レベルアップで世界最強 作:奈落兎
その後いかにもファンタジーな乗り物で山の麓に移動した。どうやら光輝達はとても高い山の頂に居たらしい。
ハジメは400を超える感覚で神山と呼ばれる地の殆どを音や空気の流れで判別していたので驚かなかったが。
麓にある街………ハイリヒ王国の王都に付けばそのまま城の中に入れた。使用人や騎士達からは期待と畏敬の念を向けられる。見た目子供の学生達に、己より年端も行かぬ者達に世界の命運を委ねきっている。
それ程までに『神の使徒』を心酔している。いや、これは『神』が寄越した使徒を………つまりは神を心酔しているのだろう。事実謁見の間では王が立って待っていた。その隣には王妃と思わしき女性と彼等の子供であろう金髪の美少女と美少年。
王は跪き教皇イシュタルの手に口付けをした。宗教が王族より権威を持っている。ハジメは内心面倒なことになりそうだな、とため息を吐いた。
そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。途中、ランデルの目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていた。香織の魅力は異世界でも通用するようである。
その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりして地球組の顔を引つらせたが味は思いの外美味であった。
ランデル殿下がしきりに香織に話しかけていたのをクラスの男子がやきもきしながら見ているという状況もあった。
ハジメはバルコニーにて夜風を当たる。クラスメート達は殆どが厳つい、自分より強そうな相手に褒められ調子に乗ったり美男美女揃いの貴族の子供達に話しかけられ赤くなっている。
| 有害成分を検出しました バフ∶免疫で解毒しました |
「ええい、酔わずにやってけるかってんだ畜生め!」
しかし、だ。『システム』がハジメに力を与えた理由がもしこの世界に来るからなら、『システム』的にはこの世界を救わせたいのだろうか?
(………いや、ないか)
この世界に来る直前、ハジメは確かに『システム』の声を聞いた。イベントを開始する、と。
これは、恐らく始まりに過ぎない。敵を倒せば倒すほど強くなるハジメにとって、ランダムボックスでダンジョンの鍵を得るより余程強くなれる環境だ。
(それに、ここには最初から越させる予定だったみたいだし)
イベントリから幾つかの鍵を取り出す。インスタンスダンジョンの鍵だ。この鍵は○○で使える、と言うように使える場所が存在して、その場所を模したダンジョンを構築する。だが、中には使用場所が明らかに存在しない地名もあったのだ。そのうち1つに『ハイリヒ王国四番街路地裏』と記入された鍵がある。
呼び出したエヒトとやらがシステムの管理者? なら魔法陣が光輝を起点に広がった理由が解らない。あれはハジメではなく光輝を狙っていた。
光輝がプレイヤーの可能性はないだろう。力を感じないし、何よりダンジョンを体験しているなら他人に危険な場所に行くことを許容させるはずが無い。
「お一人ですか?」
と、唸るハジメに声をかけるものがいた。リリアーナだ。金髪が月明かりを反射し淡く輝く様は何処か神々しい。
「一人にもなりたくなるさ。彼処にいきゃこの世界の連中が絡んでくるしな」
「…………貴方は、我々がお嫌いなのですか?」
「逆に聞くがあんたは、ある日突然知りもしない国に呼び出され追い詰められてる我々の代わりに戦ってくれと食い切れぬ食事が用意されたパーティー会場に来て、なんて大変な国なんだ救わなくてはと思えるか?」
ここで敢えて神に関しては口にしない。先のやり取りを見る限り神の使徒が王族とはいえ継承権が低い王女相手に多少の不敬を働いた所で問題はなさそうだが神に不審があると口にしてしまえば異端審問を受ける可能性があるからだ。
「それは……! いえ、あなたの言うとおりです」
何かを言おうにも言い返せぬと判断したのか、リリアーナは黙り込む。
「特に貴族共が酷いもんだ。親元から離して戦場に放り込むくせに自らの血筋の格を上げるために我が子は如何かなんて話をしてやがる………くっつけてえならてめえの子も参戦させて支えさせろっての」
「しかし、我等では魔人族には………」
「そうだな。関係ない俺等なら魔人族の前に放り出せるか」
「…………申し訳、ありません」
俯き、肩を震わせるリリアーナに流石に子供相手に言い過ぎたかと反省するハジメは、ため息を吐いてリリアーナの頭に手を置く。
「ムキになって反論せず相手の言い分を受け入れる。ガキのうちにそれが出来りゃ上々だ。お前みたいなのがこれから国を支えるなら、まあこの国も多少守ってやる価値もあんだろ」
「へ? えっと…………」
「お前の為に国を守ってやっても良いって言ってんだ」
「ええ!?」
そこまで言って、あれ? と首を傾げるハジメ。なんか違う気がする。リリアーナを見れば何やら顔を赤くしていた。はて、何があったのだろう?
悪意には敏感なくせにそれ以外にはすっかり鈍感なハジメにはわからない。
「リリアーナ王女?」
「あ、は、はい………申し訳ありません」
「気分が優れないなら、休んだほうが良い」
「そう、させてもらいます。あの、お名前を伺っても………?」
「南雲ハジメだ」
「南雲、ハジメ様…………どうぞ、私のことはリリィとお呼びください」
リリアーナはそう言って優雅な礼をする。
「ああ、よろしくなリリィ」
「はい。今夜の出会いに、結ばれた縁に感謝を………」
そう言いながら立ち去るリリアーナ。そのタイミングを見計らったかのように、別の気配が近付く。
「やあ、何やら楽しそうに話しているから声をかけるのを躊躇ってしまったよ。恋人が居るのに異世界のお姫様と仲良しこよしでお話するなんて、君は本当に創作の世界が大好きなんだなあ」
ニタリと微笑む恵里だった。ずっと近くで聞き耳を立てていたのには気づいていたが、一応は恋人が他の女と話していたことは怒っていないように見える。
黒髪や夜闇に溶けるように交わる様は、その笑みを合わさりどこか禍々しい。同じ女なのに容姿と中身が違えばこうまで印象が変わるものなのか。
「まあ怒らないさ。怒る資格は僕にはない。少なくとも僕と君の関係は一般的な恋人とは違うのだからね………僕の我儘に付き合わせている君に、怒りなど抱いたりしないよ。君には、ね………」
そう言って意味有りげにリリアーナの背中を見つめる恵里に、ハジメはふぅ、と肩を竦める。
「それで? 可愛らしい嫉妬をする恋人を慰める為に、俺は何をしてやればいいんだ?」
「別に何も求めないさ。ただ、そうだね………貴族のパーティーらしく、ダンスが始まったしなあ………」
ニヤニヤ笑いながら見てくる恵里に、ハジメは呆れたような顔を浮かべ、片手を差し出す。
「私と一緒に踊っていただけませんか、お嬢さん」
「ええ、喜んで」
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