1人と1匹   作:takoyaki

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九十二話です



最近調べたら、「テイルズオブ」のタグが追加されていました。
なので、せっかくだからそろそろ変更しようかな、なんて思いました。
てなわけで、どうぞ


口は戦いの門

「これで、三つ目、か………」

ホームズは、ヨルが術で出来た魔物モドキを食べている傍で考える。

「そろそろ、本命に………」

そう呟いてホームズは、言葉を切る。

「ホームズ?」

不思議そうに尋ねるローズに答えずホームズは、顔を険しくさせる。

「いるねぇ……この扉の向こうだ」

ホームズは、そう言って腕を押さえる。

まるで、何かを堪えているようだ。

「……殺気が尋常じゃないな」

「流石、腐っても王……歯向かうものには、容赦せずって奴かねぇ」

「違う」

ヨルは、そう言ってホームズを睨む。

「お前だ、ホームズ」

ホームズは、片眉をピクリとあげる。

「そんなに、出ててた?」

「上手に押さえてる方だとは、おもうがな」

「ホームズ、大丈夫か?」

ヨルの言葉を聞いて、ミラは慮るようにホームズに尋ねる。

ミラの言葉にホームズは、頷く。

「安心したまえ」

そう言って、ホームズは瞳に決意の炎を宿す。

「蹴りをつけよう、必ず……!」

ホームズの言葉にミラは頷くと扉に手をかける。

そして、ぎぎぎと音を立て扉を開く。

扉の向こうは、見渡す限りの大広間、奥には、大きなガラス窓。

そして、ガラス窓の前の玉座にどっしりと腰を下ろす額にバツ印の傷を負った老人が一人。

「ナハティガル……!」

ミラの視線の先の男を見て、ホームズは拳を強く握り込む。

「アレが……」

老人、ナハティガルはゆっくりと玉座から立ち上がった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「来たか、マクスウェル、あの怪我からよく復活したものだ」

ナハティガルは、従者に指示を飛ばす。

「貴様は、槍の元で待っておれ。マクスウェル狩りの後は、北の部族狩りと行こう」

「かしこまりました」

従者が去るのを見届けると今度は、ローエンを見据える。

「イルベルト、まさか本当に主である儂に逆らうのか?」

ローエンは、静かに目を閉じる。

「私の主は、クレイン様ただ一人です」

見開いたローエンの言葉に、ナハティガルは、不遜に言葉を続ける。

「今なら、まだ許してやる……儂の元に来い」

ローエンは、静かに首を振る。

「かつて、貴方に見た王の器は、翳りを見せてしまった」

「儂以上に王にふさわしい者などおらん」

「随分とデカイ口を叩くじゃないか」

ホームズは、一歩歩みを進めて口を開く。

「まあ、その自信は評価してあげるよ」

ナハティガルは、ホームズの顔を見た時、興味深そうに頷く。

「黒猫を肩に乗せた、碧眼の男……そうか、貴様がホームズか……」

「どこから、仕入れた情報か、今更問いただす迄も無さそうだ」

ホームズは、どうでも良さそうに返すとナハティガルを睨みつける。

「研究所にあった、あのマナを吸い出す装置、アレ試作品って訳じゃないよね?」

「口の利き方に気をつけろ、小僧。首を飛ばされたいのか?」

「黙りたまえ、質問してるのはこっちだ」

ホームズは、ピシャリと叩きつけるように言い放つ。

そして、言葉を続ける。

「アレが、完成品だというなら、試作品は、どこに?」

「全て潰した」

ナハティガルの言葉にホームズは、更に目つきを険しくする。

「やっぱり……試作品を作って実験してやがったな、ナハティガル」

口調こそ静かだ。

しかし、普段からは、考えられない口調の荒さに回りは、信じられないと言う顔をする。

ナハティガルは、ホームズの意図を読んでニヤリとする。

「なるほど、それが聞きたかったわけか……そんな、回りくどい事をしなくても問われれば答えてやったものを」

「なら、単刀直入に聞いてあげるよ」

ホームズは、真っ直ぐにナハティガルを睨みつける。

「アーティーという名に聞き覚えはあるかい?」

「勿論、クルスニクの槍の礎となった人間ぐらい覚えているとも」

「礎って……」

ローズは、あの老婆の事を思い出す。

あの苦しそうな顔は今でも思い浮かぶ。

歯ぎしりをする、ローズに構わずホームズは、ナハティガルを睨みつける。

「ピースは揃ったようだな」

ヨルの言葉にホームズは、頷く。

「全部繋がった……納得だよ……」

ホームズからは、殺気が溢れ出ていた。

ローズは、殺気立つホームズに構わずポツリと呟く。

「貴方にとって、民は……」

「王の為だ、当然だろう」

人は、相容れない考えを受け入れられない。

 

 

 

 

特に、自分の良心がそれを拒絶すれば尚更である。

「貴方………それでも、王か!」

「当然。だから、ここにいる」

ローズは、キッとナハティガルを正面から睨みつける。

「貴方……人を統べる資格なんてない!!」

「資格などいらぬ、資質もいらぬ」

そう言って驕り高ぶった笑みを浮かべる。

「王は、生まれ出づる刻より、王よ!」

「だから、民を犠牲にしてもいいと?」

今度は、ミラが尋ねる。

ナハティガルは、静かに頷く。

「そう。それが儂の権利だ」

ホームズは、ナハティガルの主張を聞き拳を強く握る。

「ふざけた事を!民の……人の命を何だと思ってる!」

今のホームズの感情は、激怒ではない。

憤怒だ。

そんなホームズに構わず、ナハティガルは指を一本立てる。

「王の為の必要な、犠牲だ」

「あなたの下らないクルスニクの槍(オモチャ)の為に、失われる命が必要だと?!」

「さっきから、そう言っておるだろう。ついでだ、人の次は、精霊も支配してみせよう」

「人も精霊もあなたに支配されたりなんかしない!」

ジュードが凛として返す。

ナハティガルは、そんなジュードを鼻で笑う。

「小僧が……マクスウェルとつるんで、すっかりつけ上がりおって……」

「つけあがってんのは、お前だろ、馬鹿王」

ヨルは、吐き捨てるように言う。

「何?」

不快感を隠そうともせず、ヨルを睨みつける。

「お前ごときに支配できるものか。お前程度に支配できるなら、俺は封印されたりなんかしていない」

「それは、貴様が弱かったからだ」

ヨルの言い分をナハティガルは、そう鼻で笑い流す。

「……クルスニクの槍か?」

「おうともよ、貴様になくて儂にあるものだ」

「いつの世も、どの人間も変わらんな」

ヨルは、呆れ切った目でナハティガルを見る。

そして、ヨルはローエンを見る。

「こんな奴の為に、お前は……」

ローエンは、ヨルの言葉に悲しそうに目を伏せる。

「イルベルトがどうした?」

ナハティガルは、面白そうに尋ねる。

ジュードは一歩前に踏み出す。

「ローエンは、あなたの事でたくさん悩んだんだよ!

僕の事は何と言ってもいい……でも、ローエンがどれだけ悩んだかぐらい、考えられないの!?」

「ジュードさん……!」

ローエンが思わずジュードを止めるように言う。

恐らく、次に来る台詞に予想がつくからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「民が悩むなど当然!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナハティガルは、そう言ってジュードの言葉を一蹴する。

「貴様らに安穏と生きる権利などない!」

「なっ!?」

ローズは、突然の暴言に言葉が続かない。

しかし、ナハティガルの暴言は、更に続く。

「儂の為に命を費やせ!それが儂の民たる者の使命よ!」

悪王そのままの暴言。

ホームズは、何かを言おうとヨルを見るがヨルの方が先に口を開く。

「何も言うな……全て現実だ。いるんだよ、こういう奴も……」

そう言ってヨルは、ホームズを見る。

手を強く握り込み、歯を食いしばるその姿は、鬼の形相というのも生ぬるい。

普段のチャランポランとした印象からは、想像もつかない。

ヨルは、そんなホームズを一瞥すると言葉を続ける。

「感情に飲まれるな。感情は、武器にもなるが、落とし穴にもなる」

そう言って、ホームズの頬を尻尾で軽く叩く。

「ま、こんな事をお前に言わなくたっていいだろうけどな」

ホームズの得意分野は、相手のそういった感情を突くところだ。

ホームズは、少しぽかんとした後深く深呼吸をする。

そして、いつもの胡散臭い笑顔に戻る。

「ナハティガル、今の言葉、嘘偽りはないだね?」

「ない」

即答だった。

「そう」

ナハティガルの答えにホームズは、表情を消す。

ミラは代わりに決意の色を瞳に浮かべる。

「救えないな」

その言葉を聞くとナハティガルも自分の意見が聞き届けられないことが分かったのだろう。

「時間の無駄だったようだな」

そう言って、身の丈以上の突撃槍(ランス)を構える。

そして、その突撃槍(ランス)に向かって何やら紫色の物が集まってゆく。

「それは……」

ミラは気付いたようだ。

ナハティガルは、自慢気に笑み浮かべる。

「クルスニクの槍に吸収されたマナの部分転用よ」

その集まるマナを見て、ミラ達はナハティガルが本気で殺しに来る事を悟った。

ローエンは、悲しそうに目を伏せる。

「貴方の事を共に歩む友と思っていたのですが……」

そしてゆっくりと細剣を抜く。

「どうやら、もう後戻りは出来ないようですね」

肩で大剣を担ぎ、銃をくるくると回し、アルヴィンはナハティガルに照準を合わせる。

「あんたみたいに生きられたら、どんなに楽なんだろうな……だけどよ……」

そう言って、アルヴィンは、目つきを鋭くする。

「正直付き合ってられねーわ、裸の王様さんよ!」

アルヴィンが言い終わるとレイアが棍をくるくると回す。

「こんな人が自分達の王様なんて信じられない!

絶対、代わってもらうからね!」

エリーゼも杖を取り出す。

「ジュードとミラ、友達を守ります!」

『やるぞー。敵討ちだー!』

ローズも腰の二刀に手をかける。

「故郷を守る為にここにきたわ……でも……」

そこで言葉を区切るとローズは二刀を抜く

「貴方は、いるだけで不幸を振りまく……不愉快だわ……必ず引きづりおろしてやる!」

ホームズは、しらっとした目の下に感情を隠す。

「こんなに人を嫌悪したのは久々だよ」

「全くだ」

ヨルも頷く。

ヨルをコケにした言葉、傲慢な言葉、全てに腹が立っているのだろう。

「君と気があうとはね……明日は、雷でも降るのかな?」

「フン。せいぜい降って血の雨だ」

ホームズは、ヨルとの会話を終え、右足を構える。

次に続くはジュードだ。

ジュードは、籠手を出し両拳を突く。

「あなたの野望もここで終わり……終わりにしなくちゃ!」

「覚悟しろ!ナハティガル!」

ミラの言葉を合図に全員がナハティガルに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルスニクの槍を巡る戦いの幕が切って落とされた。









次回は、バトルです!



えぇ、次からエクシリアの山場の一つです!!




では、また九十三話で( ´ ▽ ` )ノ

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