七のゾロ目……
ラッキーセブンだー!
てなわけで、どうぞ
「さてと」
笑顔になったローズを見送ると、マーロウは紅茶の片付けを始めた。
「……と、やっぱりやめとくか……」
マーロウは、入り口の方を見る。
そこには、ローズとは違う人影があった。
「あんた、たしか………」
「ローエンとお呼び下さい」
マーロウは、目を丸くすると新しいカップを出す。
「……酒ならないぞ。ちょうど切らしてるからな」
「紅茶でいいですよ」
「待ってろ」
そう言うと先ほどの手順で、紅茶を注ぐ。
ローエンは、マーロウの出した紅茶を飲んで少し驚く。
「……美味しいですね……どんな茶葉を?」
「内緒だ。秘密をスパイスにしてくれ」
「ふふふ」
ローエンは、微笑んでいる。
マーロウは、そんなローエンを見ると煙管を咥える。
「で、あんた一人か?」
「えぇ、少しローズさんの様子が気になっていたのですが………」
そう言って、カップをテーブルの上に置く。
「大丈夫そうですね」
マーロウは肩を竦める。
「手間がかかってしゃーないぜ……弟子なんて取るもんじゃないな……」
「その割に楽しそうですね」
ローエンの言葉にマーロウは、キョトンとすると面白そうに笑う。
「……で、何をしに来たんだ」
「お礼に来ました」
「お礼?」
「エリーゼさん達の件尽力して下さってありがとうございます……で、どんな手を使ったんですか?」
「……誰から、聞いた?」
「ホームズさんが。まあ、あの人も詳しくは分かっていないようでしたが」
マーロウはキセルに火をつける。
「あぁ、別に大したことじゃない」
キセルをもくもくと吹かしながら、なんて事なさそうに答える。
実際は、とんでもなく無茶な手だった訳なのだが……
「………答える気はないですか?」
「まあ、言ったってしょうがないからな」
キセルの灰を灰皿に落とす。
ローエンは、しばらくマーロウを見ると紅茶に再び口をつける。
「まあ、この話はこの辺にしておきましょう」
「なんだ、まだあるのか」
「ローズさんの事です」
ローエンは真剣な目でマーロウを見る。
対するマーロウは、キセルを吹かす。
「あいつの好きな奴はホームズだ」
「そんなの見てれば分かります。そうでなくて……マーロウさん、リリアルオーブル持ってますか?」
「ま、一応な。貴重品だから、一つが限度だが……」
「それです」
ローエンが、マーロウを見る。
「リリアルオーブは、貴重品です。そんな物をどうして………こう言っては何ですが、一般人のローズさんがもっているのですか?」
ホームズ達は知らないが、ジュードやレイアは、実家を離れる時に念のためと言って持たされていた。
ミラも似たようなものだ。
因みにエリーゼは、ティポが落ちていたものを拾い食いしたのだ。
アルヴィンとローエンは言わずもがな。
だが、ただの剣術を習っただけの女子が何故もっているのか?
黙ったマーロウにローエンは更に言葉を続ける。
「ついでに聞きますが、リリアルオーブをローズさんに上げたのは誰ですか?」
「誰だと思う?」
マーロウの言葉にローエンは、順序立てて話を進める。
「あなたは、ローズさんがリリアルオーブを持っていることを知っていた……では、マーロウさんがあげたのか?答えはNOです。
何故なら、マーロウさん自身がさっき自分で言いました。
『貴重品だから、一つが限度だ』と。
しかし、ローズさんはマーロウさんから貰ったと言っていた……」
「いいね、面白くなってきた。軍師殿の実力が見てみたい。黙って聞いててやる」
マーロウは、含み笑いをする。
ローエンは、更に言葉を続ける。
「おかしいです。誰かが嘘を言っているのか?いや、実は違うんです」
「というと?」
ローエンは、あごひげを触る。
「簡単な話、マーロウさんが誰かからリリアルオーブを貰い、それをマーロウさんがローズさんにあげる、こうすれば辻褄が合います」
ローエンの言葉にマーロウは、ニヤリと笑う。
「当たりだ。ここで、俺が誰から貰ったかまで当てれば、百点だな」
「では、百点を貰いに行きましょう」
ローエンは、指を一本立てる。
「ホームズさんのお母さん、違いますか?」
マーロウは、少し目を丸くすると煙を吐き出す。
「根拠は?」
「ホームズさんです」
マーロウは黙ってキセルを加え直す。
ローエンは、それを見ると静かに、そして、一気にまくし立てる。
「ローズさんの家族が殺されたのは、ホームズさん達が去った後でしょう。
ローズさんとホームズさん、そして、ヨルさんの話を聞いてみると、ホームズさんはあの別れ以降ローズさんには、会っていません。
何故かは分かりませんが、立ち入り禁止になってしまいましたからね。
しかし、ホームズさんは、ローズさんに起こったことを知っていました。
何故か?恐らく、ホームズのお母さんが突き止めたのでしょう。
それをホームズさんに話した。
だから、ホームズさんは、知っていた」
マーロウは、黙って聞いていたが少し眉をひそめる。
「それが、何の関係があるんだ?」
「ローズさんは、言っていました。リリアルオーブをもらったのは、家族がアルクノアに殺された直後だ、と……こういうのは、どうでしょうか」
ローエンは、紅茶に口をつける。
「ホームズさんのお母さんは、その事を知った。まあ、どうやってかは、知りませんがね。それを知ったホームズのお母さんは、こう考えた、『まだ、脅威は去っていない』と。実際、アルクノア側の人間である、イスラさんがいたんですから、この読みは、当たっていました。
そこで、こう思った、『自分の息子の友人を危険に晒したくはない』
とはいえ、行商人である二人がずっと側にいるなんて事は不可能です。
そこで思いついたのが………」
「リリアルオーブ」
「そうです。リリアルオーブを渡す事により、自分で自分の身を守れるようにした……どうですか、この仮説は?」
マーロウは、ニヤリと笑う。
「当たっている。細かい事情を知らないで良くそこまで考えたもんだ。
……だが、少し根拠が弱い」
「というと?」
「ホームズの母親が知っていたという考えがだ……実際に当たってはいるんだが、少しこじつけに聞こえる」
ローエンは、静かに首を横に振る。。
「いいえ、だから、最初に言いましたよ、『ホームズさんです』と」
マーロウは、ローエンの言葉を聞き少し思案する。
そんなマーロウに構わずローエンは、続ける。
「いいですか、その時街にいなかった、ホームズさんがローズさんに起こった出来事を知っている……これは、何処かからその情報を知ったということです」
「そこだよ、一番弱いのは」
マーロウの言葉にローエンは、首を横に振る。
「いいえ、ここが一番の肝です」
「いや、だって、ホームズが知っていたからって、ホームズの母親が知っていたってのが、少し厳しくないか?ホームズが先に突き止めて黙っていたって考えはないのか?本当の事を言わないあいつの性格なら、黙っていたって不思議じゃない」
「いいえ。ホームズさんが友人の危機を知ったら真っ先に、相談します、自分の母親にね」
マーロウは、ようやく納得が言ったようだ。
「そう、一番考えやすいのは、ホームズさんのお母さんがホームズさんに教えたということなのですが、逆のパターンだって、十分にあり得るんですよ。
なにせ、化け物と呼んでいるお母さんなのですから、友人の家族が死んだという事を知れば、相談しない理由がありません」
ローエンは、仮説を話し終えると、にっこりと微笑む。
「いかがですか?」
「文句無しだ」
マーロウは、拍手を送る。
その後キセルの灰を灰皿に捨て咥え直す。
それから、事の顛末を話し始めた。
「あの女は、ローズの家族の事があってから、数日後、俺の所に来た。『これをローズちゃんに渡しておくれ』と言ってな。その時アルクノアの存在を説明したんだ」
マーロウは、煙を吐く。
「それから、こうも言っていたな、『悪いけど、君には監視役を任せたい。師匠として彼女を守ってやっておくれ。アルクノアの事もちゃんと説明しておきたまえよ、彼女に危ないと言っておかないと、奴らどこに潜んでいるか分からないんだから。ま、私も一応、手は打っておくけどね』てな感じだ」
マーロウの言葉にローエンは、ホームズの言葉が脳裏によぎる。
────「君の事を散々脅しつくした、女の息子さ」────
「打った手というのは、まさか……」
ローエンの様子を察してマーロウは、顔を暗くする。
「恐らく、死ぬほど脅したんだろう。気のせいでなければ、翌日、イスラの指に包帯がしてあった。お陰で、誰が監視しているのか、おれには分かったがな……」
◇◇◇◇
ローエンが一つの事実に辿り着いた時、ホームズの部屋に来訪者が来た。
「……何の用だ?」
ヨルがむくりと起き上がり、扉の近くに立つ男を睨む。
「チャラ男」
「酷いあだ名……アルヴィンと呼ぼうぜ」
「気が向いたらな。それで、何の用だ?」
アルヴィンは、ニヤリと笑う。
「仲間が傷付いたんだったら、心配するのが当然でしょうよ」
「そうだな、俺だったら、同じ裏切り者同士、何か余計な事を喋っていないか心配になるな。自分が傷付くから」
ヨルの言葉に、アルヴィンは、にこやかな目をスッと目を元に戻す。
ヨルは、眠っているホームズを一瞥すると、言葉を続ける。
「安心しろ、余計な事は言っていない。言った事と言えば、せいぜい、お前から手紙を預かった、ということぐらいだ」
「……それを信じろと?」
「ククク、お前が言うのか……」
ヨルは、面白そうに笑うとアルヴィンを見据える。
「気になるんなら、他の連中にでも尋ねたらどうだ?」
「……わかった。確かに、俺の事をベラベラ喋ってもお前らに得はないからな……」
「どうだか、お前の事を手土産に裏切り者である、俺とホームズの株を上げるという手もあるぜ」
ヨルの物言いにアルヴィンは、ニヤリと笑う。
「それは、俺にも言えることだ。嘘と本当を織り交ぜてな」
アルヴィンは、ヨルを真っ直ぐ見る。
嘘全部よりも本当全部よりも混ぜられた方が人間は、信じやすい。
「ま、俺は何も言わないがな」
ヨルは、どうでも良さそうにアルヴィンを脅し返す。
直訳すると、それをしたらヨルの知っているアルヴィンの事を全て話すと脅しているのだ。
アルヴィンは、ため息を吐くと椅子にどっかりと腰掛けてヨルを見る。
化かし合いはどうやら、引き分けに終わったらようだ。
「つくづく、食えない奴だな」
アルヴィンの言葉をヨルは、鼻で笑う。
「化かし合いで
アルヴィンは、少し顔を顰める。
相変わらず人の数歩上を平気な顔して歩いている。
そんなヨルを見てある事に気付く。
「そんなお前を手玉にとったホームズって……」
恐れを覚えたアルヴィンにヨルは、口を開けて牙を見せる。
「やってみるか、化かし合い?
せいぜい、大怪我してろ」
「……遠慮しておく」
アルヴィンは、大きくため息を吐く。
そんな危ない橋を渡ってまで勝利の美酒を味わうことを目指したくない。
アルヴィンは、ホームズの寝顔を見ながら口を開く。
「どうやら、もう少し仲良くした方が良さそうだ」
「懸命な判断だな」
ヨルは、大きなあくびをする。
「なぁ、お前は、ミラの事をどう思ってる?」
「敵」
アルヴィンの質問にヨルは、簡潔に答える。
そして、アルヴィンの思惑を見透かすように言葉を続ける。
「そして、お前も敵だ。味方して貰えるなんて思わない事だ」
アルヴィンは、ヨルの言葉に肩を竦める。
「別に何も言ってないだろ」
「貴様のような人間の考える事なんて、今更言葉で聞く必要もない」
ヨルは、見下すようにアルヴィンを見る。
「……そんな生き方ばかりしてると、ろくな目に合わんぞ」
ヨルの言葉にアルヴィンは、肩をすくめる。
「忠告どうも。お前が心配してくれるなんて、思わなかったよ」
ヨルは、一瞬キョトンとした顔をするが、直ぐに面白そうに笑う。
「馬鹿か、お前は」
口角を釣り上げ、白い牙をとても楽しそうに見せる。
「忠告じゃない、予言だ。賭けてもいい、お前の様な奴はろくな目に合わせないし、ろくな目にも合わない。その時まで一緒にいるか微妙だが………」
そこで言葉を区切ると、尻尾でアルヴィンを真っ直ぐに指す。
「せいぜい、後悔にまみれて生きるがいい」
アルヴィンは、楽しそうに笑うヨルを睨む。
そして吐き捨てるように言う。
「……っとに……流石化け物と言った所か」
「そういう事だ」
アルヴィンは、肩をすくめると扉へと歩き出す。
ヨルを利用する事はどうやら、不可能なようだ。
人間とは違う、ミラとも違う、アレは正真正銘の化け物だ。
利用しようとするだけで怪我をするレベルだ。
シャドウもどきの名前は伊達じゃない。
まぁ、そんなヨルをホームズは、手玉に取った訳だが……
アルヴィンは、そこまで、考えてふと疑問に思った事を訪ねる。
「あぁ、そうだ興味本位なんだが……」
「なんだ?」
「どうして、お前、シャドウもどきなんて呼ばれてるんだ?」
ヨルは、嫌そうな顔をした後口を開く。
「シャドウと同等の力を持ってたからだ」
「本当か?」
「どういう意味だ?」
「だって、シャドウは精霊術を食べないだろ……つーか、精霊術を食う奴なんてお前くらいなもんだ……それって、同等っていうのか?」
ヨルは、少し考え込むとニヤリと笑う。
「いいところに気がついたな、ま、気が向いたら話してやるよ」
「それ話さないと同義語だよな」
「さてな」
ヨルの言葉を背中で聞きながらアルヴィンは、扉を静かに閉めた。
「………腹に一物抱え目的に挑む、か……」
ヨルは、消えていったアルヴィンの姿を思い出し、ポツリと零し、そして、眠っているホームズを見る。
「いつの世も変わらんな、人間というものは……」
ヨルは、欠伸を一つしてもう一度眠りの中へと落ちていった。
◇◇◇◇
「やれやれ、今度こそ片付けだ」
マーロウは、そう言ってコップを綺麗に洗っていく。
カップを洗っている時、不意にあの時の事を思い出す。
『………というのが、ローズちゃんの家族殺しの真相だ。てなわけで、マーロウ、このことは誰にも話すんじゃないよ、もちろん、ローズちゃんにもね』
「んなこと言ったって、時間の問題だと思うがね……」
マーロウは、最後のカップを洗い終え、そのまま自分の部屋へと戻っていく。
束の間の休息が終わるのを肌で感じながら……
マーロウの元にガイアス王からの通達が届いたのは、この直ぐ後だった。
舞台は整い、役者が揃う。
ホームズ達の正念場は、もうすぐだ。
まぁ、本当なら、ジュード君に任せても良かったんですが年齢的にローエンに任せました。
本当なら、オリキャラ勢に謎解きを任せたいんですが……奴らの性格上難しいです。
んー……この章は、色々ありました………裏切ったり、裏切ったり、裏切ったり………
振り返る思い出はろくな物が有りませんね……
因みにホームズが、プレザ達を裏切った時のセリフは、昔見た映画の悪役が言っていたセリフのアレンジです。
このセリフを昔聞いた時、成る程と頷いたのを思い出しながら書きました。
さてさて、次回から殴り込みです!
では、また七十八話で( ´ ▽ ` )ノ