Moon Knights IS~外伝 血族の系譜 作:アマゾンズ
貴族の狭間。
ユーフェミアを助け起こしたクリムは他に汚れ等がないかを確認していた。
「どうやら大丈夫なようですね」
「ありがとうございます。本当に」
「いえ」
「ユーフェミア!」
「お父様・・・!」
初老ぐらいの男性が二人に駆け足で近づいてくる。ユーフェミアがお父様と口にしたところを見ると、この男性がユーフェミアの父親なのだろう。
「ユーフェミア、大丈夫だったか?お前が襲われたと聞いて・・お前がやったのか!?」
「え?」
「待って下さい!お父様!この方は私を助けてくれた方です!」
「む、そうなのか?」
「はい、私が証人です」
ユーフェミアの言葉に彼女の父親も冷静になる事が出来たようだ。クリムはその場から去ろうとした時、父親に声をかけられた。
「是非、君にお礼がしたい。我が家に来てくれないかね?」
「え、そういう訳には」
「お願いしますわ。クリムさん」
「う・・・」
ユーフェミアとその父親に押し切られ、クリムはオルコット家へと招かれる事になった。やはり、貴族と自負するだけあって大きな豪邸に住んでいる。使用人や庭師もいるようで貴族というのは本当なようだ。母星にいた時も貴族は居たがあまり印象に残ってはいなかった。
どうやら夕食をご馳走してくれるとのことで、暫くはこの屋敷の中で寛いでいてくれて構わないとの事だ。
客間に通され、使用人であるメイドの一人が紅茶をテーブルへ差し出し「ごゆっくり」と挨拶をして出て行く。
「うーむ、落ち着かぬな・・・」
一介の騎士ではあるが、基本的にガウ=ラ・フューリアの中にある居住区の一室で生活していたためにこうした大きな屋敷の中は初めてで落ち着かないのだ。
それと同時に地球という未知の環境である事も影響している。紅茶を飲むと同時にユーフェミアが入ってきた。
「失礼します。あら、紅茶の方はどうでした?お口に合いましたか?」
「ああ、とても美味しく頂いている」
「それは良かったです。それと本当にありがとうございました」
「それは構いませぬが、一体あの者は何故、貴女を襲ったのでしょう?貴女のお父上が悪いと口にしていたようでしたが」
「先程の方は父の会社の役員を担っていた方だったのです・・・ですが」
「何かありましたか?ご安心を、口外は致しませぬ故」
ユーフェミアは迷ったが、クリムに聞いてもらおうと決意し話し始めた。
「・・・女性社員に言い寄っていたそうなのです。自分よりも一回りも年下の方に」
「それで、その女性が相談し結果、解雇になった・・・と予想しますが」
「その通りです・・・」
「それで、会社の大御所の娘である貴女様を襲ったと・・・なるほど。口外せず私の胸の中に閉まっておきましょう」
「ありがとうございます・・」
ユーフェミアは不思議な感情が自分の中から溢れ出てきていた。初めて出会ったばかりなのに自分の全身に何かが走り抜けたような、そんな感覚。
「クリムさん」
「はい?」
「もしよろしければ、今後ともわたくしと会っていただけますか?」
「え?」
クリムは呆気にとられ、ユーフェミアは真っ赤になって慌てていた。自分の口から出た言葉に戸惑っているのだろう。
「も、申し訳ありません!変な事を申してしまって」
「いえ、私でよければお話し相手になりましょう」
「!本当ですか!?」
「ええ」
その後、夕食をご馳走になり、再会を約束してクリムは自宅へと帰宅した。
◇
その後、クリムは時間の許す限り、ユーフェミアと時間を共にした。だが、ユーフェミア自身の自由が少なく、変装したり抜け出したりしていた為、その度にクリムが見かけて連れ戻したという形にしていた。
だが、それも長くは続かなかった。月日が流れクリムが帰還しなければならない日の前日にその出来事は起こった。
「結婚?」
「はい、お父様がお決めになった婚約者との結婚が決まったのです・・」
「そうか」
「でも、わたくしは・・・」
「!?」
ユーフェミアはクリムの手を両手で握り、潤んだ瞳で見つめてきた。気品溢れた眼ではなく、一人の女性としての眼だ。
「わたくしは、貴方様と共に歩みたい・・・子を成し、家庭を築いていきたい」
「ユーフェミア・・・だが、私は戻らねばならぬ場所がある」
「分かっています。ですから、わたくしの口から両親に伝えますわ。貴方様の事を・・・」
クリムが戻らなければならない場所、それは月の内部にあるガウ=ラ・フューリアである。期日が明日と迫った為に戻らなければならない。また、監視員としての仕事が終われば、再びステイシス・ベッドで眠る事になるだろう。
「(私は・・私は、五年という時間の間にユーフェミアを、地球人を愛してしまった・・・どうすればいい)」
「クリム様、我がオルコット家には一つの仕来りがあるのです」
「仕来りとな?」
「はい、婚約者は両親だけが決めるのではない・・・わたくしの意思でも決める事も出来るのです」
「なんと!?」
「ですが・・・」
「?何か問題が?」
「はい・・・婚約者が二人となった暁には婚約者同士で決闘をするのです・・・それも人型の機動兵器で」
「!?」
「だから、わたくしと逃げてくださいませ!」
人型機動兵器、それはつまり兵器同士の決闘だ。この時代において兵器同士の決闘は生死を賭けた戦いに等しい。
何故ならば「脱出をする事を禁じられてしまう」からだ。脱出装置の機能を停止させるか、装置そのものを外さない限り、決闘を認められないとユーフェミアから聞いたのを思い返す。
「ユーフェミア・・!」
「はい・・・」
「決闘の日取りを決めておいて欲しい。私は逃げる事はしない」
「そ、それは!」
「私は一度帰るべき所へ帰らねばならない。だが、約束しよう。騎士として君を迎えに来る、必ず」
「!!」
ユーフェミアにとってその言葉は告白と同義であった。クリムに軽く寄り添って抱きしめた後、僅かな温もりを感じ合うとクリムはユーフェミアから離れ、帰還していった。
◇
ガウ=ラ・フューリアへと戻ったクリムことレ=クス・ナトゥーラは融和派と接触し、自分が地球人の女性を愛してしまった事を告げた。
その中にはロ=クイー・ウェトゥムもおり、レ=クスに近づき、肩にポンと手を置いた。
「お前も縁があったのだな」
「ロ=クイー隊長、その・・・約束の件ですが」
「ああ、決闘が終わった後で構わぬ。専用機となったラフトクランズを使うといい」
「・・・・」
「過激派は私が押さえておく、お前は一刻も早くラフトクランズと共に地球へ行け。そして地球人として暮らせ」
「隊長」
「お前は俺の叶えられなかった夢を実現してくれる人間だ。俺の夢をお前に託す」
「!」
一瞬、サイトロンからの映像が過る。それはロ=クイーが自分達の仲人を務めた後に居なくなってしまうヴィジョンだ。
そんなはずはないと否定する。サイトロンからの映像は必ずしも絶対ではない。だが、鮮明に映る映像がありえてしまう未来だと訴えかけられている。
「隊長・・・」
「死ぬつもりはない、安心していけ!」
その数年後、融和派に寝返った裏切り者としてレ=クス・ナトゥーラは指名手配されてしまう。従士、謀士、騎士を問わずに追われてしまったが、愛用していたヴォルレントを基に改修された騎士機ラフトクランズを持ち出すことに成功し、追撃を何とか躱し続け、地球圏へと向かう事ができた。
オルゴン・クラウドの転移で地上のイギリスに転移する事に成功した後、身分を隠し、騎士機ラフトクランズを隠しユーフェミアへと連絡を取り、決闘の日取りを聞く事が出来た。
「この決闘、負けられん」
静かな決意と共に、レ=クス・ナトゥーラは騎士機ラフトクランズに同胞からの細工や発信機がないかを入念にチェックしていくのだった。
次回は決闘、セシリアの家系の血筋編はラスト。
次の章は鈴の家系へ。