FGOショートショート   作:廓然大公

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ケイローンブートキャンプ

英霊とはすなわち人類史の到達点の一つ

それぞれの生涯をもってして輝く綺羅星となった者たちのこと。

古今東西様々な英雄や文化人、科学者が集まるカルデアにおいて彼らはみなその生涯を誇りに、そして矛のして人類史を救わんと立ち上がった者たち。しかし、なればこそ同時に彼らには他の英霊たちに譲れぬその一線がある。武の才や絶技、祝福や愛といった彼らを彼らたら占めるその一線。仮に世界に刻まれた英霊とてその一線を越えればその星たちに焼かれかねないということ。

すなわち

 

「なんで私がまたこんなことをせねばならんのだぁ」

 

降りしきる矢の雨の中、金髪の青年が半ば泣きながらそう叫んだ。

 

「あんたがケイローン塾のこと馬小屋呼ばわりしたからでしょうが、ひゃんっ」

 

青年ほどではないにしろ一瞬気を抜けば重症必死の矢の雨の中青い瞳の少年が泣き叫ぶように答えた。

 

「馬小屋いうな、馬小屋って言っていいのは私だけだっ、ひぃっ」

 

その言葉を聞かれていたのか彼へと飛来する矢の量が倍になる。

 

「いわんこっちゃないし、自業自得じゃぼけぇっ」

「マスター、汚い言葉を使うのは良くありませんよ」

 

どこからともなく聞こえたやさしい声に呼応するように少女に降りかかる矢の量もまた倍へと増えた。

「自分で言って自分で引っかかると待ったくオモシロイぞマスター、最高傑作だ」

「人を軽く見るのは直すべき悪徳です」

 

さらに増える矢に単純に青年は見る見るうちに青ざめていく。

 

「むりむりむり、これ以上は死ぬって、私じゃなかったら死んでるって、だいたい横の金髪がもう死んでるってっ」

 

「私を誰だと思っているのですか、武芸に関していえば私の力量などあまたある英霊たちには遠く及ばないでしょう」

 

どこかから弓を引き絞り、木のきしむ音が聞こえた。

 

「けれど、私が導き生徒たちを育てたことに関してはどんな英霊たちにも劣らないと自負しているんですよ」

 

聞こえるのはどこまでも響く矢の風切り音、一瞬の後、聞こえてきたのは満天の星空より振るいて座の長距離狙撃

 

「だからって、宝具はしぬってぇ」

 

既に動かなくなった金髪を抱えながら走る業所が追い抜いたのは全身蒼タイツの槍男。

星より振るその雨たちをその朱鎗の一振りにて打ち払っていく。殿のように屋の雨を彼女たちから払いのけると一息ついたように彼は少女たちへと向き直る。

 

「生憎と飛び道具は俺には効かなくてな」

「あほ、この全身タイツのあんぽんたん、どこ行ってたのよ」

「まぁ俺としても来たかったのは山々というか、ここで合流してしまったのが運のつきというか」

「ケルトの大英雄ともあろうものが教育者相手に後れを取ろうというのか、ケイローンよ、勝機はこちらにあるぞ、今我が軍門に下ればこの狼藉も目を瞑ってやらんことはないぞ」

「しゃべれるんなら背中からおりんかい」

 

背中より降ろされ倒れこんだ青年が土を払い落とすと、そのままケイローンへと語り掛ける。その調子に乗った背中を見ながら少女は蒼タイツへと向き直った瞬間だった。

 

「ところでなんで運のつきな」

 

その言葉が言い終わる前に少女は蒼タイツによって後ろへと放り投げられ、代わりに聞こえるのは耳をつんざくような轟音と轢かれたカエルのような青年の悲鳴。

 

「今の何よ、アレヘラクレスの弓じゃないのか、あっちにヘラクレスいるのかよ。しかも、あいつ今バーサーカーだろうがっ」

 

ランサーが一射をいなしきると、がれきの中から顔を出した青年が悲鳴のようにそう声を上げた。

 

「最近の貴方の行動はいささか目に余るということです、というか少し前にシトナイさんのおやつを盗み食いしたでしょう」

 

「冷蔵庫にも入れず溶けかけになっていたアイスのことか」

 

「それです」

 

呼応するようにどこからか聞こえてきた雄たけび。

「ま、まてヘラクレス、確かにあのアイスを食べたことに間違いはないが一度溶けかけたアイスを冷凍庫に戻すのもはばかられるうえにあたりには何もいなかったじゃないか、それに食べるのならばちゃんと名前をだなあぁ」

 

七色の叫び声が消えていく。

 

「やっぱり俺巻き込まれ損じゃないか」

 

ランサーは隣で焼け焦げた青年を気にすることもなくため息をついた。

 

「貴方には一つ言伝があります」

 

「言伝」

 

疑問符を頭に浮かべた彼はその言葉を聞く前に背筋が逆立つのをかんじる

 

「『おもしろそうな遊びをしているな、簡単に死ぬなよ、教え子』と」

その言葉を言い終わるために紅槍が飛び交ていく。

 

「よし、今のうちに」

「今のうちにどこへ行こうっていうんだ、マスター」

 

頬に感じるのは難い何かにぶつかったという感触、コンクリほども硬く、しかし人肌のぬくもりを感じるそれ。

 

「そうだな、きっとお花畑には行けるといいな」

 

「そんなに急ぐなよマスター、先生からもちゃんと手加減しろって言われてるから」

 

「百の一パーセントは一かもしれんが、一億の一パーセントは百万なんだぜ、知ってたか」

 

「男は1だけ覚えてりゃいいんだよ」

 

「この脳筋ニンジンめぇっ」

 

地獄の鬼ごっこの中、ケイローンブートキャンプの夜は更けていった。

 

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