四葉のクローバー   作:HirakeGoma

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07 夢の中のもう一人の自分

四月。私は晴れて大学生となった。学校指定の制服を着る必要はなくなり、毎朝どの服を着ていくか悩む日々が続いている。

通学途中の風景も様変わりし、学生服を着た子たちを見かけると、つい最近まで自分自身がそうだったというのに、なぜか懐かしい気持ちになった。

 

そんな環境の変化が著しい四月のとある夜。私はお風呂に入りながら、彼―――立花瀧と一緒に食事をしたときのことを思い出していた。

無理もない。次の約束の日が明日に迫っていたのだから。

 

『今度は晩御飯を食べようか』

 

彼はそう言っていた。明日は平日だけど、夕方に待ち合わせることになっている。平日でも大丈夫なのかと尋ねると、新人は定時で帰るように言われているから問題ない、とそんなことを言っていた。

 

一方で私は大学の入学式も終わり、今は学校生活関連のガイダンスなどが続いている。本格的な講義が始まるのはもう少し後になるかもしれない。

 

大学生活に期待していないかと言われれば嘘になるけど、今の私は正直明日のことで頭がいっぱいだった。

どこで食事をするんだろう?どんな話をしようかな?服は何を着て行こう? そんな他愛もないことを何度も何度も考える。彼とまた会えることが嬉しくて楽しくてたまらなかった。

 

(やばっ、このままだと違う意味でのぼせそう……)

 

浴室から出て、髪を乾かし、キッチンまで移動する。そのまま冷蔵庫からアイスを取り出し、幸せの時間を満喫しようとリビングへと向かった。

 

だけど、部屋の奥から何やら物音が聞こえてくる。どうやら先客がいるようだ。先客と言っても、私以外で先客と言ったらお婆ちゃんしかいない。

どうやらテレビを見ているようで、少し離れた場所に正座して、テレビの内容に「ほぉ」とか「へぇ」とか相槌を打っていた。

 

自分の部屋以外でこういうことするのは珍しいなと思いながら、私はソファーに座ってアイスを食べ始める。食べながら視界の片隅でテレビの内容を見てみると、どうやら公共放送の特集番組を見ているようだった。

「イジメ」とか、「子ども」とか、なんだか難しそうなキーワードがずらりと並んでいる。なんでこんな番組を見ているんだろう?とそんなことを思った。

 

しばらくして番組が終わり、お婆ちゃんがリビングマットの上から腰を上げる。自分の部屋まで移動しようとするが、途中何かに躓きそうになったので心配になって手を貸した。そのまま部屋まで付いていく。

 

「ここまででええよ。四葉も明日は学校なんやから、はよ寝んといかんよ」

「まだ十時やないの」

 

お婆ちゃんとそんなやりとりをしながら、寝るにはまだ早いかなと思っていると、部屋のテーブルの上にあるものを見つけた。

 

「なんでこんなところに口噛み酒があるん?」

 

テーブルの上には確かに口噛み酒を保存するための酒器が置いてあった。ヒョウタンのような形をした酒器はまるで遺跡から発掘されたかのような年季具合だ。

 

「あんたが昔つくった口噛み酒や」

「それがなんでここにあるの?」

「この前知り合いが家に来たのは知っとるな」

「うん、私が大学の用事があって家にいなかったときやね」

 

瀧さんとイタリアンで食事をするよりもずっと前の日のことだったように思う。

 

「その訪ねてきた子に少しだけ持たせたんや」

「……え……ええっ!!」

 

うそ。信じられない。よりにもよって、“私”のを他の人にあげちゃうなんて。

体が少しだけ熱くなる。同時に変な汗が出てきて、全身の毛が逆立った。

 

「お婆ちゃん!それどういうことやの!?」

「ほんのお清めや。その子からいろいろと相談されてな。変な夢にも悩まされとる言うてたもんで、つい」

 

はははとお婆ちゃんは笑った。そんな呑気な……おそらく相手はこのお酒の作り方を知らないはずだ。知っていたらもらうわけがない。確か、家に来たのは高校生くらいの男の子だっけ?

 

「四葉、これもムスビや」

「…はぁ」

 

なんとも言えない複雑な気持ちを抑えつつ、私はもう一度シャワーを浴びることを決めたのだった。

 

 

 

 

 

その夜。久しぶりに夢を見た。現実のようなリアルな夢だ。夢の内容はうっすらとしか覚えていない。

 

 

 

 

 

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カンッカンッカンッと甲高い音が響く。

 

(……)

 

音は次第に大きくなっていく。

 

(…んー?)

 

カンッカンッカンッと無機質な音は鳴り止んではくれない。私は耐えきれずに口を挟んだ。

 

(…うるさいなぁ)

 

聞いたことのあるひどく耳障りな音が睡眠を邪魔する。

 

(いったいなんなの?この音は……)

 

突然聞こえてきた騒音に悪態をつき、重い瞼をゆっくりと開いていく。そして私は唖然とした。

 

あまりにも突然のことで、どう反応していいかもわからない。それでも、辛うじて残る冷静な思考が今この状況を理解しようともがいている。どうやら私は自分の部屋ではない別な場所にいるようだった。

とても明るい場所だった。屋外なのは間違いない。空気は割と暖かく、上に視線を移すと見渡す限りの青空が広がっている。雲一つない快晴。太陽の位置からして昼付近といったところか。

 

整理のできない複雑な気持ちをそのままに、次に私は自分の異変に気がついた。なんだか身体が気持ち悪いのだ。どうやら汗をかいているようだった。しかも大量に。

中の服が肌に引っ付き、気持ち悪さの原因になっている。おまけにさっきから肩が大きく揺れる。息が切れる。まるで全速力で走った後のように。

 

(ああ、わたし、また夢を見ているんやなぁ)

 

そう理解する。けれど、現実のようなリアルな感覚が私の頭を刺激する。これは本当に夢なのかと……そして、さっきから耳を突き破るように聞こえる音の正体。

 

私は音がする方向に目を向けた。やっぱりそうだ。誰もが見慣れた、黄色と黒の縞模様。赤い光が交互に揺れる。棒状の筒は目の前に降りていて、道と道とを分断している。

 

なぜここにいるのかはわからない。本当に変な夢だ。そう思うと同時に、ようやく私は状況を理解した。

 

―――私は踏切の前に立っていた。

 

 

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