後方小話   作:文系グダグダ

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※当作品は時系列順不同のパターンも含めたオムニバス形式(風)です。ご容赦ください
前作の前線小話とは違い本邦未実装の戦術人形も採用します。


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「ほら指揮官様、もう一回復唱して下さい。

 ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルンドロブル・ランティシリオゴゴゴホです」

 

 ある日、指揮官の司令室には呪文を唱えるRPK-16の姿が見える。

 副官用の椅子を指揮官の椅子に横付けするようにして持ってきて座り、まるで呪文かと思うまでに長い名前を再生機器のように流暢に喋りながら、語句の句切れごとにぴんと立てた右手の人差し指をその句切れに合わせて振っている。

 

 資料にふと映った地名に関して「そういえば、DP-12からこんなお話を聞きまして」と彼女が言い始めたのが発端であった。

 前述の彼女が言ったこの呪文……実を言えばただの地名なのだが、「せっかくですから、覚えておきましょう。こういった雑学も糧になると指揮官様も以前仰っていましたし」というRPK-16の思いつきで始まった発音練習は、ただ単に彼女が指揮官にこの地名を覚えさせようとしているとは言い難いだろう。

 

「ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルン……RPK-16、なにも今覚えずともいいのでは?」

 

「折角ここまで覚えたのに勿体無いですよ、指揮官様。あと何回かで完璧になるはずですし、もう少し頑張ってみましょう」

 

 RPK-16は机の上に置かれた指揮官の左手を取り、自身の指を使ってつらつらと指揮官の手の甲に地名の綴りを書いていく。その数実に五十八文字、どうやって生まれたのか理解が及ばない地名だろう。

 

「……一般的な呼び名としてランフェアプルでいいだろうに」

 

「もう、駄目ですよ指揮官様。たとえ些末な語句であっても、ちゃんと言葉言葉には意味があるのですよ?

 もしかしたら音としてではなく、地名の意味そのものを覚える方が指揮官様にとってはいいのかもしれませんね」

 

 明らかに前フリとも言えるRPK-16の言葉に、指揮官は内心でげんなりとする。

 

「……とりあえず聞いておくが、どういった意味だ?」

 

 彼女も指揮官がそうなることを見越しており、またそういったご戯れに付き合ってくれることをわかりきっていたからこそ、まってましたと言わんばかりにRPK-16は目を細めて笑みを浮かべた。

 

「赤い洞窟の聖ティシリオ教会のそばの激しい渦巻きの近くの白いハシバミの森の泉のほとりにある聖母教会、です。

 ふふ、おかしなモノですね」

 

 昔の地名が長い理由としてこういったその土地その土地の特徴を羅列していって固有の地名にするという背景はままよくあることではあるが、それ故に合理性にはほど遠い。

 

「そういえば指揮官様が以前憂慮なされておられていた地区は土に眠る資源に頼る経済から脱却しようと観光業に力を入れていますね。

 その一環として地名を変えたそうですが、割と評判がよろしいようです」

 

 RPK-16の言葉通り、経済上の金銭や物資の取引規模は地名を変える前よりも増えてきており、それに比例してグリフィンに入ってくる収入も増えていることはデータや書類として明確に記されていた。

 

「ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルンドロブル・ランティシリオゴゴゴホ。

 ……これを機に同じ命名手法が流行らないことを祈りたい」

 

「はい、よくできました」

 

 パチパチパチとRPK-16は小さく拍手をして指揮官が呪文を無事習得したことを祝った。

 

「ちゃんと覚えてて下さいね。指揮官様。

 でないと、私は悲しい気持ちになりますから」

 

「ああ、そうしておくよ」

 

「まあ、作戦行動時には無駄なリソース(・・・・・・・)になるので削除しておきますけど。

 あ、サーバーには今日の出来事は保管しておきますのでご安心ください。一字一句、一挙手一投足まで余すこと無くですよ」

 

 悪びれもなくそういうRPK-16に指揮官は肩を竦める。

 指揮官は人間なので記憶力は人並みであり、かつ面倒な事は嫌う質だ。なので安定と精度を高める為に必要な情報と不必要な情報は問題のない程度に省略しているが、記憶の混同やあやふやになることもある。

 

 しかし目の前のRPK-16は戦術人形である。データさえあればいとも簡単に記憶もできるし、またその逆も可能であった。それ故に、先程の地名のような難解でまるで魔術の呪文のような語句であっても簡単に習得し、発音データがあれば淀みなく発言することができる。

 

 

 ――彼女にとってはこの呪文自体よりも、これ(・・)を指揮官に教え込んで過ごしたという事実が何よりも重要であった。

 

 

「それにしても、おかしな話ですよね? 名前を面白おかしく変えたところで、そこの観光資源や商業、産業構造なんて変わっていないのに、まるで誘蛾灯にように物見遊山でふらふらと寄せられていくのですから」

 

「このまま後追いが続いてしまえば、地図が読みづらい代物になりそうだ。

 名前はともかく各時代の遺跡や鉱山跡、または第三次世界大戦以前の街道や建築物など見所はあると聞く、そう考えれば無謀な試みでもない……か。あとはリピーター次第だ」

 

 特に第三次世界大戦の破壊や戦禍を免れた遺跡や昔の鉱山跡は文化的価値にすり替えるなら貴重な物であると指揮官は認識している。既に貴重品や眠る地下資源は粗方運びだされているか掘り出されているだろうが興味が無くもない。

 近くには美しい泉や崩壊液や放射線に冒されていない森林地区などがあり、保養にも向いているだろう。観光資源としてはまだ使えると考えるのは蓋然的だろうと指揮官は思った。

 

「森林地区にはいろんな植物や昆虫が自生して、泉は水質的にも泳ぐには最適だとか。私も浅い場所でなら遊べますね」

 

「なら観光資源としては重畳だな。十二分に条件を満たしている」

 

「なんでも、ここには泉の水平線に沈む夕日を拝める絶景ポイントがあるそうですよ」

 

 そう言ってRPK-16は次々と情報を指揮官にぶつけてくる。地域に根ざした特徴や地名、その由来などはDP-12がRPK-16に教えたと思われるが、その情報の中には明らかにDP-12が教えたとは思えないものが混じっていた。

 

「……そうか、機会があったら見てみたいものだな」

 

「はい、私も指揮官様と同じ考えです」

 

 歯切れが心なしか悪くなる――言葉選びを慎重に考える指揮官に対して、RPK-16はまるで予め用意されていた答弁書を読み上げるように即答に近い形で応える。

 

「……そう言えば人形焼という菓子があるんだが。食べてみるといい」

 

 狩猟者のような笑みを浮かべてこちらをじっと見つめるRPK-16から無言の圧力を感じた指揮官は、とりあえず彼女の口に猫の形を模したカステラ菓子を押し込んだ。

 

「えっ? はむっ……あ、美味しいですね、コレ」

 

「そうかそうか、もうひとつどうだ? これなら甘さは控えめでRPK-16にも好むだろうと思って用意した。

 どうしても甘味は嫌だと言うのなら、これと似たような手法でハムやチーズ、マヨネーズで味付けした物もあるが……感想を所望したい」

 

 指揮官は確信していた。

 

 

 

 ――おそらくだが、今私がすべきは話題を逸らすことだろう。と……

 

 

 

「ではそれもありがたくいただきます。はむ……これはこれは見た目の割に塩と酸味が効いてて面白いですね。

 この猫のようなデザインは型焼きですかね? 可愛らしい物を食べちゃうのも、それで食欲が増進されるのも興味深いです。頭から齧るか、お尻から齧るかで嗜虐心をそそらせるなんて人間は面白い発想をしますね」

 

 指揮官の実質的な降参宣言にRPK-16は今日のところは勘弁してやるか、と言わんばかりに粉物に手を出した。

 

「ところで昆虫とかの形にはできますかね? 中身(・・)次第ではサバイバル訓練でもウケがいいと思うのですが。

 ほら、DP-12が言ってました。アジアにはセミの唐揚げってモノがあるらしいですね?」

 

「……流石にそれはやめておけ」

 

 

 




余談:収支報告書をRPK-16の後に見たAK-12の場合

AK-12「へえ、地名を変えることで観光客にアピールねぇ……」

指揮官「まあ、インパクトのある名前に変えるって話だ」

AK-12「それでこんな長ったらしい回りくどい名前にねぇ……
    RPK-16なら喜々として話してそうね」

指揮官「現にそうなった」

AK-12(深度演算モード)「ふうん……」

 収支報告書を見ながら十数秒程、思案するAK-12

AK-12「改名案を思いついたんだけど、RPK-16の話は聞いてくれたのにまさか聞かない理由はないでしょう?」

指揮官「……発言を許可しよう」

AK-12「インパクトのあるかつてあった地名としてはやっぱりЯкиманкаが一番だと思うの」

指揮官「……流石にやめてやれ」

 セクハラオヤジのようなネタをふるAK-12に対して、指揮官は呆れ返る他に方法はなかったのであった。
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