1人と1匹   作:takoyaki

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七十二話です




バトル!バトル!バトル!バトル!



てなわけで、どうぞ


既死回生

「……いってぇ」

ホームズは、ゆっくりと目を開ける。

そこには、ズタボロになっている自分の姿が目に入った。

「酷いざまだなぁ………」

袖は破れているし、血はダラダラと流れている。

ポンチョも所々破れている。

額も切ったようだ。 血が垂れている。

そして、先程から感じる痛みで何となく想像がつくのだが、肋骨も二、三本イッている。

「全くだ」

ホームズがため息を吐くと隣でヨルは、大あくびをしている。

ひとしきり、欠伸をすると、ヨルはホームズに袋を投げつける。

例の回復薬の入った袋だ。

「……なんか、大分減ってるんだけど……」

「ネズミにでも食われたんじゃないのか?」

(きみ)、仕事しておくれよ……」

ホームズは、そう言うとライフボトルを飲み、ミラクルグミを食べる。

「彼らは?」

「無事に走り去っていった」

「ふーん……」

ホームズは、どうでも良さそうに返事をすると、ヨルを見る。

「君、おれがレイアと戦っている時、手出ししなかったね?なんでだい?」

ヨルは、眉をピクリと上げる様な動作をする。

「気絶してたからな……」

「ふーん……ま、そういうことにしといてあげるよ」

グミを食べ終えると、ホームズは、ゆっくりと立ち上がる。

「さて………」

グミ達のおかげで大分体が楽になる。

「行きますか……ヨル」

ヨルは無言でホームズの肩にぴょんと飛び乗る。

ホームズは、そのまま自分が裏切った仲間達の元へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ホームズ!?」

ローズは、驚いてその姿を凝視する。

身体がボロボロだが何処からどう見ても、ホームズだ。

「そうだよ、ホームズだよ。ホームズ・ヴォルマーノだ」

ミラはホームズを鋭い目で見る。

「何しに来た?」

「戦いに来たに決まってるだろう」

ホームズは、ニヤリと笑う。

「報酬分の働きをするのがプロってものさ」

そう言うとホームズは、ウィンガルとプレザと向き合う。

「貴方、私達を裏切るつもり?ガイアス様からの恩を忘れたの?」

プレザは、顔を険しくさせ、ホームズを睨む。

ホームズに与えた恩は、決して裏切れないものだ。

だというのに、ホームズは、プレザ達に加勢するわけでもなく、ミラ達の側で凛と佇んでいる。

顔の険しいプレザとは、対照的にホームズは、胡散臭い笑みを浮かべている。

「まっさかー。ちゃんと返したじゃないですか。

貴方達が来るまで、おれは、ちゃんと足止めをしましたよ」

両手を大袈裟に広げさながら言葉を続ける。

「これで、貸借りなしの恩返し終了です。これ以上何か欲しかったら報酬を下さいな」

ホームズのその物言いにプレザは、歯ぎしりをする。

そんなプレザに構わず、ホームズは思い出した様に続ける。

「あぁ、そうそう。裏切りっていうのはね、友情や信頼で結ばれてることが前提ですよ」

ホームズは、心の底からの意地の悪い笑みを浮かべる。

「あなた達とマクスウェル御一行達の場合とは、訳が違う、信頼が違う……」

そこで言葉を切ると、レイアとローズを見る。

「……友情が違う」

ローズとレイアは、お互いに顔を見合わせて、それからため息を吐く。

どこまでいってもホームズは、ホームズだった。

《貴様……》

ウィンガルの言葉にホームズは、肩を竦める。

何を言っているか分からなくても、激怒していることは分かったようだ。

「どうせ、おれのことだって信用してなかったんでしょ?何を怒ってるんです?」

怒りに震えるウィンガルをホームズは、完全に見下した目で見る。

 

 

 

 

「こうなって当然だと思わなきゃ、ですよ」

《……なるほど》

ウィンガルは、怒りの顔から笑顔に変わる。

そして、そのままホームズに斬りかかる。

ホームズは、ウィンガルの突然の香華を盾で受ける。

《お前を斬る理由は、星の数よりある……この様な事になったのは、むしろ好都合だ。》

「ヨル……さっきから、この人は何を言ってるんだい?」

「ロンダウ語だな……まあ、要約すると斬り殺したいそうだ」

「そりゃあ、この状態で友達になろうなんて言われても困るよ」

ホームズは、ウィンガルの腹を蹴り飛ばし、距離を取り、ミラ達の所まで下がる。

別れてからそれほど時は立っていないというのに、雰囲気の固さにホームズは、気まずそうに目をそらす。

何せ、裏切ってジュード達を散々な目に合わせたのだ。

「えーっと、そのさ、んー………」

ホームズは、気まずそうにしどろもどろに言葉を絞り出す。

そんなホームズをローズは思い切り握り拳で殴る。

「後で、夢に見るほど文句を言ってやるわ」

ローズは、そう言うと二刀を構える。

「……理由は、聞いている。後で経緯を話せ」

ミラはそう言うと片手剣を構える。

「誰から聞いたんだい?」

「ウィンガルだ」

ホームズは、大きくため息を吐く。

折角自分が隠していたのにこれでは、全部パーだ。

そんな事を考えていると後ろから声が聞こえる。

「……ホームズ……!」

『後で覚えてろよー!』

エリーゼとティポにも文句を言われる。

ヨルは、半眼でホームズを見る。

「良かったな、愛されてるぞ」

「……おれは、幸せ者だよ」

ホームズは、頬をひきつらせながら言う。

「自業自得だよ」

「これに懲りたら、その性格を少しでも直すことだね」

ジュードとレイアは、そう言うと再び構え直す。

ローエンは、それを見て微笑むと口を開く。

「さて……ホームズさん達には、プレザさんをお願いしていいですか?

あの方は、精霊術がメインのようですし」

「りょーかい!」

「ああ、普通に攻撃もしますのでお気をつけて……」

「………りょーかい」

ホームズは、少し気を落とすとプレザに向かって走り出す。

「瞬迅脚!!」

ホームズの飛び蹴りをプレザは、本で受ける。

「躊躇無く蹴ってきたわね……」

プレザは、本で受けながらホームズに言う。

「おれ、猫嫌いなんだよね」

ホームズは、プレザの猫耳の様な髪型を睨みながら、足の力を更に強める。

そして、一瞬緩める。

プレザは、そのせいで体勢を崩す。

ホームズは、そこでもう一度足の力を強めて本ごと押す。

プレザは、派手に倒れる。

ホームズは、追撃を仕掛ける。

大きく足を後ろに下げるとプレザに向かって蹴りを放つ。

 

 

プレザでは、防げない一撃。

 

 

 

 

代わりにその一撃は、ウィンガルが防ぐ。

 

 

 

「へぇ…」

《残念だったな》

 

ホームズは、失敗したことを悟ると後ろに大きく下がる。

しかし、ウィンガルは、ホームズを逃さない。

《魔神剣》

斬撃が地面を滑って追ってくる。

「守護方陣!!」

ホームズは、青い白い光の陣を出現させ打ち消す。

守護方陣が消えた瞬間にウィンガルが斬りかかってくる。

ホームズは、回し蹴りで剣撃をそらす。

そして、その勢いのまま、先程とは逆の足でウィンガルの顔面に蹴りを放つ。

ウィンガルは、逸らされた刀をホームズの首筋に当てる。

ホームズの足はウィンガルの顔の横で止まっている。

緊迫した空気が届かない。

お互いに、王手をかけている状況だ。

二人とも下手に動けない。

 

 

 

 

二人は、だ……

 

 

 

 

 

 

だが、一匹は違う。

 

 

 

 

 

ヨルは尻尾を伸ばすとウィンガルの刀を固定する。

ホームズは、そのまま回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

《小癪な!》

 

 

 

 

ウィンガルは、ギリッと歯ぎしりをし、蹴り飛ばされると同時に無理矢理尻尾の拘束を解く。

 

 

 

 

「なんて?」

「死ねだと」

ホームズの質問にヨルは、相変わらず微妙な通訳をする。

ホームズは、ウィンガルを見るとため息を一つ吐く。

「やれやれ、おれをプレザさんと戦わせないつもりだねぇ……」

「まあ、敵の作戦に乗る理由は、ないわなぁ」

ヨルはウィンガルを睨む。

「おい……」

「なんだい?」

「出し惜しみなしだ、受け取れ」

ヨルは黒い球を出す。

ソレ(・・)は、ホームズの足に落ちると弾け、黒い霞となり、ホームズの足にまとわりつく。

「やれやれ、随分と気前のいいことだね」

「商人には、必須スキルだろ?」

「そりゃそうだ」

単純な話、ヨルのことをシャドウもどきと呼んだことを根に持っているのだ。

ホームズだって、そのぐらいのことは分かっている。

ホームズは、ヨルから、力を受け取ると、そのままウィンガルに蹴りを放つ。

ウィンガルが、かわしたことにより、ホームズの蹴りが壁に当たり、物の見事に壁にひびが入る。

ウィンガルは、その光景を見ると一瞬息を飲む。

しかし、直ぐに刀を構えるとホームズに襲いかかる。

ローズに襲いかかった様に無数の刃を繰り出す。

ホームズは、盾でどうにか逸らす。

 

 

 

 

 

 

 

ウィンガルは、こう考えていた。

 

 

 

確かに威力は脅威だ。

 

 

しかし、それならば当たらなければいいだけの話だ。

 

 

 

もっと言うなら、蹴り技を使う前に殺してしまえばいいのだ。

 

 

 

 

(くっそ!速すぎて、どうにもならない!)

ホームズは、何とか紙一重でかわしているが、それも時間の問題だ。

何せホームズには、怪我と言う大きなハンデがある。

どうしたって、長時間の戦闘は無理だ。

(こんなのと、よく戦ったよ……)

ホームズは、つり目の幼なじみのことを考える。

それと同時にローズの腹を蹴ったことを思い出す。

必要な事とは言え、随分と酷いことをした。

(あぁ、後で謝らなきゃな……)

なら、今すべきことは何だ。

決まっている、勝って生き残ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『覚えておきたまえ、ホームズ。男が頑張ったら、女が頑張る、女が頑張ったら、男が頑張る……』

 

 

 

『そうやって、バランスがとれてるのさ、男と女、それぞれがそれぞれのプライドを持ってるからね』

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒くさいこと思い出しちゃった……」

 

 

 

 

 

ホームズは、剣の嵐の切れ目を見極め、後ろに下がる。

ローズに出来たことが、自分には、出来ない。

これは、由々しき事態だ。

「仕方ない、おれの安いプライドをかけるとしましょうか……」

ホームズはニヤリと不敵に笑ってウィンガルを見る。

ウィンガルは、ホームズの右足に注意を払う。

あれが当たればタダでは済まない。

先程の壁の二の舞いだ。

その刹那、ホームズの右足が僅かに動いた。

ウィンガルは、直ぐさま、ホームズに斬りかかっていく。

《爪竜連牙斬!!》

流れる様な連続技にホームズは、盾で防ぐ。

しかし、時間切れが近いようだ。

肩に一つ貰ってしまった。

怪我の痛みも、切れかけている体力もじわじわとホームズの身体に響いてくる。

(機会(チャンス)は、次がラスト……)

ホームズは、ウィンガルを睨みつける。

普段の垂れ目からは、想像も出来ない闘志、殺気、覚悟……

戦いに、おいて必要な全てが目に宿っていた。

ホームズは、もう一度霞を纏った右足を動かす。

 

 

 

それが最後の合図だった。

 

 

 

ウィンガルは、連続の突きを繰り出す。

ホームズは、紙一重でかわす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、かわしきれなかった一つが、ホームズの腹を貫く。

『『ホームズ!!』』

 

 

 

 

皆のホームズを心配する声が響く。

 

 

 

 

ホームズは、口から血を吐く。

この前よりも多く。

ホームズの口から吐き出される血はカン・バルクの雪を赤く染め上げる。

 

 

 

 

 

ウィンガルは、赤く染まる雪を見て勝ったと思った。

 

 

 

 

しかし、それが間違いだった。

 

 

 

 

 

 

ホームズ、相手に絶対に思ってはいけない感情なのだ。

 

 

 

 

何せ、ホームズの真骨頂は、相手のそういった隙を突くところだ。

 

 

 

 

ホームズは、腹に刺した刀を持っているウィンガルの手首を掴む。

そして空いた手で更に刀を持っていない手を掴む。

 

 

 

 

 

とても、怪我人とは思えない力で捕まれ、ウィンガルは、攻撃が出来ない。

ならばと、足を動かそうとするが、

黒い霞を纏ったホームズの足に踏まれ、それも出来ない。

左足で強く踏み込んでいるため退かすことも出来ない。

攻撃どころか、逃げることも出来ない。

 

 

 

「君、ずっとおれの右足だけを見てただろう……」

黒い霞は、まだホームズの足に纏わり付いている。

「派手な手品に気を取られすぎだよ、君。

だから、こんな事になるんだ」

ホームズは、口から血を流しながらそうニヤリと笑う。

つまり、ホームズは、強力な切り札を在ろう事か、囮に使ったのだ。

「雨のような攻撃だか……無数の突きだ……か知らないけど……一回食らってし……まえば……封じるのは……簡単だよ……ね」

ホームズは、ギリギリとウィンガルの手首を掴む力を強めていく。

《だが、どうするつもりだ、両手両足を封じられているのは、お前も一緒だ》

 

 

 

「なんて?」

「お前だって何も出来ないだろうだとさ」

ホームズは、口から血を流しながら笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭が固いゼ、軍師どの。もっと頭柔らかくしていこうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、そう言うとウィンガルより伸び上がり、最大の勢いをつけ、ウィンガルに頭突きをかます。

どんなに強くなろうと、内臓だけはどうにもならない。

頭蓋骨で吸収できなかった、衝撃は、ウィンガルの脳を揺らしてしまい、ウィンガルは、そのまま膝をついて倒れた。

 

 

 

 

「ま、石頭のおれが言っても説得力ないけど……」

ホームズは、フラフラとしている。

側から見ればどっちが勝ったか分からないが、気を失ったのはウィンガルだ。

ホームズが確かに勝ったのだ。

 

 

 

 

 

「ウィンガル!!」

まさかの結末に、プレザが思わず目をそらす。

 

 

 

 

だが、それは決してやってはいけないことだった。

 

 

 

 

「どこを向いている」

ミラがゆらりとプレザの背後に立つ。

「レイア!」

「任せて!」

「「エアリアルファイア!」」

レイアとミラの共鳴(リンクアーツ)が炸裂する。

しかし、それだけでは終わらない。

「続けていく!ローズ!」

「了解!」

二人は螺旋を描きながら、宙に浮く。

「「竜虎滅牙陣!!」」

二人の刀が地面にあたり、弾ける。

「エリーゼさん!我々も!」

「はい!」

『「「ピコハンワルツ」」』

無数の斬撃と共にピコハンが大量に現れる。

 

 

 

連続の共鳴(リンクアーツ)にプレザは、膝をつく。

 

 

 

 

「最後だ、決めろ、ジュード」

「わかった……」

 

 

 

 

ジュードの籠手が赤く光る、

 

 

狙うは連続の共鳴(リンクアーツ)で弱っている、プレザの腹だ。

 

「掌底破!!」

 

 

 

 

ジュードの拳がプレザの腹を捉えるとプレザもウィンガルと同じように倒れた。

 

 

 

 

四刃象(フォーブ)が二人倒れた。

これによりマクスウェル一行の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、それを見届けると、今まで意地で持たせていた膝を地面につけた。

 

 

 

 







ケジメをつける!男らしく!
まあ、冗談はさておき、ホームズには頑張ってもらいました。
このぐらいはして貰わないと釣り合いが取れませんしね。


では、また七十三話で( ´ ▽ ` )ノ

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