レベルアップで世界最強   作:奈落兎

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痛みを知らぬ者

 痛みとは生物が持つ危険信号。本能的に忌避し、遠ざかり命を繋ぐためのもの。その痛みを与えられながら、しかしその場から離れるという本能を与えられていなかった神の使徒からすれば、それは初めての体験に等しい。

 

「っ!!」

 

 恐怖を前にした者の行動は2つ。恐怖の対象から逃げるか、恐怖の対象を消し去ろうとするか、だ。ラウムは、後者。

 

「ひ、ああああ!!」

「!?」

 

 腕を振るうと同時に見えない何かに押し飛ばされる。地面が捲れ上がり木々がへし折られ霧が吹き飛ぶ。

 全身に力を込め衝撃に耐えようとしたがかなりのダメージを追った。影の衣がなければ危なかった。

 

「───っ!?」

 

ラウム流空間魔法 神獣の牙

 

 ゾワリと悪寒を感じ、その場から跳び退く。

 音もなく、地面が、その場にあった木々が刳り取られる、否、食いちぎられたとでも言おうか。

 断面近くにひび割れ一つ作ることなく消え去った。

 舌打ちし木を蹴りで折るとラウムに向かって蹴り飛ばす。絶対防御が戻ったのか空中で止まる。

 

「死ね!」

 

 ドン! と音が響き衝撃が発生する。内臓が圧迫されゴボリと血を吐くハジメ。

 様々な攻撃を放ってくるラウムから一定の距離を保ちながら森をかけていく。時折魔法を放つが、届いていない。

 先程迄の余裕の表情を消すラウム、攻撃パターンは解りやすくなった。

 主に使うのは攻撃を()()()()()防御魔法、押し飛ばす魔法、空気の振動などと違い防ぎようのない空間震、指定した場所を空間そのものごと刳りとる攻撃力最大の見えない牙。

 空間震は兎も角として、あの牙はまずい。防御力も硬度も関係なく刳り取られるだろう。

 とはいえ規模はそこまで大きく出来ない。大きくしようとすれば狙いが雑になる。ハジメの速度なら十分回避可能だ。

 攻撃と防御は併用できないようだし、狙うとしたらそこだが攻撃範囲が一々広すぎて近付けない。

 

「ちょこまかと!」

 

 ズン! と空間が震え木々が吹き飛び地面が捲れ上がる。更地になった森で、ハジメを睨み付けるラウムに向かって人の背丈をゆうに超える大木の欠片を投げつけるも避けるまでもなく外れる。

 

「見つけた!」

「っ!?」

 

 と、ラウムがハジメに腕を向けるとハジメの体がその場に固定される。念力、のような力で抑えられているのとは、少し違う。体を空間に固定されたような。

 

「燃えて、溶けて、(ほど)けて、消えろ!!」

 

 先程よりは規模は小さく、しかし殺傷力は変わらぬ炎が灯る。物質の融点も沸点も、強度も意味をなさぬ炎。境界を溶かして解かす炎。防御は、不可能。だが………

 

「がっ!?」

 

 それなりに集中力を要するため、無防備になった背中を切りつけられる。焼くような痛みに魔力の流れが乱れ落下するラウム。

 その背中が踏付けられる。

 

「が、あ!? ………あ、貴方………何故」

 

 斬りつけたのも、踏みつけたのも、ハジメだ。だが、どうやって? 防御不能の、出来たとしても数秒しか持たぬ必死の炎に包まれて、しかも飛んできた気配もなく。

 ドッ! と飛ばされた大木の欠片が落ちる。

 

「答える必要、あるのか?」

 

 そのまま止めを刺そうとするハジメ。が──

 

「っ!?」

 

 何かが襲いかかってくる。

 慌てて防御するが質量差で弾き飛ばされる。襲いかかってきた何かを睨めば、木で出来た巨大なドラゴン。葉っぱの形や木の皮の質感的に、この樹海の木々がそのままドラゴンにでもなったかのようだ。

 チラリとラウムを見れば、居ない。逃げられたか、逃されたか、誰かに救われたのか。

 どちらにせよ不味い。ラウム、あれは明らかに子供だ。痛ければ泣き、暴れるガキ。成長途上。それを逃した。今後厄介になりすぎる。

 見つけようにも、木竜が大きな口を開けて襲いかかってくる。

 

「──?」

 

 噛み付いたつもりが手応えが、歯応えがなくキョロキョロ辺りを見回す木竜。その翼の影から滲み出るように現れたハジメが炎を放つ。

 水分が一瞬で抜け、あっという間に燃えだすほどの高温。

 木竜は一瞬で炭素の塊へと変わる。気配を探すが、追えない。逃げられた。

 

「………くそ!」

 

 

 

 

 

 

「酷いざまですねぇ、我が姉妹ともあろうものが」

 

 ラウムを投げ捨て、呆れたように、からかうように笑う銀髪の女性。

 

「ティーア」

「はい、あなたの姉妹のティーアですよ?」

 

 顔立ちは似ている。というか同じはずなのに、幼さを感じさせる雰囲気であり、その中に何処か艶やかさを持つ女の名を呼ぶラウム。

 

「………油断しただけです。痛みを、私は知らなかった。次はもう少しうまく」

「そうですか。でも、まずは痛みになれるところからですね」

 

 回復魔法で傷を癒やしながら睨んでくるラウムにティーアと呼ばれた女は肩をすくめる。

 

「次、ですか。主からの伝言です、一度彼に挑んだ者は、時が来るまで再戦は控えよとのことです。良かったですね? 彼、まだ怖いのでしょう?」

「……………」

 

 言い返せず、ラウムは黙り込むのだった。




ティーア

幼さというか無邪気さを感じさせる雰囲気に加え、何処か艶やかさを持ったドM。


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