レベルアップで世界最強   作:奈落兎

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残された者達

 橋の崩れる音でよく聞き取れないが、明らかに悲鳴を上げながら落ちていくハジメと恵里。香織は、鈴はその光景を呆然と眺め、はっと我に返る。いや、それは果たして我に返ったと言えるのか。

 

「あ、や………いやあああああ!? 南雲君!? 恵里ちゃん!」

「恵里! ハジメン!」

 

 飛び出そうとする香織を光輝が、鈴を騎士団員が止める。

 

「離して! 南雲君が、恵里ちゃんも、助けに行かなきゃ!」

「離してよ! 離せ! エリリンが、恵里が! 鈴の、私の友達なのに! ハジメが、友達にさせてくれたのに!」

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

 それは、光輝なりに精一杯、香織を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきでない言葉だった。

 

「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

「くっ! 雫、君も止めてく…………雫?」

 

 光輝が幼馴染の暴走を止めるべくもう一人の幼馴染を呼べば、雫はある一点を見ていた。肩で息をする檜山を。

 次の瞬間、金属音が響き渡る。

 

「ひっ!?」

「───!!」

 

 雫が振り下ろした刀をメルドが受け止めた音だった。己に死が迫っていた事に気付き尻餅をつく。メルドは予想以上の力に顔を顰める。

 

「雫!? なにを、どうして檜山を………!」

「………て、やる」

 

 光輝が慌てて叫ぶが雫は光輝も、メルドさえ無視して顔を青くさせる檜山を睨む。

 

「殺してやる!」

「ぬぅ───!?」

 

 ごうっ! と雫を中心に、魔力が吹き荒れる。魔法を介さぬ魔力の発露。メルドは目を見開く。

 

「この力、まさか…………()()と同じ!?」

「そこをどけ! その男を殺す、殺してやる!」

「ひ、ひああああ!?」

 

 慌てて逃げ出そうとする檜山を睨みつけ、雫はメルドを吹き飛ばし檜山へと斬りかかろうとして、龍太郎が羽交い締めにする。

 

「落ち着け雫! ハジメが落ちたのは、中村を助けるためだ! コイツを仇として殺したら、アイツの行動を否定することになんぞ!?」

「────っ!!」

 

 その言葉に雫が目を見開き動きを止める。そして、力なく呟く。

 

「………それでも、こいつは人を殺そうとしたわ。それに、目の前に魔法が迫らなければ恵里の足だって止まらなかった」

「それは………そうだ。こいつにゃ必ず罪を償わせる。だけど、ハジメを殺した報復ってんなら俺が止める」

「ハジメが死んでたら、どうするのよ」

「アイツが死ぬかよ………」

「………………」

 

 雫はふぅ、と息を吐く。龍太郎が大丈夫だと判断し腕を解くと刀を鞘に納め、鈴と香織を気絶させた。

 

「戻りましょう」

「あ、ああ………」

 

 雫の言葉にメルドが剣をしまう。雫は、ギロリと檜山を睨む。騎士達が檜山をすぐさま拘束する。

 檜山は助けを求めようとクラスメート達を見れば誰もが檜山に嫌悪の目を向けていた。いや、中野達は困惑の視線だが、少なくとも助ける気はなさそうだ。一人を除いて

 

「ま、待て雫! どうして檜山に斬りかかったんだ! 檜山は仲間だぞ、ちゃんと理由を聞かせてくれ!」

「はあ?」

 

 その言葉に龍太郎は何を言っているんだと言いたげな顔をした。

 

「あのな光輝、こいつは崩れ落ちる橋の上を走るクラスメートに魔法を放って落とそうとしたんだぞ?」

「それは、事故じゃないか。それに南雲は自分で飛び降りたんだ。檜山に責任はない」

「………中村は、迫ってくる魔法を見て足を止めたんだぞ? 南雲はそれを助けようとした。それに責任がないって言うのかよ!?」

「あの状況じゃ、魔法を外す事もある。俺達の誰がなっててもおかしく───ぐぅ!?」

 

 その言葉に、龍太郎は光輝の胸ぐらを掴む。

 

「んなわけねーだろ! 魔法の制御が外れた? あん時檜山はハジメをまっすぐ見てやがった。狙ってやがった。それに、例えわざとじゃねーとしても、罪がない? てめぇは轢き逃げもわざとじゃなけりゃ罪はねーって言いてぇのか!?」

「ち、ちが、俺は………そんな事…………!」

「龍太郎………」

 

 今にも殴り掛かりそうな龍太郎を止めたのは、雫だった。先程と逆だ。

 

「言っても無駄よ………」

「っ………ああ、クソ! なんでこうなる!」

 

 乱暴に手を離し頭を掻きむしる龍太郎に、光輝は何でこうなると内心疑問だらけだ。

 檜山は同じ勇者パーティーの仲間だ。仲間が仲間に攻撃するはずがない。ならばあの死ねという叫びはベヒモスに向けられて居たのだろう。何度も致命傷を負っていたベヒモスが向かってくるのだ、そりゃ怖い。魔法の制御だって誤ってしまう。

 だから、あれは偶然が生んだ不幸で、責められるべき者の居ない事故のはずだ。そう言いたげな光輝に同調する者は、最早いない。

 

 

 

──────────────────────────

 

『概ね予定通りだ…………』

 

 彼ならまあ生きているだろう。解放者達の隠れ家には解放者の残した魔法がある。あの迷宮の主を考えるに世界の真実とやらも隠されているだろう。で、あるなら彼は間違いなく此方を敵と、悪と認識するはずだ。

 迷宮内は観測不可能。オルクスでは端末も送れない。故に、出てくるのを待つしかない。無いのだが………

 

『待〜て〜ぬ〜』

 

 と、まるで子供のように駄々を捏ねだす。過去あそこを攻略したのは、確か一人いた。どれだけかかったか。確か数ヶ月。

 クソ、解放者め。死後も己を苦しめてくるか。

 元々待つという行為自体慣れていない。やりたいことは即実行。それこそ暗躍したくなった時ぐらいしかゆっくり行動しない。

 

『はあ、戦争の気配も近づいてきておるし、今日もやかましい。煩わしい塵芥共が』

 

 性別など疾うに意識の外に消えるほど悠久の時を過ごしたそれにとって数千年来の楽しみ。それに想いをはせていると、不意に聞こえてくる信者達の祈り。

 少し前までなら叶えてやっていた。平和など冗談ではない、仇を討てば罪になる世など認めたくないという願いがあったから叶えてやったら解放者達が現れた。

 しかし彼等以降、興味が惹かれる者はそこそこ現れてはすぐに消える。内一人は死体を利用させてもらっている。

 

『まあ良い。奴ならこの世界を救おうとするだろう………その時こそ改めて対面すれば良い』

 

 その為にはまず肉体を得る必要がある。異世界から引っ張ってきたのは、あれは駄目だ。器にはなるが力を十全に発揮し得ない。制作は失敗。せめてサンプルがあれば良いのだが。

 

『む………』

 

 と、不意に以前己が異世界から戦力を呼び寄せると教えてやった個体が祈りを捧げる場で祈っている。そんな所で祈らずとも聞こえる。人と言うのは無駄なものを作る。理解出来ぬ。そのくせやたら豪華なそれに使われる費用は神のために神のために。

 下らぬ者達だ。欲しいのは神ではなく己を正義と肯定するものだろうに。それが偉大であれば偉大であるほど良いと、名付けたのが神だ。

 敬うふりをして己の欲望の肯定者であることを望む。己を正義と肯定されることを望む。

 

『正義なものかよ、貴様等如きが。貴様等が敬う、我も…………嗚呼、嗚呼、ならば■らしく欲望の赴くまま、歩もう。貴様等が我を利用するように、我も利用させてもらおうぞ』

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 オルクス第100階層………()()()()にて、グチャグチャと咀嚼音が響く。音の発生源には、血だらけの熊が…………

 

「さて、どうやって脱出したもんかね〜」

 

 その熊の死体の上に腰掛け、熊の左腕を食うハジメは、口元を血で汚しながら、気絶している恵里のこめかみを指で押し呟くのだった。




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