1人と1匹   作:takoyaki

67 / 242
六十七話です。



バトル、バトル!



てなわけで、どうぞ


情けも容赦もありゃしない

「ホームズさん……」

ローエンは、歯噛みをする。

考えてみれば、変なところはあった。

ガイアスは、ホームズのことを名前で呼んだ。

ローエン達は、呼ばないのにだ。

何より、ウィンガルは、ヨルが喋っていることに驚かなかった。

あまつさえ、シャドウもどきという言葉を口にした。

第一、一介の行商人が、フォーブと親しいと言うのも妙な話だ。

あげ出せばキリがない。

ミラは、ホームズを睨みつける。

信じられないのだ、今だに。

ホームズが、裏切ったことが。

闘技大会の時に、ミラの心配をしたり、ミラの代わりに大会に出ようとしたりとしている。

そして、仲間の状況を考えて自分の怪我を隠して、アルクノアと戦ったりしていた。

そして、ホームズが裏切ったということが信じられないという理由がもう一つある。

「……ホームズ、何故だ?何故、私の報酬から背を向ける」

ホームズにとって、ミラの与える報酬というものは、ホームズの旅そのものだ。

ホームズの両親の故郷に行ってみたいという、欲望。

どこから、そんなものが来ているのか知らないが、ホームズにとっては、常に優先すべきもであったはずだ。

それをここに来て裏切りと言う行動に出ることに、ミラは、動揺せざるを得ない。

この辻褄の合わない出来事にミラは、一つの可能性に辿り着く。

「……貴様、嘘を!」

ホームズは、肩を竦める。

「どう思おうと、君の自由だ」

ホームズは、そう言って一歩、歩みを進める。

「ま、おれも、義理と人情と報酬で生きてる、行商人なんだよ」

そう言ってホームズは、笑みを浮かべミラ達を見る。

「……報……酬?」

その言葉にエリーゼは、呆然とする。

あのホームズの言ったことに頭が追いつかない。

ホームズは、ニヤリと笑って肩を竦める。

ホームズとの会話を終えたミラは、今度は、ヨルを観察する。

「貴様もホームズの方につくのか……」

「こいつが殺されると俺も死ぬからな……どっかの馬鹿共の仕掛けた封印の所為で」

ヨルは、ミラの視線を押し返す。

そのやり取りを見ていたホームズは、ヨルから、ミラ達へ視線を戻す。

「ところで、一人だけ、武器を構えていない子がいるんだけど……」

ホームズのは、そう言うって人差し指を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

指の示す方向を辿ると、そこには体を小刻みに震わせいる、ローズがいた。

両手を胸の前で組んで刀を抜いてすらいない。

「で……出来るわけないでしょう……貴方は、私の昔馴染みで、幼馴染みなのよ……」

ローズは、震えるてを無理やり押さえる。

こんな事になるなんて、思いもしなかった。

こんな事になっても、信じたくなかった。

しかし、ローズの思いも虚しく、これは実際に起こってしまったのだ。

ホームズが、一体何を考えてこんな事をしているか、分かりもしない。

しかし、自分と幼い日に遊んだ、あのホームズと戦わなければならない。

そんな現実の前にローズは、何もできずにいた。

「おれとは、戦えないと?」

ローズは、何も言わない。

しかし、震えるその体が全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

「だったら、戦場(ここ)から、出て行きたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、そう言うと一瞬で、ローズまで距離を詰め、容赦なく腹に蹴りを入れ、後方に飛ばす。

「ローズ!!」

ジュードは、その光景に、目を疑った。

ホームズは、ローズを背負って、自分が不利になるなかで、アルクノアと戦ったのだ。

それさえなければ、もっと楽に戦えた筈なのにだ。

そして、ローズが目を覚ますまで、ずっと側にいた。

そんなに大切にしていた人をホームズは、何のためらいもなく、蹴り飛ばした。

「ッカハ!」

ローズは、大きく咳き込む。

自分に起きたことが全く信じられない。

絶望に満ちた目でローズは、ホームズを見る。

「言ったはずだよ。『覚悟したまえ』と」

ホームズは、そんなローズにそう告げると、彼女を見ていない。

既に、次の敵になるであろう、ジュード達を見ようとしていた。

 

 

 

「ホームズーーーー!」

そんな、ホームズにジュードが激昂し襲いかかる。

ホームズは、円盤の盾で、拳を止める。

「アルヴィンも……ホームズも!」

ジュードは、顔を険しくしている。

ホームズは、一旦距離を置くと足を上げる。

ジュードも同じように距離を置き、足を上げる。

 

「「輪敦旋風!!」」

 

 

両者の回し蹴りが、炸裂し、お互いの足が交差する。

「ーーーー!」

そして、両者は弾かれたように離れる。

 

 

「ナイスだ、ジュード」

ミラは、その隙にホームズの後ろに回り、手を構える。

「フレア……」

「させるか」

ヨルは、そう言って、ミラの手に尻尾を巻きつけ攻撃を反らす。

そして、そのままミラのバランスを崩し倒れる。

「……な?!」

初めて、ホームズ達と戦った時、ホームズとヨルは、ミラの魔技に大苦戦した。

しかし、ヨルは、あっさりと防いで見せた。

「人間は、成長するらしいな」

戸惑うミラにヨルは、見下ろしながら告げる。

「お前らに出来ることが、化け物()に出来ないとでも?」

ミラは、歯をくいしばると剣を構える。

ヨルは、魔技の発動のタイミングを掴んでいる。

 

 

 

 

今、この時、ヨルに対する切り札は、消えてしまった。

しかし、ミラは、諦めない。

これがマクスウェルの誇りなのだろう。

「だったら、共鳴(リンク)だ!ジュード!」

ミラは、そう言うと光の剣を空に打ち上げる。

ジュードも、宙に飛び、それを掴む。

 

「「カタラクトブレード!」」

 

 

ホームズに照準を合わせると、一気に光の剣を伸ばす。

 

 

(手応えが……)

ジュードが、首を傾げていると光が消える。

しかし、そこには、ホームズは、いなかった。

 

 

 

 

 

「こっちこっち」

 

 

 

ホームズは、そう言って手を振っている。

 

 

「な?!」

 

 

壁の上で。

 

 

何とも奇妙な事にホームズは、壁に立っている。

ジュードたちが、地面に立つように、ホームズは、壁に立っているのだ。

「どう言うこと?」

「そこの、マクスウェル様に言わせると、おれも化け物だからね。常識なんてクソ食らえって奴だ」

 

 

 

 

ホームズの足には、いつもの黒い靄がまとわりついている。

 

 

 

 

そして、そのままホームズは、壁を平然と走り、助走をつけてミラに蹴りを入れる。

「ーーー!」

思わず、息がつまる。

「ミラ!」

ジュードは、ミラに駆け寄る。

そこで、ジュードは、首を傾げる。

あの黒い靄を纏ったホームズよ蹴りを食らった割には、怪我の程度が低い。

「それ……もしかして」

「ピンホーン。壁とか、天井とかで戦える分、いつものように攻撃力が変化する事はないんだ」

そう言って、壁から降りる。

「ま、持続時間はそんなにいつものと変わんないけど、出し入れ自由。どう、一家に一台?」

「……また、本当の事を言ってないね、壁とか天井で戦えるだけじゃないでしょ?」

ジュードは、そう言ってホームズのポンチョを指差す。

「ポンチョが地面に向かって広がってなかったよ……」

ホームズは、驚くとニヤリと笑う。

「よくわかったね」

「大方その状態で歩くとそこがホームズにとっての地面になるって所でしょ?」

ホームズは、パラパラと乾いた拍手をする。

ミラは倒れたまま顔を顰める。

「『常識なんてクソ食らえ』か………本当に、お前は……」

ホームズは、肩をすくめる。

「何を今更言ってるんだい?マクスウェル殿?」

そう言うと再び、ホームズは、ジュードに蹴りをかます。

ジュードは、何とかいなすと拳を固める。

「三散華!!」

ジュードの拳、一発目がホームズを襲う。

ホームズは、その拳を右足で弾く。

ジュードは、弾かれた事に構わず、そのまま二発目の拳を放つ。

ホームズは、足を入れ替えて、それをかかと落としで叩き落とす。

最後の一撃をジュードが、執念で打ち込む。

しかし、

 

 

 

 

「残念」

 

 

 

 

 

ホームズは、ジュードの拳をかわし腕を掴む。

そして、そのままジュードを背負い投げをする。

(まずい!!)

ジュードは、何とか受け身を取るが、それでも衝撃が体に響く。

立ち上がるのに数秒のラグがある。

その隙を逃すホームズでは、ない。

すぐさま追撃を仕掛ける。

横たわる、ジュードにかかと落としをかまそうと足を上げる。

 

 

 

 

「『ティポライジング!』」

「おっと!」

それを阻止するかのように、エリーゼがティポに掴まりながら飛んできた。

振り回す杖にあたり、ホームズは、下がる。

エリーゼは、いつまでも飛んでいられず着地する。

ホームズも迷わず着地を狙う。

足を上げる回し蹴りの用意は、出来ている。

後もう一押し……

しかし、動きが止まる。

ホームズの脳裏によぎるのは、イスラに売られ、泣いているあの子だ。

「………!」

本当に一瞬の躊躇いだ。

たかが一瞬、されど一瞬。

戦場においては、その一瞬が命取りだ。

ましてや、かつて、指揮者(コンダクター)と言われたローエンにとっては、またとない反撃の機会だ。

「セヴァード・フェイト!!」

ホームズの周りをローエンの投げたナイフで、魔方陣を描き囲む。

そして、不意打ちの精霊術が発動する。

しかし、ホームズは、気付かなくとも、ヨルは、気付いていたようだ。

対処の遅れたホームズの尻拭いをする為、いつもの生首になると、精霊術を吸い込む。

「惜しかったな、ジジイ」

「えぇ、そのようですね」

ジュードは、その隙に起き上がると、エリーゼを連れて、後ろに下がる。

「ローエン……結構キツイ」

ジュードは、正直、驚きを隠せない。

一応、ジュード達は、一度ホームズ達を退けたのだ。

その時と、ホームズは、比べ物にならない力で、ジュード達を圧倒している。

「ジュードさん、落ち着いて下さい。冷静に我々で対処すれば、勝てない相手では、ありません」

「冷静に?」

怪訝そうなジュードに、ローエンは、そう告げる。

「はい。ホームズさんは、先ほどから、ジュードさん達相手に、裏を描くような戦い方をしかけていました。……冷静さを失わせるように」

ジュードは、ようやく合点がいった。

確かに、ジュードは、動揺していた。

アルヴィンの裏切り、ホームズの裏切り、ローズへの容赦ない攻撃、そして、壁を歩くというとんでもない行動。

全部ジュード達を動揺させた。

そこをホームズは、突いたのだ。

相も変わらず、正々堂々とは、程遠い戦い方をする男である。

「冷静に対処すれば……」

「はい、どうにかなります」

「そんな余裕ないわ」

ローズは、そう言って、自分たちの走ってきた方向を指差す。

そこには、武器を持った兵が走ってきていた。

ホームズで時間をかけ過ぎたのだ。

ローズは、二刀を構える。

「とりあえず、私が足止めするわ……ホームズ相手じゃ戦力にならないし」

悲しそうに悔しそうにローズは、呟く。

「なら、エリーゼとローエンもそっちに回って。精霊術があれば大分楽でしょ?」

ジュードの提案に、ローエンとエリーゼは、頷く。

「後は、僕とミラでやる」

そう言って二人はホームズを睨みつける。

ホームズは、クスリと笑う。

「分かってるのかい?精霊術師を援護する人が足りないんだよ?」

ジュードは、レイアに頼もうと後ろを向く。

先ほどから、レイアは、戦闘に参加していない。

ローズでさえ、ああだったのだ。

友人である、レイアをホームズと戦わせるのは、酷というものだろう。

そう思いジュードは、レイアに声をかけようとする。

「鶏足刃の如く……シャープネス」

「レイア……?」

ジュードが怪訝そうな顔でレイアを見る。

レイアは、そんなジュードに構わず、詠唱を続ける。

「力を鎧え……バリアー」

「非霊壮活……クイックネス!」

身体強化の詠唱を終えると、レイアは、ホームズに歩みを進める。

「ジュード、ミラ。二人は兵士の方をお願い。ホームズは……」

レイアは、ホームズを睨む。

「私が倒す!」

レイアは、そう言って棍を構える。

確かに、人数的には、そちらの方が、絶対にいい。

しかし、ホームズは、想像してるほど強くはないが決して弱いわけではない。

1人で戦うには、無理がある。

ジュードが迷っているとミラは、頷く。

「わかった。任せたぞ、レイア」

「うん」

「行こう、ジュード」

ジュードは、ミラに促されると、兵士の方へと向く。

「無理しちゃダメだよ」

「……それは、約束できないかな」

レイアは、にっこり笑うとホームズと向き合う。

ジュードは、一抹の不安を覚えながら、兵士の方へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1人残ったレイアは、ホームズと対峙する。

「お前、馬鹿か?1人でやるには、荷が重いだろう」

「分かってないな、ヨル」

レイアは、ヨルの言葉にホームズを正面から見据える。

「友達が馬鹿やらかしたら、馬鹿やらかしてでも止める。それが友情ってものだよ」

迷いなく放たれたレイアの言葉にホームズは、少し微笑む。

 

 

 

 

 

 

「さすが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を合図に二人は強く踏み込んだ。

 

 

 







自分の作ったキャラクターに手加減をしては、いけません。
と、自分の好きな漫画家が似たような事を言っていたので……






ゴメン、ローズ



では、また六十八話で( ´ ▽ ` )ノ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。