新隊員:酒場佳子   作:後菊院

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第八話 大規模侵攻①

 

 

    1

 

 

 新型トリオン兵、ラービット。

 それが今回の戦場における鍵だ。

 二足歩行の形態で人間より一回りほど大きいサイズのこのトリオン兵は、トリガー使いの捕獲を目的として設計されているという。性能は他のトリオン兵と比べても段違いで、一個体がそれぞれボーダーのA級隊員に匹敵する戦闘能力を持っている。

 鈴鳴(すずなり)第一部隊もまた、基地南西部でそのラービットと交戦を開始した。

 圧倒的な戦闘性能を誇るラービットをボーダー側は警戒し、正隊員までもが食われることが危惧されていたが、この部隊に関してはそれは杞憂だった。

 ラービットが明らかに攻めあぐねているのだ。

「————」

 ボーダーの攻撃手ランクにおけるナンバー4、村上鋼(むらかみこう)を擁する鈴鳴第一は接近戦において鬼のような実力を発揮する。防御に徹する村上を崩すのは、たとえラービットといえども至難の技だった。

 ラービットの右腕の薙ぎを、村上は左のレイガストでガード。そのまま右の孤月でラービットの腹に突きを入れる。飛び退くラービット。横から隊長の来馬(くるま)辰也(たつや)がアサルトライフル型トリガーの連射で追撃。ラービットは両腕で体をガードする。

 劣勢ではない——だが優勢でもない。来馬は戦況をそんな風に見ていた。

 本部からの命令は東隊のもとへの集合。しかしこのラービットに足止めされていて満足に動けないのだ。じりじりとした焦燥感を覚え始めた頃、「オレがやつを引きつけます」と村上が言った。

「来馬先輩は太一(たいち)と一緒にB級部隊に合流してください」

「え……!? おまえ一人でどうするんだ……!?」

「A級が着くまでやつの相手をします」

 村上は両手の武器を交互に消し、レイガストと弧月を左右持ち替えた。村上が防御よりの立ち回りをする時の持ち方である。来馬は迷ったが、今は一分一秒でも時間が惜しい。決断は迅速に行わなければならない。

 結局、来馬は村上の腕を信じてこの場を託すことにした。

「……わかった。でも無茶はするなよ」

「大丈夫、己の分は弁えてます」

 短く言葉を交わした後、来馬はラービットの手前に狙いを定めて連射する。アスファルトがひっくり返り、土埃が舞う。「太一、行くよ!」と内部通話で叫ぶと、太一とともに戦線から一気に離脱した。

 それを追いかけようとするラービットに、村上がスラスターで距離を詰めて仕掛ける。鋭い一撃だが、ラービットは分厚い腕の装甲を盾にすることで耐えた。ギロリとラービットの眼が村上を見る。村上も一切物怖じせず真っ向から睨み返した。

 分厚く重い両腕がラービットの盾であり、矛だった。食らえばただではすまない強烈なパンチを村上はバックステップで躱し、追撃の裏拳をレイガストで凌ぐ。時間にして三秒ほど激しく打ち合った後、お互いに距離を取った。間合いをはかりながら横にスライド移動して様子見。村上が道の途上にあるフェンスを飛び越えようと跳躍した瞬間を狙いすましてラービットが襲い掛かる。村上は跳躍を諦め、弧月でフェンスを斬って地に足をつけたままラービットのチャージを横に避けた。地面を抉るラービットの豪腕。普通の者なら攻撃の威力に恐怖を感じて踏み込む足が鈍るであろうその直後に、村上は隙ありと見て弧月を振りかぶる——左脚を斬りつけるが、決定打には至らず。反撃が飛んでくるのでレイガストでガード。返し技に旋空弧月。強力な攻撃を見舞う村上だったが、距離が近く、致命傷には至らない。

 あと一発。

 あともう一歩追撃できれば倒し切れるのだが、その一歩が届かない。無理に踏み込めば返り討ちに遭う可能性が高い。ラービットはやはり非常に高性能なトリオン兵だった。

 それから両者は四度激突するが、ラービットが仕掛けて村上が凌ぎ、反撃を与えようとしたところにギリギリのところで離脱される展開が続く。腕で弾かれて垣根に激突した村上は、悠然と佇むラービットを睨んで歯噛みした。

『鋼君、右後ろから増援!』

 内部通話でオペレーターの(こん)結花(ゆか)が叫ぶ。村上が反射的に身を左に躱すと、すぐ横からラービットに向かって誰かが飛び出た。

 誰だ?

 村上は彼の者の背中を見る。女性だった。

 白い隊服——訓練生か?

 彼女はラービットの腕の薙ぎを跳躍で避けて、耳に当たる部位を二本とも斬り飛ばした。彼女の武器はスコーピオン。ラービットの猛攻に一切捕まることなくすいすいと動き回り、右脚に一太刀入れるが、効き目が薄いことを確認して深く追撃せず、村上の横まで退く。

「ふむ。まあ悪くないな」

 酒場はラービットを見据えてスコーピオンを構えた。

「君は?」村上が訊く。

「私は酒場。酒場佳子だ」彼女は快活に名乗った。「昨日正隊員に上がったばかりなのでこんな格好だが、ちゃんと正隊員だ。安心してくれ」

「昨日……?」

 なんだか胡散臭い物言いだが、彼女は両手にそれぞれ一本ずつスコーピオンを構えている。訓練用ではない、正隊員用のトリガーを持っているのは確かだ。

「迅さんに南西地区を守れと言われてな。ここにいるのに鑑みるに、君もA級部隊か? 他の隊員はいないようだが」

 迅さんがよこした増援? そう言われて彼女をもう一度しげしげと見てみると、隊服の肩に玉狛のエンブレムが入っているのに気がついた。そういえば、戦闘訓練で新記録を出した大型新人が玉狛に入ったとかいう噂があったような。

「……オレはB級部隊、鈴鳴第一の村上鋼。ウチの隊長と隊員一人をB級合同隊に合流させるため、障害だったこの新型を引き付けていた。君がA級隊員だっていうならこの場を任せたいけど……君、一人?」

「ああ」酒場はなぜか不敵な笑みを浮かべて頷いた。「そういうことならこいつは私に任せろ。村上君はB級合同部隊に合流してくれ」

 そう言われても村上は困ってしまう。昨日正隊員に上がったばかりの新人に新型を任せるのは心許ないというか、普通に心配だった。

『酒場、さん? 本当に大丈夫?』

 村上と同じ気持ちを抱えていたらしい結花が酒場に回線を繋いで問いかける。いきなり喋りかけられたことにびくりと驚く酒場だが、すぐに村上の隊のオペレーターが喋りかけて来たのだと理解し、「大丈夫だ、問題ない」と自信たっぷりに答えた。

 余裕綽綽な酒場の態度が気に食わなかったのか、いやそれともただの偶然か、会話がその辺りまで進行した時、ラービットが突っ込んできた。村上と酒場はそれぞれ後方に飛び退いて避ける。ラービットの狙いは酒場のようだ。太い腕を振り回して彼女を追い回す。

 フォローに入ろうとした村上だったが間に合わない。新隊員がやられる——と思った次の瞬間、酒場はスイングするラービットの腕を鼻先すれすれで躱し、勢いそのままバク転。足裏から生やしたスコーピオンでラービットを顎の下から斬りあげた。

 ラービットの顔に傷が入る。傷口から煙。好機。村上はスラスターを起動し、ラービットの堅い右腕を付け根から斬り剥がそうと試みる。切断こそできなかったものの、防御姿勢に入っていた両腕のうち、だらんと右腕が垂れ下がった。

「よし」

 そう呟くのと同時に、酒場はスコーピオンをラービットの歯元に突き刺す。村上が削ったガードの隙間から、器用に奥まで刃を到達させた。それによって「目」が潰れたらしい。ラービットはゆっくりとその場に倒れ伏した。

「援護、感謝する」

 酒場は動かなくなったラービットを横目で注視しつつ、村上に礼を言った。

「……うん」

 内心、村上は驚いていた。先ほどのバク転蹴り、あれは誰もが簡単にできるような技じゃない。相手の脚が十全に機能していなかったとはいえ、あそこまで綺麗にカウンターを決められるものだろうか。曲芸染みた動きだった。

『どうだ? すごいだろ、ウチのルーキーは』

 その時、内部通話で村上たちに話しかけてくる者がいた。酒場をここに送り込んだ張本人、迅である。

「……迅さん」

『よう、鋼。単独でよく頑張ったな。このあとはB級合同に向かってくれ。おまえが合同部隊にいると、合同部隊内の被害が減るんだ』

「……! B級合同部隊がやられるかもしれないってことですか?」

 迅はその問いには答えなかった。『多分、B級合同部隊もかなり強い敵と戦うことになる。その時おまえがいると心強い』

「……」迅の予知能力については村上も知っている。彼には従った方が良いだろう。「(こん)、東さんたちはどこにいる?」

『ちょっと待って。マップに表示するから』

「ありがとう」

 結花が表示したマップを見る前に、村上は酒場の方を見る。酒場は微妙に所在なさげな顔で村上を見ていた。

「君はこのあとどこへ?」

「んー……。千佳たち——訓練生のカバーに行こうと思う。なんかトリオン兵がやばいらしいからな」

 

 

    2

 

 

 大規模侵攻の開始時、修は中学の屋上で空閑たちと共に昼食を摂っていた。

 基地周辺の空が暗くなり、無数に開く「門」を皆で目撃した後、緊急招集の指令に従って出撃し、警戒区域内部に移動。空閑ととともに区域内で正隊員の獲り漏らしたトリオン兵に対処した後、嵐山隊と合流する。その後は木虎と共に、避難誘導をしている千佳たちC級隊員のカバーに向かった。

 そして現在、修は苦境に立たされていた。

 モールモッドは修が倒した。木虎と新型トリオン兵ラービットの一騎討ちも、木虎が優勢のまま進行していた。脚を掴まれ叩き落とされたが、木虎は自ら脚を斬って拘束から逃れ、攻撃態勢に入っていた相手を逆に討ち取る。それはA級隊員としてのプライドに裏打ちされた日々の研鑽の賜物だった。そこまでは木虎と修だけでなんとか凌げていたのだが——

 

「——さあ、雛鳥を捕まえようか」

 

 たった今、片脚を失った木虎の眼前に三体のラービットが出現した。

「新型が三匹!?」

 修は叫ぶ。たった一体で木虎がやられかけたのに、これはあまりに理不尽な戦力差だ。

「ずっる……! いくらでも出てくんじゃん!」

 千佳の友達、夏目(なつめ)出穂(いずほ)もまた目の前の理不尽に憤慨して叫ぶ。

 誰が見てもわかる。この状況、明らかにこちらが不利だ。各個がA級隊員と同程度の戦闘能力を持つラービット三体なんてどうやっても止められない。何でこんな辺鄙な場所にこんな戦力を注ぐのだろう——? 

 その理由を悟り、木虎は戦慄した。

「逃げなさい早く!」木虎が叫ぶ。右手にスコーピオンを生成。敵わないとわかっていながらも、一分一秒でも長く時間を稼ぐため、片脚ながら戦いを挑もうとする。

「こいつらの狙いはC級隊員よ!」

 その瞬間、足元に違和感。アスファルトが割れたと思ったら、地中から無数の刃が伸びて——

 刻まれる。

「こいつ……!」

 先ほどのラービットはこんな能力を使ってこなかった。もしや、一体ごとに性能が違うのか?

「木虎!」

「三雲くん! あなたは本部へ連絡を——」そう言いかけた木虎をラービットが掴む。そして腹部から出した触手のようなものを木虎へ突き刺した。まずいと思って即座に緊急脱出を試みる木虎だが、少し遅い。

 木虎の体が白く光り始め、輪郭がぶよぶよと変形する。修の目には、木虎の体が溶けているように映った。

「べ……ベイルア——」木虎がその台詞を言い終えることは叶わず、白い光のキューブになって、ラービットの腹に接収されてしまった。

 目下最大の障害を排除したラービットたちC級隊員に狙いをつける。彼らにしてみればまさに獲り放題とか踊り食いといったところか。修が逃げ惑うC級隊員とラービットたちの間に立ち塞がるが、実力差はいかんせんどうすることもできず、なすすべなく吹っ飛ばされる。空中を舞った修の体は、近くの民家のベランダを突き破った。

「メガネ先輩!」

 夏目が修を呼ぶ。千佳も心配そうに修の方を見上げていた。「だ……大丈夫だ! ぼくに構わず逃げろ!」

 修がそう叫ぶまでもなく、他のC級隊員たちはパニックになって統率も戦術もなく逃げ出していた。出穂も千佳を振り返り、「マジでヤバいよこれ——逃げよチカ子!」と呼びかけるが、千佳はそこに立ち尽くしたまま動かない。

 ラービットが近づいてくる。

「……チカ子!?」

「何やってる千佳! 早く行け!」

 千佳の頭にあるのは、先ほど木虎が捕まった光景。まずいことに、それが千佳の中で重なってしまったのだ——向こうに行ったまま帰ってこない兄と、トリオン兵に攫われた千佳の友達に。

「はあ……はあ、はァ、はあ——!」

 鼓動が早まる。

 視界がぼやけて狭くなる。身体が震える。足が竦んで動かない。トラウマが千佳をがんじがらめに縛っていた。

 攫われる。

 攫われてしまう——それだけが千佳の心を埋め尽くす。思考が最悪の地点で止まる。もはや千佳は何の抵抗できず、ただ食べられるのを待っているだけの、蛇に睨まれた蛙だった。

 ラービットが近づいてくる。

「千佳!」

 瓦礫から抜け出した修は千佳を助けようと動き出す。が、遅い。それでは間に合わない。ラービットは千佳までほんの数メートルの距離にいた。動かない千佳にゆっくりと近づくラービット——腕を千佳に伸ばそうとした時、ラービットの脳天に狙撃銃アイビスの弾が直撃する。

 ガキンという音がしてラービットがのけぞった。その衝撃音で千佳は恐怖の硬直から抜け出す。後ろを振り向く。そして誰が千佳を救ってくれたのかを知った。

「チカ子に手ぇ出してんじゃねーぞこんにゃろー!!」

 出穂だった。

 出穂がトリガーを起動し、アイビスを展開して撃ったのだ。

 出穂はもう一発、ドォンと弾を撃ち出すが、これはラービットの分厚い腕の装甲に阻まれる。アイビスの火力を以てしてもラービットの腕は抜けないようだった。やはり尋常でなく硬い。ラービットは標的を千佳から出穂に変えて飛び出す。勇しき訓練生の抵抗は一瞬で終了してしまった。弾の再装填が間に合わない出穂をたやすく捕らえ、ガパリと腹を開けて出穂を飲み込む態勢に入る。

「わっちょっ、タンマ! キモいキモいキモい!」

 じたばたと暴れる出穂だが、腕の拘束から逃れられない。肩に乗せていた猫をどうにか逃がす。千佳が思わず名前を呼んだ。「出穂ちゃ——」

「チカ子逃げろ! 走れ!」

 出穂が叫んだ。

「逃げろ千佳!」

 修も叫ぶ。二人の声が——否、ここまでずっと千佳を守ってくれた者たちの声が、ただひたすら「逃げろ」と、千佳の頭の中で反響する。逃げなければいけないのか? 友達を置いて、仲間を盾にして……私はずっと逃げなければいけないのか——?

 ——そりゃもちろん戦闘員でしょ。

 誰かが言った。

 ——この先近界民に狙われたときのためにも、チカは戦えるようになったほうがいいだろ。

 入隊した日、空閑はそう言って千佳の背中を押した。それはともすれば千佳を平和な場所から危険な場所に連れ出してしまったのかもしれないが、しかし、空閑はあくまで千佳の背中を押しただけ。戦わなければならないと——戦いたいと決めたのは空閑ではなく、千佳自身だった。

 今度こそ——

『トリガー臨時接続』

 千佳は出穂の落としたアイビスを拾い、構える。

 そしてスコープを覗く。見つめるは出穂を掴むラービット。

 あるいは——自分自身の運命かもしれなかった。

 

 今度こそ、友達はわたしが助ける!

 

 引き金を引いた瞬間、巨大な爆発音が響き、さきほど出穂の撃った弾とは比較にならないほど強力な弾丸が撃ち出された。

 それはかつて本部基地の外壁に風穴をあけた一撃。

 後に「玉狛の大砲」と呼び称されることとなる、トリオン怪獣の咆哮。

 片腕を前に出して防御姿勢を取っていたラービットだったが、そんなものは千佳の前では障子紙同然。弾丸は腕ごと本体を貫通し、破壊する。衝撃の余波によってラービットの拘束から解かれて投げ出された出穂が「どわあ!」と言って地面に転がった。

「こらチカ子! アタシも吹っ飛ばす気か!」なんてコミカルに怒る。「ご、ごめん」と千佳は謝った——その時だ。体の半分以上が粉々になり、もはやガラクタ同然のはずのラービットの腕が微かに動いたのは。

 それに気づき、トリオン兵のコアである「目」を破壊するのは、本来だったら修がやる役割のはずだったのだが——此度は違った。

 ラービットが動き出した直後、コアは投擲されたスコーピオンによって砕け散る。異変に気づき、対処しようと一歩踏み出しかけていた修は、それがどこから飛んできたスコーピオンなのか確認しようと振り返る。

「…………!」

 修は戦慄する。

 そこに、酒場佳子がいた。

「よう、三雲。千佳」

 酒場はいつもと変わらない表情のまま、軽く右手をあげてそう言った。

 

 

    3

 

 

 酒場佳子。

 空閑や千佳の数週間前に玉狛支部に配属された新隊員。ついこないだ三門市に引っ越してきたという高校生。新入りながら実力は高く、剣一本の勝負では米屋や空閑に勝ち越し、小南とも互角に渡り合う。

 そしてその正体はボーダーの技術を盗みにやってきた密偵。

 修の——敵。

「酒場先輩!」

 千佳が安堵したように彼女の名を呼ぶ。「助けに来た」と酒場は言った。

 助けに来た? 本当か?

 ……いや、本当なのだろうと修は思い直す。彼女はこの大規模侵攻で大活躍をしてくれると迅は言っていた。少なくとも今は心強い味方なのだ。大丈夫、恐れるな。彼女は味方だ。

「もうすぐレイジさんたちが到着するらしい。それまで凌ぐぞ」

「は……はい!」

 修は酒場と並び、レイガストを構える。その所作には幾分かぎこちなさが残っていた。

 空を飛ぶ型と白い型のラービットが空中と地上の二方から襲ってくる。空を飛ぶ型が砲撃してくるが、くるりと避ける酒場には当たらない。回避行動の直後、酒場は地上を突進してくる白いラービットと不安定な体勢で激突した。ふるわれるラービットの豪腕——だが、酒場は体を地に伏せて横に転がることでそれを回避する。すぐさま起き上がり、今度は傍の民家の壁を利用して三角飛び。砲撃が民家を破壊するが、これも酒場には当たらない。

 千佳が空中のラービット目掛けてもう一発撃つ。当たれば撃墜間違いなしの必殺大砲だが、ラービットはそれをひらりと躱した。仲間の一体を破壊した威力を見て、防御するのは得策ではないと学習したのだろうか。

「アステロイド!」

 修が通常弾を数発、空飛ぶラービット目掛けて撃つ。命中したが、大したダメージにはならなかったようだ。ラービットはぎろりと修を見て、急降下で迫る。

(シールド)モード!」

 レイガストを広げてラービットのチャージを受ける修。衝突した後も勢いを殺せず、数メートル後ろに押されるが、今度は吹っ飛ばされず、堪え切れた。

「ナイスだ三雲」

 修と睨み合う状態にあったラービットの脚を斬り崩して酒場が言う。その隙に白いラービットがC級の方へ向かおうとするが、酒場が片方のスコーピオンを投げて牽制。そして千佳の砲撃。白いラービットを後ろに下がらせた。

 酒場という助っ人により現在はラービットたちを押し返せているが、木虎を回収する余裕がまだできなかった。酒場は強いが、C級隊員を守りながら戦わざるを得ず、それが枷となっていて満足に動けていないようだ。

 戦況が動いたのはボーダー最強の部隊が到着してからだった。

 脚を斬り落とされた飛行型が上空に逃げた時、後方からの射撃がそれを撃ち落とす。ラービットは体から煙をあげて後方に倒れた。誰がやってくれたのだろうと振り返った修の瞳に、突撃銃型のトリガーを構えた京介とレイジが映る。

「待たせたな、修」と京介が言った。

「……! 烏丸先輩! レイジさん!」

 ずっと苦しかった修の表情が笑顔になる——そのすぐ横を通り抜けて、向こうから迫る白いラービットに突撃する影。ショートカットの髪型には見覚えがないが、「メテオラ」と呟いた声には聞き覚えがある。

 小南だ。

「佳子、離脱して。メテオラぶち込んだから」

「……ん!?」

 白いラービットと酒場は激しく近距離で戦っていたが、小南の指示が聞こえた酒場だけが横に飛ぶ。直後、弾着。酒場の影から突如現れた炸裂弾に対処しきれず、ラービットは派手に攻撃を喰らった。

「おい小南! 私を殺す気か!?」

「あんたなら余裕で避けれたでしょ」

「まあ余裕だったが……それはそれとしてもうちょっと早く警告しろ!」

 見栄を張りつつ怒る酒場。

 言い合う小南と酒場を尻目に、「おい、敵はまだ死んでないぞ」とレイジが警告する。確かに、京介たちの銃撃を浴びた飛行型も、小南のメテオラを受けた白い方も立ち上がった。だいぶダメージを負っているようだが、致命傷は入っていないらしい。

「気をつけてください!」全員に聞こえるよう修が叫ぶ。「捕まるとキューブにされます! 木虎がやられました!」

「わかってる」と京介が応じる。「正隊員も一人やられた。今、本部のエンジニアが解析を進めているところだ。幸いというか厄介というか、正しい解き方をしない限り傷一つ付かない代物らしい」

「手加減しなくても大丈夫ってことね」

 小南は京介の報告をプラス思考に捉えた。

「木虎は玉狛第一が助ける。修、お前はC級をフォローしろ」

「敵の新型は二体——飛行型を優先して処理する。小南と酒場が前衛、俺と京介が後衛だ」

「了解した。小南、私の足を引っ張るなよ」

「どの口が言ってんの。あんたの方こそ遅れんじゃないわよ?」

「……ちょっと待ってください! まだあの門を開けるやつが——」

 臨戦態勢に入った玉狛第一部隊に修が声をかけるが、時すでに遅し。

 門が開く。黒くて円い空間が、修たちの前に展開する。

「転送完了」

 門の向こうで誰かが言った。

「——戦闘開始です」

 

 




 鋼が今ちゃんをどう呼ぶか、「今」派、「今ちゃん」派、「結花」派に別れ、混沌を極めていた——……。
 これで太刀川さんがわざわざ鋼のフォローに入るため南東側に寄らなくて済むので、基地東側で攫われる訓練生の数が減ります。で、鋼が引き付けてた三体のラービットのうち二体がフリーになります。きっと千佳たちを狙うんだろうなぁ……。
 鋼はさっさとB級合同部隊に合流するのであった。
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