レベルアップで世界最強 作:奈落兎
地面がめくれ上がり土煙があたりを包む。土煙の中から飛び出してきた影、ハジメはチッと舌打ちして土煙の奥の気配に向かって風の斬撃を放つ。
「どこを狙っているのですか?」
「───!」
振り向きざまに魔力を炎に変え放つハジメ。世界を赤く染める炎が木々を焼き払う。同時に、腹を物凄い力で殴られた。
影の衣で威力を減衰しているが吹き飛ばされ、空歩で作った足場で靴裏を擦りながら停止する。
「魔物の力、ですか。随分と変わったお力ですね」
森の一角を地獄のように変えた炎の中から無傷のラウムが現れる。その鎧も、肌も、髪すら焼けていない。圧倒的な防御力? いや、違う。何だ?
「…………綺麗」
「………あ?」
「失礼、この炎の事です。私は、そのような事を感じる機能はなかったのですが………」
閉じていた目を僅かに開き、眼下に広がる炎の海を見つめるラウムはうっとりと呟く。その頬を赤く染める理由は、炎の色だけではないだろう。
「木々が、魔物が、命が燃えていく………それは、こんなにも美しい光景だったのですね」
男を誘う娼婦のような、熱を孕んだ笑み。人形めいた美しい容姿はしかし人形では浮かべられないであろう確かな心を宿した笑み。
──劫火狼+■■魔法
「貴方の命も、ぜひ燃やさせてください」
ラウム式■■魔法 命萌える赤い森!!
「─────!?」
視界が、世界が炎に包まれる。周辺一帯がハジメの放った炎より高温、広範囲に燃え上がる。これだけの炎、酸素など使い切る。森に燃え移った火と違い燃料となる木々もない。魔力だけでは数秒程度しか維持できぬはずなのに炎の勢いは一向に収まる気配がない。
燃えているのは木々でも酸素でもない。文字通り
「ちぃ!」
──濃霧+着氷霧!
影の衣で身を守るのも限界がある。マナをだいぶ消費するが広範囲に絶対零度の霧を生み出し炎を相殺する。
「残念。燃やせませんでしたか」
「………………」
影の衣が僅かに溶け崩れた。あれは恐らく空間に作用する炎で、全てを燃やす類の炎ではない。なのに、溶け崩れた。いや、解け崩れた。
影の衣と炎の
「狂人が………」
「人ではありません。魂持たぬ人形ですから………ええ、だから貴方の魂を私にください」
ラウム自身は着氷霧の影響は、受けていない。先程の炎を防いだ時と同じだ。魔力で防御? それもおそらく違うだろう。何らかの魔法。だが、正体が掴めない。
試すか。
「しぃ!」
炎の球と風の刃を同時に放つ。避ける動作もしないラウムに炎の球と風の刃が当たり弾ける。
「あら?」
そして、炎の中に混ぜ込んだナイフがラウムに触れる前に止まっていた。魔法、物理、ともに防げるようだ。厄介極まりない。
「空間系統の魔法か」
「………………」
「感情を覚えるべきじゃなかったな。隠し事に向いてねえよお前」
僅かな動揺を見逃さなかったハジメの言葉にラウムは己の顔をペタペタ触れる。
「? 表情というのは、つい出てしまうものなのですね。今まで表情を取り繕う必要性に駆られなかった弊害でしょうか。それで───?」
コテン、と首を傾げるラウム。その口元に浮かぶのは、上位者の優越。
「空間魔法も使えぬ貴方が、どうやって私に攻撃を当てるというのですか?」
その言葉に再び攻撃を放つが、届かない。
周囲の空間に干渉し、見た目こそ変わらぬもののラウムとハジメの周りには文字通り遥か遠い距離がある。
会話が成立し、攻撃を行えるということは音や光は見た通りの距離を通るのだろう。
「なら簡単だ。光の速さで攻撃すりゃいい」
「何を────っ!?」
ハジメの瞳が金色に光り、パキパキ音を立てラウムの体が灰色に染まっていく。石化だ。
直ぐに魔力を流し石化の魔力を押し飛ばすが、そのために魔力の制御が乱れる。
「らあ!」
「っくう!!」
ミシリ、とハジメの蹴りを受け止めた腕が軋みを上げ、ハジメの放った炎により木々が燃え尽き地面が溶けた場所へと叩き落されるラウム。
「つぅ………あ、痛………痛、い?」
己の腕を見ながら目を見開くラウム。なまじ強かったぶん、感情を得てから初めての痛みなのだろう。その目に僅かな恐怖が宿る。
「ラウンドツーだ。神の木偶」
ラウム
空間魔法を得意とする開放者。ハジメの放った炎が森を焼く光景を見て命を燃やす事に美しさを覚えた