レベルアップで世界最強   作:奈落兎

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盗賊と兎人族

「うっひょ〜! はっや〜い!」

 

 ハジメとオスカーの合作『魔導四輪』のサンルーフから顔を出し風を浴びるフェアレーター。運転しているのはハジメだ。

 後部座席はオスカーの隠れ家にある『宝物庫』という収納系アーティファクト──宝石内に特殊な圧縮空間が存在している──を使い見た目より広くなっており、中央にはテーブル、備え付けの冷蔵庫には大量の食料なんかもある。

 

『ところでマスター……』

「ん?」

 

 現状オスカーの魂を縛る恵里はマスターと彼に呼ばれている。ゆえにオスカーがマスターと呟けば当然反応する。

 

『…………彼女、放置していいのかな?』

「……………」

 

 手袋に包まれたオスカーが指差した先にいるのはユエだ。フェアレーターの言葉を聞き、色々混乱しているらしい。

 

「なんて言うのさ。大好きな叔父……ううん、あの子にとってお父さんに裏切られたと思った。300年の孤独の中、それでも憎しみより悲しみが来るほど大好きで、他の大切を作って割り切ったつもりが、実は愛していたかもしれない、なんて………慰め方なんてわかるわけ無いじゃん。少なくとも僕には無理だ」

 

 そもそも届くかどうかも微妙なところだ。ハジメなら或いは届くかもしれないが、そんなものは一時の逃げにしかならないし、ハジメもそんな方法をとったりはしないだろう。

 もしハジメに恋人が居らず、弱くて、裏切られ心が壊れたままユエと出会っていればお互い依存し合ったんだろうなぁ、と人間観察が得意な恵里は結論づける。そんなもしもの可能性があるから、ハジメに慰めてほしくない。

 というかハジメの話が確かならエヒトとかいう女神かもしれない奴もハジメを意識しているとか。ふざけるな、僕の恋人だぞと恵里も不満げなオーラを出す。

 運転しているハジメは無理として、車体から落ちかけサンルーフの縁にしがみついてるフェアレーター(バカ)にも期待できない。

 

『あー、ユエ…………』

「…………何?」

『その、何と言えば良いか解らないけど』

「なら黙ってて」

『はい……』

 

 取り付く島もない。オスカーは孤児院育ちとはいえ長男だから我慢できた。長男じゃなかったら少し泣いてたかもしれない。涙は出ないけど。

 

「ユエ……」

「………ん」

「…………」

 

 ハジメが運転しながら声をかけるとユエが顔を上げ恵里が成り行きを見守る。

 

「全部の迷宮回ったら、もう一度あの部屋に行ってみるぞ。何かあるかもしれねえ」

「…………いい、の?」

「エヒトの正体に気づいたんならなんか対策を残してるかもしれねえからな。それまでは、忘れろ」

「………忘れさせ───」

「その辺にしたまえ」

 

 縋るようにハジメに近付こうとしたユエだが恵里に止められる。

 

()()は、許せないを超える。苦しいだけなら、許せないし止める。けど、忘れるために、利用するために僕のハジメに触れるなら……………殺すぞ」

「…………ごめん。頭、冷えた」

「そ。流石、強いね………」

「年下に、諭されたから………年上として、ちゃんとする」

 

 グッと拳を握るユエを見て、恵里はあっそ、と興味なさそうに視線をそらす。だが、先程より両者とも空気が軽くなった。と、キキィと魔導四輪が止まる。

 ライセン大峡谷の出口にたどり着いたのだ。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 流石に階段を魔導四輪では登れないので徒歩で行く。と───

 

「複数の気配……」

「ああ、しかもできるだけ気配隠してるねこれ」

 

 ハジメの呟きに恵里が目を細める。ハジメは能力値の感覚の高さから、恵里は気配察知などの技能に加え、魂魄魔法という神代魔法を持つゆえに気付いた。他の面々も気づいてるようだ。戦いに身を置いて長いゆえだろう。

 

『どうみる?』

「気配を消して動かねえ。まあ、ライセンから出てきた冒険者から素材を奪うってところだろ」

 

 調べた限り、昨今樹海から奴隷を攫えなくなってるらしい。おまけに亜人の扱いも変わってきている。そうなれば樹海で亜人を攫う連中からすれば痛手だし、直ぐに代わりを買えた頃と違い、補充が難しい今樹海のモンスターを狩りにいって亜人に死なれたり逃げられたりしたら永遠に彷徨うかもしれない。

 ならばライセンに潜る冒険者もいるだろうし、そこで疲弊した冒険者から奪ったほうが金になる。実際ライセン入り口付近でならそれなりに死体があった。

 帰れる範囲のつもりで己の実力を誤ったのだろう。

 

「俺が先に行く。こん中じゃ一番丈夫だしな」

「死体は出来るだけ損傷させないでね?」

「…………使うのか?」

「いや、魂魄とって記憶を覗く時、激痛の中死ぬと魂魄の記憶が曖昧になるみたいだから」

 

 そういえば魂取って技能を得ていた。記憶も奪えたのか。確かに相手が人間だったら色々この世界の情報が手に入るかもしれない。

 

「あんま人を殺したくはねえけど」

「ここはそういう世界だよ。覚悟はしてたろ?」

「まあ、軽く脅してみるさ」

 

 ハジメはそう言って一人地上に出る。隠れているのは6人程。

 

警告! 殺意を持つ者が近くに現れました!

 

「…あ?」

 

 魔力の流れを感じると同時にメッセージ音。そのまま炎が飛んできた。

 

「ひゃっは〜! あたったぜ!」

「おいバカ! 水か土系統にしろって言ったろ! 装備や素材まで燃えたらどうすんだ!」

「おいそれより女はいねえのか? ……………あ?」

「………………」

 

 炎が晴れる。無傷のハジメを見て、男達はキョトンとする。しかし直ぐに杖や剣、弓を構えた。

 

緊急クエストが発生しました!

 

   【緊急クエスト∶敵を倒せ】

 

プレイヤーに敵意を持つ者達が現れました

全員を倒して身の安全を確保してください

 これに従わない場合心臓が停止します

       残り人数∶6人

      倒した人数∶0人

 

「……は?」

 

 そのメッセージ内容に、ハジメは目を見開く。『システム』はハジメに人殺しをさせたいようだ。いや、人に殺されるなと言っているのか?

 

「お〜、無事か兄さん。なんだなんだ、魔法を無効化するアーティファクトでも持ってたかぁ?」

「ならそれ置いてけよ。命だけは助けてやるぜ」

 

 ニヤニヤ笑いながら殺意を隠そうともしない男達。優越感に浸ったその顔は、ハジメが惨めに命乞いをするのを待っているのだろう。

 

「………人の命を奪おうとしたってことはそれなりに覚悟が出来てるってことだよな?」

「はぁ〜? なんですぅ?」

 

 ハジメの言葉にわざとらしく耳に手を添え仲間達とゲラゲラ笑う男たち。なれている。人を殺したのは、一度や二度ではあるまい。ハジメに魔法を撃ってきたのは恐らく新入りだろうが、仲間入りするだけありこんな状況でもニタニタと笑っている。

 

「こういう言葉、差別してるみたいで嫌なんだが。初めて殺すのがお前等みたいなクズで良かった」

「ああ? おい兄ちゃん、状況がわかってねえのか?」

 

 と、男の一人がハジメの肩に腕を回し締め付けようと力を込める。だが、すぐに目を見開く。

 まるで岩にでも手を掛けたかのようにビクともしない。ハジメは男の頭を掴むとそのままグシャリと握り潰した。

 

「……………え」

 

 それを見た男達はポカンと固まる。すぐに正気に戻ったのは、獲物から反撃される事あるからだろう。

 

「え、詠唱唱えろ!」

「ここに水あり──!」

 

 リーダーの号令に詠唱を唱えようとした魔法師はそのまま首を切り落とされる。影渡りではない、純粋な高速移動。しかし周りの者達からしたらまるで瞬間移動。

 

「ひ、ひぃ! 何が!?」

「こ、殺せ!」

 

 槍使いが頭を狙い放った槍を最小限首を動かし躱すと、伸ばされた腕を掴み肩に押し付けるようにしてへしおり短剣で心臓を貫く。

 2名が左右から迫ってきたが、錬成で地面を砂に変え沈めると【影の仕立て】で影から無数の杭を放ち頭部を穴だらけにする。残り2人。

 

「う、うおおおお!」

 

 と、盾を構え突っ込んでくるリーダー。そのまま轢き殺す気なのだろうが、ハジメは盾ごと男の腕を殴り折る。

 

「いぎ、ああああ!? 馬鹿な、ありえねえ! お前、まさか聖人!?」

 

 砕け散った盾と圧し折れた腕を見て叫ぶリーダーは、ハジメを魔力操作持ちの聖人と思い恐怖で顔を青くする。

 

「こ、殺さないでくれ! 頼む、俺には家族が………そう、そうだ! 家族だ! 俺は家族のために!」

「お前は、家族が居るって命乞いをした奴を助けたか?」

「っ………う、うるせええ!」

 

【スキル∶死神のオーラ】を発動します

 

 ハジメの言葉に激高し襲いかかろうとした男だったが、ハジメがスキルを使用した途端に目を見開き固まる。

 

「あ、わ…………ひうあああああ!?」

「ひ、ひひゃ、はうああ!?」

 

 ズリズリと後退りながら逃げようとするもうまく力が入らない男。そして、ハジメに最初に魔法を放った新入りも逃げようとして足をもつれさせる。魔法は放とうとして杖を落とす。あれが【混乱】。

 ハジメは【死神のオーラ】のもう一つの能力を使う。

 

「えあ?」

「あ──」

 

 男達は、そのまま死んだ。

 

   クエスト報酬

 

 【緊急クエスト】の

条件を全てクリアしました

 

 

 報酬を確認しますか?

 

  【はい/いいえ】

 

「………………」

 

 人を殺した。思ったより、何も感じない。

 南雲ハジメという人間がこうなのか、命を賭けるダンジョンに潜るうちに価値観が変わったのか、『システム』によるものか。どれにしろ、ハジメの精神性は平和な日本では異端のそれになったのだろう。

 

「…………ハジメ」

「恵里……」

「僕は、ずっと側に居るよ?」

「………ありがとな」

 

 一同は再び魔導四輪にのり樹海へと向かう。

 樹海を覆う霧は、恵里曰く樹海の水分に生成魔法で魂魄魔法の一端が付与されているらしく、霧になっている間内部に入った亜人族以外の魂に干渉し方向感覚を狂わせるようだ。更に亜人族には現在地まで教えてくれるらしい。

 

「まあちょちょいとハッキングすれば僕らも進めるね」

「なら行くか」

『…………』

 

 オスカーは何とも言えない気配を出す。そんなオスカーをフェアレーターがからかい、雷(文字どおり)を食らってた。

 

「……………来たな」

 

 霧の中進み、ハジメが呟く。霧の中に隠れ数人が様子をうかがって来ている。その内一体が、リーダーと判断したのかハジメの首を狙い───

 

「!?」

 

 攻撃を弾かれた。

 それを合図にしたかのように一斉に向かってくる集団。うさぎの耳が揺れる。亜人族の中でも温厚で知られる兎人族だ。

 

「ひゃっはー! 殺せぇ!」

「汚物は消毒だー!」

「刻め刻め!」

 

 温厚とは一体。

 一見すれば先程の男達のように暴力に酔っているようにも見えるが、ポーズだ。その瞳は冷静、威嚇の意味合いもあるのだろう。

 

「恐怖」

 

【スキル∶死神のオーラ】を発動します
 

 

「「「────ッ!?」」」

 

 【死神のオーラ】により恐怖で身が竦み能力値を半減させられた兎人族達は、すぐさま距離を取る。逃げ出さないだけ先程の男達より戦闘慣れしている様子がわかる。

 

相手の抵抗力が高く効果を取り消されました

 

「……ん?」

 

 メッセージの報告。そして、それを肯定するかのように高速で接近してくる気配。

 

「どっせい! ですぅ!」

「────」

 

 ガードしたが足場が脆すぎて砕ける。バランスを崩したハジメの脇腹に鞭のようにしなる蹴りが放たれ数本の樹を圧し折りながら吹き飛ばされる。

 

(物理ダメージは減衰しているはずなんだがな)

 

 パンパンと埃を払いながら立ち上がるハジメ。今の一撃、オルクスでも十分通用する一撃だった。間違いなく勇者より強い。勇者は最強の職業だとか教会は言ってたが、最強とは一体………

 

「侵入者め、性懲りもなく人攫いに来ましたか!? ですが残念! このフェアベルゲン最強の戦士シア・ハウリアが、ウッサウサにしてやるです!」

「ウッサウサ?」

 

 ビシッ! とこちらを指差し宣言する青みがかった白髪の兎人族の少女は、よくわからない宣誓をしてきた。




シア・ハウリア
固有魔法∶未来視 派生元∶再生魔法

フェアベルゲンでは魔力持ちの子供が生まれると戦士として育てられる。シアも例に漏れず戦士となるべく教育を受けたが家族思いのハウリア達が幼い彼女だけにはと自分達もと鍛え始め何だかおかしくなってしまったのが数年続く悩み。
長老集の一人の孫娘に懐かれているのが最近の悩み
魔力持ちの戦士は魔獣と呼ばれ、魔獣の中でも最強の戦闘能力を誇る。必殺技は兎人族の脚力を活かした《破王脚》。敗北を知らない。


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