レベルアップで世界最強   作:奈落兎

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幕間 帝国からの使者

 時を戻す。

 ハジメがテッタレスとの死闘を勝ち抜き、恵里のお帰りのキスを受けた頃。

 勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 道順の分からぬ未到達の階層、中ボスとも言えるベヒモスを超えた先にいた強力な魔物達。

 疲労が見え始めた勇者達に、休養を挟んだほうがいいと判断したのだ。

 それだけならホルアドに留まったのだが、新階層到達の知らせに帝国から勇者に会いたいと通達が来た。

 かつて伝説の傭兵と謳われた傭兵王へルシャーが建国した完全実力主義国家へルシャー帝国では、信仰より実益を取りたがる。そんな彼等に召喚されたばかりで実力の伴わぬ勇者達を見せれば軽んじられる可能性があった。故に、帝国があまり興味を持ってないことを幸いにと対面を延期していたのだ。

 だが、今やベヒモスを倒す事にすら成功した。ならば十分と教会も判断したのだ。

 そんな話を帰りの馬車の中で教えられながら、勇者達は王宮に到着した。

 馬車が王宮に入り全員が降車すると、王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。十歳位の金髪碧眼の美少年である。光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒである。

 ランデル殿下は、思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくると、大声で叫んだ。

 

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

 もちろんこの場には、香織だけでなく他にも帰還を果たした生徒達が勢ぞろいしている。その中で、香織以外見えないという様子のランデル殿下の態度を見ればどういう感情を持っているかは容易に想像つくだろう。

 

「………………」

 

 だが、香織はあまり良い顔をしなかった。というのもこのランデル、香織の友人である恵里が落ちたと聞きある言葉を言ってしまったのだ。

 

『聞けば香織の友人は無能のせいで落ちたと聞く。勇者達の中に無能が紛れていたなど……それがわかった時点で処分していればこんな事には。余にも責任の一端がある。すまぬ!』

 

 と、恵里の死をハジメのせいにし、かつ気を引くつもりだったのか自分は香織の友人の為に権力使うよアピールしてきたのだ。ハジメ? 余の香織に男の友達がいるわけなかろう的な考えだ。

 もちろん香織達はハジメを生きていると信じている。だから我慢できた。

 

「ランデル殿下。お久しぶりでございます」

 

 だがあまり関わりたくない相手ではあるので他人行儀で接する香織に、ランデルは思わず怯む。それでも精一杯男らしい表情を作って香織にアプローチをかける。

 

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに……」

「お気遣いありがとうございます」

 

 もっとも香織としては子供に守られるようではいけないと考えているので、いらない気遣いだが。

 その後ランデルは光輝に噛み付いたりリリアーナがやってきて逃げていったり、光輝がリリアーナを口説いてあっさり流されたりなどとあったが、そのまま各々の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 王都の中を、一人の女が歩く。

 男も女も、子供も老人も例外なくその女に目を奪われ時を止める。

 美しい女だ。珍しいディープバイオレットの髪を靡かせふんふんと鼻歌を歌いながら歩く。

 

「あら、美味しそうな林檎ね。一つくださる?」

「は、はい!」

「その指輪きれいね。私にちょーだい」

「ど、どうぞ!」

「あら可愛いぬいぐるみね。くださいな」

「………」

 

 彼女が欲しがれば誰も彼も全て差し出す。店の商品も恋人が買ってくれた指輪も祖母が作ってくれたぬいぐるみも。

 彼女はそれを当然の権利のように扱う。

 彼女の行動を聞き責める者はこの世界には居ない。何故なら彼女の強欲(つみ)は他でもない神に許されているのだから。

 

「──!」

 

 と、女はカフェの2階のテラスにいる少女の姿を見つけると、ニンマリ笑みを浮かべ跳び上がる。

 スキップでもするかのように軽やかに、そのままフワリと少女の対面の席に降り立つ。

 

「久し振り、雫!」

「マリィ……」

 

 少女の名は八重樫雫。勇者一行の中で聖人に目覚め、勇者一行最強の力を手にした少女。対する女はマリィ・ベギーアデ。聖人の中でも特に力を持つ七人からなる、人の持つ罪を一つ許された強欲担当。

 

「相変わらずすごい格好ね……」

「………そう?」

 

 教会に仕える女らしく頭にベールは被っているが、ウィンプルで隠していない。ミニスカだし肩だって出している。おまけに胸の谷間からへそまで大きく切り取られ、健康的でいて真っ白な肌が見えている。

 普通シスターとは露出を抑えるものではないのか? と雫が聞けば、抑えてるわよ? と不思議そうな顔でアームウォーマーを見せてきた。

 

「あ、店員ちゃんジュースお願い。それから甘いのぜーんぶ持ってきて」

「へ、えっと………」

「急いで、ね?」

「は、はい」

 

 マリィがニッコリ微笑むと店員の少女は顔を赤くして慌てて駆け出す。

 

「………そんなに食べれるの?」

「一口ずつなら」

「残ったぶんは?」

「さあ? その辺の誰かに食べさせるわ」

 

 子供のように楽しそうに笑うマリィに、思わずクラリとくる雫。

 自分にそちらの気はない。例えシスターズという非公認の謎組織が出来ていたとしても自分には絶対ない、と言い聞かせる。

 

「雫も食べる? はい、あーん♪」

 

 そう言ってケーキの一部をフォークで切り取り雫の前に持ってくる。雫が食べると、満足そうに再び自分の分も食べ始めた。

 

「相変わらず、その力の悪用をやめないのね」

「だって私の意志で発動してる訳じゃないもの。それに、貴方みたいに強い心を持てば防げるのよ? そういう意味じゃ貴方の自称妹達は凄かったわね。愛ね、素敵だわ」

 

 マリィの言葉に雫は何とも言えない顔をする。中学の頃から現れだし、高校でも結成された女子限定雫ファンクラブ『シスターズ』。またの名を妹を名乗る不審者。

 そんな連中がトータスでも湧いたのだ。

 

「全員『お姉様を誑かす雌犬がぁ』なぁんて襲ってきたから、私にしようとした事をしてあげたわ。泣いてたわね………自分がされて嫌なことを人にするなんて」

 

 「まあ私はするけどね」とマリィはケーキを食べていく。一体何をしたのだろう。

 

「それより雫、これ上げるわ」

「かわ………これは?」

 

 マリィが取り出したぬいぐるみを見て思わず女の子の部分が反応する雫。ギリギリ理性で抑え込む。彼女の事だ、何処からか無償で取ってきた可能性もある。

 

「シスターズの一人から取ってきたの。彼氏からの贈り物だったんですって。でも、人の命を奪おうとして知人数名が死んで物を盗まれるだけなんてラッキーよね?」

 

 サラリと人を殺した事を何でもないかのように言うマリィに、雫の背筋に冷たいものが走る。 

 

「雫に上げるって言ったら、『お姉様は私のような小娘と同じ趣味のはずがない!』ですって。滑稽よね、憧れるばかりで見ようともしない……」

「………彼女達が、嫌いなの? 殺したくなるほど」

「いいえ? まさか………好きよ、私は、あの子達。欲望に忠実で、望む未来を手に入れる為なら人の尊厳も命も奪えるほど強欲。ええ、ええ、仮令神が許さなくても、私が、(強欲)に誓って赦してあげる………」

「でも、殺すのね」

「汗に塗れて乱れるのも、血に塗れて乱れるのも、違いなんて無いわ。どっちも相手の体液に塗れるのだもの………彼女達が私を濡らすほど魅力的じゃなかっただけよ」

 

 この女は、違う。自分との価値観が大きくずれている。

 誰が師になるかで面談した5人の七罪で、唯一の女性だったから師に選んだが、失敗だったかもしれない。

 

「だから、ね。雫もこの後私と一緒にベッドで仲良く乱れない?」

「お断りします」

「あらそう………残念。ま、男の子ならともかく女の子じゃあ無理矢理で歪む顔は好きじゃないもの。またの機会にしておくわ……あ、貴方達このケーキ食べておいて」

 

 マリィはそう言って、名も知らぬであろう客達に己が残したケーキの処理を任せ立ち去ろうとする。そんなマリィに、雫が思い出したように声をかける。

 

「そういえば、帝国の謁見には七罪もくるの?」

 

 未だ5人しか知らぬが、残りの二人はどんな人物なのか少し気になる。

 

「行かないわよ。少なくとも私や団長と、前回不参加のあの子も………なぁに、二人が気になる?」

「…………まあ」

「とっても悪い子と、とっても強い人…………団長は化け物だから、貴方より、私より強いわよ。3()0()0()()()()()()()()、一度も敗北をしたことが無い人だもの」

 

 

 

 

 

 それから3日後。光輝達は帝国より来た使者と謁見の間にて対面していた。使者の数は6人。その誰もが、強い。最低でもメルドクラスだ。

 特に………と、雫は興味なさそうに目を閉じている女性と一見特徴のない男を見て、この二人だけは別格だと思った。

 

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 かつての敗北を味わわされたベヒモスを倒せたと聞いたからか、イシュタルは誇らしげに光輝を呼ぶ。光輝もまた日々強くなっていく己に、努力の成果を感じているのか精悍な顔で前に出た。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。その後雫に目を向けたあたり見る目はあるのだろう。

 使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答えにつまる。何せ自分はベヒモス相手に何もしていないのだ。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか。あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 光輝は信じてもらおうと色々提案するが、使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛の一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

 光輝は若干戸惑ったようにエリヒドを振り返る。エリヒドは光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。どう在ってもこの場の最大権力者は王ではなく教皇なのだ。

 イシュタルは頷いた。神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

「………すいません」

 

 と、移動中目を閉じた女性が話しかけてきた。改めて見ると、美しい女性だ。これまであった誰よりも綺麗な顔立ちをしている。首の後ろで整えられた短い髪が陽光を浴び輝いている。

 

「………何か?」

「その剣、見たことのない作りですが………もしや勇者殿達の国の?」

「………はい」

「ええ、そうですよ。南雲ハジメと言って、たたかう力が無いことを言い訳に、訓練もサボるようなやつでしたが」

 

 と、光輝も勝手に答える。自分の中で出来た価値観で。雫達が顔を顰めるのも気付かず「雫も、あんなやつの武器を使ってあげるなんて優しいな」などと言ってる中、女性は「戦闘要員ではないのですね」と呟いた。

 

「………だったら、何だと言うんです?」

 

 もしやこの女も神の使徒なのに戦わぬとは、なんて言うつもりかと警戒する雫に香織、そして鈴。

 

「その剣の製作者、私にください」

「…………あ?」




マリィ・ベギーアデ
七罪『強欲』
固有魔法《魅了》 派生元∶魂魄魔法

 制御の効かない魅了で従順になった相手からむしろ開き直って色々献上させる。魅了がなくても10人中10人が振り返るレベルの美人。
 様々な魔法適性を持ち魔法陣無しで魔法も使えるし身体強化の練度も高い。自身に惚れ込んだ戦士達から門外不出の技すら教えさせそれを覚える才覚を持つ。
 また、隠している魔法がある模様。
 男女何方でもイケて強い相手が好き。男は無理矢理、女は同意が趣味。寝取りは好きではないが真に愛しているなら自分如きに惑わされぬと魅了が聞いた相手の恋人の恨み言を一蹴する。そもそもその恋人ごと惚れられることがほとんどだが。
 現在は雫の師をしておりよくベッドに誘う。
 意外と戦闘狂。


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