レベルアップで世界最強   作:奈落兎

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日常の終幕

 南雲ハジメの朝は早い。

 朝起きたらデイリークエストをこなすために腕立て伏せに腹筋を終わらせる。ステイタスで上がった能力値の効果は意識的に消せるので──そうじゃなかったら軽く触っただけで物が壊れる──デイリークエスト時には使わないように心掛けている。

 素の筋力も念の為鍛えておけとの助言故にだ。

 

「ふあぁ〜………」

「お、ようハジメ。眠そうじゃねえか………今日は月曜だぜ?」

「ああ、龍太郎か………」

 

 最後のランニング中に声をかけてくる男子が居た。彼の名は坂上龍太郎。デイリークエストで朝ランをしているうちに仲良くなった少年だ。身長はハジメより高く、体格もがっしりしている。本来インドア派のハジメからすればデイリークエストがなければ仲良くなれなかった相手だ。

 とはいえ、体を鍛え、筋肉がついていくのは存外楽しく今では話もそれなりに合い、格闘漫画や筋トレ漫画などを貸す間柄になっている。

 

「いや、土曜から日曜にかけてちょっとな」

「鍛えんのは良いけど休みも大切だぜ?」

 

 因みにここ数年でハジメの口調はだいぶ変わった。口調、一人称は周りからのイメージはもちろん本人の内面も変える。厄介事に巻き込まれ思わず力を使い過ぎる、なんてことにならないように気を強く持てと師に言われたのだ。

 因みに土日はインスタンスダンジョンに潜っていた。ランダムボックスから得たインスタンスダンジョン。平均ランクEで、最高ランクはA。

 今のステイタスならE、Cは一日でクリア出来るがBともなると日を跨ぐ。Aはまだ使ったことが無い。

 

「ま、あんま頑張りすぎるなよ? 後で学校でな」

 

 曲がり角に差し掛かり龍太郎と別れる。

 

「頑張りすぎるな、か………」

 

 父は言っていた。この力が何故目覚めたかは分からないが、何かに備えている可能性が高いと。

 ハジメは己が人外の領域に居るのを理解している。それだけの力を持つ者を求める『システム』と名付けた何者か。

 力は純粋に力にぶつけるものだ。つまり人外の力をぶつけなければならない何かに備えさせる。それが漫画家とゲームクリエイターである両親の見解で、ハジメもその可能性が高いと思っている。

 ダンジョンでは死の危険が伴う。それでもシステムは未だ目標値に達したなどといったメッセージを寄越さない。なら、もし来たるべき災禍が来た時は………

 

「まあ、もうちょい頑張らねえとなあ………」

 

 ハジメはそう言ってラストスパートの速度を上げた。

 

 

 

 

 家に帰りシャワーを浴び、消費したエネルギーを補充するようにバナナなどの栄養価の高い物を食べ、家を出る。

 

「やあ、おはよう」

「…………恵里」

 

 玄関の前で待っていたのは、眼鏡をかけた美少女だった。ニコリやニッコリというよりは、ニコォや、ニヤァと言う擬音が似合いそうな笑みを浮かべた少女の名は中村恵里。ハジメの恋人だ。一応は………

 

「おいおい、休み明けに可愛い彼女が迎えに来てくれたんだぜ? もう少し、僕の顔を見て嬉しそうな顔をしたらどうなんだい?」

 

 演技がかった口調もその筈。彼女はハジメに合わせて敢えてそういったアニメやゲームなんかに出て来そうなキャラを作っている。

 

「新しい恋はまだ見つからないのか?」

「あはは。おかしなことを言うね。僕の恋を壊したのは君だろう? 責任は果たそうぜ。じゃなきゃ自殺してやる。僕を守ってくれるんだろ、お優しい君は」

 

 クスクス笑う恵里に、ハジメはどうしてこう拗らせた、と頭を抱えたくなる。

 後悔はない。恵里を放置すれば多くの者が心に傷を負った。結果として負わせるはずだった心のキズは恵里が負い、言葉通り自殺しかねなかったので負い目を感じたハジメが熱心に止めたのだ。その内こうなった。

 

「ところで疲れているようだけど、何かあったのかい? 休日、何やら彼女の僕に内緒で何処かに行ってたようだけど」

「まあ、そのうち話す………」

 

 ハジメはそう言って歩き出すと、恵里がスルリと腕を絡めてくる。

 まあ恵里は性格に難こそあれど美少女だし、懐けば可愛いところも見せてくるし、悪い気はしない。半年近く関われば最初の悪感情も失せてきた。明日からは迎えに行ってやっても良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 生徒達も殆ど集まった時間帯にハジメ達は教室につく。扉を開けると、一人の女子生徒が話しかけてきた。

 

「おはよう南雲君、恵里ちゃん。またギリギリだね、もっと早く来ようよ」

「ああ、おはよう白崎……ふぁ」

「おはよー」

「南雲君、本当に眠そうだね?」

 

 話しかけてきたのは白崎香織という、学校の二大女神と称される美少女だ。恵里は玄関で一度解いた腕を再びハジメに絡める。

 

「フフ。仕方ないだろう?ハジメは、昨晩そりゃあ疲れるような事をしたからね」

 

 もちろん恵里はハジメが休日何をしたか知らない。だが何処か挑発するように目を細め、ペロリと艶やかに唇を舐める恵里と合わせると、まるで言えない何かをしていたような。

 恵里の親友である鈴は、登ったのか、私より先に! 

と戦慄していた。

 

「へ、へぇ…………それって、どんな事」

「さあ? 友人でしかない君に、恋人同士の秘め事を教える理由はないからね」

 

 むむむ、と唸る香織。だが、恵里は確かに公的にはハジメの彼女で、香織は一緒に出かけたりもしないクラスメート。差は歴然である。と、その時……

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

 学校1女子にモテる女と、学校1女子にモテる男が話しかけてきた。女の方は八重樫雫。ハジメが戦いの駆け引きを学びに行った剣道道場の娘であり、ハジメの師の孫娘。ハジメは道場の所謂裏技術を学びに行ってるので道場での知り合いは彼女だけ。

 男の方は天之河光輝。八重樫道場の門下生で一応はハジメの兄弟子に当たるが本人は知らない。正義感が強いが自分を疑わないので相手が悪いと思ったら徹底的に責める。

 恵里の初恋の相手であり、彼を手にする為に恵里が色々暗躍していたのだが、悪意に敏感になっていたハジメがクラスメートを助ける為にそのクラスメートに証拠を提出してしまった結果、そのクラスメートが正当な報復だと言わんばかりに恵里の所業を公にし責め立て、仲介に訪れた光輝もまた、恵里が何故そのような事をしたか解らないし悪いのは恵里だが俺から頼む、許してやってくれと恵里が結果としていじめられることになったのを無視した男だ。

 最後にそんな彼と親友ではある龍太郎が話しかけてきた。

 

「よおハジメ。ギリギリだな? 今日ぐらいはランニング休みゃ良かったのによ」

「おはよう八重樫、龍太郎。まああれは日課だからなあ。今じゃやらねえと逆に落ち着かねえ」

「ランニング? なんの話だ龍太郎。それより南雲、挨拶されたなら返したらどうなんだ」

「ん? してたか?」

「してなかったとも。君の記憶違いじゃないぜ」

 

 挨拶されなかったから挨拶しなかった。なのに挨拶した前提で責めてきた光輝にハジメが呆れながら、指摘しても言い合いになるだけだから恵里を使いそれとなく指摘するが光輝の顔がムッと歪む。が、その前にチャイムが鳴る………。何か言いたげに睨んだ後、大人しく先に帰っていった。

 

 

 

 

 

 昼休み。ハジメの飯は基本的に恵里が作る。精がつくものばかりが入ってるのはご愛嬌。ハジメは『無力な者の勇気』をクリアした報酬で『大呪術師カディンギルの祝福』を持っており、害と判断した効果を無効化する。

 その為溜まる、なんてことにはなっていない。

 ちなみに場所は教室。普段は屋上などに移動するのだが恵里が疲れた様子のハジメに気を使い教室で持ってきた弁当を広げたためだ。それ故に、ある人物がこれ幸いと突っ込んできた!

 

「南雲くん、恵里ちゃん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

「あー………遠慮しとく。恋人と二人っきりで食べたいからなあ」

 

 クラスが不満げな空気で満たされた。香織は男女問わず人気者だ。対するハジメは、一部のものには人気が高いものの、授業中は親の仕事の手伝い疲れで寝ていることが多い為、不真面目な生徒と思われている。ましてや恋人が一年の頃に問題を起こした恵里だ。よく思われてないのだ、ハジメは。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲は恵里の料理があるみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理をついでで食べるなんて俺が許さないよ?」

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

 光輝の言葉に香織が首を傾げながら返すと、雫は思わず吹き出していた。光輝が苦笑している中、ハジメはピクリと己の感覚に訴える何かを感じ取る。

 『ゴブリンシャーマン』や『リザードマンの呪術師』など魔法使い系のモンスターが魔法を放とうとする際感じる力………魔力の流れだ。

 発生源を特定する。光輝の足下。狙いは、光輝───!

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 光が収まった教室には、誰の姿もなかった。

 

 

 

『偽神のなり損ない』の加護をシステムに悪影響なデバフと判断しました

 

『バフ∶免疫』により脅威を排除しました

 

これよりイベントを開始します




龍太郎
友人。朝のランニングで知り合い努力出来るやつだと判断され、なんで漫画なんか読むんだ? と聞いた結果読んでみろと進められた筋トレ漫画、格闘漫画にハマる

恵里
光輝に見捨てられ壊れた後責任を感じた救おうとしてきたハジメに依存。付き合わなきゃ死ぬと脅し交際を迫った。
僕っ子であることを知った南雲両親によりハジメが好む漫画やゲームに出てくる腹黒僕っ子キャラの口調を真似ている


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