1人と1匹   作:takoyaki

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七話です。




コーヒーの苦味の分かる、そんな男に私はなりたい……


猫の恨みは恐ろしい

「ここが、あなた達の部屋ですよ」

ホームズ達はレイアの母であるソニアに部屋に案内された。

ベットが一つに、引き出しが一つ。物は多すぎず、少なすぎず、ちょうどいいぐらいだ。

「ありがとうございます。それで…その仕事は…」

「ああ、明日からやってもらいますよ。とりあえず、玄関掃除でも、やってもらいましょうかね」

「分かりました」

「夕食は下で他のお客さんと食べてもらうから」

「了解です」

「猫ちゃんには猫ちゃん用のエサを用意しますよ。それは、部屋に持っていきますからね。流石に食堂に動物持ち込まれたら困りますから」

「……了解です」

ヨルは少し不満そうだった。

 

 

****

 

 

 

「しっかし、今日は色々あったねぇ……」

ベットに腰掛けながらホームズは今日1日のことを思い出していた。

エレンピオスの事を知り、黒匣の事を知り、断界殻の事を知り、そして荷物を無くした。

もう本当に波乱万丈な1日だった。この1日だけで1年を過ごした気分だ。

「俺も疲れた……」

ヨルはヨルで疲れていた。自分のキャラでもない、かわいい猫を演じていたのだ。

「もうあんな屈辱的なこと二度とやりたくない……」

「いいじゃないか、もっと遊んでもらいなよ。ヨルちゃん」

「貴様の茶髪を脳みそで赤く染めてやろう……」

ヨルは牙をむきながらホームズを威嚇した。

「まあでも、近いうちに肉球触ってくるんじゃない?」

「あり得るな……」

牙を納めると自分の肉球を見つめながらヨルはため息をついた。

そんな会話をしていると、コンコンと扉がノックされた。

「はーい、どうぞ」

ホームズはヨルを黙らせると返事をした。

「どう、調子は?」

レイアが入って来た、お皿を持って。

「まあ、少し疲れたかな」

「今日船で来たばっかだもんね」

うんうんとレイアは頷いている。そういえば、とレイアはさらに言葉を続けた。

「船代はどうしたの?だって、お金ごとカバンを置いてきたんでしょう?」

「ああ、船代はこっちの袋に入れておいたんだ」

そう言ってホームズは腰の袋を指差した。

「すぐにパッと出せる様に必要な金額しか入れないようにしているんだよ」

ところで、とホームズは続ける

「何の用だい」

「ああ、いけない忘れるところだった。夕飯の用意が出来たって。だから、呼びに来たの」

それと、と今度はヨルに向き直る。

「はい、これヨルちゃんの分」

そう言って魚のそぼろの様な物の入った皿を渡した。

「ちゃんとね、お父さんが猫であるヨルちゃんの事を考えて味付けをしない、塩分控えめの物を作ったんだよ」

ヨルは見た目は猫だが、実際猫でも何でもないので、人と同じ料理を食べていた。なので、動物のエサなんて用意されても嬉しくないのだ。

ヨルはじっと今日の自分の夕飯を見つめていた。

「あの……一応この子は……」

猫じゃないからと言おうとした。しかし、だったら、何だと言う話になる。もう面倒ごとはごめんだ。

「この子は?」

止まってしまったホームズをレイアは不思議そうに首を傾げて聞いた。

 

 

「一応男なんだ。」

 

 

一応もなにも男だ!というヨルからの無言のツッコミをホームズは感じている。

ホームズ自身もやっちまったという意識はある。

「なるほど。じゃあ、『ヨルちゃん』じゃなくて『ヨル君』だね」

しかし、レイアは彼等に構う事なく続けた。

「だから、最初の頃はなかなか反応してくれなかったんだね。じゃあ、改めてよろしくねヨル君」

そう言うとヨルの頭を撫でようとした。しかし、ヨルはふぃっとレイアの手をかわした。

レイアは少しショックを受けたようだ。

「そんな、さっきまで一緒に遊んでいたのに……一体何が不満なの?」

全部だろうなぁとホームズは思う。

そんなホームズをよそにレイアは続ける。

「でもわたしは、諦めないよ。さっきは振り向かせる事ができたんだ。だから今度は必ずヨル君を抱っこして、撫でてみせる!」

レイアはそう高らかに宣言した。

(誰にとっても不幸な事になりそうだ…)

ホームズは心の中でそんな事を思っていた。

 

そして、ホームズはレイアの案内で食堂に降りて行った。

その時ヨルは心底恨めしそうにホームズと、そして、自分の今夜の食事を見ていた。

◇◇◇◇

 

 

夕飯はマーボーカレーだった。

「いいね、カレーだ」

ホームズは大喜びだ。

「マーボーカレー好きなの?」

レイアが聞いてきた。

「当然!おれは、カレーが嫌いな奴は存在する価値が無いと思っている。そのぐらいカレーが好きだ!いや、むしろ愛していると言っても過言ではない!」

グッと音が聞こえそうなぐらい拳を握り締めてホームズは力説していた。

「ずいぶんと歪んだ愛情だね…。とりあえず食べたら?」

レイアは顔を引きつらせながら言った。

言われるとホームズは握り拳をほどいて、左手首についている盾を外し隣に置き、スプーンを持って食べ始めた。

「まあ、わたしもホームズ程じゃないけどマーボーカレー、好きだよ」

「いい趣味だね、この世に存在する価値があるよ」

半ば、本気の目でホームズは言った。

「ははは、うん、ありがとう」

対するレイアは苦笑いで返した。そんなレイアに構う事なくホームズは質問をして来た。

「何が好きなの?豆腐?ご飯?ルー?」

「うーん…何がと言うより、マーボーカレー全部が好きなんだ」

ホームズのうざい程ぐいぐい来る質問に対してレイアはそのように応えた。

「全部が?」

「うん、なんかさマーボーカレーってさ、仲良しの食べ物って感じがしない?」

「どういうことだい?」

ホームズは不思議そうに首を傾げる。

「だってさ、まったく違う物同士が集まってこんな美味しい物になるんだよ。なんか、仲良し〜ってかんじがしない?」

レイアの言葉にホームズは、自分のカレーを見る。

「なるほどね。言われてみればそう見えるね。仲直りアイテムとしても使えそうだ」

感心したようにホームズは言った。

「うん、使えるよ。わたしで、実証済みだから」

「実証済み?」

ホームズは怪訝そうに尋ねる。

「うん。ジュードと喧嘩した時ね、いつもこれを持って仲直りしに行ったんだ」

昔を懐かしむようにレイアは話した。

「毎回、それをやっていたら段々喧嘩しなくなっていったんだよね」

多分、マーボーカレーばかり持ってくるから喧嘩しない様に気を付けたんだろうな、とホームズは考えていた。

勿論、わざわざそんな事を言うほどホームズも野暮では無い。

そんな事を話している内にホームズのカレーが遂に最後の一口になってしまった。

ホームズは皿のカレーをスプーンで、集めると後は全部一口で食べた。

「うん、美味しかった。辛過ぎず甘過ぎずちょうどいいぐらいだね」

ホームズは素直に褒めるとレイアは嬉しそうだった。

「でしょ〜、お父さんの料理はとっても美味しいんだ。お代わりあるから、たくさん食べてね」

「お父さん?」

そう言ってレイアが指を差すとごっついおっさんがこっちに向かって、ぺこりとお辞儀をした。

ホームズは少し驚いた。

「てっきり、ソニアさんが作ってると思っていたよ」

「お母さんも料理は出来るけどね。うちのお父さん結構料理上手だから、基本的にここの食事はお父さんが作っているんだよ。ホームズはどうだった?」

「どうって?」

ホームズは質問の意味が分からないと言う様に尋ねる返す。

「だから、ホームズのお父さん、料理上手だった?」

ホームズは、その質問に一瞬固まり、スプーンを覗き込んだ。そして、すぐに視線を戻すとレイアに返した

「そうだね、母親は料理上手だったよ。『花嫁修行のお陰だゼ』とか言ってたけど……あ、おかわり貰える?」

「え、あ、ま、いいけど」

「よろしく」

そう言うとレイアにいつの間にか空になったお皿を渡した。

レイアはお皿にカレーを盛りながら考える。

今明らかにホームズは話をずらした。

父親の話をしたのに、返って来た返答は母親についてだった。しかも、それ以外にも違和感があった。

でも、それを問いつめるのは失礼だ。レイアはそう思い何食わぬ顔で、カレーをホームズに渡した。

「はい、どうぞ」

「ありがと」

そのお礼が、気遣いに対してなのか、それともカレーのお代わりに対してなのか、レイアには分からなかった。

こうして、初日の食事は過ぎて行った。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「やれやれ、食った食った」

「羨ましい限りだ……くそ」

夕飯から帰るとホームズはそのままベットに倒れこんだ。

「どうだった。魚そぼろは」

「味がしなかった」

「良かったじゃないか、健康的で」

「代わってやろうか、病人はピッタリだと思うぞ」

「遠慮しとくよ。怪我人にとしては、薄味の物よりもがっつりとした物を食べたいからね」

「相変わらず、口の達者な奴だ」

「君にだけは言われたくない」

そんなお世辞にも和やかとは言えない会話をホームズ達は繰り広げていた。

「そっちは何が出たんだ?」

「マーボーカレー」

「本当に羨ましい…恨めしい。呪いたい」

「呪わないでおくれよ……」

引きつり笑いでそう言うと、レイアとの会話を思い出してた。

「『お父さん』ね……」

「どうした?」

「いや、ここのご飯は、レイアのお父さんが作っているんだってさ」

「あの、挨拶した時にいた、ごっつい人間が?……人間と言うのは見た目によらない物だな」

「君が言うと説得力が違うね……」

ホームズは苦笑いをしている。

「…ま、一応乗ってやったが、お前また話逸らしたな」

さっきまでとはガラリと調子を変えてヨルはホームズに言った。

「……ばれた?」

「当たり前だ。そのぐらい分かる。何年とお前といると思っているんだ。」

「10年以上は一緒だよね。まったく随分と長い付き合いだよ」

ホームズは何処か遠くを見つめながら、言った。

今でも覚えている、この猫もどきの化物との出会いを。あの暗闇の洞窟を。

「衝撃的だったよ」

「あの時、お前に騙されなければな…、今頃リーゼマクシアを地獄に変えていたのに」

「物騒だねぇ」

「そろそろ、話を戻すか」

ヨルは話を一旦切った。

「『お父さん』とやらがどうした?」

「随分と直球で聞いてくるね」

ホームズは若干面食らった。

「こうでもしないと、お前話さないだろう?まあ、こうしても話さない事もあるが……」

「よく分かってるね、さすがだよ」

ホームズは、ふふっと笑うとポツリポツリと少し寂しそうに話した。

「レイアにおれのお父さんはどんな人かと聞かれたんだ」

「ざまみろ」

ヨルのそんな返しにホームズは明らかにいやそうな顔をして応える。

「もう少しなんか無いの?」

「俺を差し置いて美味い飯を食うからだ」

「悪化したー!」

ホームズはうなだれた。こいつにそういう事を期待する方が間違いだと分かってはいても、心の傷は深い。

暫く、喋れない状態のホームズの言葉を引き継ぐようにヨルは続けた。

「なるほど。つまり、アンニュイな気分になったってところか」

「まあね、そんなところ。うまく隠したつもりだったけど多分、レイアに気付かれてるだろうね」

肩を竦ませ、ホームズは少し自嘲する様に言った。

「うまく隠せてねーじゃねーか」

そんなホームズに対して、ヨルは辛辣だった。

「今日は本当にぐいぐい来るね……一体何が不満なの?」

「お前が俺より美味い飯を食ったこと」

まだ、引きずってた。

「しつこいな!常識的にそろそろやめてくれない?!」

「お前の常識なんて、5秒で超えてやる」

そんなホームズの叫びに対してヨルはどこかで聞いた様なセリフを吐いた。

「もういい、分かった!今日はもう寝る!!おやすみ」

言うが早いかホームズはふて寝てしまった。

そんな様子を欠伸を一つしながら眺めると、ヨルもホームズを習う様に寝た。

なにしろ、明日からまた大変なのだ。休息はとっておくに限る。

 

彼等のル・ロンド1日目の夜はこうして更けていった。

 

 

 

 

 

 

「ホームズの部屋から声が2種類聞こえた気がするんだけど……」

ヨルのエサ皿を取りに来たレイアは、ホームズの部屋の前で考える。ノックのタイミングを完璧に逃してしまった。

「まさか……ね」

とりあえず、もう寝たみたいだし明日にしよう、と考えてレイアは自分の部屋にむかった。

 

 

 

 

 

そう本当に………明日から大変なのだ。

 

 

 

 

 








初めてプレイしたテイルズは、ジアビスでした。


最初の10時間はルークの性格の悪さに何度やめようと思った事か………
今ではやめなくて良かったと思っています(笑)

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