その姿に彼はあまりにも悪い冗談だと笑った。
その腕も足も、
躯体も
髪も
声も
そして
その目も
見知った誰かによく似たその姿を彼は嘲笑った。
その不格好につなぎ合わされた防護具も、届きやすいように調整された兵器たちも、薄汚れたそのフードも、いつか手に取ってた、取ってしまったその銃も。離せなくなったそのナイフも。
嫌というほど知っていた。
嫌と言えるはずもなく知りすぎていた。
はたから見ればなんと歪な姿、なんと滑稽な振る舞い。まるで壊れたゼンマイ仕掛けのように歪に音を立てながら動き回る。誇りなどなく、歴史などなく、ただ、効率的に動く、動く。
そうあれかしとなるように、そうあらねばならないと求めるように。幼子の駄々のように。
その様に反吐が出る、けれど、ただ噛み締める。
守護者、それは人々の無意識に求められた彼らを守る者、防衛装置であり自浄装置、または体のいい掃除係。人々が彼を求めたのか、それとも彼が人々を求めたのか。
求めた結果がこのありさまだったのか、それとも最初から求めるものを見失っていたのか。
それを知ることはない。知ったところで意味はなく、知らぬところで止まるべくもない。
誰がそう願ったのか、
いつそう願ったのか
何故そう願ったのか、
何にそう願ったのか
彼にとってその答えは分かるはずもなく、同時に言葉にする意味もないほどの自明のこと。
誰かを守りたかったはずなのに
誰かを守れなかったばっかりに
「何故だ」
絞り出したように彼が問いかける。それは答えを求めていた。彼には見受けられなかった答え。折れなかったはずの男でさえ届かなかった答えを。そしてそれは彼の得られなかった答え。
「何故なんだろうな」
多くの物を捨てた。
多くの物を犠牲にした。
多くの物を救うため。
多くの物を生かすため。
ならば何を成した。大海を汲むには小さすぎるその両腕で。
何も成せなかった、何も成さなかった。不出来にも救えたのは小さな命一つ。
銃口を向ける。
何故かなどわからず、ただその存在を否定するために震えながら柄を握りこむ。
男はただその様を眺めるだけ。自身に向けられた銃口を恐れることもせず、避けることも、逃げることもなく、立つ。
引き金を引く。
銃声はなく、煙はなく、光はなく。
ただあるのは佇む一人の少女の姿
よく知った少年によく似た小さな赤毛少女の姿
よく知った少女によく似た天真爛漫な少女の姿
よく知った救えなかった誰かによく似た少女の姿
全てなんて救えなかった。
誰かをなんて救えなかった。
ただ
もうその少女を救えないのが嫌だったから
「もう行くのか」
彼は問いかけた。
「ああ」
男は答えて振り返ることはなく薄汚れたフードを被りなおし歩いてゆく。
その背中は振り返ることはなく、彼はゆっくりとその目を閉じた。