさか、ヨルの為にエリーゼを叩くとは思わなかったぜ。おたくら、そこまで仲良かったか?」

ジュードが、聞こうとした事をアルヴィンが先に尋ねる。

ホームズは、エリーゼがヨルに向かって暴言を吐いている時にビンタをしていた。

どう見ても、ヨルが酷い事を言われない様にしてるとしか、見えない行動だ。

しかし、ホームズとヨルは、そこまで仲良くはない。

どちらかが笑われていればどちらが、全力で馬鹿にする関係だ。

ホームズは、ピタリと歩みを止めると、クルリと振り返る。

「当然だろう?十年以上一緒にいる相棒だゼ?」

いつもの胡散臭い笑みを浮かべ、演技っぽい口調でホームズは、アルヴィンに言う。

アルヴィンは、肩をすくめる。

「それって、エリーゼからヨルを庇ったって事?」

「違うぜ、優等生。ホームズは、エリーゼから、ヨルを庇ったんじゃない。ヨルから、エリーゼを庇ったんだ」

「え?」

ジュードは、驚いてホームズを見る。

ホームズは、相変わらずニヤニヤ笑っている。

「ヨルが言われると怒る言葉があっただろ」

そう言われてジュードは、こめかみに指を当てる。

 

 

 

 

──────『オイ、その名で呼ぶな女、切り裂かれたいのか』

 

 

 

 

 

「シャドウもどき………」

ジュードは、ようやく辿り着いた。

そう、ミラが言ったのだ。

あの時、エリーゼは、側にいた。

だから、ヨルに言ってはいけない言葉も分かっていた。

だからこそ、言おうとしたのだろう。

ホームズは、それを察したから、先回りして、エリーゼにピンタをしたのだ。

「あの場で、いったらヨルは、絶対にエリーゼを許さないだろうからな……そうだろ、ホームズ」

話を振られたホームズは、肩をすくめる。

「さてね。そんな事は、置いといて、とっととエリーゼを追いかけよう」

ホームズは、適当に返すと部屋を出て行った。

アルヴィンとジュードもそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「損な生き方してるよ、あいつは」

アルヴィンは、誰にも聞こえないようにポツリとこぼした。

 

 

 









暖炉って憧れですよね



何だか見てるだけでテンションが上がります。



まあ、薪集めとか面倒臭いらしいですけど………



ではまた、六十話で( ´ ▽ ` )ノ

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