1人と1匹   作:takoyaki

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八十三話です!!




間に合いました……よかった今日中に更新できて……



てなわけで、どうぞ


カラハ・シャールの誓い

「……いつ見ても、なんとも言えない気分になるな……」

ヨルは、クレインの墓の前でポツリと呟く。

「……まぁ、ね」

ホームズは、花を置き手を合わせる。

「いい人だったんだけどなぁ……」

手を合わせながら、ホームズはそうこぼした。

そんな彼らに近づく人影が一つ。

「ホームズ?」

声の方を振り向くと、そこにはジュードがいた。

「ジュードじゃん。君も墓参り?」

「まぁ、そんなところ」

ジュードは、そう言うとホームズと同じ様に手を合わせる。

「クレインさん、いい人だったよ」

「知ってるさ。お得意様だよ」

「そうだったね」

ジュードは、手を合わせ終える。

「クレインさん、ナハティガルの手の者よって暗殺されたって……」

「知ってる。ローエンが教えてくれた」

ホームズは、ジュードの言葉にそう返す。

「ナハティガル、ねぇ」

「どうしたの?」

感慨深そうに呟くホームズにジュードが、不思議そうに尋ねる。

ホームズは、ジュードの方を向く。

「いやね、一医学生が、王様と戦うことになる……って思うと、なんだか不思議なものがあるなぁってね」

「それは、ホームズも一緒でしょ」

ホームズの言葉にジュードがそう言い返す。

ホームズは、面白そうに笑う。

「まあね。まさか、ただの行商人が精霊の主殿と二回も戦うとは、思わなかったよ」

お話のだけだと思っていた存在と戦う羽目になったのだ。

「そんでもって、次は王様か……人生ってのは、どう転ぶか分からないもんだねぇ」

「………ホームズが言うと説得力が違うね」

ジュードは、人外(ヨル)を見ながら言う。

ヨルはふふんと鼻で威張る。

出会ってきたものの場数が違う。

ホームズは、肩を竦めて答える。

会話が途切れ、二人の間をカラハ・シャールの風が流れる。

「ホームズはさ……」

「ん?」

ジュードが言いづらそうに尋ねる。

「どうして、黒匣(ジン)とか、クルスニクの槍を壊そうと思うの?」

先程、レイアにジュードは、同じ質問をされたのだ。

考えてみれば、ミラが壊すといったからついて行っていただけなのだ。

そんな考えを読まれないようにするのに精一杯だった。

だからこそ何となくではあるが、ホームズに尋ねた。

ホームズは、ジュードの質問に特に考えるそぶりも見せずに口を開く。

「ミラが壊すって言ってるからさ」

何てことなさそうに、そして当たり前の様にホームズは、答えた。

ジュードは、ポカンとして口が塞がらない。

「お忘れかい、ジュード?おれは、ミラに雇われているんだ。

だったら、よっぽど変な事じゃない限り、雇い主の意向に従うってものだろう?」

ジュードは、ようやく納得がいった。

「……そうか……ホームズは、そういう人だよね」

「報酬分の働きはしないとね……ほら、おれって前科持ちだし」

ホームズは、そう言って自嘲する。

前科とは、明らかにこの前の裏切りのことだろう。

「ホームズ……気にしてる?」

ジュードの質問にホームズは、片眉を上げる。

「さてね……でも、まぁ……」

ホームズは、そう言って空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分は、良くないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュードは、それでホームズの事を察する。

みんなに許されてもホームズ自身、自分を許せていないのだ。

お首にも出さなかったが、あの時の選択は、とても辛いものだったのだろう。

「自業自得だ、馬鹿」

「……煩いなぁ、知ってるよ」

ヨルの言葉にホームズは、顔を顰める。

そういった後ホームズは、口を開く。

「まあ、ミラの依頼を置いといても、黒匣(ジン)もクルスニクの槍も容量を超えてるよね」

「容量?」

ジュードは、首を傾げる。

ホームズは、頷く。

「ほら、コップ一杯に風呂桶一杯の水は入らないだろう?」

「まあね」

黒匣(ジン)もクルスニクの槍も、それに近いものがあると思わないかい?」

ホームズの説明にジュードは、コクリと頷く。

「なるほどね……」

納得するとジュードは、ホームズの方を向く。

「ホームズってさ、例え話上手いよね」

ホームズは、突然の事に目を丸くする。

「わぁお……君がおれの事を褒めるなんて初めてじゃないかい?」

いつもの悪態を消し去り、本気で驚いているホームズ。

そんなホームズを見てジュードは、引きつり笑いをする。

(もう少し優しくしてあげよう……)

冷たくしてるつもりはなかったのだが、この反応をされるとうっかり涙が出そうになる。

そこまで考えたところでジュードは、話題が逸らされた事に気づく。

ジュードは、ため息を一つ吐いてホームズの逸らした話題を戻す。

 

 

 

 

「ホームズ……ガイアスたちって、恩を返したいって思うような人なの?」

 

 

 

 

ジュードの質問にホームズは、少し寂しそうに笑う。

 

 

 

 

「親の墓を作ってくれた……前にも言ったけどね、これをしてくれただけでも、おれには充分すぎるくらいなんだよ」

そう言ってホームズは、クレインの墓石をそっとひと撫でする。

「君達には、想像も出来ないだろう?家族が死んだ時、墓がないなんて。

行商人ってのは、常にそういうものなんだよ」

ホームズは、ふふっと笑う。

「そんなおれ達にガイアス王は、墓を用意してくれた。これって凄いことなんだよ」

そう語るホームズは、とても生き生きとしていた。

そこまで言うとホームズは、ポツリと最後に言葉を足す。

「正直、カン・バルクに行くまでガイアス王に着こうと思ってた」

ジュードは、思わず息を飲む。

「でもさ、カン・バルクの宿でグタグダと過ごしてるうちに変わったんだよねぇ……」

ホームズは、とても楽しそうに笑う。

「変わった?」

「うん。男衆で下らない話をして、王様ゲームをして、プレゼント買って、まぁ基本的にロクな目に合わなかったけど、こうみんなでワイワイやってさ……あぁ、やっぱりこっちの方がいいなぁって思ったんだよ」

楽しそうに語るホームズを見てジュードは、あの時の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

──────『あぁ、そうそう。裏切りっていうのはね、友情や信頼で結ばれてることが前提ですよ』──────

 

 

 

 

 

 

(そっか、結局ホームズは、ガイアス王の恩より僕たちの方をとったんだ……)

「一つ聞いていい?」

「何なりと」

「ホームズの方がレイアに勝っていた場合、どうするつもりだったの?

「……まあ、多分君達と戦って負けてたんじゃない?」

ホームズは、事も無げに言う。

「いや、逃げてたかも……勝てないからね、どう考えても」

「ほんっと、正直だよね」

ジュードは、引きつり笑いで返す。

「そんで、そのまま二度と君達の前には、現れなかっただろうね」

更にそう補足する。

「珍しく、嘘ついたね」

ジュードは、そう言ってホームズに視線を向ける。

「多分、ウィンガル達と戦うときには、戻ってきたと思うよ。別れるなら、その後だろうね」

「……かもね。どちらにせよ、今ここにはいなかったよ」

ホームズは、言い終わるとジュードの方を見る。

「だからね、君の幼馴染みには、本当に感謝してるんだ。いつか、機会があったら言っといておくれ」

ジュードは、ため息を一つ。

「自分で言いなよ、それぐらい」

ホームズは、そんなジュードを見ると優しく微笑む。

そして、レイアの事を言われた瞬間顔を俯かせたのを見逃さなかった。

「……レイアに何か言われたのかい?」

ジュードは、ゆっくりと頷く。

「うん、レイアに聞かれたんだ……『この旅が終わったらどうするの?』てさ……」

「あ、それ、おれも聞かれた」

ホームズは、そう言ってから、ふうっとため息を吐く。

「ジュードは、決めてないのかい?」

「うん、まあ……」

ホームズは、少し以外そうな顔をする。

「イル・ファンで医者の勉強を再開するんじゃないのかい?」

ホームズの言葉にジュードは、更に難しい顔をする。

「ふーん……」

ホームズは、ジュードを暫く見ると伸びをする。

そして、よっこらしょ、と立ち上がる。

「まぁ、アレだ。人生という料理に悩みというスパイスは、欠かせないんだよ」

ホームズの言葉を聞いたジュードの顔から影が少し晴れる。

ホームズは、ジュードの横を通り過ぎ様に肩に手を置く。

「せいぜい悩みたまえ、少年」

「……ホームズもね」

ジュードの言葉にホームズは、ニヤリと笑いながら墓地の外へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「料理のできない奴が何言ってるんだ?」

「煩いなぁ……」

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

屋敷の入り口に帰るとそこには、レイアでは無く、ミラがいた。

「なんだ、ホームズか……」

「何だって事はないだろう……」

開口一番のミラの言葉にホームズは、ため息を一つ吐く。

そんなホームズに構わず、ミラは言葉を続ける。

「どうやら、ようやく報酬を払えそうだ」

「そりゃあ、良かった。何回も腹に穴を開けた甲斐があるってものだ」

ホームズは、戯けて返す。

ミラは、やれやれとため息を一つ。

「ナハティガルとの戦いでは、あまり無理をするなよ」

ホームズは、ミラの言葉に驚いた様に目を丸くする。

「君がおれの事を心配するなんてねぇ……」

ミラは、ホームズの言葉にふっと笑う。

「失礼な奴だ」

「君もね」

ホームズは、ニヤリと笑う。

ミラは、直ぐに笑みを引っ込めるとホームズを挑むように見る。

「ホームズ、これからも裏切る事はあるか?」

突然の言葉にホームズは、少したじろぐ。

「何?どうしたの?突然」

ミラはホームズに構わず続ける。

「これから、私の目標を果たしに行くのだ。だから、裏切られるのは、迷惑だ」

ホームズは、頬を引きつらせる。

「馬鹿正直に言うねぇ……それ、裏切るつもりがあってもなくても、裏切らないって言うに決まってるじゃないか」

ホームズの言葉にミラは、考え込む。

「なるほど、裏切らないとは、言わないのだな」

ミラは、ホームズの言葉を聞いて思案する。

「確かに本当のことだ……こうやって、嘘をつかず相手を欺いていたわけか……」

ホームズは、何も言い返さずに黙ってミラの言葉に耳を傾ける。

「全部とは、言わない。しかし、お前の事は大分、分かってきた」

ミラは、ホームズの目を真っ直ぐに射抜く。

「どうやら、お前には思ったより因縁というものが多そうだ。その因縁のせいでまた、敵に回るかもしれない。お前はそう思ってるわけだ」

ホームズは、パチパチと心のこもらない拍手をする。

ミラは、ならっと、ホームズに一歩近づき、凛と立つ。

「約束しろ、ホームズ。今後は、私達を裏切るな、絶対にだ」

ホームズは、驚いて目を丸くする。

そんなホームズにミラはもう一手打つ。

「約束を破った場合は、嘘をついたと見なす」

ホームズは、動きを止めミラを見る。

ミラの言葉は、的を射ている。

ホームズの過去は、因縁は、どこでどのように顔を出すのか分からない。

今回が良い例だ。

まさか、自分自身も裏切ることになるとは、思わなかった。

また、同じことをしないとは言い切れない。

一行の事は確かに大切に思っている。

しかし、恩を出されれば断れない。

因縁があればそちらを優先させる。

ホームズ・ヴォルマーノは、そういう人間だ。

はっきりと言うことは出来ない。

しかし、約束をしなければ、ミラは、ホームズの事を二度と信用しないだろう。

最悪報酬は、支払われない。

なら、どうするか?

簡単だ、誤魔化せばいい。

そうして仕舞えば、後はうやむやにできる。

 

 

 

 

 

 

『真剣な申し出には、それなりの対応がある』

 

 

 

 

 

 

 

『因みに言っておくと、誤魔化すなんてのは、悪手中の悪手だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

母の言葉を思い出したホームズは、決意を固める。

いい加減、選ばなければならない。自分が誰の味方か、誰が自分の味方か、はっきりさせねばならない。

あの時、ミラ達に許してもらえた時、ホームズは、本当に嬉しかった。

それは、ただ報酬が貰える、というだけではない。

みんなと一緒に旅が再びできる事が喜ばしかったのだ。

あの時間をまた皆と過ごすことが出来る、そう思えたから、ホームズの瞳は涙に濡れたのだ。

勿論その旅にいずれ終わりが来ることは分かっている。

実際、近づいてきてもいる。

これで無事ナハティガルを討ち、クルスニクの槍を壊し、報酬を貰えばそれで終わりだ。

しかし、終わるのなら、ちゃんと終わりたい。

うやむやに、そして、後味悪く終わるのだけはごめんだ。

 

 

 

 

 

 

「わかった。約束するよ、ミラ・マクスウェル。おれ、ホームズ・ヴォルマーノは、この先、どんな事があろうとあなた達を裏切らない」

ホームズは、滅多に見せない、真剣な顔になる。

ホームズのその顔を見るとミラは、優しく微笑む。

そして、右手を出す。

「その言葉を待っていた」

ホームズは、微笑むと同じように右手をだす。

そして、誓うように強く握手をする。

「お待たせしちゃって悪かったよ……」

そう言ってホームズは、肩にいるヨルを見る。

「というわけだ、ヨル。残念だろうけど、マクスウェル殿と戦う事はしばらくないけど……いいよねぇ?」

「俺に拒否権なんて最初(ハナ)ないだろ」

「よく分かってるじゃないか」

ヨルの言葉にニヤリと笑うと握手を解き、意地の悪い笑みを消し、目に力を込める

「頑張ろうね、ミラ」

「あぁ、改めてよろしく頼む」

ミラは、短く、簡潔に、そして、凛として答えた。

 

 

 

 

 

 






はい。
てなわけで、ホームズは裏切りません!
前のあとがきの書き方だとこの章でも裏切る様な感じだったので書き直しました。



この話も難産だったなぁ……




では、また八十四話で( ´ ▽ ` )ノ




あ、新年企画は、今週いっぱいまでにしますので、どしどし、活動報告に送ってください






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