レベルアップで世界最強 作:奈落兎
鞘に収まった剣を見て欲しがると言うのはどういう事か。
鞘の中にある剣の形を予測できるのか?
いや、それはどうでも良い。今この女は、何といった?
自分でも予想外なほど反射的に低い声を出した雫に、鈴がひえ、と慄いた。
「それは、どういう意味でしょうか…………」
「言った通り………」
「つきました」
雫の問いかけに女が応えようとしたが、その前に案内の言葉が響く。
開けた場所といえば、まあ訓練場だろう。
帝国側と王国、教会側に分かれ、話は一旦終わる。
光輝の相手は使者の護衛の一人のようだ。なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。
刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。何なら欠伸までしている。
光輝は、舐められているのかと顔を顰める。最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした。
「いきます!」
【縮地】を使い高速接近し、唐竹割の要領で振り下ろす。並の兵士では反応できない速度だ。光輝は寸止めする為に速度を緩め…………
「ガキが」
「ガフッ!?」
護衛が振り上げた剣に吹き飛ばされる。鎧越しに腹に当たり、それでも衝撃が内臓を揺らし吐き気が襲う。護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。そう、先ほどの攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。
「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」
平凡な見た目にそぐわぬ乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。
確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。
「すみませんでした。もう一度、お願いします」
「やだね………」
「えっ……」
「今の一撃でお前の底は知れた。時間の無駄だ」
護衛はそう言うと剣を納め踵を返す。もうやる気はないと明らかに言っているような態度だ。
「ま、待ってください! 俺は、まだ本気を出してません!」
「そうですな。勇者の力は本来悪しき者に振るわれるもの。人間相手には多少手加減してしまったのでしょう」
光輝の言葉を肯定するかのようにイシュタルも付け足すと、護衛はイシュタルを胡散臭げに睨みふん、と鼻を鳴らす。
「なら勇者殿、賭けをしないか?」
「賭け、ですか?」
「そちらが勝てば戦場でてめえが矢面に立つのを認めてやる。そっちが負けりゃ、俺達帝国は少なくともお前等が魔人共を疲弊させきるまで動かねえ」
「「「────!?」」」
暗に勇者達が魔人族との戦争で死ぬまで戦争に参加しない。そう言った。しかも勇者達が命を賭しても魔人族には勝てないと言い切った。
「貴方は! 解っているんですか!? この戦争は、人類の未来の………!」
「人類の、未来ねえ。あのなぁガキ………魔人族との戦争が本気で人類の窮地だとでも? んなもん『傲慢』が動きゃすぐ終わる。戦場に出た全ての命を殺し尽くしてな」
「傲……慢?」
「なんだ。やっぱり勇者相手にも顔見せすらしてねえのか。まあ、彼奴こそ誰より『怠惰』でもあるからな…………いや、単に虫けらに興味ねだけか」
聞き覚えのない単語に困惑する光輝を見て、護衛は目の前の光輝などもはやどうでも良さそうにこの場にいない誰かに苛立つ。
「ところでお前、人間じゃ相手にならん程の身体能力だが、少々素直すぎるな。元々、戦いとは無縁か?」
「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」
「それが今や神の使徒か」と護衛はイシュタル達を睨む。
「そもそもお前は、他所の世界の住人だろうが。それがこの世界の為にぃってか? 冗談も休み休み言え」
「冗談なんかじゃありません!」
自分は本気だ。本気でこの世界の人達を、苦しむ人達を救うつもりだ。命だって賭ける覚悟はある。それを、救うべき人に偽りと言われ光輝は叫んだ。
「俺は必ず、この世界の人間を救います」
その姿は、ああ何と眩しいことか。これまで自分がやり遂げたことが自信になっているのだろう。何処までも眩しく、輝かしい栄光を歩む者のオーラを纏っていた。だが──
「……………ああ?」
護衛は青筋を浮かべ振り返る。光輝は思わず後退る。
「良いだろう、賭けはいらねえ。続きをしてやる」
「あ、ありがとうございます」
「礼は、その命で払え」
「え──」
護衛が一気に接近する。速い!
目で追うのもやっとの攻撃に、光輝は確かに死の恐怖を感じ取る。
「っ!!」
光輝の身体を純白の光が覆う。限界突破と言う、一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。
だが、咄嗟にガードしようと構えた剣は弾き飛ばされる。
「……………」
「────っ!!」
護衛の掌に炎が灯る。詠唱は、ない。無詠唱………魔力操作持ちの、聖人!
炎が放たれる。光輝の頭上に。外したわけではない。光輝が無様に転んだだけだ。倒れた光輝の顔に落とされる足。体を転がし躱せば石畳が砕け散る。
「おらどうしたクソガキ。さっきと何が変わった?」
「お、俺は、魔力操作を持ってません! それに、貴方が聖人だと知ってたら!」
「知ってたら対処出来るとでも? はっ、なめられたもんだ。それに、魔力操作を持ってねえだぁ? おいおい、お前ら神が寄越した使徒なんだろうが。まさか魔人族相手に『僕は魔力操作持ってないから身体強化せず詠唱唱えて来てください』って頼み込むつもりか?」
魔人族は魔力に優れた者達が生まれる。だからか、基本的に魔力は安定し魔力操作持ちは生まれにくい。生まれにくいが、居ないわけではない。
そいつら全員に自分に合わせて弱くなれとでも言う気なのだろうか、この男は。
「その程度の人間が、この世界の人間を救う? その程度の人間に、この世界の人間が救われる? そんなに弱そうか? 俺達は? …………
護衛が再び接近する。イシュタルが慌てて発動した光の壁もあっさり砕かれる。
「う、うわあああああ!!」
今度こそ、死ぬ! 光輝にできる事など最早叫ぶだけ。斬られる! そう思った瞬間光輝と護衛の間に金色の軌跡が割り込む。
「そこまでです」
目を閉じた女性が持つ細く鋭い剣が護衛の剣を僅かに切り裂き止めていた。護衛はそれを見て、チッと舌打ちした。
「……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」
「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」
イシュタルに〝ガハルド殿〟と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。
すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。
四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。
その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの勇者と戦っているのが同盟国のトップという事態に、エリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。
「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」
謝罪すると言いながら全く悪びれた様子がないガハルド。エリヒドははぁ、とため息を吐く。フットワークが軽いこの皇帝はこういったサプライズを良くするのだ。
「…………
「───っ!」
が、女性のたった一つの単語ビクリと震える。
「あー………改めて申し訳ないエリヒド殿。俺が来たことで今夜のパーティーも改めなくてはならないと思っているだろうがその必要はない。こちらの落ち度だ」
「あ、うむ………」
光輝は自分を助けてくれた女性を見る。雫や香織にも劣らぬ、あるいは凌駕している美女だ。光輝の周りには居なかった、大人の女性。
「あ、あの……」
「時に……」
光輝が何かを語る前に女性は雫に目を向ける。いや、目を閉じてるから顔か。
「お父様がしたように、我々も賭けをしませんか?」
「賭け、とは?」
「その剣の製作者。南雲ハジメを私にください」
なぜこのタイミング彼の名が出るのが解らぬ光輝はえ? と間の抜けな声を出す。雫は眉をしかめる。
「彼は、今ここにはいません」
「? 豊穣の女神の方へ?」
「そういう訳では………」
「ふむ………」
ほんの少しだけ目を開いた女性は、納得したように頷く。
「そういう事でしたら、私が見つけ、帝国に連れ帰りましょう。どうやら貴方の専属鍛冶師ではないようですし」
「──っ。 解りました」
「?」
「貴方が勝てば、ハジメに貴方の剣を造らせましょう。私が勝てば、貴方の権限全てを用いて彼を探し、見つけ次第私に教えて下さい」
スラリと『冥雲』を抜きながら前に出る雫に、光輝は困惑する。
「し、雫? 何を言ってるだ。南雲はもう………貴方も、どうして南雲なんかを」
「光輝、邪魔。どいて」
「勇者殿。邪魔です」
にべもなくあしらわれる光輝は困惑しながらも、雫のオーラを見て危険と判断したのか龍太郎に引きずらていく。
「ところで、お父様って」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私はエリーゼ・D・へルシャー。帝国の第3皇女です」
つまり、殆どが聖人と呼ばれる魔力操作持ちで生まれる皇族の、歴代最強。
勇者一行最強の女と、帝国最強の女が、本人の預かり知らぬところで本人の所有権をかけた戦いを始めた。
因みに熱心な信者の多いハイリヒ王国では聖人が生まれると教会に速攻で渡される。なので実は戦争になったら帝国が余裕勝ちする
が、帝国は初代へルシャーより教会最強の男が動けば覚悟も誇りも無為に返された上、戦場ごと国が滅ぶと言われ教会に近いハイリヒ王国に手を出せないでいる
感想お待ちしております