レベルアップで世界最強 作:奈落兎
その報せにフェアベルゲンは震撼した。フェアベルゲン最強の戦士であるシアがやられたのだ。神代魔法を手に入れ、より強力になりハウリア達を抑えてくれている次期長老衆も確実とされたシアの敗北。
それはつまりフェアベルゲンで勝てる者が居ないということ。
相手は交渉を望んでいる。逆らう意味は、ない。少しでも被害を減らすためには、応じるしか手段が残されていない。
「………………………」
目茶苦茶警戒されていた。
長老衆と言うらしい、何れも魔力を持った亜人族達。シア程ではないがフェアベルゲンの中で感じる魔力の中では十分な魔力量と言えよう。そんな彼等と唯一対面するハジメ。残りの面子は外で待機だ。
アルフレリックと言うらしい森人族は会談の場を造ると木々を操り小屋を生み出した。
本質的には愛子と同じく作農系。それを十全に使いこなしている。
「それで、我々に要求とは?」
「大樹に向かいたい。その許可が欲しい」
「……………何?」
ハジメの言葉に、亜人族達の空気が変わる。
そして、そこに向かいたがるということは………
「お主は、
「………知っているのなら、話は早い」
ハジメはそう言ってオルクスの指輪を取り出す。長老衆達は刻まれた文様をマジマジと見つめ、確かに、と納得した。
「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。では一つ尋ねよう。神の真実は、その試練の場に記されているか?」
「ああ………」
「では、神の真実を知ったお主は、なんの為に神代魔法を集める」
大樹が大迷宮であること、その攻略の報酬が神代魔法であること、この世界の神のこと、亜人達はその全てを知っているらしい。恐らくはシア・ハウリアが使っていた体重操作。あれが神代魔法だったのだろう。
「俺の目的は神殺し。いや、正確には手段とも言えるが」
元の世界に帰るには神を殺すしかないだろう。それに、オスカー達の願いも叶えてやりたいとは思っている。思っているが………
「つまり、世界を救うと?」
「そんなつもりはない」
「? 神を殺し、世界を解放したいのではないのか?」
「オスカーにゃ悪いが、俺はエヒトを殺したからと言って世界が平和になるなんて思ってない」
オスカーには悪いがこれは偽らざるハジメの本音だ。自意識を持つ生き物というのは存外自分を上に置きたがる。
神など居なくても神を作り、神の言葉を騙る。神のためなら全てが許されるのではなく、全てを許されたいがために神を求めるのだ。
「神代魔法は集めるし、神と戦う事にも抵抗はない。だが、その後にまで手を出す気はない。オレはこの世界の人間じゃないからな」
「この世界の人間ではない?」
「エヒトに人間族側の戦力として召喚されたんだよ。魔人族と拮抗させたいのか、暇つぶしなのかは知らんが」
「…………暇つぶしだろう。仮に拮抗させたいなら、七罪の『傲慢』がいる限り人族に戦力を追加する理由がない」
七罪の、『傲慢』。確か教会に仕える聖人の集団のリーダーだったか?
300年以上生きている存在で、
「そんなに強いのか、その『傲慢』は」
「当時生きていた森人族が残した言葉通りなら、通常攻撃がシア・ハウリアの破王脚とほぼ同等だ」
「バケモンじゃねえか」
よく魔人族が今日まで絶滅してなかったな。魔人族が存在していることをどうでも良いと思っているのだろうか?
「ま、まあいい。俺の目的はさっき言ったように、大迷宮の攻略。お前達には危害を加えないことを約束する。通してもらえないか?」
「お前さんが攻略した大迷宮は幾つかね?」
「オルクスだけだ」
「………なら、無理だ」
「どういう事だ? 試練参加条件に、攻略数が関係しているのか?」
「その通りだ。ライセンの迷宮を攻略したシアとエリーゼ殿が次に向かったのはまさしく大樹だったが、大樹の根本に石碑があり、そこに他の迷宮の攻略の証をはめると文字が浮かび上がったのだ………」
そこに書かれていた文字というのが
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
と言うもの。4つの証は、まあ攻略の証だろう。再生の力は恐らく再生に関係する神代魔法。紡がれた絆は、亜人族に道案内を頼めるかといったところか。
というかエリーゼって誰だ。シアもその名を言っていたが、大迷宮を攻略できる実力者のようだが。
「帝国の姫だ」
「…………お前達からすりゃ宿敵じゃねーの?」
「彼女は我々と交渉を望んできた。力ある者が正義の帝国は、そのうち力ある者に滅ぼされる。それを変えたいから兄が皇帝になった際、力を貸せと」
「要するにクーデター起こすから協力しろってか? 随分大胆な姫さんだな。つか自分で皇帝になれよ」
「女性がなる場合は先に結婚相手が必要らしい………彼女は、自分より強い相手しか認めぬそうだが」
そう言って、熊人族の長老ジンが遠い目をする。なんでも自分の右腕的存在が挑みあっさり返り討ちにあったのだとか。
次期長老も期待視される有望な魔獣であったが、一秒すらかからずのされたらしい。
「ジン君もね」
「ルア! 貴様余計なことを言うな!」
まあ純粋に好意だけでは無いのだろう。帝国を乗っ取るチャンスだったのだ。そのチャンスを活かせなかったらしいが。
「まあ、そんな訳で人間族とも友好を築けていければいいと我々は思っている」
「全員がか?」
「…………いいや、反感を抱く者も多い」
そりゃそうだ。帝国が生まれて三百年。その間ずっと家族や友人を攫われ、傷つけられ、殺され続けていたのだから。魔獣の存在を考えると、戦争にもなった事があるかもしれない。
教会に管理されているであろう王国の文献じゃ、亜人版の聖人とも言える魔獣については隠されていたが。
「神が居なくなろうと確執は消えない。だが、俺はそこに手を出さない。だから、俺は世界を救えない」
「そういう事か…………まあ、儂等としても『僕は異世界から来ました。貴方達の争いを止めてみせます』などと言われてもふざけるなとしか言えんし、構わぬよ。せめてこの世界で、この世界の住人の手で大切な誰かを失う。その上で争うべきでないと思えて、そこで漸く我等の争いに口を挟む権利を得る」
アルフレリックの言葉には他の長老衆も同意のようだ。ハジメはそう言ってもらえると助かる、と笑う。
何せ知り合いに、戦を止められるだけの力があるくせに何もしないのか、と言いそうな奴がいるからだ。
「それはそれとして、大迷宮とは別の用事で大樹に赴きたいのだが」
「む? それは、まあ構わぬ。シア・ハウリアを圧倒した上で我等を害さぬのだ。信頼はともかく、信用はしよう…………とはいえ、大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。来客用の宿を用意する。しばし待たれよ」
そういう訳で、フェアベルゲンにて10日ほど滞在することになった。ハジメは恵里の魔法なら行けるかもとは思ったが、休息させるいい口実になるかとその提案に乗ることにした。
その翌日。
「「「弟子にして下さい!!」」」
デイリークエストをこなそうと宿の外に出れば兎人族達が頭を下げていた。シア・ハウリアは居ない。
『なんで人の布団に潜り込んでやがりますかこの変態!』
『ああん! そんな、目覚めていきなりひっぱたくなんて。誤解よシア、私は少しでも傷の治りが早くなるように舐めていただけ。け、けっして起きたシアにお仕置きされようなんて!』
『〜〜〜! こんのド変態!』
『ち、長老の孫娘にド変態だなんて! あ、相変わらず礼儀を知りませんね。ハァハァ………!』
『くぅ、何をしたら嫌がるんですか貴方は!』
『い、嫌がることをするの!? そんな、酷い! うふふ、何をするの!? 鞭で叩くの? 重力魔法で体重を増やしながら踏みつける!? あ、それとも放置プレイ!? それはそれで…………』
『チッ、優しくしますよ?』
『不意にやってくるシアの優しさ………幸せすぎます』
『駄目だ、強すぎる。誰か助けてくださぁい!』
ハジメの鋭敏すぎる感覚により遠くから聞こえてきたシア・ハウリアの叫びと、初めて聞く少女の声。
昨日気絶させたし、何か助けて欲しいことがあれば一つぐらい聞いてやるつもりだったハジメだったが、取り敢えず今の悲鳴は聞こえなかった事にすると決めた。
長老衆
全員が魔力操作持ちのフェアベルゲン上位の戦士たち。
アルフレリック
長老衆の一人。品種改良や成長促進などの技能を持つ魔獣。即席で家とか作れる。植物で大型の魔物を締め殺すことも可能。
孫娘がおかしくなって泣きそう。と言うか良く泣いてる
アルテナ
アルフレリックの孫娘。回復魔法が得意。
主に自分に使う内にフェアベルゲン1の治癒師になった。なぜ自分に良く使うか、それを知ろうとしてはいけない。
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