暖かくなって来たと思ったら、これだよ………
さて、本編再開です!
てなわけで、どうぞ
一分一時間の思い
「よし……終わったよ」
「おお、さすが、サンキュー」
治療をして貰ったホームズは、そう言ってお礼を言うと治療の終わった両腕を不思議そうに見る。
「………あの、一応聞くけど……なんで包帯?」
ジュードは、包帯をしまいながらホームズの質問に応える。
「念のため。本当は、治療はしない方がいいんだけど、そうも言ってられないからやったんだよ」
「えーっと……どういう事だい?」
ジュードの言葉の意図が分からず、ホームズは、首を捻る。
「簡潔言うと、今から二時間、両腕とも絶対安静にしてね」
「は?」
ホームズがぽかんとしているとジュードは、更に説明を続ける。
「別に日常生活を送るぶんなら、別にどうってことないんだけど……重いものを持ったり、攻撃をガードしたり、いつものように相手を掴みかかるとか、そういう事はしないでね」
これから戦場に行くというのにとんでもない制約が付けられてしまった。
「………マジ?」
「マジ」
そう言ってジュードは、包帯を仕舞う。
ジュードの容赦のない言葉にホームズは、ため息を吐く。
治療して貰えたのは助かるのだ。
下手すればもっと治るのに時間を要したのにだ。
その点について言えば喜ぶべきなのだろう。
ホームズは、包帯の巻かれた腕を忌々しそうに見ている。
「とはいえ、困ったなぁ……二時間なんて……だいたい、そんなの正確に測ってられないだろう?」
「そうでもないわよ」
ホームズがそう言うと扉が開き、ローズとレイアが入ってきた。
そしてそれに続くようにアルヴィンとエリーゼが入ってきた。
ローズは、部屋に入ると金色の懐中時計を投げる。
ホームズは、慌ててキャッチする。
そして、それを不思議そうに見る。
「なんだいこれ?」
「時計」
ローズは、即答する。
「いや、それは見りゃ分かるけど……」
ホームズは、頬を引きつらせながら言う。
「髪留めのお礼よ。それでぴったり、二時間測りなさい」
ローズは、何てことなさそうに言う。
懐中時計は、チクタクと無機質に時間を刻んでいる。
ホームズは、汗を一筋流しながら見つめる。
「……いくらしたんだい?これ」
「ワゴンセールで550ガルド」
「………成る程」
ホームズは、そう言って懐中時計を眺める。
「なら、相当な掘り出し物だね。
これ、普通に買ったらゼロがもう一つ着くよ」
ホームズは、そう言いながらポケットの中に仕舞う。
「流石。腐っても行商人ね」
「別に腐ってないよ」
「ものの例えよ」
「いや、分かってはいるけどね……」
ホームズは、ため息を吐く。
そして、それを遠巻きに見るレイアとアルヴィン。
「(流石だね、ホームズ)」
「(あぁ、本当にゼロがもう一つ付いてたからな)」
二人は小声でそんな事を話しながら、ホームズがローズにプレゼントを買った時の事を思い出す。
ホームズもあの時値段を伏せてプレゼントをあげたのだ。
「(二人して考えることは、一緒だね)」
「(本当、似た者同士だよ)」
レイアとアルヴィンは、どちらとも無くため息を吐いた。
そんな高価な物を手に入れたとは、知らずホームズは、カバンを背負おうとする。
「ホームズ、話聞いてた?」
ジュードは、半眼でそんなホームズを睨む。
「え?これもダメなのかい?」
「当然。絶対安静だから」
そう言ってジュードが代わりにカバンを背負う。
ズシっとした感覚が背中に来る。
「前も思ったけどさ……何も入ってないのに……何でこんなに重いの?」
ジュードは、引きつらせながらホームズに尋ねる。
ホームズは、キョトンとした顔をしながらさも当たり前のように言う。
「え?だって、大切な商品が入るカバンだもの。丈夫じゃないと」
「あぁ、そうか……言われてみればそうだね」
ホームズにしては、珍しくまともな言葉にジュードは、納得する。
「………何か今失礼なことを考えただろう?」
「まさか」
ジュードは、少しギクリとしながらそう返事をする。
ミラは、それを見届けると立ち上がる。
「よし。準備は、出来たな」
ホームズ達はこくりと頷く。
「さて、では行くとしよう」
皆は立ち上がり、戦場へと駆け出した。
◇◇◇◇
「……地面がぐちゃぐちゃしていない、湿原ってないかなぁ?」
ホームズは、そんな事を言いながらアルカンド湿原を走っていた。
このアルカンド湿原を行けば直ぐに、ファイザバード沼野だ。
足に泥が付き、少し鬱陶しそうだ。
「んなものあるわけないでしょ」
「どうでもいいけど、泥を飛ばさないでください」
そんなホームズにローズとエリーゼは、口々に言う。
先程から足に着いた泥を払う時に泥がエリーゼに飛んでいるのだ。
『女の子に泥を飛ばすなんてサイテーだぞー!』
ティポの言葉にホームズは、少し決まり悪そうだ。
「悪かったよ」
そう言ってホームズは時計に目を移す。
「只今、三十分経過………先は長いなぁ……」
ハァとため息を吐くホームズをレイアは、半眼で見る。
「さっきから三分置きに言ってるんだけど……止めない?」
「仕方ないだろう……気になってしょうがないんだから」
「……なんか、学校の休みが待ち遠しい子供みたいだね」
ジュードも苦笑いをしながら答える。
「少しは、精神年齢を上げたらどうだ?」
「へいへい、流石二千年以上生きてる年寄りが言うと違うわ」
ホームズは、皮肉っぽく吐き捨てると時計をポケットにしまい、ジュードの方を見る。
「そういやぁ、学校の休みで思い出したけど……ジュード、君、学校に顔出さなくて良かったのかい?」
「あぁ、うん。ほら、僕、指名手配犯だから……」
「あぁ、言われてみればそうだったねぇ」
そうホームズは、ジュード達の情報をそこから仕入れたのだ。
妙な落書きの様な顔を思い出しながらホームズは、歩みを進める。
「学校、どうだった?別に気の合わない奴だけって事はないだろう?」
「まあ、普通に勉強して、仲間たちと話して、なんて事のない日々を送ってたよ」
「そのなんて事のない日々がいずれ大事な宝物になるんですよ」
ローエンは、そう笑ってジュードに言う。
「そうかもね」
「ねぇ、可愛い女の子とかいた?」
そんな和やかな空気を読まないホームズがジュードに尋ねる。
「は?」
思わずジュードは、間抜けな声が出てしまった。
そんなジュードに構わず、ホームズは言葉を続ける。
「学校!青春!ときたら、やっぱり恋が欲しいよね」
「勝手に自己完結しないで、ホームズ。ないから、そんな事」
「えぇー……青春真っ盛りの少年がそんなつまんない事を言うなよ〜。ね?ローエン先生」
「ふふふ、そうですね」
「ローエンまで……」
「そういうホームズは、どうだったんですか?」
二人にからかわれて、可哀想なジュードに助け船を出すかのようにエリーゼが口を開く。
「いや、そもそも、おれ学校行ってないし……行商人だゼ、おれ」
「あぁ、そうでしたね……」
エリーゼは、納得したように頷く。
「行ってみたいとは、思わないの?」
側で聞いていたローズがホームズに尋ねる。
「うーん………ジュード君の話を聞いてたら、なんか興味が出たね」
ホームズは、ふふふと面白そうに笑う。
若干胡散臭いのは、ご愛嬌だ。
「私は、行ってみたい……です」
『僕もー!」
エリーゼは、ティポをぎゅっと抱きしめながらそう呟く。
「ヌイグルミ持っていくのは、無理だろ」
ヨルの言葉にエリーゼは、心底ショック受けた顔をする。
ホームズは、ヨルの顔を鷲掴みにする。
「大丈夫ですよ、エリーゼさん。
ちゃんと学校の方にティポさんが大切な方だと言うことを話しますから」
ショックを受けているエリーゼにローエンが優しく語りかける。
「本当ですか?」
「はい。このローエン・J・イルベルトにおまかせください。交渉術なんてお手の物です」
「………だったら、早速任せてもいいかい?」
ホームズは、そう言って前方に指を指す。
そこには、ラ・シュガル軍の中継基地が見える。
ローエン以外にラ・シュガル軍に顔の利くものは、この面子の中にはいない。
「………分かりました」
ローエンは、先程の優しい顔から険しい顔に切り替えると、ラ・シュガルの中継基地に先陣を切って歩みを進めた。
ホームズは、懐中時計をぱかん、と開く。
「只今、四十五分経過、か…………長いねぇ………」
ホームズは、静かに時計を閉じた。
大舞台の続きが再び始まろうとしていた。
まあ、あれです。
無茶をするには、それなりの代償があるんです。
頑張ってね、ホームズ!
では、また九十八話で( ´ ▽ ` )ノ