原始の空に星が浮かぶ
辺りに明かりなどなく、白く輝く星の群れが流れていく
願いを託されることのないほうき星がひとつまた流れていく
そして夜空へと浮かんでいくのは白くほどけていく一筋の煙
その根本には二つの影がちらちらと揺れている
深い森の中に立ち上る小さな炎は簡易的な竈の中に生まれていた
新月の空に生まれたその影はゆっくりと夜風に煽られるようにその姿を変えていく
座っているのは二つの人影、そして薪のはぜる音に紛れるように耳をすませば聞こえるのは微かな寝息
その先にはまだ年若い青年が一人
「ああ、だからナイロンたわしで擦ると傷が」
寝言と共に振り上げた腕はまたゆっくりと下ろされ聞こえてくるのは変わらぬ寝息
「いつもこんな感じなんですか、マスターって」
傍らに座る少女はその姿に少し怪訝そうな表情を浮かべる
「こんな感じというのがよくわからない寝言を言うということであるのであればそうですね、こんな感じです」
フードを被った少女は傍らに眠る青年に近寄ると寝返りによって剥がれた毛布を掛けなおす
「意外ですか」
「まぁ」
歯切れの悪いその言葉にフードの少女は小さく笑った
「こんなに無防備に眠るお人好しが世界を救った英雄なのか、そんな顔をしています」
「えっ、まぁ、その、はい」
少女は少し頬を赤くしながらおずおずと認める
その姿に少女はまた少し笑った
「私もはじめてあった時にはそう思いました」
「やっぱり」
ちょうど寝返りをうった青年、しかし目を覚ますこともなく二人の少女は顔を会わせ笑う
「私が呼ばれたのは彼が人理再編を行い始めた頃ですから。最初の頃はこんなに普通の頼りない人が、と思ったものです」
「もっと屈強というかプロレスラーみたいな人を想像していたらこんなにひょろひょろだし」
「本人にいっちゃいけませんよ、貫禄がないこと少し気にしてるんですから」
「もしかしてちょいちょい髭伸ばそうとしてるのってそういうことなんですか」
「たぶん」
「似合わないのに」
「いじらしいということでしょう」
夜冷えなのか小さくくしゃみをする青年の髪を撫でた
「エリセさんもマスターなのでしょう、どうですか、彼は、あなたの目から見て」
少女は少し困ったように眉を潜ませ少しずつ言葉を選んでいく
「私の世界とこの世界も違いすぎていて、その上、私もその普通のマスターって訳でもなかったからあまり判断できる訳じゃないんです」
でも
彼女はそういうと眠るその顔を眺めながら紡ぐ
「弱い、んだと思います。サーヴァントや敵はもとより普通の人でも二人いれば負けるくらい」
彼女の世界の誰もが持っていたサーヴァントも令呪もサーヴァントになる前の少女が持っていた力なんてものもなにもないただの人間
「だから託すことを知っているのかな、自分ではできないと知っているから、なんていうか自分が弱いことを受け入れているみたいな」
自らの言葉に首をかしげる少女に彼女は笑みを湛えた
「私たちワルキューレがヴァルハラに招く勇士とはなにかを自らが成した者たち。強く賢くなれた戦士たち。そういうなら彼は勇士失格ですね」
まだあどけなさの残る青年の顔に焚き火の影が揺れた
「けれど彼は弱いままだった、力や叡知というという支柱すらないままに立ち続けた」
それは、それこそがもしかしたら
「英雄の姿なのかもしれません」
「だから消ゴムの角使うなっていっ」
再びあげられた寝言と伸ばされた右腕
「買いかぶりかな」
「そうかもしれませんね」
少女たちの小さな笑い声がほうき星と共に流れていった