レベルアップで世界最強 作:奈落兎
遠くに町が見えてきた。
小規模な町で街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるのなら、それなりに充実した買い物が出来そうだ。
魔導四輪を『宝物庫』にしまい、徒歩で街に近づく。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
現れたのは兵士というよりは冒険者風の男。
規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。
「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」
ふ〜ん、と気のない返事をして名を確かめる。
特に指名手配も受けていない名だ。技能なんかは隠されているが、そこは個人情報。そもそも顔を変えたところでステータスプレートは偽装できない。
「じゃ、残りの連れを…………」
と、そこで門番は固まる。何せそこには人間離れした美貌を持つ金と銀の美少女に、今や滅多にお目にかかれない兎人族の奴隷、しかも皇女御用達の。3人には美貌で劣るも、それでも美少女と呼べる眼鏡の少女は、どこか影を感じさせる怪しい魅力があった。あとついでに怪しいフルフェイス。
「はい……」
「あ、ああ………」
まずは恵里がステータスプレートを渡す。正直助かった、他の美少女だったらきっと動く事も出来なかったろう。そんな門番の心中を察したのかハジメが若干睨むが思うだけなら勝手だ。思っただけで手を出すのは屑のやることだ。
『僕達は生憎、モンスターに襲われた際紛失してしまってね』
「ん、だからない」
「ああ、なんて可愛そうな私達! だから、ね? 通して、いいでしょ?」
「あ、いや………し、しかしだな」
犯罪履歴のないステータスプレートを持った者を同行させて、ステータスプレートを紛失したと言い張り街に入る手段は、無くはない。
綺麗所三人組なら、まあ彼女達が犯罪行為を犯せば嫌でも噂になるだろう。しかしこの怪しい仮面は………
「大丈夫大丈夫、オー君はその昔変態鬼畜眼鏡の称号をもらったけど、指名手配にはなってないから」
『てめぇいい加減にぶち殺すぞフェア!』
「やーん、オー君怒った〜!」
ケラケラ笑いながらオスカーから逃げるフェアレーター。何というか、仲の良い兄妹のようで毒気が抜かれる。
「兄妹か?」
「彼奴の姉的存在が恋人だとは聞いたが」
「その姉は?」
「今は別の場所にいる。一応、そろそろ会いに行くつもりだが」
なるほど、婚約準備か? などと考える門番。
まあ、仮面の不審者など指名手配にはないし仮面の上につけるよっぽど拘った眼鏡をかけた犯罪者も行方をくらませたなんて報告はない。本来なら身分証がなければ税をもらうのだが……。
「通って良し。ようこそ、ブルックへ」
「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」
「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」
「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」
門番に例を行ってブルックへ入る。それなりに賑わった街だ。露店なんかもある。生憎手持ちの金がないので先に換金しに行く。
「ほほ〜、ここが人族の街ですか。あ、あれ美味しそうですね!」
耳をピコピコ動かし目をキラキラ輝かせるシア。アリーゼから人族の暮らしはある程度学んでいたものの、直に見るのではまるで違う。
「買うのは後な」
「ところで、どうするの、素材の質は。奈落の素材を出して受付嬢が驚愕して、ギルド長登場! いきなり高ランク認定! 受付嬢の目がハートに! なぁんてやってみる?」
「目立つのは避けたいな。それに、好意を寄せて来る女はお前一人で良い」
「………♡」
その言葉に目を細めハジメの腕に絡みつく恵里。甘々な光景なのに、野生の勘が鋭い、戦士として育ったからそりゃもう鋭いシアには蛇が絡みついているように見えた。入り込めない二人の世界にユエはモヤモヤ。それに気づいたシアが後ろから抱きしめ頭を撫でてやる。自分にはないふくよかなそれにユエはイライラ。
限界が来て胸を鷲掴み。ニャー! という叫びとヒャー! という悲鳴が響いた。ハジメと恵里は何やってんだこいつ等、と言いたげな顔をしていた。
そんな事もありながらメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。
ハジメは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。
初めて見る顔に、視線が集まる。それが美少女達が殆どのパーティーとわかり見惚れ恋人に殴られる冒険者達。怪しい仮面の男は、まあそれも目立つ。オスカーも生前の姿のままだったら、女性から似たような視線を貰ったことだろう。何せ町の女性殆どが彼を狙っていたのだから。
ハジメもまあ、それなりに視線は送られているが恵里が腕に絡みついているから恋人付きかとすぐに視線を外される。
カウンターにいた受付は、恰幅の良いおばちゃんだった。もう少し大きな町ならば冒険者のやる気向上で美男美女が対応するのだろうが、まあ普通はこんなものだろう。
「冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」
ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるらしい。冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。
「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
手持ちがないので換金額から引き落として貰うことにした。ユエ達はどうするかと聞かれたが、取り敢えず保留しておいた。ここに来る前、オスカーなら作れるかもと思って聞いてみたが、ステータスプレートは『昇華魔法』の合わせ技。色々力が制限されてる今は不可能との事だ。
戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されている。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。
青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化するのだ。ちなみにこれは通貨と同じ上がり方。この世界の通貨はルタで、日本とそんなに変わらない。つまりはお前の価値は1円な、と言われているようなものである。
「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」
「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
魂魄魔法で精神を支配したりして、きれいな状態で保たれた素材は56万ルタで売れた。おばちゃんから貰った地図に書かれていた風呂付き宿、『マサカの宿』に向かう事にした。
何がまさかなのだろうか? まさか平将門?
宿に付き中に入る。
宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアとフェアレーターと恵里達美少女と、怪しい鉄仮面眼鏡オスカーに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
どうやらおばちゃんの名前はキャサリンと言うらしい。
「一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるハジメとしては譲れないところだ。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と大部屋が空いてますが……」
ちょっと好奇心が含まれた目でハジメ達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思うハジメ。ユエもシアもフェアレーターも恵里も美人とは思っていたが、想像以上に四人の容姿は目立つようだ。出会い方が出会い方だったので若干ハジメの感覚が麻痺しているのだろう。
「ああ、大部屋で頼む」
「え、二人部屋3つとかじゃ駄目なの?」
と、恵里。男子二人を離す気かと男達がニヤニヤ笑う。が……
「僕とハジメ、その他で分ければいいだろう?」
恵里の爆弾発言に固まる。
「……ずるい」
「え? 恵里さんとハジメさんは恋仲なんですよね? 横恋慕のユエさんがとやかく言うのはおか………いたたた! おっぱい引っ張らないでください!」
ムギューと胸を掴み体重をかけてくるユエ。か弱いユエに下手に攻撃すれば肉片を作ってしまうため派手な抵抗が出来ないシアはふん、と胸筋に力を込める。たれそうになった胸が引き戻されバルンと揺れユエがポコポコシアを叩き出す。
「……………大部屋で頼む」
「あ、はい………」
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