レベルアップで世界最強 作:奈落兎
先に動いたのはハジメだ。瞬間的な加速で接近し、短剣を振るう。狙いは首。
『判断が早い』
が、傘によって防がれる。骨組みならともかく小間すら傷つけられないのはどういう事だ。何で出来ている。と、パリリと僅かな魔力の紫電。
『錬成……』
「────!?」
ハジメの足元に、
足場が無くなり、何時かと同じように底の見えぬ奈落に吸い込まれていくハジメは即座に天歩を発動し落下を止め上へ駆け上がろうとするも、その前に周囲から膨大な魔力の流れを感じる。
「くっ!?」
無数の石の槍が崖の表面から伸びてくる。それはハジメが錬成しか使えなかった頃の魔法的な攻撃手段に酷似しているが錬成速度、精度、規模、それら全てが今のハジメすら上回る。
だが───
「なめんなぁ!」
たかが石で、傷つけられる程ハジメは脆くない。力任せに石の槍衾を突破し101階層に戻る。オスカーと目が合う。合ったと思う。骨だけど。
『────!?』
『隠密』を発動し姿を消したハジメは空力を駆使しながらオスカーに接近する。
──アーティファクト 黒手袋
「ぐっ!?」
短剣が何かに弾かれる。アイスタガーが凍らせ目に見えない何かの姿を顕にする。
糸だ。ハジメの感覚を逃れたと言うことは相当細い上に『隠密』に類似するスキルが付与されている。それで周囲を常に守っていたらしい。
「この───!」
キキィン! と金属音が響き空中で糸が凍りつく。
痕跡を残すあたりハジメの『隠密』には劣るようだ。見えない攻撃がある前提で集中すれば見つけられる。
凍りついた糸をすべて砕くが足元から伸びてきた石の壁に弾き飛ばされる。
「らあ!」
地面に降り立ち錬成で柱を作り、蹴り砕き破片を円錐型に変え飛ばす。が、オスカーに触れる前に形を変え、ハジメの方に戻ってくる。
「っ! 錬成とアーティファクトだけじゃねえのか!?」
『これも錬成さ。仮にも生成魔法へと通じる魔法だ。これくらい、極めれば出来るさ』
オスカーがそう言いながら錬成を操り、無数の石柱がハジメに向かって伸びてくる。すぅ、と息を吸ったハジメはブゥ! と液体を吐き出す。
──強酸+溶解液
ジュワァ! と音を立て石柱が溶けていく。
仮にも魔物の力を使ったわけだが驚いた様子は見せない。
「っらあ!」
フラム鉱石という、50度で融解し100度で発火し3000度の熱を生む鉱石を使った焼洟手榴弾を投げつける。
力の限り投げつけた焼洟手榴弾はそれこそミサイルの如き速度で進むが、オスカーを守るように石の壁が現れ弾く。生まれた炎が薄暗かった階層を明るく照らす。
──隠密+影渡り
『────』
姿を消したハジメに、オスカーが錬成を使いハジメがいた場所に大量の石槍を地面から生やす。だが、ハジメは既にそこには居ない。
オスカーの背後に移動し脊椎を狙い短剣を振るい、弾かれる。
「───!?」
──アーティファクト 黒外套
様々な防御術式が付与されたアーティファクトだ。この迷宮に挑んでいるという事は全ての
ならば転移などで来て当たり前。対策はしてある。特に、首の後ろという人間の急所にして死角は念入りに。
──アーティファクト 小さな魔剣・氷結式
ハジメを後ろ蹴りで距離を取らせたオスカーが、虚空から取り出した小さな剣を投げつける。それは魔剣だ。
本来なら大国が所有し国宝として扱われる、戦争続きで失われつつあるそれをオスカーは使い捨てる。
「────!?」
真っ白な冷気が砕け散った魔剣から放たれ、ハジメを包み込み地面を霜が覆う。炎すらも消え去った。
『………やったかな?』
と、オスカーが風を操り冷気の霧を吹き飛ばそうとしたが、その前に真っ黒な外套を纏ったハジメが飛び出してくる。
──影の衣
物理、魔法の耐性を上げたハジメは空気を押しのけるような速度でかける。
『?』
ならば冷気の霧はあっさり吹き飛ぶはずなのに、むしろハジメの後を追うように広がる。いや、これは………ハジメから霧が発生している?
──アーティファクト 小さな魔剣・爆裂式
すぐさま霧を吹き飛ばしハジメに攻撃すべくアーティファクトを使う。飛ばされた魔剣。
『飛行』、『加速』の術式も組み込まれた魔剣は敵を決して逃しはしない。高速でハジメに迫る魔剣を見て、オスカーは着弾を予見し、しかしその予想は外れる。
ハジメは魔剣の柄を指で挟み全て掴み取ったのだ。そのまま投げ返した。
それだけなら再びハジメに向かうのだろうが、ハジメが『隠密』を発動したことにより標的を見失いリセットされた魔剣はそのままオスカーに向かって飛んでいく。いや、厳密にはオスカーの周囲だ。
アーティファクトひとつひとつ見ればわかる圧倒的な技量の差。オスカー程の技術者なら誤爆を避ける機能ぐらいつけているだろう。だから込められた魔力量からしてオスカーにダメージを与えることのない距離に着弾させ、砂埃を巻き上げる。
その間にも霧が広がり階層を包み込む。ハジメの気配は、掴めない。
──アーティファクト 探知の魔眼
オスカーが空中に投げた小さな球体が発光する。気配や姿を消す魔法の効果を消し去るアーティファクトだ。だが………
(──効かない? 魔法が弾かれた)
だとしたら余程強力な隠蔽能力か探知妨害スキルがあるのだろう。この霧の中、そんな暗殺者に狙われるというのは詰みだ。
『────っ!!』
オスカーの右腕が切り飛ばされる。金属繊維でできたローブをあっさり切り裂かれた。自動発動する『錬成』により切れ味を失わせ、『衝撃緩和』により打撃武器としての効果もほとんど奪うローブなのだが………。
恐らく『プレイヤー』としての武器だろう。オスカーはこの世のあらゆる無機物に対して絶対的優位性を持つ。逆に言えば
だとしても相当な強度を持つローブを切り裂くなんて余程『筋力』の『能力値』が高いと見た。
戦闘スタイルは暗殺系。『筋力』と『速度』などを重点的に上げているのだろう。素早く動き狙いをつけさせず、近づかれれば強力な攻撃。
とある少女のように周辺一帯を押し潰すような芸当が出来ないオスカーには相性が悪い相手だ。
『…………いや、僕にも出来るけどね』
そう言ってオスカーは…………
(まじか彼奴!)
天井が下がり、床が持ち上がった。
超広大な領域全てを操った。いや、確かにあの階層を作ったのもオスカーなのだから不可能ではないのだろうが………。
『土中遊泳』が無ければ流石に危なかった。この質量ならハジメに通用する。
「───っ!?」
と、地中に何かが移動する気配を掴む。オスカーではない。ないが、恐らくアーティファクトがハジメに向かっている。場所がバレた!?
『隠密』は機能している筈なのに。
「ちぃ!」
答えとしては簡単だ。今、この土の中はオスカーの魔力に満たされている。『隠密』は気配も姿も匂いも消すし痕跡だって認識させないが、オスカー程の術者ならいくら上手に気配を溶け込ませようと自身の魔力に満ちた無機物内の異物を探知するのは容易い。
ハジメが地中を泳ぎ回避していくが狙いに正確性が増していく。
「こん、の…………錬成!」
やってる事はハジメの錬成と同じ筈だ。魔力量任せにオスカーと自分の周りに空間を無理矢理生み出す。
開けた空間。『隠密』を使ったままのハジメを見失ったオスカーに向かって、天歩を用いて接近する。
──アーティファクト 小さな魔剣・雷撃式
オスカーは全方位に大量の小型の魔剣を放つ。雷撃により相手の動きを麻痺させることも出来る魔剣だ。
魔法耐性はあるとは言え、一本一本が先度までの魔剣と比べ物にならない力を秘めている。
──冥王の宝物庫!
ハジメに向かってきた魔剣を全て冥王の影より作られた【影の衣】を通して飲み込む。とっさの判断だったが、出来たようだ。
だが魔剣が一部消えたという事実はオスカーにハジメの位置を知らせる。
──アーティファクト 黒傘
実はこの傘、ローブ同様に金属繊維で編まれたもの。それだけでも十分な強度だが更に聖絶という防御魔法すら付与されている。それに対してハジメは【冥王の宝物庫】から小さな魔剣を放つ。
雷光が輝き影が生まれる。オスカーの持つ傘の向こうに生まれた影から、ハジメが現れる。
『────っ!?』
──アーティファクト 小さな魔剣・決戦兵装
魂魄魔法という魂に干渉する魔法の応用で所有者の魂に戦い方を叩き込むという、本来ならオスカーらしくもない、いざという時の為に用意していた武器を取り出し慌てて防ぐ。防ぐが、続いて2撃目。
今度は防げずオスカーの首の骨の隙間に刃が入り、頭を切り飛ばした。
『─────』
ガッ、ゴン! と意外と鈍い音を立て頭蓋が転がる。気配は未だ消えず。ハジメがすぐ様踏み砕こうとしたが───
『待った待った! 負けだよ、僕の負けだ!』
と、オスカーの頭蓋骨が叫んだ。その言葉に動きを止めつつも警戒するハジメだったが、オスカーの気配は小さくなっていく。
『流石、プレイヤーだね。うん、合格だ。神代魔法、持っていくと良い』
「神代魔法?」
『………え?』
ハジメが不思議そうな顔をすればオスカーも不思議そうな声を出す。
神代魔法。神々が世界を作るのに使ったとされる魔法だ。人間が使う魔法はこれの劣化と言われているが、なぜこのタイミングでその単語が出てくる?
『君は、神代魔法を求めてこの迷宮に来たんじゃないのかい?』
「いいや? 何だ、迷宮を攻略すりゃ神代魔法が手に入るのか?」
『…………他の試練もクリアしたんだろ?』
「他の試練?」
『……………まさか、解放者の試練をクリアしたのは、初めて?』
「そうなるな………」
オスカーの頭蓋骨があんぐり口を開き、そして、今度は笑い出した。
『はは…………はははは! そうか! そうか………凄いな、君は』
「………お前、『プレイヤー』に何をさせたい」
『それは……上の魔法陣で、解る………悪いね、もう………時間が…………ああ、それと、何かしてほしいことはあるけど、強要する気は、ないよ…………君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』
話をそう締めくくり、オスカーの骸から魔力が消えた。
『───筈なんだけどなあ』
ううむ、とオスカーは腕を組む。切り飛ばされた腕はカルシウムを錬成で変形させ直した。
『なんで僕を生かしたんだ? いや、死んでるけど』
「そりゃお前。俺は発想はあるから強力なアーティファクトを作れるが技術面ではお前に劣るからな。なら技術者を仲間にすりゃさらに強力なアーティファクトが造れる。むざむざ成仏なんてさせるかよ」
「逆らえるとは思わないでくれたまえ」
あの後オスカーの骸を持って帰ったハジメは恵里に魂魄を引っ張ってこさせ、再び宿させた。
その際魂魄そのものに滅茶苦茶縛りをつけてオスカーを支配したのだ。
『うーん。まあ、迷宮攻略に参戦しないという『縛り』があるだけマシかなあ』
とはいえ流石に神に逆らった反逆者。自由意志をある程度残し、オスカー自身の要求も幾つか飲む事で漸く支配出来た。魂の格がこれまでの存在とは比べ物にならない。
『それに、こうして活動できればまた彼女に会えるかもしれないしね。良いとも、協力しよう。それで、どんなアーティファクトを作るんだ?』
「ああ、とりあえず移動用アーティファクトを作ろうと思うんだがここは………」
『ああ、それならここをこうした方が魔力を流す効率が上がるよ。それと、この技能は持ってるかい? 持ってるならここに………』
「なるほど………」
ハジメとオスカーは早速アーティファクト造りに取り掛かる。技術者同士、新たな発想と格上の技術持ち、互いに興味あるのか話は進む進む。女子達は置いてけぼりだ。
~~~~~~~~~~~~~~~
おまけ
その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、ハジメは風呂に浸かりながら全身を弛緩させてぼんやりと眺めていた。奈落に落ちてから、ここまで緩んだのは初めてである。風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。
「はふぅ~、最高だぁ~」
『ははは。親父臭いよ?』
何故か骨もいる。骨しかないから体温なんて感じないはずなのになんで風呂入ってるんだろうこいつ。それと何時の間にその眼鏡つけた。そして何故風呂でつけている。
その頃の風呂の外。
「帰れ」
「…………」
恵里が風呂の入り口の前で、風呂に突撃しようとしたユエに対して一言。ユエはむぅ、と頬をふくらませる。
「私も、ハジメと肉体関係持ちたい」
「もってなんだい。僕だってまだ持ってないよ」
「…………そうなの?」
「……………そう」
「なら、待つ」
「………あ?」
「私は別に2番でも構わない」
ユエは王族だ。優れた男を複数の女が囲うのは当然だと思っている。正妻になれないのは、一時期王位に就いた者として思うところが無いわけではないが、仕方ないと割り切れる。
「ああ、優れた男なら〜とか言う奴? ファンタジー世界の王道だよね。いやだね。させない」
「………決めるのは、ハジメ」
「いいや。僕だ。僕等の世界では一夫一婦が普通なんだ。その価値観を持つ僕が、その価値観を持つ恋人が嫌だと言った。権利ならある」
「………どうしたら、認めてくれるの?」
「僕が認めるのは二人だけだよ。せっかく作った八方美人な敵無しを捨ててまでこんな僕の親友やるバカと……………」
「…………?」
と、そこで恵里は言葉を区切る。その視線がそらされる。壁に阻まれているが、その先にあるのはオスカーとハジメの簡易工房。
この迷宮で手に入った神代魔法………生成魔法を使って作られている一本の刀がある。
「僕のせいで想いを口にすることのなかった…………ハジメの
感想お待ちしております