レベルアップで世界最強 作:奈落兎
ハジメがエリヘルという強者から確率1%の勝利をもぎ取った瞬間から半日ほど時間を戻す。
光輝達勇者御一行は再びオルクス大迷宮に訪れていた。ただし訪れているのは光輝、龍太郎、雫、香織、鈴の所謂勇者パーティと、永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティー、そして檜山を失った小悪党組だった。
小悪党がここに居るのは別に正義感ではない。檜山を失ったあと、纏める人物が居なかった。檜山は彼等四人の中で一番だったから。
一人一人行動しても優花の件で女子達の目はもちろん、檜山と仲が良いことを知っている王宮の使用人達からの視線がきつく、光輝に纏められ、人の役に立っているように見える事がしたいのだ。
因みに一部の生徒達は愛子の護衛を買って出た。小悪党組も当初そちらに着こうとしたが猛反発された。
愛子のところには他にも神殿騎士という、聖人騎士団には劣るものの教会のエリート達が付いた。なお、顔がいい。
まあ愛子はハジメから顔が良い奴が来たら存分に警戒するように言われていたので気は許してないが、見た目のせいでツンとした態度も可愛らしく神殿騎士達のほうが愛子に落ちているが。何がしたいの、こいつ等。
そんなこんなで一部の異世界組とメルド達騎士団を引き連れ今日で迷宮攻略六日目。
現在の階層は六十層だ。確認されている最高到達階数まで後五層である。
しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず足が止まってしまったのだ。目の前には、断崖絶壁。
そう、彼等の目の前には何時かの悪夢に似た光景が広がっている。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはりあの時の悪夢が足をすくませる。
「香織……大丈夫よ、きっと………」
「うん、そうだよね雫ちゃん………」
奈落へと続くかの如く深い闇を見つめる香織に、雫が声をかける。香織はその言葉に少しだけ表情を和らげる。
「恵里………ハジメン」
「鈴………」
「うん。大丈夫………鈴は信じてるよ。二人が生きてるって。特に恵里は、本当にもう、うん、ハジメンがいれば何処でも生きてけるんじゃないかな」
と、鈴が遠い目をする。去年までの彼女は人前では常に笑顔で、疲れた様子など微塵も感じさせずに子供っぽいが愛嬌のあるキャラだった。こんな顔をする様になったのは、彼女がハジメとも話す光景を目にするようになってからだったか、と香織が微かに目を細めると鈴はビクリと震えキョロキョロ辺りを見回し「……?」と首を傾げた。
3人の少女達が嘗ての悪夢を思い起こさせる場で、悪夢に挑んだ友人達を思い出しながら先に進もうとしているのを見て龍太郎は己の拳を握り見つめる。
イシュタル曰く聖人へと目覚めた雫には、もはや無手では叶わぬ身。それでも、それが無くても雫は進んだろう。ならば自分も………と、覚悟を決める一同の中空気を読まぬ者がいた。
光輝だ。彼の中ではハジメも恵里も既に死んでいて、死んだ者に思いを囚われるなど
「香織、雫、鈴……君達の優しいところ、俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲も恵里もそれを望んでる」
「おい、光輝……」
「龍太郎は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」
「…………檜山君を許したのに?」
香織は、とても冷たい声でそう言った。
直接的な原因になったかは定かではないが、勇者一行がピンチになった原因を作り、橋の上をかけるハジメに向かい魔法を放った檜山を反省したのだから許そうと言い出したらしい光輝を、香織は理解できなかったしするつもりもなかった。
「香織、檜山だけを責めるのは間違っている! 彼は、南雲にイジメられていた被害者でもあるんだ!」
「……………」
香織はもういいと視線をそらす。光輝がまだ何か言おうとしていたが流石にまずいと判断したのか龍太郎が光輝を引っ張っていく。
この数日で勇者一行はそれなりに強くなった。特に雫はマセカの実力をさっさと抜いてしまい、今では七罪の一人から手解きを受けている。ベッドに誘われるのが難点だがそこを抜けば魔力操作の扱いは一級だしマセカのようにステータスだけ凌駕し調子乗ってるタイプではなく技術もあるので雫にとっては良い師だ。ベッドに誘ってくるが。
まあそんな悩ましい師だが雫からも手解きをお願いしたい相手に鍛えられ、そんな雫を筆頭に進むのだから一行はあっという間に65階層にたどり着いた。
「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」
付き添いのメルドの声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。
しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一行。その予感は的中した、と何者かの笑い声が聞こえてきそうな現象が起きた。
広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。
「ま、まさか……アイツなのか!?」
光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。
「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」
龍太郎もまた、冷や汗を流しながら叫ぶ。
「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」
撤退を行える前提のメルドの言葉に、光輝は不満そうな表情を作った。
「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」
確かに今の光輝達ならベヒモス相手には問題ないだろう。それが
少なくともハジメと戦闘していた突如強くなり、更に何度致命傷を負っても死ななくなったベヒモスならば全滅。戦う気の光輝達には悪いが退路は確保する。
そして、魔法陣が一際強く輝きベヒモスが姿を表した。
「グゥガアアアアアア!!」
ビリビリと大気を震わせる咆哮を放つベヒモスに、己の友人を奈落へと落とした元凶の1つを前に鈴は目を細め魔力を練り杖を掲げる。
「聖域にて振るわれる刃 神敵を滅ぼせ 【聖絶・
「ッ!? グギャアアアアア!!」
「…………え」
細い円柱形に伸びた結界がベヒモスの肉体を突き破る。骨を避け内蔵を貫いた無数の結界はすぐに消え大量の血が流れる。
グラリと倒れかけたベヒモスの目の前に、雫が一瞬で現れる。ハジメ手製の無銘『冥雲』が魔力を吸い風を纏う。風は鋭く長い刃を形成する。
「ふっ!」
その刃は一瞬にしてベヒモスの首を切り落とした。
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