ARゲームエリアを抜け向かった先はフードコート。大層なレストランがあるわけじゃないが腹を満たすだけなら特に問題は無いだろう。
「玲さんファストフードとか食べるの?」
「嫌い、というでは訳ではないのですが、あまり食べることはないですね。姉さんはカップ麺?をよく食べていますが」
「そうなのか……」
サイガ-100氏の意外な一面を知ってしまった気がする。まあカップ麺手軽だもんね、シャンフロ長くやれるもんね。一般的にリアルを削る時はまず睡眠、次に食事や風呂となる。100氏お風呂は..........流石に入ってるよね?
そんなこと考えてる場合じゃないか、何食べるか決めないと。
「俺はホットドッグにしようかな」
フライドポテトも一緒に、と考えたが誰かが一瞬頭をよぎったのでやめておこう。
「では私もそれにします」
「券売機で先にお金払うみたいだけどよかったら玲さんのも買ってこようか?」
「あ、ではお願いしてもいいですか。お金をお渡ししますね」
「ん、じゃあ買ってくるから先座っておいて」
「分かりました、お願いします」
さて、券売機にお金を入れて、っと………!?
「これは・・・・」
「お待たせ。はいこれ玲さんの分ね」
「ありがとうございます。あれ?飲み物も買ってきたんですか?」
「アハハ、ちょっと面白そうなのが売っててね。つい買っちゃった」
「何というか……すごい色をしていますね。何ですかこれ?」
「ホットのエナジードリンク」
「……おいしいのですか?」
「飲んでみる?」
「…っ!や、やめておきます」
はははそうであろう、だって俺も飲むの怖いもん。
「とりあえず食べようか」
「そうですね、ではいただきます」
「いただきます」
ホットエナジードリンクは………「なんで売ろうと思った」とだけ言っておこう。
「「ごちそうさまでした」」
「次はどうしようか」
「……せっかくですから、もう少し運動しませんか?」
「いいよ、何しよう」
「ええっと、パンフレットを見る限りだと二人でもできるのはバドミントンかテニスでしょうか。後は別でお金がかかりますがボウリングもあるみたいです。一人ずつやるものなら他にもいろいろありますが……」
「うーん、ボウリングとかいいんじゃないかな。他じゃあんまりできなそうだし」
「そう、ですね。そうしましょうか」
「玲さんボウリングの経験は?」
「小さい頃に、一度だけやった記憶があります。楽郎くんは経験あるんですか?」
「俺もリアルじゃほとんど経験無いんだけどね」
リアルじゃほとんど無いがバーチャルでならある。最初は普通のゲームかと勘違いしたのだが、ステージがボウリング場じゃなくなったあたりからおかしくなったんだよな。スキージャンプのジャンプ台の上からボールを投げて下の方にある見えないピンを倒せとか正気じゃない。チャレンジモードに至っては設置されている壁が透明だったからな。どうやって避けろって言うんだよ。バグで床が無くなってるステージがあるから振りかぶって投げないといけないし。最終的に壁を避けるのも上から投げればいいことに気付いてクリアしたが。
「1ゲームでいい?」
「はい、意外と時間かかりますから」
受付を済ませシューズを履き替える。ボウリングシューズって何でこんな派手な色してるんだろう。盗難防止とかかな?ボールは……重っ、ゲームなら16ポンド確定だったがリアルじゃもう少し軽いやつがいいか、お、これいいじゃん。なになに12ポンドか。
「玲さんも選んだ?」
「はい、13ポンドのものにしました」
「……………そっか」
後で替えてこようかな。
とまあ冗談はさておき1投目だ。ストレートを狙うなら1番ピンと3番ピンの間を狙って投げるといいんだっけか?いきなり曲げたりもできないだろうからな。
「よいしょっ!」
投げたボールは狙いより少し右に逸れてピンにぶつかる。ボールがピンを倒して進んでいくが4-7-8の3つが残った。
「うーん、まあ一発目にしては上出来か。次は玲さんの番かな」
「うう、緊張します」
「楽しめば良いよ楽しめば。そのために来たんだから」
「そう、ですよね。........ふぅ、いきます!」
玲さんの投げたボールは美しい曲線を描きながらピンへと到達し、カコーン!という小気味のいい音をたてて全てのピンをなぎ倒した。
「やった!」
「すごいね玲さん、実はめっちゃ上手いとかないよね?」
「一応、初心者のつもりです」
これは楽しんでる場合じゃないかもしれない
「次は俺か、ここでスペアを取ればいいんだな?」
「頑張ってください!」
ふっ、スペアを取るのはゲームで慣れてるんだよ。透明な壁のひとつでも置かれてなきゃ余裕!
「ていっ!」
ボールは理想的な軌道を描きながら吸い込まれていった...............................................ガーターに。
「だあーーー」
「ふふふ。次も楽郎くんですから、頑張りましょう?」
「くっ、完敗だ」
「割と接戦でしたし、別に競っていたわけでは...」
「いや、そうなんだけどね?」
たとえ競っていなくとも負けたら悔しいものなのだよ。ちなみに玲さんは202点で俺は177点だった。接戦かこれ?
「久々にやったけど意外と楽しめたな」
「私も、その、楽しかったです」
「それは何より。さて、次はどうしようか。また身体動かす系にする?」
「ええっと...実は、その......い、行ってみたいところがありまして....」
「?」
この時はまだ知らなかった。これが原因でまさかあんなことになるなんて。
「ここが、来てみたかったところ?」
「はい」
玲さんが来てみたかったところ、それは併設されたアウトレットモールだった。やはり玲さんも女の子、こういう衣料品に興味があるのだろうか。
「私の友人がもう時期誕生日でして、ここで選ぼうと思っていたのですが.....」
「そういうことか........うん、俺で良ければ付き合うよ。何を買うつもりなの?」
「っ!....................................エト、ブックカバーを買おうと思ってまして」
ちょっとロード入ったな。ん?ブックカバー?
「紙の本を読む人なんだ?」
「え、ええ、そうですね。物質として残るのがいいと言っていました。」
「その気持ち分かる」
うんうんわかるよその気持ち。俺も理由がない限りダウンロード版ではなくパッケージ版買う。棚に並べてあるのを見るのがイイんだよな。
「そうなんですね......私は電子書籍が多いので使ったことがないのですが、どのようなものが良いのでしょうか」
「どうだろう、栞がついてるやつだと便利そうだけど。実物見た方が良いだろうし、とりあえず雑貨屋か本屋かな」
「そうですね、雑貨屋さんがすぐそこなので行ってみましょうか」
「うん」
というか薄々気付いちゃいたがカップル多いな。ちっ、どいつもこいつもいちゃいちゃしやがって。いや別に羨ましいとかじゃないし腹が立つわけでもないんだけどさ、カップル見るととりあえず言いたくなるじゃん?
そんなくだらないことを考えながら着きました雑貨屋。ちょっと欲しくなるオシャレなものから何に使うのかも分からないようなものまで、様々な品が売っている。この無駄にデカい陶器の置物とか買う奴いるのだろうか。
「おっ、あったよブックカバー」
「わぁ、シンプルでいいデザインですね」
「色は白と黒、深緑、紺色の4種類あるみたいだね」
「紺色のものは瑠璃紺というみたいです」
ロリコン?いやいやそれはアイツだけだろ。ルリコンね瑠璃紺、ちゃんとわかってるよ?
「その色なんかいいんじゃない?」
「そうですよね、これにしようと思います。お会計してきますので少し失礼しますね」
行ってらっしゃい、と送り出して少し店内を物色してみる。うーん、あんまり欲しいものはないかな。でもせっかく来たんだから雑貨じゃなくてもなんか買いたいよな。ああ、そういえば瑠美が服を買え買え言っていたな。正直俺じゃ何買えば良いのかさっぱり分からない。マネキン買いはバレるとなんか変なこと言われかねないしな。だがここには玲さんがいる。玲さんの今日の服を見れば分かる通り玲さんには普通以上のファッションセンスがある。アドバイスをもらえば良いものが選べるかも知れない。
「お待たせしました」
お、帰ってきた。とりあえずお願いしないと。
「ねえ玲さん、ちょっと付き合ってくれない?」
「てゅ゛⁉︎」
「玲さん?」
「ふぁ、ふぁい!こ、こちらこそッ⁉︎」
「ええっと............ちょっと服を買いたいんだけど、何が良いとかわからないから一緒に選んでくれない?」
「あ、ああ!.....そういうことでしたか。それはもう、はい、喜んで!」
なんかテンションバグってない?大丈夫?
「ら、楽郎くん、これなんてどうでしょうか」
「おお、良いかも。ちょっと試着してみようかな」
今選んでいるのはボトムス。その中でもスキニージーンズ?というものを見ているのだが、なんかカッコ良さげだな。
「すいませーん。ちょっと試着して良いですか?」
「はぁい、少々お待ちくださぁい。......................お待たせいたしましたぁ。どうぞこちらのお部屋の方お使いくださぁい」
「はーい」
「あとスキニーでしたら黒も良いんですがぁ、あちらの白もオススメですよぉ」
「そうなんですか。えっと、両方着てみても?」
「是非どうぞぉ〜」
早速試着室に入り、黒の方から履いてみる。うん、悪くないのでは?
「どうかな玲さん」
「..............ええっと、似合っていると思いますが、白い方がその、もっと似合うと思います」
「そうなのかな、じゃあこっちも履いてみるよ」
黒い方を脱ぎ白い方に履き替える。おお!素人目で見てもこっち方が良いな。てかなんで女子達は履く前から分かるんだよ。そういうスキルでも持ってんのか?
「確かにこっちの方がいいね」
「っ!..................とても似合っていると思います」
「やっぱりそうですよねぇ!彼氏さんカッコいいから絶対似合うと思いましたぁ」
「カレッ..................⁉︎」
「あー、彼女はその、友達というか....はい友達です」
「そうでしたかぁ、失礼致しましたぁ。このまま着て行かれますかぁ?」
ああ、そういうこともできるんだっけ。そういえば「その場で着ていく」を選択し続けて勇者というあだ名を付けられたという書き込みを何処かで見たな。まあ一回だけだしいいだろ。
「じゃあお願いします。玲さんも選んでくれてありがとう」
「...........」
「玲さん?」
「............はっ!ええっと、どういたしましてっ!」
フリーズしてたかな?
「お会計お願いします」
「かしこまりましたぁ。1点で6980円になります」
くっ、意外と高いな。だがここまで来たら引き返すのはもう不可能!日本最高の権力者にして全世界にその名を遺す偉人、福沢諭吉を召喚‼︎
確か1回別の人に変わったんだけどその人のスキャンダルが発覚して戻ったんだっけ?
「ふう、懐が軽くなったぜ」
実際には小銭が増えて重くなってるんだけどね。そもそも財布懐に入れてないし。そんなことはどうでもいいがそろそろお腹が空いてきたぞ?
「おっと、もうこんな時間か」
時間を確認してみれば17時半をまわっている。ボウリングも買い物も意外と時間のかかるものだからな。何より広いから移動に時間がかかるし。
「本当ですね。楽しかったのであっという間に時間が過ぎてしまいました。どうしましょう、もう.......帰りますか?」
「うーん、昼飯が早かったし運動もしたからかお腹空いてるんだよね。玲さんさえ良ければ夕飯食べて帰らない?」
「え、あ、はい!是非!」
「玲さんは何か食べたいものとかある?」
「ええっと、楽郎くんは何がいい、ですか?」
デジャブを感じる、というか前にも同じようなやりとりをした記憶があるな。あの時は何食べたっけ?まあいいか。
「うーん、洋食、と和食だったらどっちがいい?」
「洋食が、いい、です」
「米、パン、麺だったら?」
「お米、ですかね?」
「洋食、米..................オムライス?」
「いいですね!オムライス!」
「じゃあそうしよっか。ってここにレストラン街にあるかな?」
「あ、あの、駅に美味しいオムライスのお店があると聞いたので、もしよかったら、その、そこに行きませんか。ええっと、ここなんですけど」
玲さんが見せてくれた携帯端末の画面を覗くとそこにはかなり美味しそうなオムライスの画像が表示されていた。
「おお!うまそう!いいね、ここにしよう!」
忘れてた。ここから駅まで結構時間かかるじゃねえか。
「今日は1日ありがとうございました」
「こっちも体動かせて楽しかったよ、ありがとう」
夕飯を食べ最寄駅に着いたのは20時頃。もう暗いので途中まで玲さんを送りつつ歩いている。ちなみにオムライスはめっちゃ美味かった。
「い、いえ、そんな..................わ、私もその、とても、楽しかった、です」
「そりゃあ何より」
1月の夜の冷え込みは厳しく風が吹き抜ける度に二人して身体を縮める。会話が途切れ静寂が訪れる、が気きまずさはなくどこか心地よささえ感じる。
「............」
「............」
「来年の今頃は、きっと受験一色で、こんな風にはいられなくて」
立ち止まって夜空を見上げ、ゆっくりと語る玲さんの表情はその暗さ故に窺い知ることができない。
「だから今日、こうして楽郎くんと遊ぶことができて、嬉しかった、です」
「..................そっか」
先程まで隠れていた月によって照らされた彼女の柔らかな笑顔に、俺はそれ一言しか返すことが出来なかった。
「送っていただいてありがとうございました」
「いやいや、気にしなくていいよ。暗いから気を付けてね」
「はい、楽郎くんも気を付けてくださいね。では、ま、また明日」
「うん、また明日」
次の日
「いたぞ!捕まえろ!」
「おい、待て、俺が何をしたって言うんだ⁉︎」
「しらばっくれるな!昨日斎賀さんとショッピングをしてる姿を目撃した奴がいるんだよ!」
「ホントはお前ら付き合ってるんだろ?別に怒らないから白状しようぜ?」
「それ絶対怒るやつじゃん」
「怒りはしないさ。ただ処刑するだけだよ」
「もっと酷かった」
ここからどうやって逃げる?柔道部がいるから正面突破は無理、だとしたらアレしかないか。
「ああ、ちなみに暁ハート先生の新作はもうみんな知ってるからな」
「じゃあ先生がSNSの別垢でそれはそれは可愛らしい絵をあげてるのも?」
「なにそれ初耳」
「ちょ、なんで知ってるんだよ」
机に携帯端末画面開いたまま放置してどっか行くの不用意すぎるんだよなぁ。情報得られなくなるから言わないケド。ともかくちょっと注意が逸れた。なるべく自然に歩きながら、驚いた表情を浮かべて、あらね方向を指差して.....
「あっ!」
ダッシュ!
「ん?なん...っておい待てー!」
はっはっはー。この俺を捕まえようなんて百年早いんだよ!
こんな予定じゃなかった...............なんか単調な作品になってしまった。
というかなんであの雰囲気で告らないんだよ!告れよ!玲さん!え、なに?キャラじゃない?すみません。