レベルアップで世界最強 作:奈落兎
薄暗い通路の中、青白く発光する骨の首をハジメが切り落とす。背後から剣を振るう同じく青白く発光する騎士に対しては、鎧の隙間にナイフを差し込み力任せに引き千切る。
「ハァ、ハァ───ふぅー……」
ハジメは大きく息を吸い呼吸を整える。敵は、そこまで強くない。だが問題は数と、回復手段が無いということ。
どうやら『転職クエスト』専用のダンジョン内ではストアは勿論として、既に買ってあるポーションやレベルアップによる状態の回復が行われないらしい。疲労は貯まる一方で───
「───っ!?」
キィン! と乾いた音ともに飛んできた矢が弾かれる。
「そこぉ!」
さらにハジメが何もない空間を蹴ると、何かが吹き飛び壁に激突し腐った皮膚を覗かせる包帯だらけの人型モンスター。
「クソ、何体いやがるこいつ等………」
疲労は貯まる一方で、息をつく暇もない。
敵は次から次にとやってくる。というか、恐らくだが終わりがない。ドロップアイテムの『冥府の川の水』は、飲んでも平気なのだろうか?
いや、アイテム説明を見る限りデメリットはないが。意を決して飲み、一息。
少しだけ楽になった。
恐らくだがこのダンジョンのモンスターは無限にリスポーンする。おかげでレベルが5も上がった。これ以上は上がりそうに無い。ならば、やるべき事は一つだけ。
「ボスの討伐、だよなあ」
荘厳な扉。その向こうから感じる大きな気配。ハジメが竜殺しの称号を得ることとなった竜の巣と形容できるインスタンスダンジョンのボスの時も、似たような威圧感を感じた。あの頃より強くなっているはずなのに。扉に触れると、ギィィと錆びついた音を立て勝手に開く。
中に入ると、そこは開けた空間だった。光源は天窓から差し込む月光だけ。ハジメの影が緩やかに伸びる。
「─────っ!」
そして、それは現れた。影をそのまま抜き取ったかのように黒い体をした戦士。鎧がない肌の部分すら黒く染まった戦士は唯一赤い瞳をハジメに向ける。
| 『嘆きの守護者 潜影のエリヘル』 |
表示された文字の色は
ハジメより弱ければ色は白で、同じぐらいならオレンジ。強ければ、赤く。強いほど、黒に近く。
ここはハジメに合わせて設定されたクエストなのだから当然と言えば当然だが、ハジメより強い。
「────!!」
最大限の警戒をするハジメの前で、エリヘルが動く。一足でハジメの目の前に接近し、漆黒の片手剣を振るう。ハジメが短剣で斜めに受け止め反対の手に持っていた短剣を振るうもエリヘルの左手に新たな片手剣が現れてこれを防ぎ、エリヘルの蹴りがハジメの腹にめり込む。
「ぐっ!?」
ハジメは力が乗る前にエリヘルの攻撃を防いだが、エリヘルは速度の乗ったハジメの一撃を防いだ。それが意味するのは、筋力は向こうが上。
──だが、速度なら!
| ─『スキル∶疾走』を使用します ─移動速度が30%増加します ─マナが1分間に1ずつ減少します |
空中で体制を整え、足を曲げ、衝撃を殺して壁に着地し、蹴り跳ねる。
そのまま柱や空力を利用し縦横無尽に駆け回るハジメ。不規則な三次元移動を行いエリヘルの死角に移動し、全身をバネにこれまでの最高速度で首を狙い──
「ぐが!?」
蹴り飛ばされた。
「──っ!?」
何が起きた?
エリヘルの速度がハジメを上回った? いや、違う。これは、そんな単純な話じゃない。
空気の流れが無かった。気配察知や魔力感知でも、唐突に背後に現れた。恐らく短距離転移。
「っ! ぐ、つぅ!!」
ハジメの視界から、エリヘルが再び消える。ほぼ反射で振り返り短剣二本を頭上に掲げると二本の片手剣が轟音を立てて短剣とぶつかり、ハジメは強制的に膝を付かされ部屋全体の床が罅割れる。
「ぐ、ぬぅ………!」
『────!!』
そのまま力で押し潰そうとしたエリヘルだったがハジメの体が地面に沈む。錬成、ではない。
| 『スキル∶土中遊泳』 アクティブスキル 必要マナ150 体積より大きな無機物内を水 中扱いで泳ぐことが可能。 1秒間にマナを1ずつ消費する |
ちなみに息は出来ないが、『潜水』という使用マナなしのパッシブスキルで呼吸を必要とせず潜っていられる。問題は………
| 1862 / 10580 |
残りのマナだ。今もなお減っていく。土中遊泳を使っているから当然だろう。
だが、上がれない。気配察知や魔力感知を使うまでもなく、地上でエリヘルが此方を認識しているのが解る。
深く逃げて正解だった。ハジメは一度目をつぶり、『隠密』を発動。これで地上のエリヘルはハジメを見失ったはず。確認のために動くと、ついてこない。困惑してるのかウロウロとしている。
『隠密』発動中は音や匂いはもちろん、如何なる痕跡、空気の動きすらも認識出来ない。認識するには相当数の感覚の能力値が必要だ。
ハジメは更に深く潜ってから、一気に上昇する。『潜水』は水中での速度にも補正をかける。ハジメの遊泳速度は、もはや海人族すら白目を向くレベルだろう。
生憎と地面の中からは地上が見えないが、ある程度の予測はできる。狙いは、胴!
金属音が響き渡る。
「っ! うっ、そだろ?」
視界に映るのは半ばから消失した左腕を振り上げるエリヘル。防がれた。いや、弾かれた。
地面を抜けてまず目に写ったのは片手剣を振り上げるエリヘル。速度が乗ったハジメの刺突は、しかしだからこそ横からの衝撃に流され高く高く飛ばされる。
空中では身動きが取れない!
対してエリヘルは短距離転移がある。何処からくる!? 警戒するハジメだったが、エリヘルはハジメを眺めるばかりで何もして来ない。
まもなく地に足がつくというところで漸くハジメの目の前に現れ、剣を振るう。
「っ!?」
| 658 / 10580 |
目の前に現れたおかげでギリギリ回避し、そのまま斬り合う。片腕を飛ばしたおかげで、疲労が溜まってきたハジメでも互角にやり合える。剣戟の音と火花が2人の周りに散る。
「────ッ!!」
『────ッ!!』
先程の意趣返しと言わんばかりにエリヘルの腹を蹴り飛ばしたハジメは、感じた違和感について考える。
何故隙だらけの空中で襲わなかった。彼処なら、仮に防げても壁や地面に叩きつけ、ダメージを与える事が可能なのに。襲わなかったのでは無く、出来なかった?
もう一つの疑問は、まだ地に足がつく前に現れたくせに、わざわざハジメの影を踏みつけるようにして目の前に現れた事。あれが背後だったならなす術が無かった……………
「──────そうか」
再びハジメが駆け抜ける。エリヘルにではなく、翻弄するように周囲に。しかしエリヘルからは目を放さない。
| 『スキル∶天歩』から『瞬光』が派生しました |
『スキル∶瞬光』 アクティブ 使用マナ150 知覚機能の拡大。 及び『天歩』の各派生技能効果を上昇 |
即効使用!
| 508 / 10580 |
引き上げられた感覚の中で、エリヘルの足元、厳密には影からほんの僅かに黒いオーラが溢れている。
「ここだ!」
ハジメが雷を纏う。纏雷だ。紅雷により、月光で浮かび上がっていたハジメの影が消され、エリヘルの影が弾けるように闇を吹き出す。
『────!』
「おおお!」
『縮地』を使用し、固まったエリヘルの隙を逃さずその喉目掛けて短剣を突き立てる。それでも反応したエリヘルだったがエリヘルとハジメの得物が砕け、ハジメの短刀が僅かにエリヘルへと突き刺さった。
| 412 / 10580 |
「まだ、だあああああ!!」
『─────ッ!!』
ナイフを通して纒雷をエリヘルに流す。内から流れる電流に、エリヘルは身体をうまく動かせないのか、ゆっくりと、しかし確かに動きハジメの首を掴む。
「───────ッ!!」
『───────ッ!!』
| 356 / 10850 |
マナがどんどんと減っていく。
エリヘルの手に加わる力が万力のように強くなっていく。このままいけば、ハジメの首の骨をへし折るだろう。
| 278 / 10580 |
上等だ、とハジメは反対の手に持つ短剣をエリヘルの左肩に突き刺す。
| 194 / 10580 |
要は何方かが先に死ぬか、それだけだ。酸欠になりながらもハジメは寧ろ力を込める。
| 0 / 10580 |
やがて雷が消える。もはやマナは残っていない。発動できるスキルは一つもない。が───
「か、はぁ───! はぁぁ、はああああ!」
ハジメは
ハジメは呼吸を整えインベントリから取り出した水を飲む。
| レベルがアップしました! レベルがアップしました! |
レベルアップの通知が来たと言う事は倒せたのだろう。改めて深呼吸する。かなりギリギリの勝利だ。恐らく100回やって1回勝てる唯一の勝利。不意をつけねば死んでいた。
と、エリヘルの死体から光の柱が灯る。アイテムだ………
【潜影のマント】 【影渡り】 【革の巾着】 【即時帰還石】 を得ました |
| アイテム革の巾着を開封しました 【280万ゴールド】を得ました |
「防具に、ルーン石か。それに金………報酬が良い」
| 『アイテム∶潜影のマント』 入手難易度∶S 種類∶防具 物理ダメージ18%減少 『隠密』使用時の消費マナの不要化 体力+20 速度+20 |
アイテムも良い感じだ。早速着込む。
ボロボロの黒ローブだったが装着すればすぐに見えなくなった。
そして最後に………
| 『アイテム∶即時帰還石』 種類∶消耗品 転職クエスト専用アイテムです 帰還石を割ると即時にダンジョンの外へ 移動できます 転職クエストが終われば自動で 破壊されます 倉庫に保存できません |
「…………は?」
何故、ボスを倒してこれが出てくる?
帰れるように? いや、ならば転職クエストが終われば自動で破壊される理由がわからない。まさか………
「──!? 何だ、霧!?」
| これより転職クエストを開始します |
よりによって、最悪な予感が当たった。
霧の向こうに何時の間にか佇んでいた同じ顔をした真っ白な女達が嗤い、周囲に白い騎士や獣達が無数に現れた。
感想お待ちしております