レベルアップで世界最強 作:奈落兎
それは静かに歓喜した。
器を得られたら、それで良いと考えていた。それで十分だと。
しかし、居る。付属品の中に、『プレイヤー』が。
ああ、それも、かつて争った者とは比べ物にならぬ強者だ。
『ノイント』
「ここに」
その言葉に、すっと銀髪の戦乙女が現れ跪いた。それは、顔も向けずに己の腹心に命じる。
『フェアレーターを開放せよ。野に放て』
「は、いや………しかし」
『我は命じた』
「ただちに」
主の言葉に困惑し、しかし2度も言わぬという主の態度にすぐに顔を伏せ従う。立ち上がろうとしたノイントに、主は気まぐれに声をかけた。
『ノイントよ、正義とは何だ? 悪とは何だ?』
「はい。正義とは、偉大なる貴方様。悪とはそれに逆らう愚か者共です」
『…………ありきたりな忠臣の台詞だな。面白みの欠片もない。まあ我がそう作ったわけだが…………反逆者共の手もあったとはいえフェアレーターを見習え』
「も、申し訳ありません」
『良い、許す。いけ』
主の言葉に戦乙女は今度こそ立ち去る。その場に残ったただ唯一の存在であるそれは、クックと喉を鳴らした。
『千、二千? さて、どれ程の時が過ぎたか。待ちわびたぞ、諦めていたぞ我が敵よ………お前もまた正義を謳い、我が首を狙うか? カカカ。それもまた良い………ならば───』
声が聞こえる。敵となれという声が。誰から与えられているのかも解らぬ声が。まあ良い、従おう。従うべきだ。
神になり損なった人ならざる人外は一人の空間で笑っていた。
教室を包み込む眩い光。ハジメは特に眩しい以外のダメージは負わなかったが、それは自分の能力値が高いからだけの可能性もあり、周りのクラスメート達が無事かどうか視覚以外の五感を駆使する。
匂い、血の匂いはなし。心音………乱れているが許容範囲内。空気の流れ………ん? なんかクソ広いぞここ。というか人の気配が増えている。
光が収まってきた。周りを目を向けると、そこは広間だった。巨大な絵画がある。金髪の美しい人物が描かれているが、何処か不気味だ。
改めて周りを見渡すと、何処か大聖堂じみた光景が映り、こちらに頭を下げている集団が見えた。
「おいハジメ、これあれだよな。異世界召喚……何でだ?俺レスリングチャンピオンになった覚えねえぞ」
「いや、あれは結構特殊な召喚だったからな? 基本的に呼ばれんの学生だから」
「はあ? バカ言え。だってあの姫さん魔獣とか言うやべえ生物倒させようとしてたじゃねえか。ガキを呼ぶか? 普通」
と、ハジメの影響で少し(?)特殊ながら異世界召喚に関する知識がある龍太郎が話しかけてきた。
だが、どうやら龍太郎の中では強く、それでいて大人が呼ばれるのであって戦いに無縁の学生が呼ばれるとは思っていなかったようだ。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
ハジメと龍太郎が話していると、法衣を着て烏帽子を被って錫杖を持った老人が声をかけてきた。
勇者と、確かに言った。龍太郎は何とも言えない顔をした。
イシュタルと名乗った老人に連れられ移動する。十メートル以上あるテーブルの上座に畑山愛子が座り、光輝達。最後尾には恵里が座り、その隣にハジメ、その隣に龍太郎がいた。
イシュタルが何やら話し始めたのは、この世界の名前がトータスであること。
人間族、魔人族、亜人族の3種族がいる事。
魔人族とは何百年も戦争中で、拮抗していたがここ最近魔人族があり得ぬ量の魔物を率いるようになり個では劣っていた人間族が絶賛ピンチな事。
そんなおり、神の啓示があった事。
その神の啓示が、異世界から勇者達を召喚するとのことだった。
「ふーん、どうでも良いね。ありきたりで面白くもない、眠気が出てくる下らない話だ」
恵里はそう言ってハジメの膝に己の上半身を乗せスリスリ頬を腹に擦り付ける。視線を感じ、顔を上げ勝ち誇ったような笑みを浮かべたあと目を閉じる。
「おいおいあの姫さんも無茶苦茶だったが、どうすりゃ良い? バックドロップを喰らわせるべきか? いや、下手したら死ぬかあの爺さん」
龍太郎は真面目な顔で何を言ってるんだろうか。取りあえずまず力で解決しようとするな。いや、戦争に参加しろと言ってるのは力で終わらせろと言われたようなものだが。と、その時猛然と抗議の声をあげる者がいた。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
童顔低身長のおかげで威厳も全くない愛子だった。プリプリ必死に起こっているが可愛らしすぎて生徒達がほんわかしている。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちた。重く冷たい空気が全身に押しかかっているように、誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見る。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。しかしイシュタルは当たり前のことを言っていると言うような態度を取る。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
ハジメはふと、イベントリから帰還石というアイテムを取り出す。ダンジョンに潜る際必ず手に入れる事にしているアイテムだ。効果は異次元であるダンジョンから脱出し元の世界に帰るというもの。
使おうとしてみたがうんともすんとも言わなかった。
「やろう、老人だろうが知った事か。俺の背筋が唸るぜ」
「落ち着け龍太郎。帰る方法がわからない以上、信徒が全人口9割の教会に逆らうのは得策じゃねえ」
「けどよ………」
ハジメの言葉に不満そうながらもゴキゴキ鳴らしていた手を下ろす龍太郎。と、その時だった。バン! と机が叩かれ、混乱する生徒達を静める声が響く……。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
拳を作り宣言する光輝。何故か歯がキランと光り、カリスマが発揮される。
生徒達は希望に満ちた顔になり女子生徒の大半が熱っぽい視線を送る。が
「いやいや待て光輝!」
「? どうしたんだい、龍太郎」
「どーしたもこうしたも、冷静に考えろ!? 俺達が数倍から数十倍強かろうがそもそも魔人族ってのも人間より強いんだろ? その上魔物だ、お前、誰かが大怪我したらどうすんだ!」
ここで大怪我で済むのは、龍太郎の知る異世界転移ものはなんかやかんやでプロレスで事が済むからだろう。一般人が怪我する程度の認識なのかもしれない。
「どうした龍太郎? 怯えているのか、君らしくもない。南雲、龍太郎に何を吹き込んだ!」
と、自分のよく知る幼馴染らしくない行動をする龍太郎を見て、光輝は彼の隣にいたハジメを睨む。何がどうしてそうなった!?
「はぁ………龍太郎は単純に、危険に考え無しに飛び込むなつってんだろ?」」
「考え無し? お前と一緒にするな! どうせ、この世界で苦しむ人の事なんて考えてないんだろ。お前はそういう奴だ………元の世界にいた頃から、他人の迷惑を考えず香織にも迷惑をかけて」
「こ、光輝くん?」
「ちょっと、光輝………」
「止めないでくれ二人とも。南雲、今だから言うぞ。お前はもう少し他人の為に頑張ったらどうなん────ッ!?」
他人の為に、その言葉に、ハジメは恵里の髪を撫でながら目を細める。途端に光輝はビクリと震え言葉を詰まらせる。
「…………イシュタルさん」
「なんですかな?」
「戦争には危険は付き物だ。俺達はただの学生。この国の兵士の最低年齢より下だと思うが、どうだ?」
「…………そうですな。皆様の年齢で、兵になれるのはそう言った家系のみです」
「なら、志願制にしてくれ」
「………まあ、それぐらいなら良いでしょう」
「南雲! お前、自分が戦いたくないだけだろ!」
「俺は参加する。それで文句はねえな? 龍太郎が言ってたように、怪我するかもしれねえんだ。それが嫌な奴は志願しなきゃいい」
「皆、惑わされちゃ駄目だ。安心してくれ、危険な目になんて合わせない。俺が全員連れて、必ず日本に皆を帰してみせる!」
こうして、ハジメ達の戦争参加が決まった。
エヒト なんか変わってる
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